第66話 自分の本心は
「会長、私は自分のことで高梨さんにご迷惑をかけるつもりはありませんよ?」
沙羅先輩は、やはりそこを理由に断るつもりのようだ。
先輩の性格を考えれば、俺に迷惑をかけるという部分が一番避けたい理由だろう。
だって、逆の立場なら俺も絶対にそう言うから。
でも、俺はこの提案を断るつもりはない。
恩返しなどと言うつもりはないし、これは単に俺がやりたいだけだ。
何ができるかわからないけど、少しでも先輩の力になれるのなら、これは俺が受けるべき話だと思った。
「会長、その話をお受けします。正直、何ができるのかわからないのに、生徒会メンバーとして自分が役に立てるなんて思っていませんが、少しでも沙羅先輩の力になれるなら俺はやりたいです。」
「高梨さん、私は…」
沙羅先輩が断ろうとする。
もちろん逆の立場なら俺もそう言うだろう。
だからそれを
「沙羅先輩、もし逆の立場なら…俺が副会長で色々大変だなと思ってくれたら、沙羅先輩はどうしますか?」
「それはもちろん、私で高梨さんのお力になれるなら喜んで……あ」
先輩は、やはり俺と同じ事を考えてくれる。
なら、俺の気持ちもわかってくれるはずだ。
「そうですね…高梨さん、本当にご迷惑ではないですか?生徒会の執行部に入るということは、学校行事を中心に運営側に回ることになります。行事を単に楽しむということはできなくなってしまいますし、時間を取られることも多くなります。それでも…」
「それでも、俺は少しでも沙羅先輩の助けになれるなら、やりたいです。」
先輩を説得するように、しっかりと目を見て自分の考えを伝える。
少しだけ悩んだ素振りも見せたけど、先輩は頷いてくれた。
「高梨さん、宜しくお願い致します。」
「こちらこそ、宜しくお願い致します。」
これで俺は、沙羅先輩の手助けをできるようになった。
あとは自分でできることを増やして、とにかく頑張るだけだ。
「これで薩川さんのフォローに関する問題は解決したね……これでかなりやり易くなるかも」
「今度はこいつらの問題を解決しないと」
「解決は無理でしょ。あんな通じ合ってる姿見たら、入り込む余地なんてないだろうし……無意識であの世界を展開するとか、今後がちょっと不安だわ…」
「「「………」」」
何やら向こうで言っているようだが、正直どうでもよかったので聞いていなかった。
それより今後のことを考える方が先決だ。
「話は決まったね。では高梨くん、改めて生徒会へようこそ。これから宜しく頼むよ。」
「はい、宜しくお願いします。」
全員に向けてお辞儀をすると、拍手が聞こえてきた。
顔をあげると、沙羅先輩は満面の笑みで、会長や女性陣も笑顔で、男性陣は…微妙な笑顔だな。
こうして俺は、沙羅先輩のフォロー要員として生徒会執行部メンバーとなった。
「自己紹介は次の機会に改めてしよう。では、今日はこれで解散。」
さて、俺も…俺達も帰ろうかな。
さすがに今日は疲れたかも。
沙羅先輩は、いつの間にか隣の部屋から俺の荷物を持ってきてくれていた。
相変わらずの早さだ…
「高梨さん、体調が芳しくない中お疲れさまでした。さぁ帰りましょうね。本日は親戚の方は来て下さるのですか?」
「あ…いや、何か忙しいらしくて。」
すっかり忘れていた。
本当のこと言っても、沙羅先輩なら許してくれると思うんだけど。
「それでしたら、本日のお夕食も私がお作りしますね。まだ病み上がりなのですから、しっかり栄養をつけないとダメですよ?」
「…"も"って言った…」
「…えぇぇ、男子の家でご飯作ってあげてるの!? 薩川さん大胆…」
「「「ぐおおおお」」」
最後に特大の爆弾を落としたことに気付かない俺達だった…
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先輩の作ってくれたご馳走を食べ終わり、のんびりしていると電話が鳴った。
ーーちなみに家まで送ると言ったら休めと怒られた…
電話は雄二からのようだ。
最近は、以前より話をすることが多い。
「お疲れ雄二」
「お疲れ一成、病み上がりは大変だったか?」
「まあ、色々あってさすがに疲れた。」
風邪をひいた時点で雄二とは話をしてあったし、沙羅先輩がずっと来てくれていたのも知っている。ちなみに、雄二からはお見舞いは止めておくと言われていた。
今日の出来事や、生徒会のことを報告したところで、雄二が真面目な声色で問いかけてきた。
「なぁ一成、ちょっといいか?」
「ん?どうした?」
「お前さ、実際、薩川さんをどう思ってるんだ?」
「どうって…」
「お前が、薩川さんに友達になって欲しいと言われたことに拘っているのはわかってるんだよ。」
「……」
…沙羅先輩に望まれるポジションにいれば、俺はこれからも先輩と一緒に居れるんだ。
だからそれ以上を望んではいけない、俺は今の幸せを手放したくない。
「そうだな、ひとつだけ聞かせてくれ。これは俺が聞くだけだから本人の耳に入ることはない。だから正直に教えてくれ。」
「わかった」
「お前は、薩川さんのことが好きか? 一人の女性として好きか?」
そんなこと聞かれるまでもない。
本心というなら答えなんか最初から決まっている
「ああ、俺は沙羅先輩が好きだ。本当に好きだ…だけど」
「いや、それが聞けただけでいい。わかった。本音を言ってくれてありがとな。んじゃ、お休み…(夕月さんから期待された答えは聞けたけど、逆にフォローを頼む必要がありそうだな)」
それだけ言うと、雄二は電話を切った。
そうだよ、俺は沙羅先輩が好きだよ。
でもそれを伝えて、沙羅先輩の求めているポジションから外れたら俺は…
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