第107話 水着と麦わら帽子
「ありがとうございました〜」
買い物を済ませ、ショップを出る
「いや、一成がそんなことをできる男になるとはなぁ。成長したな。」
俺の買い物を見て雄二が感想を漏らした。
まぁ確かに、以前の俺だったら誰かのためにこんな真剣に悩んでプレゼントを用意するなんて考えられなかったことだからな。
現在俺達は、沙羅先輩と夏海先輩の着替え待ちだった。
男の着替えなど数分あれば終わるが、女性はそうもいかない。
その待ち時間を利用して、すぐ近くのショップで買い物をしたと言う訳だ。
こんなこともあろうかと、沙羅先輩に預けていないお金を持ってきて正解だった。
お金と言えば、電車の切符を買うときに沙羅先輩が俺と二人分を買ったのだが、それを見た夏海先輩が…
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「え〜…高梨くん、こういうの沙羅に買わせるのはあんまり感心しないというか…ねぇ橘くん?」
「え、ええ。一成、さすがに自分の分くらいは…」
「あの…誤解なさらないで下さい。このお財布とお金は一成さんの物なので」
「…は? 今、沙羅のバッグから出したよね?」
「一成さんの生活費の管理をお任せして頂いておりますから。」
夏海先輩と雄二が固まった。
そうだ、鍵と財布については二人に話をしていないんだよ…
「…いや、うん、わかった。誤解してごめんね。まだそこまで進んでないって誤解してたわ。」
夏海先輩が、かなり微妙な言い回しでそう話してくると
「一成…いや、すごいな、うん」
それに呼応するかのように、雄二まで微妙な反応をこちらに寄越した。
そんな二人の反応とは対照的に、どこか誇らしげに笑顔な沙羅先輩だった。
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というやり取りがあった訳だ。
俺だってそれが普通じゃないことくらいはわかってるけど、沙羅先輩が嬉しそうにしてくれるなら問題ない。
まぁそれは置いといて、現在俺の手元には麦わら帽子がある。
先日、試着のときに見た沙羅先輩なら絶対にこれが似合うはずだと確信していたのだが、プレゼントで買いたくてもなかなかチャンスがなかったのだ。
やっと買うことができて一安心、あとは沙羅先輩達が来るのを待つだけ…
と思っていたら、向こうも着替えが終わっていたらしく、ちょうどこちらへ向かい歩いてきていた。
「申し訳ございません、お待たせ致しました」
「おまたせ〜」
「………」
先日試着で見た姿ではあるのだが、沙羅先輩の清楚さによく合う水着デザインが素晴らしい。
そしてあのときは短時間だったのでそこまで考える余裕がなかったのだが、普段は露出の少ない、身体のラインもあまり出ない服装を好む沙羅先輩が、水着という姿で目の前にいる。
こうして見ると、やはり沙羅先輩のプロポーションが凄いというのがよくわかる…
などと俺が言葉をなくして、無言で感動しながらじっと見つめるていると、沙羅先輩の顔がどんどん朱くなっていき
「あの、一成さん…お喜び頂けているのはお顔でわかるのですが、その、恥ずかしいです…」
そこまで言うと、俺の近くまで急いで寄ってきて、そのまま斜め後ろにピッタリくっつくかのように隠れてしまった。
「あ、そんな、もう少し」
思わず本音が飛び出してしまった俺がしまったと思ったときにはもう遅く、ますます顔を朱くしたであろう沙羅先輩の
「…一成さんのえっち」
という呟きが俺を更に悶絶させることになった。
俺は照れ臭さもあって、手に持っていた麦わら帽子を半ば強引に沙羅先輩に被せてしまう。
「あ、あの…一成さん、これは…」
さすがに戸惑った様子を見せる沙羅先輩。
言え…言うんだ…
「水着の沙羅先輩に絶対に似合うと思ったので用意しました。プ、プレゼントです。その、恥ずかしいかもしれませんが、それを被った姿を俺に見せてくれませんか?」
言えた…何とか言えた
それを聞いた沙羅先輩は、恥ずかしさもあるだろうが嬉しさが勝ってくれたのか、頭の上の麦わら帽子を両手で押さえるようにしながら
コクリ…
と頷いてくれた。
そして俺から距離を取り、恥ずかしいのか麦わら帽子の縁を少し引っ張るようにしながらこちらを向く。
「可愛いです。本当に似合ってますよ」
お世辞でも何でもなく本心でそう思ったのだが、自分でも驚くくらい素直にそんな台詞が言えた。
沙羅先輩は再び俺の斜め後ろに戻ってくると
「ありがとうございます…とても嬉しいです」
俺にだけ聞こえるような声で、そう呟いた。
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「…もうダメね、あれは完全に周りが見えなくなってるわ。あー…砂糖吐きそう」
「…お二人の後ろに、多分ナンパ目的だったやつらがついてきてたんですけど、あれ見てる内にいなくなりました。」
あの二人、財布の件もそうだけど最近急激に距離が縮んでいる。
沙羅がいなければ高梨くんの生活が成り立たたないなんて言ったけど、沙羅も高梨くんがいなかったらどうなっちゃうのかしらね。
それはともかく、高梨くんはもはや沙羅しか見えてないから…橘くんには高梨くんの分まで上乗せで褒めて貰わないと気が済まないわ。
「はぁ…ま、あっちはいいわ、今更だし。ところで、橘くん私に何か言うこと忘れてるんじゃないの?」
「…いや、それは」
ほほう、この反応はわかっている癖に黙っていたと。これは意地でも言わせる必要があるわねぇ
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