第140話 第三の協力者

「和馬、西川のお嬢さんはどうなっている?」


もはや耳タコになるこの台詞。

親父は俺のことを道具か何かだと思っているのではないだろうか


「アピールはしてる。でもなかなか上手くいかないんだよ!」


親父の言う「西川のお嬢さん」…西川絵里さんは、俺が今、本命と位置付けている人だ。

この人は今までの女たちとは違う、金やブランド物では全く効果の無い本物のお嬢様。そして俺の容姿にも全くなびく気配がない。

なぜそんな人を本命にしているのか…それは二つの理由がある。


一つ目は彼女の父親。

大企業である西川グループの会長にして、俺の親父の会社の重要な取引先…と言えば聞こえがいいが、経営の傾いた親父の会社は融資、仕事の斡旋と、実質的に依存しているようなものだ。

だから親父としては、今後の繋がりを考えて何としても俺に絵里さんを落として欲しいのだろう。


そして二つ目は簡単だ。

俺が絵里さんに惚れただけ。絵里さんと比べれば、今までの女が如何に幼稚だったかよくわかるというもの。

だから親父の話があろうとなかろうと、俺は絵里さんにアタックするんだ。


「そう言えばお前…そろそろ馴れてきたか? 今の内から将来の部下を従えておけば、後々役に立つからな。」


俺は高校を卒業したら大学に進学すると同時に経営に携わることになっている。

だから俺は、親父の指示で自分の部下になることが決まっているやつらを集めて定期的に懇親会(合コン)を行っているのだ。

俺はこいつらの上に立つ人間として、施しを与える必要があり、「馴れた」というのはそういう部分のことを意味する。


懇親会の参加人数が少し増えたし、そろそろバカ女と取り巻きを投入する必要があるかもしれないな。

まぁ何かあったときのために、面倒臭いのを我慢してバカの相手をしていたのだから、精々俺の役に立って貰うつもりだ。

勿論、懇親会の後で個人的な付き合いに発展しても俺は関与しない。

佐川事件のような巻き込まれは二度とゴメンだからな。


手っ取り早く従えるなら、金と女

交渉相手に取り入るなら、金と女


親父がそうやってきたのをずっと見てきた。

逆に親父に取り入る為に、俺に寄ってきた女も一人二人ではない。

誰かに指示されていたんだろうが、俺みたいなガキに必死に媚を売るやつらが滑稽で、それを見てきた俺が女を軽く見るのは当然の話だ。

中学のときは俺もガキだったこともあり、面白くて好き放題していた

俺に告白してくる女は、どいつもこいつも俺の容姿や金に釣られて寄ってきた程度のやつらだ

そんな女達など、こちらも遊びで充分だ


だがどれもこれも俺が悪い訳じゃない、周りの環境が俺をそうさせただけだ。

言ってみれば俺も被害者だろう。


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「状況はわかった。でもさっきのRAIN履歴とその写真だけではまだ難しいかなぁ」


速人の指摘通り、これだけではどうにもならない。精々知人や関係者に匂わせを行えるくらいだろう。


「藤堂さんの友達からも話を聞いてみたいけど…どうかな? 勿論思い出したくないとかなら仕方ないけど。」


俺がそう言うと、藤堂さんは顔を横に振った。ということは大丈夫なのか?


「洋子はまだ山崎と笹川を恨んでるんだよ。被害者同盟って言い方はアレだけど、山崎を恨んでる人と知り合いになってから、二人で山崎をつけ回したりしてるんだ…だから何かしらの決着が付けば、洋子もまた笑って遊べるようになってくれるかもって…」


藤堂さんの悲しそうな表情は、本当に友達を案じているのがよくわかる。

内容は違うけど、俺だって山崎には恨みがあるし、気持ちがわからない訳じゃない。

俺が山崎を潰すと言ったことに前のめりで反応したのは、早く友達を開放してあげたい気持ちがあるからだろう。


「高梨くんなら、洋子も、あともう一人の知り合いも絶対に協力してくれると思う。だから、高梨くんさえ良ければ会ってみてくれないかな?」


ということで、藤堂さんに友達と連絡をとってもらったところ、今からこちらへ来るという返事が即答で返ってきた。即答という辺りも恨みの深さが滲み出ているような気がする…


「私は同席しますけど、先輩方と横川くんはどうしますか?」


「私は一成さんと共に背負うと決めましたので、どこまでもご一緒します。」


沙羅さんは俺の顔を見ながらそう返答した。


「もちろん行くよ。ここで外れるなんて有り得ないでしょ」


「俺も参加させて欲しい。自分に関わる可能性もあるしね。」


ということで全員参加となり、駅前で待ち合わせして着替えも含め一旦解散となった。


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「改めまして、立川洋子です」


ファミレスでは込み入った話がしにくいということで、カラオケの大部屋を使うことになった。

俺はカラオケには行かないので知らなかったが、フリータイムということもあり広くても安くて便利らしい。

同じくカラオケ屋に行ったことがない沙羅さんが物珍しそうにキョロキョロしているのが可愛かった。


部屋に入り各自ドリンクバーで飲み物を用意すると、早速自己紹介に入る。

まずは合流した二人から挨拶になったのだが、立川さんはともかくもう一人が曲者というか…


「宜しく…私のことはあんまり気にしないで。花子とでも呼んでくれればいい」


明らかに偽名っぽいというか…まぁ今はいいや。

全員の挨拶が終わると、花子さんが食い気味に俺に話しかけてきた。


「それで、洋子から聞いたけど、山崎を潰すんだよね?」


単刀直入すぎて驚いたが、立川さんを見ると苦笑しながら花子さんの話を引き継いでくれた。


「実は花子さんも私達と同じ中学だったんだよ。高梨くんの顔を見たのは今日が初めてだけど、噂は知っていたからね。今回のことで花子さんが高梨くんに聞かせたいものがあるって。」


聞かせたいもの?


「私が山崎の弱味を探していたときに、笹川柚葉が友人と話しているのを何度か録音したことがあった。これをあなたにあげる」


そう言って花子さんはスマホを取り出すと操作を始め、入っていた録音データを再生した


「山崎くんがアドバイスしてくれたんだ〜」


これは間違いなく柚葉の声だ

どうやら誰かと会話しているらしい


「今はとにかく一成を悪者にして、私が幸せになったら謝ればいいって。最後に謝れば、必ず許すのが幼馴染みだって。それに一成は、俺が許すからお前のやりたいようにやってみろって前に言ってくれたし」


……は?

昔そんなことを言ったような気がするが、断じてそういう意味ではない。

何を考えているんだ柚葉?


「えーと…高梨くん、許すってそういう意味じゃないよね?」


夏海先輩が呆れたように俺に聞いてきた


「ええ、勿論です。」


「大丈夫、これはこの女が意図的に勘違いしてるだけ。あなたがそう言ったから、自分が酷いことをしても大丈夫だと、罪悪感から逃げるために決めつけたいだけ」


何が大丈夫なのかわからないが、実に納得できる分析だった。

今はよくわからないが、中学のときはそういう身勝手な思い込みをしていたということか。


ドカン!!!


テーブルを叩く音がしたので驚いて音のした方を見ると、俺の隣に座っている沙羅さんの手がテーブルの上にあった…全員が驚いている


「…失礼しました。」


何かを堪えるように手を引っ込める沙羅さん。

多分だけど、柚葉の身勝手さに怒ったのかもしれない。

俺はそっと、テーブルを叩いた沙羅さんの手を軽く握るように掴む。

沙羅さんは少しビクっとしたが、すぐに落ち着くと距離を縮めるように座り直して、俺の肩に頭をコテンと乗せた


「えーと…何でいきなりイチャつき始めた?」


花子さんの困惑に返事をしたのは夏海先輩だった。


「いつものことだから気にしないで。」


例え白い目で見られようと、俺の為に怒ってくれた沙羅さんを愛しいと思うのは仕方のないことだ。俺は恥ずかしくなどない。


「でも、これで柚葉の行動に山崎が関わっていたのはハッキリしたな。また一つ山崎に礼をする理由が増えた」


気を取り直して真面目に答えたつもりだが、横で沙羅さんが甘えてくれているので、傍目的には締まらないだろうな…

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