第157話 またみんなで
「ん〜これ美味しい!!」
食後のケーキは別腹だと言わんばかりに、夏海先輩の前には6種類のケーキが並んでいる。俺も甘い物は好きだけど、あんなに食べたら途中で気持ち悪くなりそう…
「はぁ…夏海はいいですねぇ。私はケーキを一つ食べるだけでも怖いというのに」
「私は運動部だからねぇ。明日の部活で消費するから大丈夫!!」
西川さんが、夏海先輩を羨ましそうに見ながら溜め息混じりの呟きを溢す。
別にそういうことを気にする必要なさそうだけど…と簡単に考えるのは俺が男だからだろうか?
「夕月さんは、本当に美味そうに食べますね」
雄二がそんな感想を口にするが、それはきっとみんなそう思ってる。
夏海先輩が目をぱちくりしながら、自分のフォークに刺さったケーキを見ると、何故か雄二に差し出した
「ん? これ美味しいからね。橘くんも食べてみる? はい、あーん」
「え!? いや!?」
珍しいものを見た!
あの雄二が照れ臭そうにしながら焦りを見せるなんて!
「ん〜? なぁに、私のケーキが食べられないってのか〜?」
完全に雄二をからかっているであろう夏海先輩は、実に楽しそうな様子だ。
フォークを徐々に雄二へ近付けているのだが、その表情はニヤニヤが止まらない。
反対に雄二はタジタジで、口を開くべきかどうか悩んでいるようだ。
「沙羅…私は夏海があんなことするの初めて見ましたけど、あの二人は何かあるんですか?」
「そうですね、一応……あ、動いてはいけませんよ? …私も先日から気にはなっていたのですが……」
ふきふき
「今度、聞いてみましょうか……はい、あーん」
ぱくっ…もぐもぐ
うん、確かにこのケーキ美味いなぁ
「くっ…突っ込み待ちですよねこれ。人と話をしてるのに…高梨さんも、何を当然のように沙羅に口を拭かせたり、あーんしたり」
「え!?」
慣れって怖いよな…
沙羅さんの行動を、当然のように受け入れていたことを指摘されて気が付いた。
「良いではありませんか、私が好きでしているのですから。一成さん、遠慮なんて私は嫌ですよ?」
「は、はい。」
沙羅さんが悲しそうに「嫌です!」と訴えてくる。これは、俺が嬉しくて沙羅さんも嬉しいという、二人で嬉しいことなんだとハッキリ言われていることであり…つまりもちろん止めない!!
俺は返事の代わりに笑顔で答えると、沙羅さんも嬉しそうに笑顔を浮かべる。
「次はこのケーキですよ、はい、あーん」
ぱくっ…もぐもぐ
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「何このケーキ、甘さを感じない。」
「え、そんなはずは…」
「放置しても被害を受けるとか、腹が立つから乱入してくる」
「あ、そういう…」
洋子と何かぶつぶつ言っていたと思うと、花子さんがケーキをお皿ごと持って、いきなり席を立った。
きっと高梨くんにちょっかいを出すつもりなんだろう。
花子さんって何だかんだ言いながら、高梨くんに絡もうとするよね。ひょっとして好きなのかな? でも薩川先輩とべったりなのはわかってるだろうし、前に気に入ったって言ってたから…単に友達として?
「藤堂さん」
声をかけてきたのは横川くんだった。
呼ばれたのは初めてだったような?
「うん? どうかした?」
「さっきはありがとう。嬉しかったよ」
横川くんが相変わらずのイケメンスマイルを浮かべる。うーん…これを見せられたらファンになる子が多いのも何となくわかるかな。
「ううん、大したことはしてないよ。もう大丈夫?」
「ああ、お陰さまでね。それより、少し話をしてもいいかな?」
話?
私ってあんまり男子と話をしたことないから、話題があるといいんだけど
「うん、いいよ。でもわたしと話をしても、あんまり楽しくないかも?」
「大丈夫。それじゃ失礼して」
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とんとん…
?
肩を叩かれたので振り返ってみると花子さんが立っていて、目の前にはケーキが刺さったフォークが突き出されている。
何だ?
「あーん」
ぱくっ
思わず口を少し開けたところに、半ば強引にケーキを突っ込まれてそのまま食べてしまった。
もぐもぐ…ごくん
「私は甘さを感じなかった。高梨くんはどう?」
「いや、普通に美味しかったけど」
甘さを感じないって、ケーキでそんなことあるのか?
あ、直前にそれ以上の甘いものを食べたなら可能性あるかも
なぜそんな不思議なことを聞いてきたのか、真意がよく分からないまま花子さんを見ていると、不意にニヤリと笑った。
「………一成さん?」
!?
ひょっとして、このパターンはまた…
もはや恒例となりつつある焦りを感じて急いで振り返ると、意外にも沙羅さんは普通の様子だった
「どうかなさいましたか? あ、もう、一成さんたら、動いてはいけませんよ?」
ふきふき
多少強引にケーキを突っ込まれたので、どうやらまた凄いことになっていたらしい。
沙羅さんが再び俺の口周りを拭き始めると、チラリと花子さんの方を向いた
「花子さん、お友達なんですから構わないですけど、一成さんがむせたりすると困りますので、強引にはしないでくださいね? …はい、これで大丈夫です。」
花子さんに軽めの注意をするだけで済ました沙羅さんが、俺の口を拭き終わるとニコリと笑みを浮かべた。その表情はどこか余裕すら感じられる笑顔だった。
「!? こ、これが正妻の余裕…負けた…」
花子さんが「がーん」と言わんばかりの驚きの表情を浮かべて、とぼとぼと自分の席に帰っていく。
というか、正妻って…
「あの…沙羅さん?」
「大丈夫です。花子さんはお友達ですからね。お友達にまで煩いことを言っては、一成さんにご迷惑がかかりますので…」
なるほど、余裕に見せているだけで、やっぱりある程度は我慢しているんだろう。
まぁ、俺が逆の立場だったら間違いなく嫉妬するだろうしな。
「………ですが、あまり他の女性と不必要に仲良くしたら…嫌ですよ」
袖の辺りをこっそりと摘まんで軽く引っ張る沙羅さんが可愛くて、思わずにやけそうになるのを我慢する俺だった。
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「では、皆さんお疲れ様でした。」
全員が各々の席に着くと、今日の予定が全て終わったことを宣言するかのように、西川さんが最後の挨拶を始める。
とても長く濃密だった一日も、残すは帰り道のドライブのみだ。
行きと違い、先に雄二達を駅に降ろしてから、朝集合した駅に向かうことになっている。
「では、高梨さんから最後の挨拶をお願いしますね。」
てっきりこのまま進めてくれるかと思ったのに、何故か俺の方に話が飛んできた。
西川さんを見ると、当然と言わんばかりに俺を見ている
「このグループは、全員高梨さんを中心に集まっているんですよ? ですから、最後の挨拶は当然高梨さんの役目です。」
…確かに、俺とあの二人の因縁から端を発して集まったんだよな。
注目が集まるので緊張するけど、お礼も言いたいのでここは頑張ろう。
「えっと…先にお礼を言わせて下さい。みんなのお陰で山崎は片が付いたし、柚葉は残念だったけど、それでも一通りの決着が付いたと思う。みんなが居たからここまでやれたのは間違いないし、本当にありがとうございました。」
俺が頭を下げると何故か全員頭を下げた。
思わず笑いそうになる気持ちを抑えると、みんなも同じようで、順番に顔を合わせていくと、笑顔で返してくれる。
西川さん、花子さん、立川さん、藤堂さん、速人、雄二、夏海先輩…そして沙羅さん。
ずっと孤立していた俺に、こんな素晴らしい仲間ができるなんて思わなかった。
「俺が尻込みしたときも、みんなで…仲間で分けあえば大丈夫だと教えてくれてありがとう。本当に嬉しかった。以前の俺がこの光景を見たら、絶対に有り得ないと信じなかったと思う。だからこそ俺は、この繋がりを大切にしたい。今回で終わりなんて思いたくない。だから、また絶対に集まろう。今後は、みんなで楽しむことを考えて集まれたら嬉しい。もちろん、誰かが困ったときでもいいと思う。だから、さようならじゃなくて、また今度で今日は終わろう!!」
俺なりに精一杯頑張って挨拶したつもりだ。
みんな真面目な顔で俺の話を聞いてくれていた。
そして話が終わると
パチパチパチパチパチパチ!!!
まるで俺の話が琴線に触れたかのように、みんなが一斉に立ち上がると、眩しい笑顔と拍手で向かえ入れてくれた。
「本当に、高梨さんには感謝しています。山崎の件は勿論ですが、こんなに素晴らしい出会いの機会を頂いてとても嬉しかったです。この繋がりはぜひ続けていきたいですね。」
「今度は旅行とかも行きたいよね!!」
西川さんの言葉を受けて夏海先輩が発した一言は、みんなの興味を誘ったらしい。
「それいいですね!」
「うん、せっかくの繋がりなんだから、もっと楽しいことしたいよね」
「どこか行きたい」
立川さん、藤堂さん、花子さんが、すかさずそれに反応して賛同の声を上げた
「いいですね、このメンバーならどこへ行っても楽しそうです。」
「それは是非計画したいですね。」
速人と雄二も、夏海先輩に賛同している。
「俺も賛成ですよ。なるべく早めに企画したいです!!」
「私は一成さんに付いて参りますので。」
俺も賛同するし、沙羅さんは相変わらずだ。
「では、西川グループのリゾートで宜しければ私の方で抑えますので、計画してみましょうか?」
さんせーい!!!!!
まだ詳しい予定が決まっていないのに、早くも今から楽しみだとみんなの顔が物語っている。勿論俺も楽しみだ。
こうして、みんなの賛同の声を持って、長かった一日がお開きとなったのだった。
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お開きと言いながら、あともう一話続きます。
また長くなって…
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