第116話 いつでも

一成さんのご様子が先程から少しおかしいです。

どこか上の空というか、話しかけてもお返事は頂けるのですが。

そうかと思うと、何か言いたげに真っ直ぐ私を見て、お顔は少し朱く…何かお話があるということでしょうか?


ご様子から察するに、重要なお話があるということでは?

お顔を朱くされるくらい重要なお話…


あ………

ひょっとして…これは私の希望的な観測ですが、そうなのでしょうか?


私はあのときの自分の間抜けさをいまだに後悔しております。

考えれば考えるほど、何故自分の気持ちがわからなかったのでしょうか。


いえ、全て今更ですね。


私は一成さんが愛しいです。

「一緒にいるだけで幸せ」という気持ちを自分が感じる日がくるなんて…


一成さんが私を大切にして下さっていることも、第一に考えて下さることもわかっております。

他の女性に近付かれるとつい嫉妬してしまいますが、それも一成さんは受け止めて下さいます。

一成さんの笑顔も、優しさも、ちょっといじわるなところも、甘えん坊なところも…全て愛しいのです。

今なら私は、一成さんに恋をしておりますと、胸を張って言えます。


ですから…ふふ…頑張って下さいね、一成さん!


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チャンスがあれば告白しようと考えた途端に、そのチャンスとはいつなのか、何を言うのか、色々考えてしまい…挙動不審になっていると自分でも思う。

沙羅先輩もそれを気にしているのか、先程から俺をチロチロと見ては少し顔を朱くしたり、そわそわしたりと…ちょっと申し訳ないかも。


「か、かき氷でも食べましょうか?」


「!? は、はい、そうですね、では」


俺がいきなり声をかけたからか、沙羅先輩が驚いたようなリアクションを見せた。

そろそろ集合時間が近くなって、焦りだけが募ってくる。

俺は告白するんだという決心だけで頭がいっぱいになり、かき氷の味も、集合時間になったことも覚えていなかった…


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「高梨くんどしたの?」


夏海先輩が俺の異変に気付いて声をかけてくる。

結局、俺はチャンスを見出だせないままこうして集合を迎えてしまった。ここから先は、皆で花火を見て、後は片付けを手伝って帰るだけだ。


つまり


……もうチャンスはない


今回はスケジュール的に厳しかったから、ダメなら焦らず機会を作ればいいと自分では思っていたが…

正直なところガッカリしてしまったことが本音だった。


更に最悪なことに、例の息子が友人を引き連れて集合場所の近くに来てしまったせいで、知り合いなんです〜みたいな雰囲気で声をかけられそのまま居座ってしまった。

沙羅先輩を見て、紹介しろだなんだとの声が聞こえるのが非常に腹立たしい。


自分への腹立たしさ、周りへの腹立たしさ、タイミングの悪さ…これは理不尽な怒りであり、ダメだとわかってはいるのに、どうしても不機嫌になってしまう…


「…いえ、大丈夫です」


「一成…」


速人は何となく察している部分があるのか、深くは聞いてこなかった。


「一成さん…大丈夫、大丈夫ですよ」


「沙羅先輩…」


何を思ったのか、沙羅先輩が俺に寄り添うと手を伸ばしてゆっくり頭を撫でてきた。


「落ち着いて下さいね…」


俺の不機嫌さを感じ取っていたのか、沙羅先輩がいつもより丁寧にゆっくりと撫でてくれる。そんな沙羅先輩の優しさが嬉しくもあり

、逆に自分が情けなくもあった。


いい加減にしろよ俺、いつまで沙羅先輩に情けない姿を見せるつもりだ!


もともと今日告白する予定ではなかったのだから、決心したからと言って焦る必要はない!

今日がダメなら、もっと告白するにふさわしい場面を用意するだけだ。


「すみません沙羅先輩、情けない姿を見せてしまいました。」


「お、急に立ち直った」


夏海先輩の突っ込みを返す元気はさすがになかったが


「…夏海」


何故か沙羅先輩が夏海先輩を睨んだ


「え? え? 私怒られるようなことした?」


夏海先輩もよく分からないというリアクションを見せていた。

そんな矢先に…


ドン!!

ドン!!


花火が上がり初めた。

花火か…最後に見たのはいつだったかな。

そうだな、沙羅先輩と一緒に花火を見れただけで今日は満足しよう。


みんなも花火を見ているし、沙羅先輩も花火を見ている。

そっと横を見ると、花火の光に照らされた沙羅先輩のとても綺麗な横顔が見えた。


「綺麗ですね、一成さん」


花火を見上げながら、沙羅先輩が感想を漏らす。


綺麗だな…本当に綺麗だ


「はい、本当に綺麗で…俺は…」


思わず花火を見ることも忘れて沙羅先輩の横顔を眺めてしまった。

…すると不意に沙羅先輩がこちらを向いた。


「一成さん…?」


目が合うと、俺が綺麗だと言ったのが花火ではないと気付いたようで顔が少し朱くなった。

そして少し恥ずかしそうにしながらも距離を詰めてくると、俺に腕を絡ませながらピッタリと横にくっついてきた。


え、え…


「一成さん、情けないなんて私は思っておりません。むしろ可愛いくて…我慢するのが大変なんですよ?」


どうやら先程は何かを我慢していたらしい。

一体何を我慢していたのだろうか…


「焦らないで下さいね。もう私は、いつでも大丈夫ですから」


いつでも大丈夫?

それは…


「場所も、タイミングも、全て一成さんにお任せ致しますので…頑張って下さいね、一成さん」


これは恥ずかしい!

これは情けない!


つまり…俺が今日何をしようと焦っていたのか気付いていたということだ。

であれば当然俺が不機嫌だった理由も気付いていたのだろうし…一気に情けなさが溢れてくる。


沙羅先輩は、俺がもう一度告白すると宣言したことを汲み取って、それをしっかり待ってくれているのだ。


「沙羅先輩…」


思わず情けなさが全面に出てしまった。


「もう…一成さんったら、そんなお顔されてしまうと私我慢できなくなってしまいます…」


ますます顔を朱くした沙羅先輩が、両手を俺の頭の後ろに回すと、そのまま俺の頭を自分の方へ抱き寄せるような体勢になって…


「…あのさ、その続きは二人だけのときにしてくれない? もう限界なんだけど…」


!?

周りの状況を完全に忘れていた…

顔をあげると、夏海先輩の凄まじいまでの呆れ顔と、かなり気まずそうな速人の顔が目に入った。


しまった…またやってしまった。

沙羅先輩は残念そうな表情をしながら手を離して


「お待ちしておりますね…」


と、一言だけ告げてきたのだった。


…余談だが、近くで煩かったあいつらを黙らせることには成功したらしい。

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