第39話 決まらないプレゼント

「高梨さん、こちらは如何でしょうか?」


そう言って先輩が持ってきたのは、やはり可愛い弁当箱だった。

動物をデフォルメした絵が散りばめられた、どうみても男物ではない。


恥ずかしくない訳じゃないが、でも何より先輩が俺に選んでくれたことが嬉しい。

なら俺はそれを受け入れるだけだ。


「ありがとうございます。その…かなり可愛い感じですね」


「はい!ただ…その、子供っぽいでしょうか?」


「俺は先輩が決めてくれたのであれば、それだけで嬉しいので大丈夫です」


これは本心だからな。

ちゃんと伝えよう


「なので、先輩さえ良ければそれを買いましょう。」


「はい」


これで弁当箱の購入は終了か。

帰り際に渡せばいいから、今は俺が持っていよう。

まさか先輩に荷物を持たせる訳にはいかないからな…


さてこの後どうしようか

選択肢としては…早めに昼食、カフェで休憩、このまま雑貨屋に向かって、先輩へのプレゼントを探す選択肢もある。


とりあえず聞いてみればいいか


「沙羅先輩、どうしましょうか?少し休憩か、早めにご飯という手もありますけど…」


「そうですね…まだ休憩という程では…」


「それなら、このまま他の店へ行っても大丈夫ですか?」


「はい、どうぞお好きな所へ」


とりあえず雑貨系の店を回るか。


うーん、昨日の夜にある程度の方向性を考えたんだけど、どうにも決まらなかったんだよなぁ。

安易にアクセサリーという選択肢は却下なんだよ、軽い気がするし。


でも先輩が欲しがれば話は別だけど。


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「沙羅へのプレゼントを先に買うのね」

「まぁ、先に決めないとこの後ゆっくりできませんからね。」


二人は雑貨屋に向かうようだ。


「買うもの決めてるのかしら?」

「まだだと思います。簡単に決めたくないって言ってましたから」


定番なのはアクセサリーだけど、沙羅はあんまりそういうの興味ないのよねぇ。

まぁ、高梨くんがくれる物なら何でも喜びそうだけど。


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適当に物色しながら、先輩の反応を伺ってみる。

うーん…何かしら興味を惹くものを見つけてくれればわかりやすいんだけど、俺の方を見てるんだよなぁ


「ちなみに、先輩が興味ある雑貨とかありますか?」


「そうですね、見るのは好きですけど取り立ててこれというのは…」


うぐ…早くも躓いた…

これは困った。

変に高いものを選べば重たいし、適当に選んでも意味がない、となると日用品にするしか思いつかないけど…


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「そういえば、こういう所へ来ても沙羅ってあんまり買わないのよねぇ。」


周りから変な目でみられないように、反対側の店に入って二人で適当に物色しつつ向こうを確認する。

こっちはファンシーショップだから、橘くんが居心地悪そう…ぷぷぷ


「そ、そうなんですか?それだと一成はキツいか」


「さっきのお弁当箱でわかるけど、沙羅は基本的に可愛い物は好きなのよ。多分ぬいぐるみとかでも喜びそうだけど…でも買ってるのは見たことないか。」


「なるほど…ところで、俺は場違いな感じなんで、店の外で…」


「ダメよ。見つかったらどうするの?我慢我慢♪」


「……はい」


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調理道具やキッチン系コーナーへ来た

ここなら何か見つかるだろうと考えている。

逆にここでダメなら困ったな…


「先輩はお弁当以外でも普段料理するんですか?」


「ええ。私は家でも基本、独りのことが多いので自分の食事は自分で作ります。あとは、お祖母ちゃんの家でも作ることがありますね。」


「なるほど、あの、ご両親は」


「父は仕事の虫といいますか、帰りも遅い上に家でも仕事をしているようなので、一緒に食べることは多くないです。母はそんな父を手伝っていますけど、時間が取れるときは一緒に食事をすることもありますよ。」


……そういえば、家族のことは初めて聞いた。

いや、そもそも俺は…沙羅先輩のことを全然知らない…?


なんで今頃気付いた…

大切な人だと大口を叩いておきながら、学校で見れていた部分しか知らないじゃないか


「…どうかなさいましたか?」


先輩が、少し不思議そうな表情で問いかけてきた。


「いえ…その、今の話を聞いて、そう言えば俺は、先輩が普段どんなこと、趣味とか、お家でのこととか、生徒会でのことも、何も知らなかったんだなと。そもそもあの花壇ですら、なぜ先輩が一人でお世話していたのかも俺は…」


何もかも知ってなければならないなどと、おこがましいことを言うつもりはない。

でも、あまりにも知らなすぎではないか?

自己嫌悪だ…

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