第341話 質問コーナー ラスト
「あー、楽しいぃぃ!! 今まで完全に謎だった薩川さんの私生活も見えたし、高梨くんの面白話もいっぱい聞けちゃったわ!!!」
「あの…申し訳ございません、一成さん」
「いや、大丈夫です…ハイ」
例え自分がボロボロになろうとも、痩せ我慢だと言われようとも、沙羅さんに悲しそうな顔をさせる訳にはいかない。
でも…
俺は今日…
男として、大切な何かを失ったような…そんな気がするのです。
主に何があったのかは秘密ですが。
「にゃはははは、ちょぉぉぉっとやり過ぎたかな!? でもでも、全校男子の憧れの的!! 凛華高校のスーパーヒロイン、薩川さんを射止めたんだから、このくらいは簡単に乗り越えないとねぇぇぇ!?」
「んなことは分かってますよ!!」
「うんうん、流石は高梨くん!!! ミスコンの英雄は伊達じゃないね!!! それじゃ次は…あーっと…時間的に、質問コーナーは後二人くらいかなぁ?? んじゃ、そこの男子!!!」
「なぐいです!! 副会長のご両親に挨拶は済んでますか!? あと、副会長の好きな所を五つ上げてください!!」
これまた直球の質問が来たな。挨拶云々の話は特に問題なさそうとしても、後者の質問は、沙羅さんがまた暴走しないとも限らないから…今度こそ油断しないように、気を付けておかなければ!!
「婚約に関わる正式なご挨拶という意味でしたら、まだ改めた場を設けてはおりませんね。単にご挨拶というだけであれば、お義母様とは既に何度かお会いしておりますが…お義父様とは、まだ直接お会いしたことがございません」
「あ、そうだったんですね? そうなると、今後どこかで正式な…」
「ええ。両家の顔合わせについては既に日取りも決まっていますし、そこで正式なご挨拶をさせて頂きます。当日着る和服の用意も整っておりますし…」
おぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!
「か、顔合わせ!!」
「お義父様、お義母様って…それって高梨くんのお父さんとお母さんのことだよね!?」
「ふぉぉぉぉぉぉぉぉぉ、正にお嫁さんって感じがする!!!」
「こ、こういう話を聞いちゃうと、あの二人が本当に婚約者なんだって実感するね!!」
沙羅さんが親父と会えることを凄く楽しみにしているのは知っていたし、和服の話も確かに聞いてはいたが…本当に用意してくれたのか。
でも一体、いつの間にそんな買い物をしたんだろう?
基本的に、俺達はいつも一緒だから…
あっ!!
俺が指輪を買いに行った、あの日か!?
「あとは…一成さんのことでしたか?」
「はい!! 副会長の好きなところを、五つお願いします!!」
「五つ…それは困りましたね」
てっきり即答するかと思っていたのに、苦笑を浮かべ、本当に困った様子を見せる沙羅さん。
まさかこれは、いきなり聞かれても思い浮かぶことが何もありませんとか、そんなことを言われ…
「…困るんですか?」
「はい。五つでは少な過ぎて、何を言えばいいのか逆に困ってしまいます。私は一成さんの全てを愛しておりますので」
…る訳がないと確信しておりました…ええ。
きゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!
「愛してる、キターーーー!!!!」
「"好き"じゃなくて、やっぱり"愛してる"なんだね!!??」
「す、スゲェ…ナチュラルに愛してるって言ったよ、今!?」
「流石は夫婦…流石は奥さん!!!!」
「ラブラブすぎぃぃ!!!」
「…まぁ、沙羅は婚約者になる前から、普通に愛してるって言ってたけどね」
「…それは仕方ない。嫁の一成に対する気持ちを表現するなら、"好き"じゃ足りなすぎる」
「…だよねぇ。寧ろ"愛してる"って表現じゃないと、薩川先輩らしくないって言うか」
もちろん俺だって、沙羅さんの好きなところを五つ上げろでは全然足りないし、絞り込むことだって難しい。だから「全部」という表現も全くもって同意ではあるが…
面と向かって堂々と、しかも即答で「全てを愛しています」なんて言われてしまうと、やっぱり嬉しいと言いますか…
「高梨くん、鼻の下が伸びきってるよ?」
「ふぉっ!?」
「ふふ…一成さんったら」
「あ、あのぉ…それで…」
「あぁ、失礼しました。一成さんの好きなところを五つ…でしたね? 正直、そこまで絞り込むのは本当に難しいのですが…先ず最初としては、とても頼り甲斐のあるところ、でしょうか」
「頼り甲斐…」
「はい。これは実際に、自分の目で見なければ分からないことだと思いますが…ここぞという場面に於ける一成さんの頼もしさは、本当に惚れ惚れしてしまう程に素晴らしいものです。思いきりの良さや、度胸の凄さも目を見張るものがありますが…何より、自身の決めたことに対する行動力と、それを確かな形で実現させる実行力は、もう頼もしいと言う他はありません。私はそんな一成さんの凛々しいお姿に、何度、恋に落ちたことか…」
「な、なるほど…確かにそう言われてみれば、今日のことも」
「ええ。今日の一成さんは、単身でこれ程の大舞台に颯爽と乗り込み、大多数から向けられる敵意や好奇の視線を物ともせず、私に堂々とプロポーズをして下さいましたから。本当に…素敵です」
うっとりと、俺が乗り込んだシーンでも思い出しているのか…頬を朱く染めながら、熱い眼差しを俺に送ってくる沙羅さん。
確かに今日は、我ながら思いきったことをしたという自覚もあるが…それは沙羅さんの為だと思えば、大概のことは大したことないと思えてしまう訳で。
だから今日の一件も、言うほど大それたことをしたつもりはない。
「わ、分かりました。えっと、他には…」
「そうですね…では今のお話繋がりで。そんな男らしく頼もしい一成さんですが、実は隠れた一面をお持ちでして…とても可愛らしく、愛らしいお姿を私にお見せ下さるところ…でしょうか。特に、私が抱っこをして差し上げた際の…最初は恥ずかしそうに遠慮なさるのですが、その内に、ぎゅっ…と、可愛らしく私の胸に甘えて下さるのですよ。そのお姿が本当に…もう本当に、私は愛しくて、愛らしくて…」
「…わかる」
「…分かっちゃうの!?」
「…当然。いつでも弟を可愛がりたいと思うのは、姉の本能」
「…普通の姉弟は、そんなことしないと思うけど…」
こ、これはどうする…もう今更な感じではあるが、ここで強引に沙羅さんを止めるべきか否か!?
あんな嬉しそうに俺のことを話している沙羅さんを止めることは…でもこのままずっと放置しておけば、俺の男として大切な何かが、また一つ失われてしまうような気が…うう。
「あぁ、可愛さと言うのであれば、一成さんにはとても照れ屋さんな一面もあるのですよ? 私がじっと見つめていたり、キスをして差し上げると、一成さんは直ぐお顔が真っ赤になってしまいまして…私はそんな、一成さんの可愛らしいお姿が大好きで、もっとよく見せて頂きたいと思うですが、一成さんは恥ずかしくて居たたまれないご様子なので…そんなときは、お顔が見えなくなるように、私の胸でぎゅっと隠して差し上げるのです。ですが、膝枕のときは、胸に隠して差し上げることが出来ませんので…そうなると、一成さんは私のお腹にお顔を埋めてしまうのですが、たまにもぞもぞと動いて"おいた"をすることもありまして…ふふ。もう一成さんたら、めっ、ですよ♪」
「ちょぉぉぉぉぉぉぉぉっ!? お。俺はまだ何もしてな!!!!???」
「わ、わ、分かりましたぁ!!! もう十分すぎるくらい分かりましたぁぁ!!! 副会長さんの全てが好きだということがよぉぉぉぉぉく分かりましたから、もうそのくらいで大丈夫です!!!」
「…もう宜しいのですか? 私はまだ、ほんの触り程度しか話をしておりませんが?」
「だ、大丈夫です!! もうお腹一杯…もとい!! 薩川さんの想いがこれでもかってくらいに伝わってきましたので!!」
「なるほど、それは良かったです」
今度こそ完全に止めるしかないと思った矢先に、まさか質問者の方が先にギブアップをするとは思わなかったが…でもこれは、正直に言って助かったかも。
それに、ここまでずっと騒ぎ調子だった年頃乙女達も、やっと静かになってくれたようだし、沙羅さんに俺のことを語らせたらどうなるか、これで身に染みて分かってくれたら…
「…しゅ、しゅごいぃぃぃ…まさかこれ程までとは…」
「…さ、薩川さん、高梨くんのこと、好きすぎるでしょ…」
「…人間って、あそこまでドロ甘になれるんだね…」
「…こ、ここまで盛大にノロケを語るとは…と言うか、薩川さん変わりすぎぃ!?」
「…やっぱ、恋は女を変え…」
「…いやいや!! アレはそんな生易しいもんじゃないって!!!!」
「…はぁはぁ…もうダメ…口から糖分が溢れて…かはぁ!?」
あれ…ちょっとおかしいぞ…
客席が静かになったことは間違いないのに、小声の「何か」は逆に増しているような?
しかも乙女達からますます熱い視線でガン見されているような気がして、もの凄く嫌な予感がヒシヒシと…?
「みなみんさん、どうなさいましたか?」
「い、いや…何と言うか…薩川さんって、凄いなぁって…」
「はい?」
「い、いえいえ、分からないならそれでいいっす。何でもないっす!!!! さて、それではラスト一人…いってみよぉぉぉぉぉ!!!」
「「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁい!!!!!!」」
これだけ色々と暴露されたのに、まだ一向に減る気配のない質問希望の皆様。しかもいよいよラストの質問ということで、挙手アピールも全体的に激しさを増しているご様子。
俺が色々と失ってしまうくらい、沙羅さんはずっと話を続けているのに、まだ聞きたいことがあるんですか…って、おや?
「あれぇ、これまた珍しい人が手を挙げてますねぇぇ? 直接本人に聞けばいいのに、敢えてこの場でアピールしているのは何故でしょうか!!??」
これには流石のみなみんも気になったらしく、俺と同じ場所を見つめながら驚きの声をあげる。
でもみなみんの言う通り、この場にいるその他大勢の皆さんならまだしも、あいつだったら俺達に直接話をすればいいだけで…いや、花子さんや立川さんも、一番最初に何故か挙手はしていたが。
「ん~と、…高梨くん、どうする??」
質問者を指名する権限はみなみんが持っているので、本来であれば俺に聞く必要などはない。でも相手が相手なだけに、今回は俺に確認したのだろうが…別に問題がある訳でもないし、俺としても理由は当然気になる。
あいつは、こういうことをイタズラ的にやる男ではないから…それに先程から、目で何かを訴えかけてきていることにも当然気付いていた。
「みなみん…」
「ほいほい!! んじゃ、最後の一人はこれで決定だね!!!」
ステージ袖から、マイクを持ったスタッフさんが小走りで駆け寄って行き、それに対して律儀にお辞儀をして受け取ったのは…
「ではではぁぁぁぁ…質問をどうぞぉぉぉぉぉぉ!!!」
男子テニス部の一年生エースにして、見紛うことなき俺達の…俺の大親友。
何故当然、アピールを始めたのか分からないが…あいつの性格上、俺達を茶化したり、からかったりするようなことだけは絶対に有り得ない。
しかも聞きたいことがあるのであれば、それは後で直接聞けばいいだけなのに。
妙に深刻そうな雰囲気も気になるし…一体どうしたんだよ、速人?
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と言う訳で、カオスにカオスを重ねたミスコンも、次回でいよいよフィナーレ(予定)です。
速人が果たして何を思ったのか、それはまた次回のお話(ぉ
ちなみにこの展開は当初から予定していたのですが、ミスコンがあまりにもカオスになってしまったので、最後まで入れるか入れないかで悩みました。
いい加減、内容を詰め込み過ぎてしつこいって思われてしまいそうですが(^^;
次回は…仕事の都合もあるので、週明けになる可能性は高いです。
それえはまた~
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