第344話 祝福を

「満里奈さん、他のことは一切考えないで…君の気持ちだけ、教えて欲しい」


「私の…気持ち?」


「うん。釣り合いとか、周囲の声とか、余計なことは全部忘れて、満里奈さんの気持ちだけ…俺に教えて?」


 満里奈さんが変に緊張しないよう…ゆっくりと、丁寧に、優しく語りかける。

 一成のお陰で、先程まで満里奈さんが見せていた悲しさ、何かを怖がるような仕草…そういったものが、少し影を潜めたような気がする。

 まだ少し、戸惑いの様子は残っている感じではあるけど…今なら落ち着いて、俺の話を聞いてくれるはずだから。


「あ…あの…ね。私は、今まで男の子とお付き合いしたことがなかったから、自分の気持ちに実感が持てなかったんだけど…でも…でもね? テニスの試合中に、周りの人達が、速人くんのことを名前で呼んでいるのを見て……悔しいなって。他の人達が名前で呼んでるのに、何で私は、"横川くん"って呼んでるんだろうって。そう思ったら…急に、悔しくなって…」


「…何で、悔しいと思ったの?」


「うん…私も、何で悔しいんだろうなって…自分でも分からなかったんだ。でもね…そう思ったら、今まで速人くんと一緒に居たときのこととか、速人くんの嬉しそうな笑顔が、いっぱい…いっぱい頭の中に浮かんできてね。速人くんと一番仲良くしている女の子は、私なのにって…誰よりも側にいるのは、私なんだよって…そう思ったら、速人くんのことを名前を呼べたの。それで速人くんが試合に勝って、私の名前だけを呼んでくれたから…私は特別なんだって思ったら、やっぱり嬉しくて、幸せな気持ちになって…だからね、私のこの気持ちは、きっと…きっと…」


 そのとき満里奈さんが感じていたものは、恐らく嫉妬からくる対抗心。

 それは俺に対する独占欲の現れでもあり、誰よりも側にいたいと思う気持ちから生まれたものであるはず。


 そうであるなら…だったら、もう迷うことなんか!!


「満里奈さん、もう一度…ううん、何度だって言うよ。俺は君に…君だけに、側に居て欲しい。いつも俺の側で笑っていて欲しい。喜んで欲しい。俺は君の笑顔が大好きだから…君が隣に居てくれるだけで、俺は心が暖かくなるんだ。幸せな気持ちになれるんだ。そんな君だからこそ、俺は離したくない。誰にも渡したくない!!」


「私も…私も、速人くんの側にいたいよ…誰よりも近くで、速人くんに笑っていて欲しい。だって…だって、私は速人くんが大好きなんだもん。速人くんが、私以外の女の子の側で、笑ってる姿なんか見たくない…想像したくない。他の女の子に、取られたくなんかないよ。速人くんと一番仲のいい女の子は私なのに…それなのに、何で私が!! …私が……ひゃぁぁぁぁ!?」


 自分でも驚いてしまうほどに…自然と身体が動いた。


 もう階段を降りることすらもどかしく、ステージ上から一気に飛び下り、ただ一直線に満里奈さんの元へ駆け寄る。

 そのままの勢いに身を任せ、俺は腕を伸ばし…

 初めて抱き締めた満里奈さんの身体は、驚くほどに小さくて…か弱くて…

 だから俺は、自分の一番大切な宝物を壊さないように、優しく、しっかりと、腕の中へ。


「は、は、速人くんっ!!??」


「ありがとう…満里奈さん。俺のこと、好きって言ってくれて…嬉しい」


「え……好き? 速人くんが……私…ふぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!???」


「ま、満里奈さん!?」


「わ、わ、私、好きって…好きって言っちゃったぁぁ!? 好きって言っちゃったよぉぉぉぉ!!!!」


「満里奈さん?」


「ひぅぅぅぅぅぅ…」


 俺が抱き締める力を少しだけ強めると、満里奈さんは声にならない悲鳴をあげ…やがて大人しくなり、チラリと盗み見たその顔は、もう限界ですと言わんばかりに真っ赤になっていて…


 でもね…


 そんな表情を見せられてしまったら…俺も…


「満里奈さん…他人の声なんか、全く気にする必要はないんだ。そんなものはどうだっていい。大切なのは、俺と君の気持ちであって、それは誰にも縛ることなんか出来ない。誰にも口を挟ませたりはしない。もしそんなことを言う奴がいるなら、俺が…」


「そうですよ。お互いに気持ちが通じあっているのであれば、何一つ躊躇う必要などありません」


「さ、薩川…先輩?」


「有象無象の戯言など、気にする価値もありません。そんな下らないものの為に、なぜ好き合っている者同士が遠慮などしなくてはならないのです。所詮は負け犬の遠吠え、情けなくも惨めな泣き言ですよ」


「っ!?」


 聞いているだけで寒気を感じてしまう程の…ありとあらゆる侮蔑の感情を隠しもない、そんな薩川先輩の声が、会場一帯に響き渡る。

 その冷たく鋭い声音に、騒ぎを起こしていた客席は一斉に静まり…俺の腕の中で、満里奈さんが小さく息を呑む気配を感じた。


「藤堂さん、貴女は私達のことを凄いと言いましたね? そして自分には何もないと。ですが…そんな筈はありませんよ? 本当に何もない人間であれば、私達と行動を共にするなど、出来る訳がありませんから」


「…え?」


「貴女の持つ、周囲を和ませる暖かく優しい雰囲気。思いやりの心で相手に接することができる、裏表のない真っ直ぐな心根。そして貴女はこのグループに於ける最大の良心であり、それは私達の誰しもが認めていることです。私達が決して真似の出来ないものを、貴女は確かに持っているのですよ? だから胸を張りなさい。堂々としなさい。例え誰が何と言おうと、貴女は私達の仲間であり、掛け替えのない友人…親友なのですから」


「さ…薩川先輩…私…私…」


「それに、周囲の声なら心配する必要はありません。仮にもファンを名乗る者が、まさか二人の邪魔をするなど有り得ないことでしょう。もしその程度も出来ないのであれば、その者はファンを名乗る資格などない。真のファンであれば、自分が応援する人の幸せを願うものですから」


 正直、薩川先輩が俺の援護をしてくれるなんて思わなかった…いや、違うか。

 これは俺への援護ではなく、藤堂さんへのフォローというだけだろうね。

 でも…薩川先輩がこうして釘を刺すように、俺に対する感情が、満里奈さんへの悪意に変わることだけは、何としても防がなければならない。

 そういったもの全てから満里奈さんを守る…これは俺にとっての責務であり、何よりも重要なことなんだ。


「まぁ…そもそもの話、例えファンであろうとなかろうと、藤堂さんに良からぬ陰口を叩くような輩は、全て等しく私達の敵です。それがどういう意味を指しているのか…まさか理解できない者などいないでしょう?」


「そうだね。私達を敵を回す覚悟があるなら…やってみな?」


 どこか剣呑な雰囲気を纏う薩川先輩に続き、あからさまに殺伐とした空気を放つ夏海先輩。

 もうこの時点で、この学校に通う生徒にとっては最大にして最強の警告であり…先輩達を敵に回せば、それがどれ程恐ろしい結果を招くのか、それを分からない生徒などいない。

 薩川先輩一人だけでも、その影響力は計り知れないものがあるというのに、それに加えて夏海先輩を敵に回せば、それは当然…


「夏海ちゃんの友達は、私達の友達だからね!!」

「みんな!! 夏海ちゃんの言ってることの意味は分かる!?」

「例え陰口だけでも、私達は絶対に許さないからね!!」


 案の定、夏海先輩の発言を受けて、そこかしこから一斉に上がり始めるその声は、言わずと知れた、夕月夏海ファンクラブ。

 そう…夏海先輩を敵に回すこと、それは即ち、この学校に於ける最大勢力を全員敵に回すことになり、それはほぼ全ての教室、校内、通学路、ありとあらゆる場所に監視の目があることを示唆している。しかも薩川先輩と夏海先輩という二大看板から睨まれた上で、そんなことになってしまえば…


 特に女生徒からしてみれば、これ程の恐怖はないだろうね。


 でも俺だって…

 これを人任せにするつもりはないんだ。


「この話を聞いている皆さん、いつも俺を応援してくれる皆。聞いての通り、俺はこの人が…藤堂満里奈さんが一番大切な人なんだ。俺はもう、この気持ちを抑えることなんか出来ない。誰に何と言われようと、この恋を貫く。だから…もし何か言いたいことがあるのなら、それは俺に直接言って欲しい!! 俺はいくらでも受けて立つ。でも満里奈さんには…もし満里奈さんに何かあれば、俺は絶対に許さない!! 例えそれが誰であろうと、俺が絶対に許さない!!」


 俺は今まで、誰かに対してここまで強い態度を見せたことはないと思う。

 でもこれだけは…満里奈さんのことだけは、絶対に譲れない!! 絶対に許さない!!


 満里奈さんは…俺が絶対に。


「ねぇ皆!! 速人くんが好きな人と幸せになれるなら、それを一番に祝ってあげるのは私達じゃないの!?」

「そうだよ!! 薩川さんの言う通り、速人くん達におめでとうって言えなきゃファンじゃない!!」

「速人くんにこんな辛いこと言わせて、情けなくないの!?」

「もし二人のことに文句を言うなら、私達が絶対に許さないからね!!」


 俺の話に賛同を始めてくれたのは、いつも中心になって応援してくれている人達。俺がこの学校でテニス部に入ってから、ずっと欠かさず応援を続けてきてくれた人達の声だから、聞くだけで直ぐに分かった。


 その気持ちが、本当にありがたくて…


「…ね、ねぇ、どうする?」

「…ど、どうするったって…」

「…この空気で文句なんか言ったらヤベーって…つか、あの二人に睨まれたらマジでシャレになんねーし」

「…もしバレたら、晒し者にされて、卒業まで完全に周りからシカトされるっしょ」

「…下手すりゃ男子にも避けられるわ。そんなのワリに合わねー」


「速人くん、彼女さん、おめでとう!!」

「ちょっと悔しいけど、私達は応援からね!!」

「そうそう、お幸せに!!」

「絶対に速人くんを泣かさないでよ!!」

「いや、それ逆っしょ!?」


「えっ…えぇぇぇぇ!?」


「満里奈さん…皆が、俺達のことをおめでとうって」


「う、うん。でも、ほ、本当にいいのかな…私で…」


「俺が満里奈さんじゃなきゃダメって言ってるんだよ? それなのに…まだ悩むことがあるのかい?」


「そ、それは、その…」


「俺は満里奈さんのことが好き。満里奈さんは俺のことが好き。これが全てでしょ?」


「好き…うぅ…は、恥ずかしいよぉぉ…速人くんのいじわる」


 俺の腕の中で恥じらいを見せ、満里奈さんの顔がみるみる真っ赤になっていく。

 こんな愛らしい仕草をされてしまうと、俺も男として、色々と心にくるものがあると言うか…でも、流石にそれはまだ早いから我慢。


「満里奈…薩川先輩の言う通りだよ? あんたは私のことを凄いって言ってくれたけど、私からすれば満里奈の方が全然凄い。私にないものを一杯持ってる。でも…案外そういうのって、自分では気付かないもんだよね」


「洋子…」


「満里奈の性格的に、自信を持つのは難しいかもしれないけど…でも横川くんにとっての一番だって自信だけはあるんでしょ?」


「…うん」


「それなら大丈夫。一番大切な部分に自信があるなら、後はオマケみたいなもんだよ。だから…」


「洋子…私…わたしぃ…」


「横川くん…満里奈のこと、宜しくお願いします。この子は、私の一番の親友だから…初めて私の親友になってくれた、大切な子だから」


「立川さん…うん、任せて」


「ぐすっ…洋子ぉ…」


「ほら、満里奈…泣かないで、笑ってあげなって」


「無理だよぉぉぉ、ひっく…」


 涙を堪えきれず、俺の腕の中で…立川さんに頭を撫でられ、子供のように感情を溢れさせる満里奈さん。

 心の奥底に眠っていた蟠りの全てまで洗い流すようなその涙は、それでも嬉しさによるものだから…

 だから我慢する必要なんてない。今は気が済むまで…そしてこれからも…


「「せーの!!!!」」


「「速人くん!!! 藤堂さん!! おめでとうぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!」」


 パチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチ!!!!


 俺が、満里奈さんの全てを受け止めるんだ。

 他の誰でもない…俺が!!


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「やっと、素直になれたようですね」


「そうですね…ところで沙羅さん、そろそろ…」


「ダメですよ。これはお仕置きなんですから」


「…はい」


 二人が無事に結ばれたことは、親友としてとても嬉しい。特に俺は、速人が藤堂さんを意識し始めた頃からずっと見守っていたから。二人の関係が思うように進まず、速人が焦りを感じていたことも気付いていたし、だからこそ、俺もこの結果には感動もひとしお…と言ったところなんだけど…ね。


「あのさぁ…」


「はい。何でしょうか?」


「いや…何って…はぁ…薩川さんは自分の欲求に素直すぎるでしょ」


 みなみんの呆れにまみれた声が、俺達の現状…即ち、今の様子を見事に表している訳で…それはつまり。


「当たり前ですよ。一成さんへの愛情を素直に表現出来ないなど、私には有り得ない話です」


「そーだねー」


「あの、沙羅さん…俺はもう十分に…むぐぅ…」


「一成さん、めっ、ですよ? もう暫く、そこで反省をしていて下さい」


「ふぁい…」


「反省って…こんな桃色のお説教なんか聞いたことないよ…この二人の頭の中はどうなってんの?」


「何か?」


「いーえ、何でもありませーん」


 ぐりぐりと…いや、むにむにと、俺の顔に押し付けられる、とても柔らかく幸せな何かの感触。それが主に両左右から、これでもかと襲いかかり、俺に深い反省を促すよう猛烈にアピールしてくる。

 でもさっきのアレは、二人の為にどうしても俺が言わなければならなかったことであり、それは沙羅さんだって分かってくれている筈なんだが…でも、それはそれということらしい。


「一成さん…もう二度と、あんな悲しいことを言わないで下さいね…?」


「沙羅さん…」


 ぎゅぅっと、俺の頭を抱き締める力が一段と強くなり、流石に少しだけ息苦しさを感じるようになってきたが…これは俺の発言が招いた結果であり、甘んじて受けると約束をしたことでもある。

 なので…


「いえ、言わないだけではありません。絶対に考えないで下さい。思い出すことも許しません。綺麗さっぱり、全て忘れて下さい」


「はい…ごめんなさい」


「もし思い出しそうになったら、私がいつでもこうして差し上げます。もう二度と思い出せなくなるように、私が全てを上書きをして差し上げます。ですから…」


 ちゅ…


 ちゅ…


 …と、啄むような沙羅さんのキスが、俺の額に何度も繰り返され…一頻りそれをして、やっと気が済んだのか、沙羅さんは俺の背中と頭に腕を回し、全身で包み込むように優しく抱きしめてくれる。

 これらは例え普段通りに見えようと、沙羅さんの悲しそうな表情だけは間違いないから…自分では気にしていないことだとしても、俺は誓って、もう二度とあんなことを口にしない。


「ごめんなさい、沙羅さん…」


「いえ、一成さんが二人の為に仰ったのだということは、私も十分に理解しております。ですが…」


「はい…」


「本当に…悲しかったのですよ? …一成さんのばか…」


「ごめんなさい」


「ですから…罰として、今晩は私の我が儘を聞いて下さいね?」


「わ、わかりました」


「ちょぉぉぉぉぉぉ!!?? こ、今晩って何!!?? あんたら一体、何の話をしてんのよ!!??」


「へ? ……あっ!?」


 しまった!! 思わず条件反射で!?


 で、でもこれは、決して不健全な話ではなく、あくまでも純粋に、俺達は健全で清い交際をしているのであって、決してみなみんが想像しているようなことは、全くもって見当外れの…


 きゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!


「こ、こ、こ、今晩んんんんん!!!???」

「きゃぁぁぁぁ!! 薩川さんから、まさかのアピールですよコレはぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

「こ、今晩…何があるのかなっ!!?? 薩川さんの我が儘って何かな!!??」

「そ、それは勿論、あんなことやこんな…」

「らめぇぇぇぇ、乙女がそんなこと言っちゃらめぇぇぇぇ!!!」


 ええ…分かります。

 同棲までしている婚約者同士が、全く何一つない清く健全な交際をしているなんて…誰も信じてくれませんよね?

 ええ、ええ、分かってますよ。


 でも…真実なんです。


「…あいつら、ホントに見境がないと言うか…自分の気持ちに素直すぎるわ」

「…全く…私のことも忘れて貰ったら困る。さっきのアレは、姉としてもお説教をする必要がある」

「…どうせ花子さんも、それを口実に甘やかしたいだけでしょ?」

「…そうとも言う」

「…どいつもこいつも素直すぎるわ」

「…満里奈、やっぱり素直になりすぎるのも良くないかも…」

「…わ、私はあんなこと出来ないよぉぉ」

「…はは、そうだね。あれはちょっと、俺にも無理…かな?」

「…し、周囲であんなことばかりされたら…たまったものではありません…うう」

「…あ、西川さんが復活してた…」


「ぁぁぁぁぁぁ、もう時間もないし、こうなったら私の独断で賞を決定しまぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁす!!!」


「えええええ、ちょ、ちょっと待って下さい深澤さん!! 賞を決めるって、これはミスコンであって、賞も全て規定があるでしょう!?」


 まだ生きていたらしく、ここまできて最後の悪あがき…抵抗を見せる会長。

 でも既に、ミスコンの賞自体がオマケ扱いになってしまった現状で、今更そんなことを言ったところ…


「ってゆーか、もうミスコンの体を成してないでしょ!!?? いい加減、諦めなよ会長…私はとっくに諦めた!!!!」


「そ、そんなぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」


 みなみんの一言でとうとう折れたのか、会長がゆっくりと崩れ落ち…その場にストンとへたりこんでしまう。

 その崩れ落ちる様が、俺の目にはスローモーションのように、ハッキリくっきりと見えて…


 これで本当の本当に、俺は…俺達は、ミスコンをぶち壊したんだな。


「んじゃ、改めて授賞式をするから、そっちにいる初々しいカップルもこっちへ来てね!!!!」


「…満里奈さん?」


「ふぇぇぇ!? む、無理、無理だよぉぉ…そんなの恥ずかしい…」


「だよね。すみません、俺達はここで」


 藤堂さんを守るように、自分の身体を前に出す速人。

 そこまで気負わなくてもいいと思うんだが…まぁ、まだ付き合い始めたばかりだからな。その辺りは仕方ないか。


「へいへい、仲が宜しいこって。んじゃ、改めて授賞式ね!!!!」


 みなみんが宣言をすると、表彰されるときによく聞く「あのBGM」がスピーカーから流れだし、ステージ袖から大急ぎで何かの紙を持ってくるスタッフさん。


 まさか…賞状でも渡されるのか?


「はい。という訳で…高梨くんと薩川さん、おめでとうございます!! 貴方達は見事!! 初代ベストカップル大賞及び…初代バカップル大賞の同時授賞となりました!!!!」


「ちょっ!?」


 バカップル大賞ってなんだ!?

 そんなの今まで言ってなかっただろ!?


 わぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!


 パチパチパチパチパパチパチパチパチパチパチパパチパチパチパチチパチ!!!!


「一成さん、私達がベストカップル大賞だそうですよ?」


「いや、それもそうなんですけど、バカップル…」


「ベストカップル大賞だそうです」


「アッ…ハイ」


 そっちはスルーする方向なんですね…了解です。


「はい、これが認定証…の前に、薩川さん、そろそろ高梨くんを離すつもりは…」


「何か?」


「イエ、ナンデモゴザイマセン…」


 勿論、俺も何度か離れようとはしているんですけどね…その度に、沙羅さんが俺の頭と背中に回している手に力を込めて、"ダメですよ?"のアピールをしてくるのです。

 そうなると、俺としても無理矢理それに抗うという選択肢が、どっかにアッサリと飛んで行ってしまう訳でして。


「まぁ…こっちのバカップルには後で渡すとして…では続きまして、ベストカップル準優勝の発表に移ります!!! まさかの乱入でちゃっかり成立した初々しいカップル!!!! 観客の皆さんから盛大なお祝いを受けたばかりの…横川くん&藤堂さんペア!!!!! 並びにぃぃぃぃぃぃ!!!」


 並びに?

 まだ他に何かあるのか!?


「テニス試合会場でお姫様抱っこをやらかした、夏海ちゃん&橘くんペアも、堂々の準優勝となりましたぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」


「ちょぉぉぉぉぉ!!!! な、何でそれを知ってんのよぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!」


「むふふふ、私の情報網を甘く見て貰っちゃ困るよ、夏海ちゃん? 何なら、お姫様抱っこで二人の関係を告白するシーンの動画もスクリーンに…」


「わぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!! やめろぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!」


「な、夏海さん!!??」


 夏海先輩の大絶叫と、観客の大歓声に包まれ…あれだけ想定外の自体が多発したイベントだったのに、終わってみれば全てが上手く行ってしまったミスコン…いや、ベストカップルコンテストが。


「一成さん」


「沙羅さん?」


「婚約指輪…大切に致しますね」


「はい。出来れば毎日…」


「これは一成さんから頂いた婚約の証しですから。毎日、身に付けさせて頂きます」


「お願いします。俺もこのネクタイを」


「ふふ…そのネクタイに限らず、私が毎日して差し上げますから…約束ですよ、あなた?」


「りょ、了解です…沙羅」


「はい♪」


 こうして、幕を閉じ…


「だぁぁぁぁぁ、隙あらばイチャイチャすんじゃねぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!」


「あんたも動画を消しなさいよぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!」


 幕を閉じた!!!!!


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


 はい。

 という訳で、これにてミスコンは終了となります。色々とカオスで最後の最後まで詰まってましたが、何とか予定通りの着地点で収まることは出来ました。

 私の描写力不足による抜けは致し方なしとして、それでも一揃いのものは回収できたのではないかと思います…自信はありませんが。

 悔やまれるのは、途中のスランプ諸々で更新が盛大に滞ったことで、今回はカクヨムコンの一次も無理かなと。まぁこれは仕方ないです。


 次回は学祭のフィナーレですが、一話で終わるかどうかは分かりません。

 予定としては、それが終わったら諸々の小話を挟んで日常に戻ります。

 次の山場は…顔合わせ編+沙羅さんと約束した里帰り編(?)かなと。


 それではまた次回~

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