第106話 雄二合流
ピピピ…ピピピ…
「ふぁ……」
沙羅先輩のいない朝は久し振りだった。
今日はさすがに準備もあるはずなので、先輩を説得して集合場所で待ち合わせになった。
今まではこれが当然だったのに、朝起きて先輩がいないという事が寂しいと感じでしまうのは、それだけ一緒に居ることを自然と感じてしまっていたのか、単に俺が甘えているだけなのか…
顔を洗い、着替える。
…いつもなら、俺が顔を洗っている間に沙羅先輩が着替えを用意してあって、朝食の準備もしてくれていた。
たった一日…しかもまだ朝だというのに、俺は本当に甘えきっていたことを再認識させられた。
早く沙羅先輩に会いたい…
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待ち合わせの駅前に着いたところで、ちょうど沙羅先輩と夏海先輩がこちらに向かってくるのが見えた。
「おはようございます沙羅先輩、夏海先輩」
「おはようございます一成さん」
「おはよー高梨くん!」
なんとなく少しだけ寂しいと思ってしまった気分も、沙羅先輩の顔を見て落ち着いたようだ。
そんなことを考えていると、沙羅先輩は一瞬何かに気付いたような表情をして、そのまま俺に近付いてきた。
…というか正面から近い近い!?
俺の首もとに腕を伸ばすと、そのままシャツの襟を触り直すように動かした。
「動かないで下さいね…はい、これで大丈夫です。」
「う…すみません」
まさか初っ端から情けないところを見せてしまうとは…
「また自然にそういうことを…。このままだと、高梨くんは沙羅がいないと生活が成り立たなくなっちゃうんじゃない?」
うぐ…朝思っていたことをそのまま言われたような気がする一言だった
「それでしたら私がお世話するだけなので問題はないですね。」
意気消沈気味になる俺とは逆に、平然とそういい放つ沙羅先輩。
それがどういう意味なのかわかっているのだろうか…
「沙羅…あんたは凄いわ…」
本気とも呆れともとれるような言い回しで、夏海先輩がそう呟いた。
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ホームで雄二と待ち合わせしているのだが、もうすぐ入ってくる電車に乗っているはずだ。
なので、三人で雄二を待っている状態なのだが…正直かなり目立っている。
沙羅先輩だけでも凄いのに、今日は夏海先輩までいるからな。
今日の沙羅先輩はお洒落なお出掛け仕様になっていて、白と黒を基調とした随所に可愛いワンアクセントの入った…つまり俺を殺すつもり満々の服装だ。
そこに以前プレゼントした帽子をちょこんと頭にかぶっている。
可愛すぎる…
逆に夏海先輩は、デニムのミニスカートにシャツという、シンプルながらいかにも夏海先輩らしい服装だ。
「沙羅先輩…服とっても似合っていますよ…その、可愛いです」
俺的にかなり度胸を要する発言だったが、頑張って伝えてみた。
以前夏海先輩から聞いたのだが、そもそも沙羅先輩はシンプルな服装がメインで、このように着飾る服装をしたことはなかったらしい。
元は初めて沙羅先輩と出掛けたときに、夏海先輩が俺をからかうつもりで仕掛けた服装だったそうなのだが、俺の反応を見た沙羅先輩が服の好みを変えてしまったとのことだった。
「え、その、ありがとうございます…はい、嬉しいです…」
俺がこんなことを言うのは初めてだったので驚いたようだが、すこし照れたような仕草で俺に寄り添ってくる。
そしてこの距離になると、いつものように俺の顔を少し見上げて…
「あー…すまん、周りの目もあるしそろそろいいだろうか…?」
!?
いつの間にか雄二がいた。
慌てて少しだけど距離をとると、沙羅先輩が少しだけ不満そうな顔をした。
そしてその表情も可愛いのだ…俺が沙羅先輩から目を離せないでいると、それに気付いたのか少し恥ずかしそうに軽く俯いて…
「…おいおい、暫く見ない内にかなり悪化してるな」
「…ちょっとは私の苦労がわかった?……いい加減にしろバカップル!」
!?
「す、すみません…」
「一成さん、私達は悪いことなどしておりませんので…」
前も同じようなことがあったような気がするな
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「それじゃ自己紹介しよっか?」
夏海先輩が雄二に向かい、そう切り出した。
いやいや、いきなりそれは厳しいだろう
「夏海先輩、俺が紹介…」
「男の子だから自分でできるよね? まさか名前だけとかつまらないこと言わないよねぇ」
夏海先輩は人当たりのいい人だけど、ほぼ初対面の相手にここまで無茶ぶりをする人ではないはずなんだが…
「ぐ…いきなり…」
「夏海、初めての方にそんな無茶を言うのは失礼ですよ? 私の友人が申し訳ございません」
さすがに目に余ったのか、沙羅先輩がフォローに入ってくれた。
「改めまして、薩川沙羅と申します。いつも一成さんがお世話になっております。以前お会いしたときは失礼な態度で申し訳ございませんでした。今後もお会いする機会があるかと存じますので、宜しくお願い致します。」
沙羅先輩らしい、とても丁寧な挨拶だ。
何か気になる部分があったような…まぁ沙羅先輩の挨拶なんだから気のせいだろう。
「あ、いや…橘雄二です。宜しくお願い致します。」
「私は夕月夏海で〜す。沙羅に怒られたから今回は許してあげるね。」
「……それはどうもありがとうございます」
?
何か変なテンションの夏海先輩だった。
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