第131話 過去 その2
「悪いな、付き合わせて」
「いや、俺もついでだったからな」
図書室で調べものをしていて遅くなってしまった。
雄二と二人で人気の無くなった廊下を歩く。
図書室のある棟は授業で使う特殊教室しかないので、放課後も遅くなると人気が殆ど無くなって静かな場所になる。
その中でも普段使われていない空き教室の前を通りかかると、バカ丸出しの笑い声が聞こえた。
只でさえ静かな場所なので、余計に声が響く。
まぁ俺達には関係ないからそのまま通り過ぎようとしたが…
「あの笹川とかって女さ!」
?
笹川…?
雄二と視線を合わせると頷いたので、ドアの近くで聞き耳を立てる
「おい、声がデケーぞ」
この声は山崎だ…となると柚葉のことだった可能性が高い。
「わりー。でもどうすんだ? あの女どう見ても山ちゃんにマジだろ。あいつも囲っちまうのか?」
「見た目はいいけどな。ギャル気取ってるだけで中身は芋だからチョロいし。この前軽くデートしてやったらもう彼女気取りで笑っちまうわ。」
「おいおい何人目を囲う気だよ。一人くらいこっちに回してくれよ。」
こいつら何を言ってる?
囲う? 柚葉がチョロい? 何人目?
まさか遊びで柚葉と付き合うつもりか?
雄二を見ると俺と同じ答えに至ったようで、厳しい表情をしている。
「何なら笹川とかどうだ?。俺が飽きたら適当に言いくるめてやるよ。そしたらお前らが…」
ガラガラガラ
「あ?」
バキィ!!
「ぐぁっ」
ガタガタ
ドアを開けてそのまま近付いて思いっきり殴り倒して机ごとひっくり返った…ということだ。
「てめぇ…高梨!! 何しやが…ぐっ…」
そこで言葉が止まる。
当然だ、俺が襟首を掴んでるんだから。
「お前こそ柚葉に何するつもりだった…まぁ話は聞いてたんだけどな。」
バタバタバタ
もう一人いたやつが全力で逃げ出したが、雄二の出した足に引っ掛かって、ヘッドスライディングを決めるように倒れこんだ。
「おいおい、足元に注意しないと危ないぜ」
向こうは雄二に任せておけばいいか。
それよりもこいつだ…
「柚葉はチョロかったか? 簡単に落とせそうだったか?」
「ああ、あんなチョロ軽の芋女簡単だな。暇潰しに遊ぶ…ぐぁ!」
2発目を喰らわせて黙らせる。
柚葉は確かにチョロいだろう。だから他の女からあっさりとノせられてあの有り様だ。
だがこんなクズにバカにされる謂れはない。
今は周りに影響されてしまっているだけで、本当は可愛くて、大人しくて、甘えん坊なやつなんだ。
いつか自分を取り戻してくれると俺は信じている
「その自慢の顔を変形させてやろ…」
「なにやってるお前ら!!」
誰かが通報したのか、先生が飛び込んできた。
これは面倒なことになりそうだ…
先生に連れ出され職員室へ直行。
山崎は先に保健室だそうな。
お説教だけでは済まないかと思ったが、こんなことをしたのは初めてだったせいか怒られただけで済んだ。
雄二は俺を止めたことにしておいたので、恐らく簡単に終わるだろう。
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次の日、登校した俺を待っていたのは雰囲気の変わったクラスだった。
俺が教室に入った瞬間、気まずい雰囲気が漂った。
山崎も来ているようだが、何も言ってはこない。
親まで出張るようなケースも想定したが、俺と目線が合うと反らされた…
俺と雄二に女関係の話を聞かれてるから、暴露されるのを怖れているのかもしれないな。
「おはよう」
とりあえず近くの席に着き、友人に挨拶をしてみたが
「…ああ、おはよう」
微妙な挨拶が帰ってくるだけだった。
状況がわからない。
昨日の一件が理由になっているのは想像できるが…
「あーあ、嫉妬で人を殴るとかサイテーなやつがいるわね」
静かな教室に声が響いた。
誰が言ったのかはわからないが、女子であることは間違いない。
だがその一声を皮切りに、他の女子から一斉に声が上がる
「自分がモテないからひがむとかね」
「幼馴染みってだけで独占欲出すとか何様〜?」
「柚葉カワイソー」
「ねえ柚葉、ハッキリ言ってやりなよ」
どうやらこれは、俺が山崎を殴ったということが、何故か早くも知れ渡っているらしい。
しかも俺が嫉妬心から山崎を殴ったという扱いで…
実にバカらしい話だが、これを打ち消すのが地味に難しかった。
俺が柚葉を気にかけてるのは知ってるやつも多いし、山崎が如何にロクでもない男か知って殴ったというだけでは説得力が弱い。
柚葉が遊び対象として考えられていたことや、場合によってはその後もっと酷い扱いをされた可能性まで言っても、突拍子なさすぎて信じてもらえるかわからない。
それに、山崎がどうなろうと知ったことではないが、柚葉も人前でそんなことを言われたくないだろうし、最悪周りからそういう扱いをされた女として見られてしまうことも…
俺の悩みなど知らない柚葉は、周りから煽られたようで俺に近付いてきた。
「私に近付くなっていつも言ってるよね? 嫉妬で山崎くんに手を上げるとかサイテー。つーか、あんたみたいなキモいやつお断りなんですけど〜。」
自分がどういう立場だったのか知りもしないで、俺をバカにしてくる柚葉。
思いきって全部ぶちまけてやろうか…
そして言ってやったと言わんばかりに意気揚々と引き返して行く柚葉に、周りの女子から声がかかる。
「なに、付きまとわれてるの?」
「近付くなって言ってるんだけどねぇ」
「うわー、それってストーカーじゃね?」
「え、柚葉ってストーカーされてるの?」
「そ、そうなのよ、私昔からあいつにストーカーされてて…」
言うに事欠いて、俺がストーカーかよ。
それを言うなら俺から離れようとしなかったお前の方がよっぽどストーカーだよ…
その後、柚葉を呼び出してみたものの、当然まともな会話にならなかった
もともと俺の印象が悪くなっている上に、今回の行動は全て山崎に嫉妬しているから…という規定路線で考えられている為、何を言っても意味をなさない。
更に口を開けば俺をストーカーと、まるで子供が咄嗟に思いついた悪口を執拗に繰り返すかのように言ってくる。
そしてこの時の俺は、悪意のある噂というものをまだ甘く見ていたのだと、後になって思い知ることになる。
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