第368話 乾杯

 

「ん、んんっ!! 失礼」


 取って付けたような咳払いをかまし、取り敢えず体裁を整えたつもりらしい親父。

 あれだけ大騒ぎしたのだから、今更その程度でどうにかなるレベルではないんだが…まぁそれを突っ込むと話が進まなくなるので、取り敢えずスルー推奨か。


「と、ところでお嬢さん」


「お義父様、私のことは沙羅とお呼び下さい」


「お、おとう…」


「あーもう、話が進まないからいい加減にしな!!」


 またしても叫び出しそうな気配を見せた親父に、オカンがすかさず先制の突っ込みを入れる。

 それで何とか踏み止まったようで、もう一度小さく咳払いを入れるが…あの親父がここまで壊れるなんて、流石は沙羅さんだ(?)


「ふふ…お義父様、何か私にお話があるのでは?」


「あ、あぁ。その、失礼なことを聞くようで申し訳ないんだが」


「いえ、何なりとお聞き下さい」


「それじゃ遠慮なく…本当に、ウチのバカ息子でいいんですか?」


「おい、ちょっと待て親父。それは一体、どういう意味だ!?」


「あん? 何でお前みたいなのに、こんな素晴らしいお嬢さんがって思っただけだろ? 自分を鏡で見たことあんのか?」


「何だと!?」


 今まで散々似たようなことを言われてきたので、今更この程度は気にもならないが…それでも、今この場でそれを聞くのは、沙羅さんにも政臣さん達にも失礼だろうが!!


「…お義父様、先ずは一点、訂正をさせて下さい。一成さんはとても素敵で、優しくて、頼もしくて、格好良くて…正直、私などには勿体ないくらい素晴らしいお方です。決して、バカなどではございません」


「お…」


「それにこの度のお話も、寧ろ私からお願いさせて頂きたいくらいです。私は一成さん以外の男性に興味などございませんし、一成さんのお側に居られるだけで、本当に幸せですから」


「そ、そこまで?」


「はい。これは嘘偽りない私の本心です。私は心から、一成さんを愛しております」


「っ!?」


「沙羅さん…」


 実に堂々と、ただひたすらに、真っ直ぐに…


 親父に説明しているように見えても、その実、俺に向かい自分の想いを口にする沙羅さん。

 いつもこうして、俺のことを全肯定してくれる。お世辞でも何でもなく、本気でそう思ってくれている。沙羅さんの眼差しから、確かにそれが伝わってくる。

 でも俺から言わせて貰えば、沙羅さんこそ世界一素敵な女性であり、俺なんかには勿体ないくらい、本当に素晴らしい人で…


「ふんっ!!」


「あいたっ!?」


「か、一成さん!?」


 一瞬、何が起きたのか理解出来なかったが、親父が俺の頭を小突いた。しかもワリと全力で。

 つか、今のシーンは感動するところじゃないのかよ!?

 

「いっつぅ…何だよ親父!?」


「世の男の声を、俺が変わりに示しただけだ」


「何じゃそりゃ!?」


「か、一成さん、大丈夫ですか!?」


 慌てて俺の側に寄り添い、親父に殴られた辺りを優しく撫でてくれる沙羅さん。

 たったそれだけのことなのに、痛みが驚くほど急速に引いていくのは、単に俺の惚気なのか、それとも沙羅さんの愛情が為せる技なのか…絶対に後者だな、間違いない。


「沙羅さん…」


「痛かったですね…いい子いい子…」


 沙羅さんは何度も何度も俺の頭を撫で、それは外的苦痛だけでなく、内面も含めた全てを癒すような、とびきりの優しさで俺を包み込んでくれる。

 どこまでも優しい瞳に見つめられ、こうして頭を撫でられていると、このまま思い切り甘えたいという本音が一気に顔を出しそうになり…


「…遠慮をなさるのは、めっ、ですよ?」


「さ、沙羅さ…わぷ!?」


 そんなことを考えていると、沙羅さんはいきなり俺の頭を抱き寄せ、そのまま自身の天国に収めてしまう。

 正直言って、嬉しいことこの上ないが、和服が汚れたり皺がついたりしないか、密かに心配もあったり…


「ふふ…痛いの痛いの、とんでけ〜」


 でも沙羅さんは、そんな俺の心配など全くお構い無しで…


 楽しそうに、嬉しそうに、心配そうに…そして愛おしそうに、何度も何度も俺の頭を撫でて、「とんでけ〜」をしてくれる。

 これは端から見れば、子供扱いされているだけに見えるかもしれないが、沙羅さんにとっては心からの愛情表現であり…だからこそ、俺は幸せで、愛しくて。


「お…な、何を…して…」


「…あー、沙羅ちゃんって、素でこういう子なのよね」


「はぁぁ!?」


「沙羅ちゃん、気持ちは分かるけど、お話が出来ないからそのくらいにしておきなさい。ご両親の前で夫に恥を掻かせるような女は、決して褒められたものじゃないわよ?」


「っ…し、失礼しました」


 そんな沙羅さんの行動を嗜めるように、普段とは違う厳しい声音で話しかけたのは真由美さん。やっぱり沙羅さんに対しては、こういう明確に厳しい一面を見せることがあるんだよな…


「申し訳ございません、一成さん…その、つい…」


「い、いえ。その…俺は嬉しかったですから…」


「一成さん…ふふ、ではこの続きは、お家に帰ってからゆっくりと…」


「は、はい!」


 どうやらこれで、今晩も無事に愛され…もとい、可愛がられる俺の運命が確定したらしい…いや、毎日のことですけど。


「もう…ごめんなさいね、一成くん。沙羅ちゃんが…」


「えっ? いや、俺は別に…」


「んふふ…仕方ないから、この埋め合わせは、お義母さんがいっ〜ぱい…」


「は? 寝言は家に帰ってからにして下さい。一成さんを癒して差し上げるのは、私だけに許された特権ですよ」


「あん、ズルいわ沙羅ちゃん。お義母さんだって…」


「お母さんには全く関係のない話ですね。第一、もう余計な首を突っ込まないと約束したではありませんか?」


「え〜、これは余計なことじゃないもの。大切な息子を可愛がるのは、お義母さんにとって…」


 えーと…どうしよう…

 またしても始まったと言えばそれまでなんだが、今は状況が悪すぎると言うか…


 取り敢えず政臣さんが、申し訳なさそうに合図してくるので、俺も「大丈夫ですよ」と頷いて返しておくが、問題なのは親父とオカンの方…特に親父は、もう顎が外れそうなくらいに呆然と状況を眺めていて…


 これはこの後の追及が、ますます面倒なことになる可能性しか見えないぞ。


「お、お、おいおい…ちょっと待て、何でこんな…一成の取り合いみたいなこと…」


「はぁ…真由美さんも相変わらずねぇ。ウチの平凡息子のどこがそんなに気に入ったのやら」


「相変わらずって、まさかいつもこうなのか!?」


「いつもって言うか、私は参観日の日にそれっぽいところを何度か見ただけなんだけどねぇ…でも沙羅ちゃんからのRAINにも、真由美さんが隙あらば一成にちょっかいを出して困るって書いてあったし」


「な、何て羨ま…一成!! お前、全世界の彼女無し子(みなしご)達を、完全に敵に回したからな!?」


「何だよ、いきなり!?」


「うっせぇ!! 俺…もとい、神々の怒りを思い知…」


「……お義父様?」


「は、はいっ!?」


 謎の妄言を垂れ流し、勢いよくも右手を振り上げた親父の動きが…沙羅さんの一言でピタリと固まる。

 特に怒っている風でもなく、寧ろ優しい笑顔を浮かべたままの沙羅さんではあるんだが…何だろう、凄まじいプレッシャーを感じると言うか、七色のオーラが見えるような?


 しかも見ているだけで、微妙に震えが…


「お義父様の行動は、一重に一成さんへの愛情表現であると理解しております…が、それでも程々にお願い致します。くれぐれも、度を越さぬよう…」 


「か、畏まりました…くれぐれも、気をつけさせて頂きますです、ハイ!!」


「宜しくお願い致しますね……お義父様?」


「は、はぃぃ…」


 オカンに怒られているときですら見せたことのない、恐怖その他の入り交じった表情で、親父は何度も何度もコクコクと頷く。

 例え相手が義父であろうとも、やっぱりそこはブレないんだな…沙羅さん。


「調子に乗るからそうなんの」


「…ちょ、今のすげぇ迫力だったぞ!?」


「…沙羅ちゃんは、一成以外の男には一切容赦しないのよ。あんたは父親だから、あれでも十分マシな方」


「マ、マジかよ…こりゃ冗談でも、一成に手を上げらんねーな」


「…これが他の男だったら、あんたさっきの一発で殺されてたかもね?」


「お、おいおい、冗談は……冗談だよな?」


「…ふっ」


 これはどうやら、沙羅さんのお陰で、長年に渡る俺の災いが一つ消えてくれたかもしれない。

 また沙羅さんに感謝することが一つ増えてしまった…って、そうじゃなくて。


「んふふ…それじゃあ沙羅ちゃんの挨拶も無事に済んだところで、本格的にお話を始めましょうか」


「そうだな。無事なのかどうかは分からんが…」


「何か言いましたか?」


「いやっ、な、何でもない!!」


 沙羅さんの鋭い突っ込みに、今度は政臣さんまで小さくなってしまう。

 これで両家の父親が、揃って沙羅さんには敵わないという事実がハッキリした訳だ…まぁ政臣さんは今更だけど。


「あいつ、将来は絶対尻に敷かれるな」


「どうかしらねぇ。沙羅ちゃんは古風なところがあるし、何故か一成の立ち位置を自分の上に置いてる節があるからね。私とは正反対で」


「あのな…」


 俺は別にどんな形であろうと、沙羅さんと一緒に居られるのであれば全く問題ない。それに沙羅さんの性格上、少なくともオカンと親父みたいな感じにはならないと断言もできるし。

 ただ…たまに真由美さんを彷彿とする、小悪魔的な仕草を見せることがあるのが…いや、それでも俺は大丈夫だぞ、うん。


………………

…………


「コホン、それでは…」


 室内の空気が温まった(?)ところで、気を取り直した政臣さんの司会進行の元、先ずは簡単に自己紹介から始めることになった。

 ちなみに俺も、今日を迎えるに当たり、ルール的なものをネットで事前に調べてみたんだが…特に今回の場合、沙羅さんが「嫁」に行くのではなく、俺が「婿」となる為、基本的には政臣さんが主体となって行われる形になるらしい。だから今回の席を用意したのも、進行役を勤めるのも、ウチの親父ではなく政臣さんになるとのことだ。


「改めまして、沙羅の父、薩川政臣と申します。本日は遠路遥々ご足労頂き、誠にありがとうございます。至らない点も多々あるかと思いますが、どうぞ宜しくお願い致します」


 深々と頭を下げ、淀みなく、実に堂々とした挨拶を行う政臣さん。その姿は実に頼もしく、正に俺の理想…全然落ち着かないウチの親父とはエラい違いだ。


「政臣の妻、真由美と申します。この度の件、突拍子もない話であるにも関わらず、前向きに受け入れて頂き誠にありがとうございます。心から御礼を申し上げます」


 次に挨拶をしたのは、相変わらずのほんわか癒し系ボイスが耳心地良い真由美さん。でも今は真面目な挨拶であるからか、どこか普段より凛とした…それこそ、生徒会長としての沙羅さんを彷彿とさせる雰囲気がある。

 

「一成の父、高梨宏成(こうせい)と申します。薩川家の皆様に於かれましては、息子が大変お世話になっており、感謝の言葉もございません…」


 そしてサイドが変わり、続けて挨拶をしたのは、珍しく表情を引き締めた真面目顔の親父。

 普段はヘラヘラしていたり、飄々としていたりと、なかなか捉え処のない性格の持ち主ではある訳だが…こんな風に、しっかりとした大人の対応が出来る一面を持ち合わせていることを、俺は今日始めて知った。

 ぶっちゃけ、意外過ぎて驚きしかないんだけど。


「宏成の妻、冬美です。正直、自分の人生にこんなドラマみたいな話が舞い込んでくるなんて思ってもみなかったんで、まだ現実感が薄いんですけど…」


 最後に挨拶をしたのは、丁寧な言葉遣いを選んでいるようで、やはりフランクな雰囲気が抜けきらない、ある意味いつも通りと言えるオカン。

 最初の緊張感もすっかり無くなったようで、ワリと余裕そうだな。

 

「んふふ…それはこちらも同じですよ。一成くんとの出会いは、私達にとっても奇跡みたいなものですから…あ、でも沙羅ちゃんにとっては、運命なんだそうです」


「運命?」


「はい。私達は、幾重にも重なった全ての要素を乗り越え、お互いにお互いを求め合う唯一の存在となり出会いましたから…であれば、この出会いは運命であり必然であると、私は胸を張って言い切ることが出来ます」


「それは俺も同じですよ。俺は沙羅さんと出会う前からずっと…ずっと沙羅さんを探していたんだって。だから俺は、この街に来て、沙羅さんと出会って…」


 俺達の過去の境遇が、沙羅さんの言う、お互いを求め合う存在として確立させたのであれば…そんな掛け替えのない存在となった二人が出会ったこと、俺が他ならぬこの街に引っ越してきたことも、全ては沙羅さんと出会う運命があったからだと考えれば、何ら不思議はない訳で。

 だからこれを、単なるロマンチストの夢物語だと思われようと、俺は…俺達は、本気でそう思っているんだ。


「んふふ…本当に、ここまで相思相愛の二人だもの。そんな唯一無二の存在である一成くんが、沙羅ちゃんと将来まで誓ってくれたなんて…親として、こんな嬉しいことはないわ。ね、政臣さん?」


「あぁ。とうとう現れた沙羅の想い人が、私達にとっても理想的な青年だったんだ。こんな奇跡は…おっと、運命だったね。これは是が非でも、後押しをさせて欲しいよ」


「政臣さん…真由美さん…」


 ここまで言ってくれる二人に対して、俺が出来る最大の感謝は…絶対、沙羅さんを幸せにするなんてことは言わずもがな、二人が俺に寄せてくれる期待に何としても答えたい。でもそれは義務なんかじゃなくて、俺自身がそうしたいから…そう在りたいと願うからだ。

 その姿は俺自身の理想でもあるから、だからこそ、俺は喜んで!!


「…なるほど。正直に言って、今回の話は随分とイレギュラーなことが多い話だと思っていましたが、色々と事情がありそうですな」


「ええ。その辺りについても、この後ご説明させて頂ければと思います。ただ…」


「あぁ、その辺りについてはご安心下さい。先日の電話でも話した通り、私も家内も、この件については一成の意思を尊重すると既に決めていますから」


「そうね。だた。この子で本当に大丈夫なのかという不安はありますけど…なんせ沙羅ちゃんは、引く手あまた…」


「お義母様…先程も申しましたが、私は一成さん以外の男性になど興味は一切ございません。私は一成さんだけ…一成さんのお傍で、共に歩んで行けることこそが、私にとって一番の幸せなんです」


「…うん。沙羅ちゃんがそう言ってくれるのは分かってたけど、それでも言っておきたかったのよ。ごめんね…それと、ありがとう」


「はい」


 宣言するかのようにハッキリと言い切った沙羅さんの言葉に、オカンは嬉しそうな…とても優しげな笑顔を浮かべ、小さくペコリと頭を下げる。でも親父の方は、そんな沙羅さんにまだ驚きが抜けないらしく、またしても呆然と…


「んふふ…まだ挨拶の段階なのに、いきなり深い話になってしまいましたね」


「は、はは、そうですね。私は正直、バ…おっと、ウチの息子が、ここまでそちらに受け入れて頂けていることに驚きしかありませんが」


「それだけ、私達にとって一成くんという存在が特別であるということなんですよ」


「はー…ウチの息子がねぇ…」


 政臣さんの話に軽く相槌を打ちつつも、やはりまだ完全には納得しきれていない様子の親父。

 ただ俺も正直に言えば、自分がここまで好意的に受け入れて貰えていることに、驚きが残っていない訳でもないので…まして、背景を全く知らない親父からすれば、理解できなくても当然と言えるのかも。


「まぁ…可愛い娘が初めて見初めた男の子というだけで、私達からすれば十分に特別だと言えるんですよ」


「そ、そうなんですね?」


「ええ」


 真由美さんの補足を聞いても、まだ沙羅さんの人となりを知らない親父としては、やはり不思議そうに首をかしげていて…ちなみにオカンは苦笑を浮かべているので、今の話で理解できた部分があるのかもしれない。


「失礼致します。お飲み物をお持ちしました」


 何となく会話が途切れたタイミングで、ビールやら何やらを運んできた店員さん達が入ってくる。

 そのお陰で、どことなく意味深な雰囲気になっていた空気が、多少なりとも緩んだような気がしないでもない。


「ささ、難しい話は後にして、先ずはお互いに親交を深める為にも乾杯と行きましょうか」


「おっ、それはいいですな! やはり親交を深めると言うのであれば、酒は外せませんから」


「はは…その仰りようだと、お酒はかなり嗜まれていらっしゃるようで」


「いやいや、私はあくまでも付き合い程度ですよ。そういうそちらこそ、そう言った席が多いのではありませんか?」


「いえ、私が酒の席に出席すると、逆に盛り下がってしまう可能性がありますからね…なるべく出席は控えるようにしているんですよ。それに、娘から怒られてしまいますし」


「あー、それはそれは…何とも辛いところですな」


 確かに俺の知る限り、政臣さんがお酒の席に出席したという話は聞いたことがないし、まして家でお酒を飲んでる場面に出くわしたこともない。だからてっきり、お酒は飲めないとばかり思っていたんだが…

 ちなみに親父は、酒を飲むにも小遣いで買ってこなければならない関係上、普段は精々ビール缶を一本飲む程度で抑えている。でも職場の宴会があるときは思い切り酔っぱらって帰ってくるので、酒自体はかなり好きなんじゃないかと思う。


「あんた飲み過ぎるんじゃないよ。まだ大切な話が残ってるんだから」


「わーってるよ、ったく」


「政臣さんも、嬉しいからと言って調子に乗らないで下さいね?」


「わ、わかってる」


 やれやれと言った様子で釘を刺す奥様二人に対して、実に対照的な反応を示す大黒柱の二人。でも頭が上がらないという点では共通しているのかも。


「ふふ…ではお義父様、私がおつぎ致します」


「おおお、これはこれは…」


「それじゃ、政臣さんには俺が…」


「ありがとう一成くん。いやぁ、これは案外、嬉しいものだね」


 見よう見まねだけど、ここは沙羅さんを見習って、俺の方も動いておこう。

 場の雰囲気が良いに越したことはないし、何よりも今日は、そうしたい気分だから。


「ずるいわ、政臣さん。私だって一成くんに…」


「あはは…それじゃ真由美さんにも俺が」


「お義母様、宜しければおつぎ致しますね」


「ごめんね、沙羅ちゃん。私まで」


 その足で、今度はお互いの母親にビールをつぎ…って、そう言えば、真由美さんってそもそも飲めるのか?

 断らなかったから大丈夫なんだろうけど、何かイメージが…


「大丈夫よ。お付き合いの一杯くらいは飲めるから。でも、もしお義母さんが酔っぱらっちゃったりしたら…」


 俺の疑問をアッサリと見抜いた真由美さんが、急にイタズラっぼい表情でそんなことを言い出し…その先に続く言葉は嫌な予感しかない。


「んふふ…一成くんに、介抱して欲し…」


「大丈夫ですよ。酔いが早く醒めるように、廊下へ放り出しますから」


「沙羅ちゃん、酷いっ!?」


 本気でやりそうな沙羅さんの冷たい突っ込みに、真由美さんが嘘泣き混じりのリアクションを見せる。例えアレが演技だと分かっていても、思わず何とかしてあげたくなってしまうのがズルいと言うか…特に親父なんか、もう完全に鼻の下が伸びきってるぞ。ついでにオカンが睨んでるけど。


「ゴ、ゴホン!! さ、さぁ、それでは乾杯の音頭といきますか」


「そうですね。それでは皆さんグラスを…高梨家と薩川家、両家の繁栄と、子供達の良縁を祝って…乾杯!!」


「かんぱーい!!」


 政臣さんの宣言に続き、全員で声を合わせ…


 こうして、期待と不安、そして俺にとっての一大決心を込めた顔合わせの席が、本当の意味で幕を開けた。


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


 相も変わらす亀進行です。

 思ったより伸びてしまったので、予定よりも手前で切れてしまいました。

 次回はお食事のシーンと、親の目の前でも平常運転な・・・おっと、ネタバレ注意(ぉ

 そんな感じで予定してます。


 あと遂に親父の名前が出てきましたが、別に勿体つけていた訳でもなんでもなくて、描写的に必要としなかっただけです。


 では、また次回。

 


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