第115話 決心

「さぁて、それじゃ出発しましょうか」


夏海先輩に怒られて離れたタイミングで真由美さんがやってきた。

実にジャストなタイミングで現れたな…そして右手に握られたスマホに何故か違和感を覚えるんだが。


ちなみに速人は、実にスマートに夏海先輩を褒めていたのだが、それが逆に馴れてる感じがしてマイナスにならなかったか少し気になった。

一応沙羅先輩まで褒めたのは大したものだと思うが


「そうですか、ありがとうございます」


とあからさまに事務的で素っ気ない反応に思わず苦笑してしまった。


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「よっちゃんお久しぶりねぇ」

「まゆちゃんは相変わらず若いわよねぇ」


どうやらこの人が屋台を出すという知り合いなのだろう。

あだ名で呼び合っているところを見ると、かなり親しい人だというのがわかる。


「沙羅先輩はあの人知ってるんですか?」


「確か2〜3年くらい前に会ったことがあります。」


どうやら一応顔見知りらしい。

向こうも沙羅先輩に気付いたようで、笑顔で話しかけてきた。


「沙羅ちゃんお久しぶり。暫く見ない内にますます美人になっちゃったわねぇ…これは男子がほっとかないでしょ。ウチの息子が興奮しちゃいそう。」


などと俺が最も嫌な話題を始めたと思ったら、案の定その息子とやらがやってきたようだ。

見たところ俺達と同年代くらいのようで、普通な感じだがそれでも茶髪なのがちょっとね。


「うわ、ひょっとして薩川さんですか!? お久しぶりです、俺の事覚えてくれてますか?」


かなり興奮した様子で話しかけてきた。

正直気に入らないが、俺が失礼なことを言ったら真由美さんに迷惑がかかる…


「はい、お久しぶりです」


沙羅先輩は相変わらずの事務的対応で終わらせるつもりのようで、情けないがそれが俺の救いだったりする


「いやー前から美人だったけど…あ、薩川さんだとお母さんと同じでわかりにくいですよね。他人行儀だし良かったらお互い名前で」


なんだこいつ、いきなり出て来て調子にのりすぎだろ…


沙羅先輩も表情に不快感を隠していない

多分このままだといつものように…

だけど真由美さんの友人の息子となれば、それはあまり良くないかもしれない。

俺は自分が悪者になる方が角が立たないと判断した。

どうせもう合うことはないだろうし。


「失礼…」


割って入ろうとしたところで、沙羅先輩の手が俺の手を握ってきた


「すみませんが、私は馴れ馴れしくされるのが嫌いなんです。他人行儀で結構ですよ。」


「え? あ…いや、すみません薩川さん…」


沙羅先輩が少し怒りを込めた口調で注意すると、向こうもそれに気付いたのか調子にのった話し方を止めた。

ちなみに目線は、俺と沙羅先輩の繋がれた手に向いている。


「ごめんなさいね、沙羅ちゃんが昔からそういうの嫌いなのわかってたのに、この子に注意してなかったわ」


向こうのお母さんが謝ってきた。

さすがに沙羅先輩も気まずいというか、申し訳ないとは思っていたようだが、それでも我慢できなかったのだろう。


「よっちゃんごめんねぇ、沙羅ちゃんは一途だから好きな人以外はダメなのよ。」


お母さん同士ではわかっているらしく、お互いで謝っていた。

やはりここは俺が悪者になるべきだったな…


「一成さん、ありがとうございます」


不意に沙羅先輩がお礼を言ってきた。

特にお礼を言われるようなことはしていないのだが…


「嬉しかったです…」


それだけ言うと、繋いでいる手に少しだけ力を込めてきた。

どうやら俺の意図も、嫉妬も、完全に気付かれていたようだ。

ここまで深く読まれたのは久々だな…


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「さて、横川くん、邪魔にならない内に行こうか」


「そうですね。ということでお二人はごゆっくり。一成、あとでまた。」


花火は一緒に見ることになっているので、集合時間までは自由行動だったが、夏海先輩は速人を連れてさっさと行ってしまった。

速人は望むところだろうから断る理由なんかないからな。


という訳で俺達も…そう言えば手を繋いだままだった


俺が繋がれたままの手を見ると、沙羅先輩も同じように見たが、笑顔を浮かべて距離を近付けてきた。このまま行こうという意思表示だと思う。


「沙羅先輩、俺達も行きましょう」


「はい…私はついて参りますので、お好きな場所へどうぞ。」


目的は特にないが、とりあえずはぶらぶらと祭りの雰囲気を楽しむことにしよう。


しかし、歩いていると視線というか、やっかみというか…


わかってる、今日の沙羅先輩は浴衣姿だ。

こんな可愛い人を連れて歩いている俺が、そういう視線に晒されるなど寧ろ当然であり、今更この程度どうということはない。


無視して歩いていると、ハンドメイドの小物類を販売している一角を見つけた。


沙羅先輩の好きな可愛い小物があるかも…


「沙羅先輩、ちょっと覗いていきませんか?」


「はい、何か良いものがあるといいですね」


沙羅先輩も気になっていたようで、乗り気でついてきてくれる。

オーソドックスというか、ありきたりなアクセサリーがメインのお店が多かったのだが、一軒だけ和装用のアクセサリーを扱っている店があった。


この花飾り…沙羅先輩に合いそうだな。


すぐ目についたのは、和装のときに使う花の髪飾りだった。

水色と白色のペアになったもので、俺は直感的にそれだけが目に入った。


他にも何かないか見ながら沙羅先輩の反応をチェックする。

もし沙羅先輩が欲しそうな物があればそれを優先するつもりだが…

特にこれといったリアクションをしなかったので、俺は自分が決めた花飾りにする


「すみません、これを下さい」


俺がいきなり買ったので沙羅先輩は驚いた表情をしたが、何も言わなかった。


「沙羅先輩、これを…」


「ふふ…ありがとうございます。一成さんが着けて下さいませんか?」


俺が使う訳がないので、沙羅先輩もこの流れを想定していたようだ。

俺がつけやすいように頭をこちらに向けてくれたので、ここだと思うところに付ける。

…この距離に沙羅先輩の可愛い頭があると思うと我慢できずに、ついでに両手で撫でてしまった。


「あ、もう一成さんったら。いたずらは…めっ」


少し顔を朱くして俺に軽く反撃してくる沙羅先輩は本当に可愛いくて可愛くて…



もういいだろうか…もう沙羅先輩に告白しても大丈夫だよな。

自意識過剰かもしれないが、今の沙羅先輩は俺を男として好きになってくれていると思う…思いたい。

仮にまだなら、それならそれで俺は何時までも待つだけだ。


今回はこの後夏海先輩や速人との合流もあるし、タイミング的にチャンスがあるかわからないけど…例え今回を逃しても、機会は作ればいい。


…俺は告白すると決めた

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