第69話 同一人物?

「それ〜飛行機だ〜」

「きゃははは!!」


未央ちゃんを真横に抱え、右へ左へ動かす。


ひとしきり遊んだ後、肩車をして少し散歩。

といっても、小さい神社だからすぐ終わってしまうのだが。


藤堂さんは俺を警戒しているような素振りをしていたが、途中からは一緒に遊んでくれていたし、多少は信用して貰えたのだろうか?


「あらあら、未央ちゃんが来てると思ったら高梨さんも久し振りねぇ。」


いつの間にか幸枝さんが来ていたようで、声をかけられて気付いた。


「幸枝さん、すみませんご無沙汰してます。」

「いいのよ、沙羅ちゃんから色々聞いてるから。あの子と仲良くしてくれているみたいで、ありがとうね。」


どうやら、沙羅先輩から俺のことをある程度聞いているようだ。


それより、未央ちゃんを知っていたんだな。


ちなみに未央ちゃんは、俺に抱っこされたまま寝てしまっている。


「生徒会で、沙羅ちゃんを手伝ってくれることになったんでしょう? あの子、嬉しそうに教えてくれたわ」


そっか、喜んで貰えたなら俺としても引き受けた甲斐がある。


「満里奈ちゃんも一緒だったのね。 あら、そう言えば高梨さんも満里奈ちゃんも一年生よね? 学校でも友達なの? 」


え?

同い年だったんだ、というか同じ学校なの?


「薩川先輩と一緒に生徒会ってことは、同じ学校?」

「そうみたいだな、クラスが違えば殆ど顔を会わせることもないから、お互い知らなくて当然だけど。」


特に俺の場合、あまり誰かと関わるような学校生活を送ってないから、尚更知らないと思う。


「そうかもね…あ、いけない、そろそろ帰らないと和美さんが心配しちゃう。高梨くん、未央ちゃんをこっちに」


突然思い出したかのように声をあげた藤堂さんだが、確かに未央ちゃんくらいの子供を遊ばせるような時間ではなくなりつつある。

俺は未央ちゃんを起こさないように、気を付けて渡す。


「あらあら。未央ちゃんはまだ寝てるから抱っこしていくしかないわね。」


「慣れてるから大丈夫です。それじゃあ私達はこれで。高梨くん、機会があったらまた学校で。」


そういうと、小走りで帰っていった。

学校で会うことがあれば、話くらいはしてもいいだろうと思う。

未央ちゃんの従姉妹なら、こうやって他でも会う機会があるかもしれないし。


「高梨さん、最近の沙羅ちゃんはどんな感じかしら? 少し明るくなったというか、学校が楽しくなったみたいなんだけど」


俺はこの後、幸枝さんとお茶を飲みながら、沙羅先輩の話をするのだった。


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たかなし かずなり


今日初めて会った高梨くんが、あの「たかなしかずなり」 と同一人物かと疑ってしまったが、やっぱり別人だと思う。


私は引っ越しに合わせて今の学校を受験したので、元々はこの町の住人ではない。


以前住んでいた町で通っていた中学では、「たかなしかずなり」という名の男子生徒は有名だった。


といっても、クラスも違ったし面識があった訳ではないので、直接顔は知らない。


卒業アルバムを見ればいいのだろうが…あのクラスには笹川柚葉と、もう一人名前も思い出したくない男がいる。


つまりあのクラスには、もう顔も見たくない人が多いから必然的にページも見たくない。だから今でも見ていない。


私個人は直接何かあった訳ではないのだが、友達のことを考えるといまだに許せないから。


そしてたかなしかずなりは、笹川柚葉の幼馴染みだそうで、あの人にずっと昔から付きまとっていた物好きらしい…と言えばまだ聞こえはいい。



私の腕の中で眠っている、とても可愛い寝顔の未央ちゃん。


神社で彼と遊んでいる姿を思い出す。


最初は驚きと、しかも男子だったこともあり警戒してしまった。

そして名前を聞いて、尚更警戒を解けなくなってしまった。

私の知っている人物と同一であれば、危険人物であることに違いないからだ。


でも未央ちゃんと遊んでいる姿を見て、違うのではないかと思った。

二人はとても楽しそうに遊んでいて、私一人で警戒して固まっているのがバカみたいに思えた。


結局、途中から一緒に遊んでしまったが…その印象でもやはり人違いだと思う。


そもそもあの薩川先輩と仲がいいなんて信じられない話を聞いてしまったし、であれば危険人物が薩川先輩と仲良くなんてなれるはずはない。

まして生徒会にいるような人物だ…


そう言えば、薩川先輩と仲のいい男子が現れたという噂もあったが、あれも彼のことだろう。


とにかく別人であることは間違いなさそうだし、であれば今度会ったときに、最初の態度の悪さを謝った方がいいのかもしれない。

だって、かなり露骨だったと自分でも思うから。


あ、クラスを聞くの忘れちゃった…

でもその内ひょっこり会えるだろう。

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