第198話 誕生石
まるで開幕ダッシュのように、初っ端から西川さんの絶叫で始まったトークタイムは、お互いの近況を含ませつつ俺のアルバイトについての話となっていた。
このメンバーの中で今回一番お世話になったのは藤堂さんだったので、つまり俺のアルバイトの話題も藤堂さんが一番多く知っているのだ。
藤「本当はね、もうアルバイトを止めて欲しかったんだよ。疲れてていつも眠そうにしていたし、右手は怪我をしてたのに止めようとしないし。」
怒っている訳ではないのだろうが、少し文句を言うような口調で喋る藤堂さんも珍しい。
それだけ心配してくれていたということだと思うが、微妙に怒られているような気もして少し肩身が狭いような…
夏「まぁまぁ藤堂さん、その辺りは男子の可愛い意地だからさ」
西「そうですね、やはり多少の無茶をしても喜んで欲しいと思ってしまうのは仕方のないことでしょう。その気持ちを素直に受け止めて、終わったら癒して差し上げるのが女の役目だと私個人は思ってますが。」
夏海先輩と西川さんがフォローに入ってくれたことで、どうやら話しは無難に落ち着く方向になりそうだ。
夏「え!? えりりん分かるの?」
西「それはどういう意味ですか?」
いや、夏海先輩の余計な一言に西川さんが噛みついて、むしろ別方向に動き始めたかも。
ちなみに、俺は現在右手の手当て真っ最中だったりする。
沙羅さんにはパーティーが終わってからでもいいと伝えたのだが
沙「気付いていたのに何もして差し上げることができないなんて、私は本当に辛かったのですよ…」
と、今にも泣き出しそうに言われてしまったら、お願いしますとしか言えなかった。
治療前にじっくりと俺の手の様子を確認しながら、痛々しい表情で既に潰れてしまったマメの辺りを指で優しく撫でてくれていたのだが…少しくすぐったい。
沙「こんなになるまで私の為に……一成さん、このお怪我は完治するまで私が毎日お手当て致しますからね?」
正直、ある程度落ち着いたら適当にしておけばいいと思っていたくらいなのだが、沙羅さんがそれで納得してくれるのであれば好きにさせてあげた方がいいのかな
ちゅ…
!?
何を思ったのか、沙羅さんが俺の右手に顔を近付けたと思うとそのまま手のひらへキスをしてくれた。思いがけない感触にくすぐったさを感じ、思わず身震いしてしまう。
西「さ、沙羅!? 貴女は何をしているんですか?」
沙「え? あ、いえ、このお怪我も、一成さんが私の為にと思うと愛しく思えまして…」
沙羅さんは無意識だったのか、西川さんに指摘されて一瞬自分でも驚いたような様子を見せた。俺としてもそんな風に思って貰えるならここまで頑張った甲斐があったというものだ。
夏「藤堂さんわかった? この二人はこういう理由でもイチャつくんだから、心配する必要ないからね」
藤「あはは…まぁ無事に済んで何よりですよ。後は薩川先輩が…って、あ! そのペンダントが高梨くんのプレゼントですか? 薩川先輩、見せて欲しいです!」
俺の右手を、大事そうに抱える沙羅さんを見ながら苦笑していた藤堂さんが、ペンダントに気付いたらしい。
夏「そうそう、私も気になってたのよ、沙羅、ちょっと見せて。」
花「あ、私も見たい」
立「はいはい、私もです!」
西「では私も…」
結局、女性陣全員から取り囲むようにねだられて、沙羅さんは少しだけ困り顔を見せながら首にかけていたペンダントを外した。先に自身のハンカチをテーブルの上に敷いてから、そっとペンダントをその上に乗せる。
沙「できれば、あまり触らないで下さいね。これは私の一番の宝物なんです…」
表情を見なくても、その口調だけで本当は他人にあまり触らせたくないと思っているのがよくわかる。
そこまで大切に考えてくれていると思うと、逆に俺の方は嬉しくて思わず笑みが溢れてしまうのだが…
西「とりあえず私に任せて下さいな。」
西川さんはハンカチを出すと、それで上手く包むようにペンダントを手に取った。
なるほど…それなら直接触らずに済むか。
動作に迷いがなかったので、恐らく慣れているのだろう。
西川さんはそのまま直接触らないように手のひらに乗せて、皆が見易いように目線の高さまで持ち上げる
花「へぇ…このロケット、刻印もしっかりしてる。これは…宝石?」
立「高梨くん、これって完全にオーダーメイド?」
俺「そうだけど」
西川さんに見習ってハンカチを出した花子さんと立川さんが、直接触らないように気を付けながらペンダントを動かして全体像を確認し始めた。
勿論それはオーダーメイドだ
西「ごめんなさい。私に少し見させて下さい。……あぁ、これはサファイアですね。沙羅の誕生石が……って、サファイア? あの、高梨さん、これは他に意味はないですよね?」
西川さんが突然引き攣ったように表情を歪ませた。他の意味? 何の話だ?
俺「他の意味?」
西「あ、いえいえ、すみません、何でもないですよ…(いくらなんでも深読みしすぎですね…)」
俺「?」
サファイアについてはカタログにも記載があったので、俺も少しくらいは知っているつもりだ。
沙羅さんの誕生月である9月の誕生石であることと、石言葉には恋愛に関することが込められている宝石であることが書いてあったので、プレゼントに使うのにちょうどいいと思ったのだが…他に何かあるのだろうか?
花「ねぇ、写真はどうなってる?」
ロケットである以上避けて通れない話題がいよいよ出てしまった。
花子さんが思ったより興味を示しているので少し珍しい。
西「あ、そうですね。沙羅、開けてもいいですか?」
「ええ、どうぞ」
やはり皆も中身が気になっていたようで、西川さんが蓋を開けると一斉に覗き込んだ。
特に変な写真を入れた訳ではないので問題はないと思うが、照れ臭いことに代わりはない。だが、もし俺単独の写真が入っていたら、自意識過剰で痛いやつだと思われた可能性もあるので…逆に良かったかも。
藤「わぁ素敵です! ロマンチックですね!」
藤堂さんが、突然感動したような声を上げた。遂に中身を見てしまったようだ
夏「あら、これってあのときの写真ね。私は不覚にも感動しちゃって写真どころじゃなかったけど。」
花「あのときって?」
夏「高梨くんから告白されて、沙羅が大泣きしてたシーンかな〜〜。ねぇ沙羅?」
沙「だって…あんなに嬉しかったことは生まれて初めてでしたから」
少し照れ臭いのか、沙羅さんはこちらをチラっと見てから俺の腕に顔を隠した。
というか、正直この話題は俺も照れ臭いのだが…
西「それにしても、専門店でオーダーメイドのロケットにワンポイントのサファイアなんて、高梨さんは頑張りましたね。」
夏「ホントだよね。まぁ沙羅に喜んで貰いたくて必死だったみたいだけど。」
藤「ですよね。それにサファイアって、まさか高梨くん薩川先輩に婚…」
西「藤堂さんストップです!!」
突然西川さんが大声を出して藤堂さんの喋りを止めた。
西川さんは先程も何か気にしていたようだが、本当に何かあるのだろうか?
二人は目を合わせると謎のアイコンタクトを交わしているようで……やがてお互い頷いた。
ホントに何なんだろう??
立「あ、あの、薩川先輩、その、今日のデートで…し、しちゃったんですよね?」
ずっと何かを言いたそうにしていた立川さんが突然口を開いたと思うと、俺的に厳しい話題を切り出してきた。
乙女の多いこのグループでは、やはり恋愛話で花が咲く可能性が高いのはわかる。わかるのだが、それであればせめて俺を離脱させて欲しいのだ。
でも沙羅さんが離してくれなかったのだ。ちなみに雄二と速人はしっかりと避難していた…
沙「その………はい。」
藤「きゃー!」
花「やっぱりそうなんだ」
立「いいなぁ…」
夏「むしろ、まだしてなかった方が驚きだったり」
西「…………」
沙羅さんの照れ臭そうな返事を聞いて、黄色い声を上げる乙女がいる横で、黒いオーラを放つ乙女も現れた。というか、居たたまれない…非常に居たたまれない
夏「はぁ…幸せそうな顔しちゃって。そういやあれだけちゅっちゅしてた癖に、口にだけはキスしてなかったわね。まさかこれも待ってたの?」
沙「…はい。ずっと待っていたんです…一成さんが、私のファーストキスを貰って下さることを…。」
夏海さんからの問いなのに、何故か思い切り俺を見ながら答えを返す沙羅さん。
これでは実質俺に言っているようなものだ。
藤&立「「きゃあああ!!」」
花「ぐふっ…そろそろキツくなってきた」
夏「普段は恐ろしいくらい積極的なのに、そういうところは高梨くん待ちなのね…」
沙「それは…やはり最初は一成さんからして頂きたかったのです。でも、次は私からの番なんですよ。ね、一成さん?」
俺「えっ!? そ、それは…」
朱い顔で嬉しそうにそんなことを言われてしまうと、俺としても…
西「あああああ、も、もう限界です!! そうですね、幸せそうで羨ましいですよ! 夏海も怪しいですし、何でわたしばっかりあんな屑がぁぁぁ!!!!」
あ…
西川さんが壊れ…
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今回、会話に混ざるキャラが多かったので、途中、誰のセリフかわかるようにしてみました。違和感があるかもしれませんがご了承下さい
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