第141話 西川絵里
「問題は、どうやって山崎を追い詰めるかということ。私も結構色々調べたけど、確実に使えそうなネタは見つからなかった。あなたは何か掴んだの?」
花子さんの淡々とした口調に馴れてきたころ、話しは遂に本題になった。
ちなみに、ここまで会話をしているのは殆どが俺と花子さんで、皆は聞く方に回っていた。
「俺は一応、山崎が犯罪者と関わりがあるかもしれない写真とRAIN履歴があるくらいかな。」
「犯罪者と関わりのある写真?」
雄二から貰った写真の話に反応しているようだ。
関わりがある「かも」だからな…決戦の役には立たないだろう。
「ほら、これ」
俺がスマホの画面を見せると、今まで淡々としていた花子さんが初めて驚きの反応を示して俺の顔をマジマジと見た。
そこまで驚くような内容だろうか…?
「ねえ、この写真はどこで手に入れた?」
「俺の親友が、知り合いから貰ったらしいぞ」
俺の言葉を聞き、何かを考えた仕草をしてから頷いた。
そのリアクションはなんだ?
「そっか、繋がった。橘くんは、高梨くんの為に山崎を調べてたんだね」
!!!
まさかここで雄二の名前が出るとは思わなかった。
ということは、花子さんが雄二から聞いた例の山崎を調べ回していたという女性だったのか。
であれば、今日のことのお礼を伝えなければ!
「花子さんが、雄二にこのデータをくれた人だったのか! それならお礼を言わせてくれ。俺は今日、このデータのお陰で山崎の関係者を潰すことができたんだ!」
今日の出来事を簡単に説明して、写真が役に立ったことを伝える。
ついでにそのお陰で手に入れたRAINの履歴を見せた
「なるほど、役に立ったなら良かった。でもこのRAIN履歴も写真と同じで可能性の域を出ない。これだけでは使えない」
俺もそう思う。これでは知り合いだという話だけで、寧ろ事件とは関係ないと主張されているようなものだ。
俺が頷くと、今度は花子さんがスマホの操作を始めた。
「私の方は、これも役に立たないだろうけど、あいつが今狙ってる本命だと思う女性の写真。かなりのお嬢様みたい」
そう言って俺に写真を表示したスマホを渡してきた。
山崎と一緒に写っている女性は、ドレスのような服装で沙羅さんのような黒髪ロングの髪型をしている。写真で見ても美人だということは一目でわかるくらいだ。
まぁ沙羅さんには勝てないけど。
「どれどれ、見せて」
「一成さん、私にも見せて下さい」
後ろに回り込んできた夏海先輩にも見えるように、沙羅さんの方へスマホを向けて見せた
「こいつが山崎かぁ…んで、女の方は……あれ?」
「あら、ひょっとして…」
二人が写真の女性を見て反応を示した
ひょっとして知ってる人なのか?
「ねぇ沙羅、これってえりりんだよね?」
えりりんとはまた親しげな呼び方だな。
「え、ええ、絵里ですね。なんで彼女が…確かにお嬢様なのは間違いないですが。」
どうやら間違いなく顔見知りのようだ。
夏海先輩の様子だと仲は良さそうだけど、沙羅さんと知り合ってから今までその名前を聞いたことがない。
ということは、ウチの学校にいない人なのか?
「沙羅さん、この女性は知り合いなんですか?」
「ええ、一成さんも間接的には関係がありますよ。いつも私達がお世話しているあの花壇は、絵里の残した花壇ですから。」
えええええ!!??
俺は今日一番の衝撃を受けたのだった
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「はい一成さん、落ち着きましたか?」
普通に驚いただけのつもりだったのだが、突然沙羅さんが「落ち着いて下さい」と俺の頭を胸に抱きしめていい子いい子してくれた。
大丈夫だから止めて下さい…何て俺が言う訳ないだろ。
ごめんなさい場所もわきまえず甘えてしまいました
「…ねぇ、いつもこんな感じ?」
若干うんざりしたような表情で藤堂さんに問いかける花子さんに対し、藤堂さんは愛想笑いを浮かべていた。
「そう。仕方ないから、山崎を潰す為に我慢するわ。」
花子さんは結構キツイな。
まぁ今回は俺が悪いので何も言えないが。
「それで、この人は知り合いということでいいの?」
花子さんの問いかけに答えたのは夏海先輩だった。
「うん、この子は西川絵里って名前でね、前はうちの学校に居たんだよ。沙羅の数少ない親友…」
「余計なことを言う口は塞ぎましょうか?」
沙羅さんの、冗談というには生ぬるいプレッシャーを受けた夏海先輩が黙った。
本当に余計なひと言だったな…
「と、とにかく、私達は友達だったんだよ。でも引越しで転校しちゃったんだよね。沙羅は連絡とってる?」
「二年生に上がってからすぐに一度連絡してますよ。と言っても忙しかったようで、少しお話しただけですが。」
ということは、話をしようと思えばできるということか。
俺達だけでは頭打ちの状況だったし、何か好転するような話が聞けるといいんだけど
「なら、連絡とれる?」
花子さんも俺と同じ事を考えたようで、思わぬ展開に活路を見出だしたい様子だ。
しかし花子さんは、沙羅さんにもタメ口とは凄いな。ウチの学校のやつだったら怖くて絶対にやらないだろう。
「沙羅さん、俺からも…」
途中まで言いかけて、沙羅さんの人差し指が俺の口を軽く塞いだ
「一成さんの為でしたら、私が出来ることであれば喜んで致しますよ。」
にっこりと優しい笑顔を浮かべて俺にそう言うと、自分のスマホを取り出して電話をかけ始めた。
出てくれるだろうか…忙しいようなら、日を改めてでも早めに話をしたいんだけど
「もしもーし、久しぶりね、どうしたの沙羅?」
RAINのビデオ通話でかけたらしく、スマホには西川絵里さんが映っていた。
「久しぶりですね、突然すみません。絵里に急ぎの話があったのですが、時間は大丈夫ですか?」
「今日は大丈夫だよー。前はゴメンね。ちょうど出掛けるタイミングだったのよ」
良かった、話をする時間が取れるようだ。
あとは何かいい情報が手に入るといいんだけど
「いえ。早速ですが、山崎和馬を知っていますか?」
沙羅さんが直球で本題に入った。
山崎の名前を聞いた西川さんが、少し驚いたような表情を浮かべた
「ちょっと驚いたわ。沙羅が山崎さんを知ってるなんて」
「やはり知っていますか。話をする前に確認したいことがあります。山崎和馬はあなたにとってどういう人物ですか? 遠慮なく単刀直入で答えて下さい」
確かに、西川さんと山崎の繋がりを確認しないと、どこまで話をしていいのかわからない。
もし婚約者とかだったら説明の仕方も考えないといけないのかもしれないな。
西川さんがニヤリと意味深な笑い顔を浮かべた。
「沙羅に言い繕う必要はないわね。山崎はハッキリ言って目障りよ。何を考えているのか大体わかってるけど、お父様とのビジネス的な関係で無下にできないのが厄介だわ。」
よし!
これなら隠さずに話をしても大丈夫そうだ。
花子さんもどこかホッとしたような表情をしているし、立川さんと藤堂さんは、ハイタッチしている。
「そう、それなら遠慮なく言いますね。山崎は…」
「あんな屑男、さっさと切り捨てた方がいいよ、えりりん!」
夏海先輩が横から画面に半分割り込むように、沙羅さんにくっついて会話に入り込んだ
「夏海! ずいぶんと久しぶりね。相変わらず元気そうだけど、沙羅に迷惑をかけるのは程々にしなさいよ。」
ぷっ
いきなりそんなことを言われた夏海先輩が頬を膨らめて反論し始めた
「私は迷惑なんてかけてないわよ! 寧ろ、沙羅の相談にのってあげたり助けてあげたりしてるんだ…」
「二人とも、今は先に重要な話があるので、またの機会にして下さい。とにかく山崎という屑男についてです。」
沙羅さんが横道に逸れ始めた話題を戻してくれた。
三人の話しは俺もかなり興味があるんだけど、今は山崎のことがあるからな。
「では、山崎がどういう理由で絵里に近付いてきているのか教えて下さい。」
山崎の目的…本命という花子さんの話以外に、何かネタになりそうな要素があるといいんだけど。
「簡単な話よ。山崎の父親は、私のお父様と昔から付き合いがあったの。それで、少し前から山崎の会社の経営状態が悪くなって、私のお父様から個人的に融資を受けたり、仕事の斡旋を受けたりしてるのよ。だから山崎は、私に媚でも売ろうとしてるみたいね。」
あいつ、散々金持ちであることを自慢してた癖に、実際は借金かよ…
急にみすぼらしく見えてきたな。
「馴れ馴れしく近寄ってくるから嫌なのよね。腹に一物どころかいくつもあるのが透けて見えるから、ハッキリ言って汚らわしい。」
これは、ひょっとしたら協力もしてくれそうな雰囲気だな。
やっぱりちゃんとした人が見れば、山崎の評価なんてそんなものだろう。
俺がおかしい訳じゃないな
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