第122話 変な目
だーるーまーさーんーがー
神社の階段を登る途中で声が聞こえた。
沙羅さんと思わず顔を見合わせると、こくりと頷いたので恐らく俺と同じ予想をしたのであろう。
そのまま階段を登りきったところで
こーろーんーだ!
ちょうどこちらを向いた藤堂さんと目があった。
未央ちゃんは向こうを向いているので恐らく気付いていないだろう。他にも小学校低学年くらいの男の子と女の子が二人混じっているようだ。
藤堂さんが関係ない方向を見ているのに気付いた未央ちゃんがこちらへ振り返った。
「あーー、お兄ちゃんと、さらおねぇちゃんだぁ」
嬉しそうな笑顔を浮かべると、こちらへ猛ダッシュしてくる未央ちゃん。
このままタックルされる可能性を考えて身構えるが、直前で俺ではなく沙羅さんの方へ進路変更した。
一瞬心配したが、沙羅さんはしっかり受け止めるとそのまま抱っこしたようだ。
「えへへへ、さらおねぇちゃん」
すりすりと頭を擦り付ける未央ちゃんを、沙羅さんは笑顔で頭を撫で初めた。
「こんにちは、未央ちゃん」
「うん、さらおねぇちゃんこんにちは」
どうやら二人は本当に仲良くなったみたいだ。
ただ、俺は完全にスルーされたような気がして少し寂しいかも。
やっぱこういうのは女性なのかな…
「お兄ちゃんも、こんにちは」
「うん、こんにちは未央ちゃん」
なんか、沙羅さんのオマケみたいな…
「こんにちは、高梨くん、薩川先輩」
暫く様子を見ていた藤堂さんが挨拶をしてきた。
「こんにちは、藤堂さん。」
「はい、こんにちは藤堂さん」
お互い笑顔で挨拶を返していたところで、先程だるまさんがころんだをやっていた男の子が、藤堂さんの後ろにこっそりと近付いている
嫌な予感が…
と思ったときには遅かった。
「こんにちはぁぁぁ」
大声で挨拶(?)をしながら、藤堂さんの膝丈長さのふんわりスカートを盛大にめくった
「きゃあああ!!」
見ないつもりだったのに、思わず目が行ってしまうのは男の性なんだ…
でもしっかりスパッツを履いていたようで、藤堂さん的にも俺的にもセー…
ギュュュューー
「いはい! いはいでふーー!!」
あだだだ!
視線だけ横に向けると、背景にゴゴゴゴ…とオーラのような錯覚が見えるくらい不自然な笑顔を浮かべる沙羅さんが、手加減抜きだと思われる力で俺の頬をつねっていた…
未央ちゃんを片手で抱っこしたままで。
「一成さん、こういうときは顔を背けるなりして見ないようにするのが殿方の優しさでは?」
「はひ、ほのとおりでふ、ごめんなはいぃぃ」
本当に痛くて涙が出そう…
恥ずかしそうにしながらスカートを押さえている藤堂さんを尻目に、あの男の子は逃げるように階段を降りていった
「こらぁぁぁぁ」
そして女の子も、男の子を怒りながら追いかけていったようだ。
そして俺はまだつねられている
「きゃははは、お兄ちゃんへんなかお〜!」
未央ちゃんに喜んで貰えているのがせめてもの救いなのだろうか。
結局俺は、藤堂さんが仲裁してくれるまでつねられていたのだった。
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「すみませんでした」
俺は土下座でもするのかと言わんばかりに、深く頭を下げていた。
沙羅さんが怖いんですよ…
「いえ、高梨くんは何も悪くないですから、それに…その、ちゃんと履いてましたし…」
恥ずかしそうにそんなことを言わないで欲しい。思い出そうものなら、沙羅さんにまたつねられてしまうので。
「薩川先輩も、高梨くんを許してあげて下さいね。それにしても…お二人は名前で呼び合うようになったのですか?」
話を切り替えるつもりなのだろうか、突然そこを指摘してきた。
そういえば、以前合ったときは沙羅さんは俺のことを苗字で呼んでいただろうか…
「はい、それはですね…」
「おや、沙羅ちゃんと高梨さん、いらっしゃい」
沙羅さんが説明を開始する前に幸枝さんがきてくれようだ。
う…緊張してきた…真由美さんの前で告白までしたんだから、今さら大丈夫だと思ったのに
「こんにちは幸枝さん」
「お祖母ちゃん、こんにちは」
「はい、こんにちは。今日は二人でどうしたの?」
沙羅さんが俺の方を見ると「私が説明しましょうか?」と目で訴えてくる。
俺が首を横に振ると、沙羅さんは嬉しそうに微笑んで
「申し訳ございません、未央ちゃんをお願い致します。」
藤堂さんに未央ちゃんを預けると、俺の腕にそっと寄り添い幸枝さんを見た。
幸枝さんはかなり驚いたような表情を見せると、やがて納得したように頷いて
「そうかいそうかい!! いや、これは嬉しいねぇ! 高梨さんと沙羅ちゃんがねぇ」
嬉しそうに笑ってくれたことに安堵した。
説明をしようとしたところで、藤堂さんも俺達の動きを見て思い至ったようだ
「え…えぇぇ!? そうなんですか!? お二人が!」
鳩が豆鉄砲を食ったように驚く藤堂さんにもわかるように説明することにした。
「その、実は昨日、俺から沙羅さんに正式な交際を申し込みまして…」
「私も、お慕いしておりますとお伝えしました。」
俺の後を引き継ぐように沙羅さんが言う。
結局我慢できなかったようだ
「いやー、沙羅ちゃんが初めて高梨さんを紹介してくれたときから、何となくそうなるような気がしてたよ。こうしちゃいられないね、私はお茶の準備をしてくるから、家でゆっくり聞かせて頂戴ね」
そういって先に家へ戻る幸枝さん。
それを見送ってから沙羅さんを見ると、こちらをじっと見ていた。
「どうかしましたか?」
「いえ…その…痛いでしょうか?」
?
ああ、さっきつねられた頬のことか。
確かにまだ少し痛いが…
「ええ…と、少し痛いですが、何かありましたか?」
「赤くなっておりましたので…強くやり過ぎてしまいました」
反省したようにシュンとした様子の沙羅さんだが、あれは俺が悪いのであって沙羅さんは悪くない。
「大丈夫です。あれは俺が悪いんですから、気にしないで下さい。」
昨日から押されっぱなしなので、少し余裕を見せようと思い軽く抱き締めながら頭を撫でる
すると沙羅さんが、俺の頬に手を伸ばして恐らく赤くなっているであろう場所をゆっくりと撫でた。
ちょっと気持ちいいなと思っていたら、不意に耳元に顔を寄せて
「一成さん、他の女性を変な目で見たら嫌です…」
と小さく呟いた。
もう俺の頬はどこが赤いかわからないだろう。きっと真っ赤になっているだろうからな。
「まりなおねーちゃん、まえがみえないよぅ」
「あの、お二人とも、未央ちゃんがいるんですから」
未央ちゃんと藤堂さんのことをすっかり忘れていて、未央ちゃんの目を隠している藤堂さんに怒られてしまうのだった…
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