第98話 襲撃
「えーと、高梨くんが怪我で右手を使えないからお世話してあげてるってこと?」
「お弁当まで作ってあげるなんて、薩川さん優しいんだね。」
昼食が終わり一息ついていると、沙羅先輩への質問タイムになってしまった。
「そ、そうか、そういう事情があったのか」
「でも怪我の間だけとはいえ羨ましいな高梨は」
言葉では軽く言ってるけど、目は笑っていないよなこの人達。
さっきまで現実逃避したかのように何かブツブツ話し合ってたと思えば、いきなり女性陣の会話に混ざるとか凄いと思う。
「よく一人分も二人分も変わらないとかいうけどさ、急にお弁当が二人分になるとやっぱ大変だよね?」
「? いえ、今までも二人分でしたから急にという訳ではありませんが」
「あ、そうなんだ。家族の分とか作ってたの?」
凄まじく嫌な話の流れで内心ドキドキしっぱなしというか、もうここまできたら時間の問題な気がする。
ならばこういう時こそ会長が空気を読まずに「そろそろ始めよう」とか言って話を中断させるのがセオリーなのに、あのニヤニヤは絶対にわかってて黙っているな。
「いえ、今までも学校がある日のお弁当は、高梨さんと私の二人分でしたから」
「「「「………え?」」」」
終わった…
でも生徒会室では色々やらかしてるから今更だと思うしか…
「今までも高梨くんの分作ってたの?」
「はい」
「何か事情があったり?」
「いえ、私が作って差し上げたいだけですよ」
「なんで作ってあげたいの?」
「高梨さんが喜んで下さるのが嬉しいのです」
おおう…も、もう止めて下さい…これ以上の羞恥プレイは耐えられ…
「「「 へぇ〜 」」」
女性陣からもの凄く生暖かい目で見られている。
そして男性陣からは無言で掴みかかられていたりする。もちろん本気でやられている訳ではないが、見られてないと思って堂々と揺すったりするの止めてくれませんかね。
「…そろそろ止めないと冗談でも許しませんよ」
女性陣と和やかに会話していた先輩が突然振り返ると、無表情の鋭い目線で男性陣を射ぬく
「「「…申し訳ございません」」」
…いつの間に気付いたのだろうか…
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「さて、落ち着いたようだしそろそろ始めようか。」
全て終わるまでじっくり見ていた会長が、見終わったとばかりに言い出した。
…体育祭の実況の件もあるし、この人にはそろそろお礼をした方がいいな…からかわれて迷惑してると夏海先輩に告げ口してやる。
「今日の話は、毎年この時期にやる地域のボランティア清掃の件だったのだが…」
そこまで言うと会長は俺の右手を見た。
うーん、今は正直厳しいな
「会長…まさか怪我をしている高梨さんに出席しろなどと言いませんよね?」
沙羅先輩の笑顔プレッシャーが発動して、会長を畏縮させる。
俺は先程の恨みがあるからいい気味だ。
「い、いや、さすがにそんな無茶は言わないから」
「それならいいです。という訳で申し訳ございませんが、私も高梨さんのお世話があるので不参加とさせて頂きます。前回の様子を見る限り、会長がいれば問題ないと思いますので」
「りょ、了解。うん、私一人でも大丈夫だ…」
さすがにちょっと申し訳ないとは思うが、あくまでボランティアなのだから無理をしてまで参加しなくてもいいと思う。
その分次回は必ず参加しよう
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それは突然やってくる
ピンポーン
家でくつろいでいると来客のチャイムが鳴った。
誰だろう…
ちなみに先輩は、俺の着替えを終わらせてから荷物を取りに一旦自宅に帰った。
だから先輩の可能性もあるんだけど、それにしては早すぎるな…
「はーい」
取りあえずドアを開けると…うわ
「ちゃんと生きてるみたいね。一応様子を見にきたわよ。」
そんなことを言いながら、ズカズカと部屋に上がってくる…コレが俺の母親だ。
は? なんで突然…
「ちょ…来るなら来るで連絡くらい寄越せよ。」
「連絡ならしたでしょ?」
慌ててスマホを見ると、5分くらい前にRAINのメッセージがあった。
これで連絡済みとか、しれっと言われてもな
「5分前じゃ意味ないだろうが! 家にいなかったらどうするつもりだ」
「居たから問題ないね」
はぁ…久々だけど相変わらす自由だな。
コレは俺の母親で高梨冬美。色んな意味でいい性格をしている。
何で突然来た…って怪我の連絡がいったからだよな。
「んで、体育で転んで手首をやったって? どうせぼーっとしてたんでしょ? 全く世話の焼ける」
「そいつは悪うございました。でもいきなり来るとは思わなかったぞ。」
オカン(俺はそう呼んでる)はテーブルの椅子に座ると部屋の中をキョロキョロ見回していた。
「ふーん…片付けとか色々やらないとダメかと思って来たのに、意外としっかりやってるわね。台所まで綺麗にしてあるとか、あんた病気にでもなっておかしくなった?」
そこまで言うか…
まぁ自宅では片付けなんぞ基本的にしなかった俺が、ここまで片付いた家で生活してるとは思わないよな。
というか早く帰って欲しい…先輩が帰ってくる前に
「俺は大丈夫なの確認できただろ? 忙しいだろうからもう帰ってくれていいぞ。」
「ふーん…まぁお茶でも淹れようかね。…あら、ずいぶん可愛いマグカップを使ってるね。あんたには似合わないエプロンも」
……何も隠してないんだからそりゃ気付くよな。
いや、まだ諦めるのは早い。
「それは知り合いからの貰い物で…」
「はいはい。いや私もあんたに限ってまさかとは思ってるよ。自分の想像がありえないと思ってるし。」
コンコン…ガチャ
ノックの後に鍵を開ける音。
どうやら先輩が戻ってきたらしい。
終わった…どうしよう、どう説明すれば…
「申し訳ございません遅くなりま…した?」
「………」
沙羅先輩が不思議そうな表情を浮かべ、母親は驚愕の表情で固まっている。
オカンのこんな顔初めて見たわ。
はぁ……どうしよう
「あの…どちら様でしょうか? あ、ひょっとして親戚の」
不思議そうな表情でオカンに問いかけた先輩は、親戚の話を思い出したのかそちらの方向で考えたらしい。
「えーと…コレは俺の」
「は!?」
固まっていたオカンが動き出した。
よろよろと先輩に少し近付くと、頭から足までゆっくり眺めてもう一度顔を見る。
頼むから失礼なことは言わないでくれよ…
「ええ…と、初めまして、私は高梨冬美…こいつの母親です」
まだ驚きが抜けない感じでオカンが簡単な自己紹介を始めた。そして今度は沙羅先輩が驚きの表情を浮かべた
「…た、高梨さんのお母様!?」
すると先輩は持っていた荷物をわたわたと横に置き、姿勢を正すと両手を身体の前で重ねて深いお辞儀をした。
数秒くらいそれを続けると、笑顔を浮かべてオカンを見る
「失礼致しました。改めまして、薩川沙羅と申します。高梨さ…いえ、一成さんには日頃より大変お世話になっております。お母様とお会いできてとても嬉しいです。」
「……お義母様」
沙羅先輩の笑顔と挨拶に再び固まっていたオカンが、一言そう漏らした
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