第92話 不安な二人
「沙羅先輩、今日の放課後俺に付き合って下さい。」
朝の挨拶もそこそこに切り出した。
昨日の様子から、沙羅先輩は間違いなく何かに悩んでいると思う。
夏海先輩に任せる形をとってしまったのだが、無理をした先輩の笑顔が頭に残り、早く話をしたいと少し焦ってしまった。
ちょっと言葉使いが強引な感じだったかな…
「は、はい。畏まりました。お付き合い致します。」
先輩が少し驚いたような反応を見せた。
やっぱり少し強引だったかも…
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ご用とはいったい何でしょうか…
高梨さんの雰囲気が普段と違うご様子でした。
正直…不安です。
「沙羅、また余計なことを考えてるでしょ?」
「夏海…いえ、別に」
「嘘だね、授業中ボーっとしてたよ。内容覚えてる?」
う…
言われてみますと、授業の内容が思い出せません…
「正直に言いなさい。溜め込んだらダメだからね。」
夏海が真面目な表情で詰め寄ってきました。
昨日散々話したのですから隠すのも今更ですね。
「実は…」
夏海は今朝一緒ではなかったので、高梨さんから放課後に呼ばれていることを説明しました。
「そっか…うんうん。沙羅、高梨くんが何か聞いてきたら正直に話しなさい。思っていることを全部隠さずに伝えるんだよ?」
「全部…ですか? あの、夏海は高梨さんの用件を知っているのですか? もし知っているのでしたら私に教えて…」
夏海は全てわかっているような雰囲気です。
もちろん嬉しいことや楽しいお話の可能性もありますが、高梨さんの今朝のご様子ではそういう用件ではなさそうです。
仮にお話だったとして、もし私のような嫉妬深い…ええ、わかっています。これが嫉妬なんですよね。今なら小説のヒロインの気持ちが私にもわかります。
こんなに辛いなんて…でも、きっと私はそんなヒロインより嫉妬深いです。
私はなんて嫌な女なのでしょう…
こんな気持ちを抱えているなんて、とても高梨さんには…
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それは体育の時間に起こった。
はぁ…緊張するな。
放課後に話をすると決めたものの、沙羅先輩が何に悩んでいるのかイマイチわかりかねている。
今までの沙羅先輩なら、何か言いたいことや気になったことをあからさまに隠すようなことはしなかったはずなので、つまり言いにくいことを抱えてい…
その瞬間、浮遊感というか足場が急に無くなった感覚だった。
考え事に没頭しすぎていたことが原因だが、今はそれどころではない!
気がつけば尻を強打して、手首も地面に捻って突いてしまった。
「痛ったぁああ」
「高梨!?」
「一成!?」
体育教師に続き、合同授業だった速人も駆け寄ってきた。
胸を打った訳でもないのに上手く呼吸ができずパニックになったが、少しして呼吸ができるようになり安心すると、今度は痛みが…
「保健室へ行けるか?」
「俺が連れて行きます」
速人がそう名乗り出てくれる
「すまん速人…」
「いいから、保健室に行こう」
速人に付き添って貰いながら保健室に移動する。
手首を擦っても当然痛みが消えるようなことも無い。
手首の痛みがヤバイかもしれない…
「今日はずっと考え事してるみたいだな…薩川先輩のことだろうけど、さすがに体育中は危ないぞ。」
見てわかるくらい考え込んでいたらしい。
速人から少し怒るように言われてしまった。
「…ちょっと考え過ぎてたみたいだ」
「何か困ったことがあるなら話を聞くから、とりあえず保健室に行こう」
保健室につくと、速人が俺の代わりに保健医に状況を説明してくれる。
ごく短時間だが呼吸困難を起こしたこともあり、このまま昼休みが終わるまで暫く安静するように言われてしまった。
困ったなぁ…
「あとは私が見るから横川くんは授業に戻ってね。お疲れさま」
「それじゃ俺は戻るよ。先輩達には俺から伝えておくわ。スマホは後で持ってきてやるよ!」
「スマン速人、宜しく頼むよ」
「さぁ、高梨くんは横になってね。手首も見たいから」
今日は放課後に沙羅先輩と話があるのに、早退しろとか言われたらどうしよう…
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あれ? 横川くん?
午前中の授業が終わって沙羅と廊下に出たところで、横川くんがこちらに向かってくるのが見えた。
「お二人が居てちょうど良かったです。」
私たちに用事かな?
ちょっと焦っているような気もするけど
「どうしたの、焦ってるみたいだけど?」
沙羅は自分から話しかけるようなことはしないだろうね。
高梨くんの友達だけと、面識は殆どないだろうし。
「一成がさっき体育の授業中に転んで保健…」
沙羅が既に走り出して、はやっ!?
「ごめんありがとね。私も行ってみるよ。」
全く、今の沙羅に余計な心配をかけるなんてダメだねぇ
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「高梨くん、私は担任の先生にお話ししてくるから、そのまま安静にしていてね。」
「はい、すみませんお手数おかけ…」
ガラガラガラ
「高梨さん!!」
この声は沙羅先輩だ。
勢いよく保健室に入ってきたようで、先生も驚いている。
俺も驚いたんだけど…
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