第20話 私はあなたを
…どのくらい考えこんでいたのだろうか
先輩が視線を外し、色々考えていたであろうことは、たまに表情が動いていたこともありよくわかった。
すると不意に先輩がこちらを向いた。
しっかりとこちらを見ている様子から、何かしらの答えか結論が出たのであろう。
「私は高梨さんを、他の方々とは違うと見ていたことに対して深くは考えておりませんでした。いつの間にかそう思っていて、気が付けば信用もしていて、今の気持ちとして好ましく思っていたのです。」
好ましく!?
え、嬉しいけど何でいきなり!?
「私は高梨さんと知り合う前から、あなたを知っておりました。花壇のお世話をして頂いていたことは勿論ですが、印象が強かったことは商店街で迷子の女の子を助けてあげていたときです。」
迷子の女の子…それは未央ちゃんのことだろう。
あのとき見られていたのか…
だが特に変わったことは何もしていないはずだ。
確かあのときは、未央ちゃんを泣き止ますことに必死だったから、子供の頃の柚葉を参考に…
「泣いている女の子をあやす為に、猫のマスコットを使い、にゃんにゃんと…」
「先輩!そこは思い出さなくていいです!!」
そうだ。
確かに、柚葉のことを思い出してアレをやったことを思い出した。
あのときは深く考えていなかったけど、男がにゃんにゃんはさすがに…
「…? 何故でしょう? 別におかしいことは何もないと思います。私は素直に凄いと思いました。あのように自然に子供を落ち着かせて、安心させてあげられたんですよ?」
どうやら先輩は、にゃんにゃんよりも結果の方を重視してくれているらしい。
「…俺としては、過去の経験と言いますか何と言いますか、大したことをしたつもりがないのですが…」
「過去の経験を生かすことは大切なことです。つまり高梨さんは昔からそういう優しさを持っていたと言うことではないですか。」
正直、中学で孤立させられてから久しく、誰かにこうして真っ直ぐに好意的なことを言わたことがないから戸惑いの方が大きい。
「あの子と手を繋いでお母さんを探しに行ってあげたんですよね?私はその後ろ姿が今でもはっきりと思い浮かびます。とても素敵な光景でした」
ちょっと気恥ずかしい…
でも先輩は、この話を初めてから一度も表情を崩さない。
つまり本気で俺を褒めてくれているということなんだが。
「登校中にも、あの子を抱っこしてあげていましたよね?何度かお目にかかりましたが、二人ともとてもいい笑顔でしたよ。」
そこまでですか…
ということは、あの日に初めて話をするまでに、先輩の方は結構俺のことを見ていたということになる。
…孤高の女神様と呼ばれた先輩に…
「私の周りには、正直好ましくない人が圧倒的に多いのです。そんな中で、あなたの姿はとても心に残りました。そしてあなたと知り合い、お話をし、今日ことは想定外でしたが、それでも思うところはありまして、私はやっと気づいたのです。」
そこまで言うと、先輩が真っ直ぐに俺を見つめてきた。
その真剣な瞳に飲まれそうに思えてくる。
「私は…あなたに………」
え…………この流れって……
いや、俺はそんな風に思ってもらえているなんて考えては…
「夏海のような親友を感じているようなのです。」
いや、あり得ないとは思っていたし、なんせ俺自身そんな深くまで関われていたとも思ってなかったから。
でも正直嬉しい。
そんな風に言って貰えたのは初めてだ。
「これが私のこれまでの…」
先輩が…とても綺麗な笑顔で俺を見つめてくる!
「…そして今の気持ちです。高梨さんさえ宜しければ、これからも仲良くして頂けますか?」
そんなこと、むしろこちらからお願いしたいことだった。
「ありがとうございます。そんな風に思って頂けて、本当に嬉しいです。」
「よかった…かなりご迷惑をお掛けしてしまったので、少し不安でした。」
本当に嬉しい。
でも、先輩がここまで話してくれたのだから、今度は俺も正直に話をしなければならない。
それを聞いた先輩がどう思うのかわからないし、失望されてしまうかもしれないと考えると怖いけど…
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