第118話 二度目の告白

「沙羅先輩…いえ、沙羅さん!!」


「!? は、はいっ!!!」


いきなり大声で呼ばれたことに驚いたであろう沙羅さんは、表情も驚きに満ちていた。


沙羅さんだけではない、夏海先輩も速人も驚きを隠せないといった表情だ。

真由美さんだけは笑顔で、あまり驚いてないみたいだけど


今度こそ言えよ俺!!


「俺は、あなたと出会うまで本当に嫌なことばかりで、これからもずっと一人なんじゃないかと思っていました。だから自分を不幸だと思い込んで、偏屈な受け取り方をして、勝手に不貞腐れて…」


あのときは、沙羅さんが俺を信じてくれないと言いながら、実は俺が沙羅さんを信じていなかったという最低の話だった。


「だから、沙羅さんが何を聞いても俺の評価を変えない、俺を肯定してくれると言ってくれたとき、やっと俺を信じてくれる人に出会えたんだと思いました。そんな沙羅さんに恋に落ちるなんて、本当に単純な話なんです。」


そう、俺はもうあのときに沙羅さんが好きになっていたんだと思う。


「でもあの頃の沙羅さんは、俺を親友だと思ってくれていました。もちろんそんな風に思ってもらえることは幸せなことであり、大切な沙羅さんが俺にそれを求めているのであれば、そのままでもいいと本心で考えていました。沙羅さんが俺だけに優しくしてくれていたことも本当に嬉しくて」


沙羅さんは驚きの表情を消して、真剣な表情で真っ直ぐに俺を見つめている。


「沙羅さんとの日々は本当に幸せで、風邪をひいたときや、怪我をしたときに沙羅さんが俺の家でお世話してくれたこと、申し訳ないと思いながらも嬉しさでいっぱいでした。そんな沙羅さんに、あんな場面で俺の本心を聞かれてしまうなんて思いませんでした。」


沙羅さんは表情を変えずに聞いて…いや、少し目が…


「沙羅さん…俺は沙羅さんに恋をして貰えたでしょうか? 恋を感じて貰えたでしょうか? 情けない男ですが、せめてあなたにだけは男らしい姿を見せたいと思っていたのに、結局最後まであなたの優しさに甘えてしまいました。」


ここから…ここからだ。

気合いを入れろ俺!


「周りから見れば、きっと俺はあなたに相応しい男だと思われていないのでしょう。でもそんなのは関係ない、俺はあなたが本当に好きだから一緒にいたい、俺はあなたを離したくない、他の男なんて影すら近付けたくないんです。だから!!」


沙羅さんが涙を拭いながら、それでもこちらを見ている。

俺が今から言うのは尊大な台詞だと思う、でも沙羅さんなら受け入れてくれると信じている


「沙羅さん、あなたに手料理を作って貰える男は俺だけだ! あなたが寄り添う男も、優しくする男も、あなたと一緒にいることができるのも全て俺だけだ! だから、俺の彼女に…俺だけの沙羅さんになって欲しい! 受け入れてくれるなら、俺と一緒にあのベルを鳴らし…」


ドンッ!!


俺は最後まで言うことができなかった。

何故なら沙羅さんが最後まで聞くことができなかったからだ。


勢いよく飛び込んできた沙羅さんを抱き締める為に、最後まで言い切れなかった。


「はい…。はい…。一成さんのお言葉、確かに頂戴致しました。ありがとうございます…恋を知らないなどと間抜けなことを言った私を待っていて下さって…私を求めて下さって…」


沙羅さんも、俺と同じで待たせているという気持ちがあったんだな。

お互いで待っていて、待たせていたのか…


「お慕いしております…あなたをお慕い申し上げております…やっと、やっとお伝えすることができました」


涙を流しながら、俺に強く抱きついてくる沙羅さんを抱き締めて背中を撫でる。

すると沙羅さんも、甘えるようにスリスリしてきた


「…私はあなたが本当に愛しいのです。一成さんが喜んで下さるなら何でもして差し上げたい…私にはあなたしか、あなただけなのです。…今後も全てあなたにしか致しません。」


そこまで言うとやっと顔を上げてくれた。

俺が沙羅さんの涙を指で掬うと、少し笑顔を見せてくれる。


「ふふ…こんなに嬉しいと感じたことは生まれて初めてです。私の初めては、一成さんでいっぱいですね」


どうやら落ち着いてきたらしく、言葉の節々に少し余裕が生まれてきたようだ。

話の続きをしても大丈夫かな…


「沙羅さん、俺と一緒にベルを」


「はい…喜んで」


俺が手を出すと、沙羅さんはその手を握った後にそのまま腕を絡ませ、幸せそうな笑顔で俺を見つめてきた。


腕を組んだままゲートに近付き、ベルについている紐を二人で握る


「いきますよ」


「はい」


カラーン…カラーン…カラーン…


静かな高台にベルの音が響き渡り、夜景に彩りを添える。

これで俺は…やっと自分の気持ちを沙羅さんに伝えることができたんだな…


「一成さん…私はあなたにして差し上げたいことがいっぱいあります。限りなんてございません…あなただけの沙羅ですから、全て受け止めて下さいね?」


少しイタズラっぽい口調でそこまで言って、俺の肩に手を当てて背伸びをしたと思うと


ちゅ…


!!??


頬に柔らかい感触がして、慌てて沙羅さんを見ると満面の笑みを浮かべていた。


「お慕い申し上げております…一成さん」


こうして俺達は、限りなく恋人のような関係から、本当の恋人になれたのだった…



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