第21話 やっぱり女神様だった
「あの…先輩、俺の方からもお話をさせて下さい。」
「はい。私に何かお話されたいことがあったのですよね?」
今度は俺の番だ。
「ええ…その、俺の身の上話のような感じになってしまう部分もあるのですが、正直にお話します。先輩とこれから仲良くしていく為にも、俺は正直に言いたいんです。」
正直、この話をして幻滅されてしまわないか不安もあるが、先輩がここまで話をしてくれたんだ、俺もちゃんと言わなければならない。
先輩の目をしっかり見て、俺は意を決して話を始めた。
「俺がクラスで孤立しているのは知っていましたか?」
「孤立…とまでは考えていませんでしたが、初めて会った屋上の件もありましたし、クラスで問題があるだろうとは思っていました。」
先輩は少し頷きながらそう答えた。
以前、俺はそれを匂わせるような話しをしたことがある。
それにいつも一人でいれば、嫌でも気付くだろう。
「今のクラスに関して言えば、元々は何かをされたとかではなかったんです。単に俺が馴染めなかったというか、中学の頃のことを引きずって、クラスの連中を毛嫌いしていたのが始まりでした。」
中学時代の話は言えないことも、言いたくないことも多い。
でも、たとえ少しでも触れなければこの説明はできない。
「中学生の頃のお話ですか?」
「はい、中学3年になってすぐ、クラスで揉め事を起こしてから俺はクラスで孤立しました。俺は自分が悪いことをしたとは思ってませんでしたが、それで孤立して、その後はありとあらゆることで無視され、外されました。」
「そのようなことが…」
「そのときのクラスの連中と似てるんですよ、今のクラスのやつらは。だから俺は毛嫌いし、向こうからも嫌われて、そんな矢先に屋上でバカにされたんです。」
「……」
先輩は黙って聞いてくれている。
俺から目をそらさず、しっかりと聞いてくれているのがよくわかる。
そしてここからは、話すのが怖い部分だ。
「クラスの連中もバカ共に合わせるような雰囲気になったこともあり、俺は益々クラスに嫌気がさして、結果また孤立しました。どうせ俺もあいつらとは一緒にいたくないし、だから教室から逃げていたんです。花壇は、逃げた先がたまたまそこだっただけです。水やりを始めたのも、最初はどうせやることがないからという理由でした。」
「お婆さんの件もたまたま目の前で見てしまい、見過ごせないという気持ちもありましたが、助けずに通り過ぎたら周囲の人から後ろ指をさされそうだという強迫観念が強かったからです。そして俺が先輩の言葉をちゃんと聞かずに誤解し逃げたのも、結局誰も俺を見てくれないんだという自分への劣等感を拗らせただけです。」
こんなこと、本当はここまで正直に言う必要はなかったのかもしれない。
でも、先輩があんな風に言ってくれた。
ならば俺は、先輩に対して正直でありたい。
「だから、先輩が俺のことを色々褒めてくれましたが、本当は」
「私はそれを聞いても高梨さんの評価を変えませんよ?」
ここまでずっと黙って俺の話を聞いてくれていた先輩が口を開いた。
正直、幻滅されるのを覚悟していたのに、先輩の口から出た言葉は意外であると同時に俺を安心させる言葉だった。
「高梨さんのことは信じていると言いました。それに、中学生の頃の話を含め何となく私と似ている部分があるような気もしますし。」
それは俺も先輩の話を聞いて少し感じた部分だ。
やはり同じように、先輩も俺の話から似ている部分を感じたらしい。
「花壇のことも、お祖母ちゃんや女の子のことも、切っ掛けはどうあれ高梨さんは行動しました。そこが既に違うのです。しかも嫌々などではないのでしょう?それは高梨さんの優しさだと私は思います。今日のこともそうです。私を避けていたのに、それでも助けにきて下さったでしょう?」
こんな好意的に捉えて貰えるとは思っていなかった。
嫌われるとまでは思っていなかったが、ガッカリされるというか、失望されることも覚悟したのに。
だから安堵して、張り詰めていた緊張がゆるんでしまったようだ
「高梨さんが何と言おうと、私を高梨さんを信じますし、高梨さんを肯定します。だから、私の評価は変わりません。わかって頂けましたか?」
「……はい………はい…」
いつの間にか俺は泣いていた
俺をちゃんと見てくれていたこと
こんな風に思って貰えたこと
丸ごと信じてくれたこと
俺がずっと求めていた、探していた人がやっと現れてくれたこと
本当に嬉しかった…
先輩は、俺に近付くと、俺の頭を撫で始めた。
「ふふ…誰かの頭を撫でるというのはこんな感じなんですね…」
「せん…ぱい…」
先輩は優しげな笑顔を浮かべ、俺の頭を撫でながら話を続けた
「先程の返事を頂いていませんでした。もう一度お聞きしますね…これからも…私と仲良くして頂けますか?」
「はい…勿論です」
「よかったです。では、これからも宜しくお願いしますね」
そして俺が泣き止むまで、先輩は女神様のように微笑みながら撫でてくれていた…
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