第85話 思わぬ衝撃

今俺は、数人と対峙している


手紙の差出人はあいつらだと思っていたから、かなり想定が狂ってしまった。

既に相手から名乗りは受けている。どうやら代表らしい。


というか沙羅先輩のファンクラブかよ!?


最悪逃げるか…


「高梨くん、君は姫と友人なんだろう? 公言していたのは知っているのだが。」

「君には屋上の借りがあるから見逃していたんだが、体育祭では友人とするには見過ごせないことが多すぎてね。いくつか確認させて貰おうと思ったんだよ。」

「ああ、話だけだから心配しないでくれたまえ。我々が姫に嫌われるようなことをするはずないだろう?」


面倒臭い…こいつらの芝居かかった喋り方が実に面倒だ。

姫って沙羅先輩のことか?

まさかこいつらから呼び出しを受けるとは思っていなかった。

体育祭で目立ってしまったのが原因かな。


でもまぁ、話だけというならそこまでのことにはならないだろう。

俺に何かあれば沙羅先輩が黙っていない…と思うし。


それに俺としてもこいつらに言いたいことがあった。


「なぁ…俺もちょっと聞きたいんだけどさ。」


「む…なんであろうか?」

「団長、いいのですか?」

「彼は敵という訳ではないし、いいのでは?」


普通に話せないのかこいつらは。

だけど今の話で、取りあえず何かされる可能性は減った。

なら俺も言いたいことを言うだけだ。

恐らくその辺に速人もいるだろうし。


「あんたらが沙羅先輩のファンクラブだってのはわかった。多分陰で沙羅先輩の為に色々動いてるんだろう?」


「その通りだ。我らは陰として、姫をお助けする役割を担っている。屋上での件は痛恨のミスだった…」


やっぱり、あのあと関わった連中が退学したり転校したりしたのはこいつらが動いたみたいだな。

でも夏海先輩ファンクラブからの話で、周りに迷惑をかけているという話があるし、そもそもの話として沙羅先輩が嫌がっている。

わかっていて続けているのであれば、それはただの嫌がらせだ。


「あんたらが動いているのはよくわかった。先輩に何かしてあげたい気持ちは俺もよくわかる。でも、本人が嫌がっているだろう? 自分達が陰だというのなら、せめてこんな風に表に出てこないでくれ。」


「何を言う、姫のあれは照れ隠しであり、本当は我々のことを…」

「ふざけんな」


前言撤回。

こいつらは思い込みの激しい迷惑集団だ。


「お前ら沙羅先輩が嫌がっているのに気付かないのか?」

「姫は我々のことを認めてくれているぞ? 我々の活動にも口を挟まないということは…」


思い込みもあるんだろうが、沙羅先輩が関わりたくなくて無視したり放置したりしていることを、都合良く解釈しているのだろう。


「お前らさ、沙羅先輩のことを理解してるか? 話もしたことないんだろ? 先輩のどこが好きなんだ?」


「それはもちろんあの可憐な容姿と、男を見下げて突き放すような冷たさと視線がまた…。」


こいつらもそうか。


先輩をアイドルのように見ているのだろうが…勝手な話だ。


近寄ってくるのが、外見だけで好きだなんだと言い寄るチャラ男やこんなやつらばかりだったから、先輩は男に対して嫌悪感を持つようになり、キツい一面を作ってしまった。


だけど先輩が冷たいなんて断じてない。

それはこういうバカ共のせいで作られてしまった仮面だ。

それを無理矢理着けさせたのも同じだ。


そしてこいつらは…そんな先輩の姿を、こともあろうに理想像として眺めている。


本当にムカついてきた


「お前らさ、沙羅先輩の何を見ている? 男を見下げる? 冷たい? 寝言は寝て言え」


やっぱり言わないと気が済まない。

沙羅先輩の為にも、こいつらを黙らせないとダメだ。


「それは本当の沙羅先輩じゃない。お前らみたいに沙羅先輩の外面ばかりを理由にして無神経に言い寄るバカ共のせいだ。お前らバカ共が沙羅先輩をそんな風にしたんだよ!」


「何を言う、我らが見ている姫は本物の…」


「先輩は本当に優しい人だ。細かい気遣いができて、物腰も丁寧で、困ったときには進んで手を差し伸べてくれる。一緒に考えてくれる…」


俺は、俺と接してくれている先輩が本当の姿だと確信している。

だから、あんな優しい先輩を曲げてしまった存在が許せない。

こいつらは嫌がる先輩をアイドルに見立てて、先輩の外面に理想を押し付けているだけの自己中勘違い野郎共だ。


「お前らの理想の押し付けは沙羅先輩にとって迷惑だ。どうしてもファンクラブごっこを続けたければ二度と表に出てくるな」


「そこまで言われる筋合いはない。お前だってただの友達だろうが! 恋人でもないくせに我々の…」

「だからどうした! 沙羅先輩が望んでくれるなら俺は一生友達だって構わない! 俺はあの人が何よりも誰よりも大切なんだ! 何度でも言ってやる、お前らが勝手に作った理想を押し付けるな!」


------------------------------------------


よく考えれば、沙羅のファンクラブが高梨くんに手を出すことの危険性を理解してない訳がない。

だから大丈夫だとは思う…多分


とまぁ冷静に考えてみたんだけどね。


そんなことよりも…


うん。


先に謝っておく。ごめんね高梨くん。

誰も聞いてないと思ってるよね?


私は格好いいと思う。

そんな高梨くんだから大切な友達だと思ってる。


橘くんから聞いていたから驚きはないけど、やっぱりこうして直接聞くと、高梨くんがどれだけ沙羅を大切に想っているのかよくわかった。私も嬉しい。


でも沙羅本人はそれを聞いたことないよね…

だからつまり…


「えーと…沙羅?」


「……………」


今、私の前には沙羅が立っている。

嬉しそうな、驚いたような


「真っ赤」な顔をして立っている


そりゃそうだ

沙羅だって女の子だもん

あんな風に言われて、嬉しくない訳ないよね?


沙羅…高梨くんの気持ちを聞いてどう思った?



…あぁ沙羅が可愛い! 写真を撮りたい!

でも音が鳴るよねぇ

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る