第99話 沙羅先輩とオカン

先輩がお茶の準備をしている姿を、後ろから母親と眺めるという構図に驚きを覚える。


「先にお茶の準備を致しますね。」


そう言って準備を始める先輩の手に迷いはない。

お茶の場所どころか俺の衣類の収納場所まで把握している先輩にとっては当然であり、今更驚きはしない。

でもそれを初めて見る母親は違う訳で…まあ驚くよな。


「沙羅先輩、俺も何か…」


「ダメですよ。私がやりますから、高梨さんはお母様とお話ししていて下さいね」


当然のように断られてしまった。

その母親と話がしにくいから手伝いたかったのだが。


「……私は夢でも見てるのかしら…」


当の母親はまだ現実を受け入れていないようだ。


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「えーと…改めて紹介するよ。こちらは薩川沙羅さん、俺と同じ学校の2年生で生徒会の副会長をやってる。今更だからはっきり言うけど色々な面でお世話になってるんだ。俺の学校生活は沙羅先輩のお陰で成り立っていると言っても過言はない」


そこまで俺が言うと、沙羅先輩は笑顔を浮かべてペコリと頭を下げた


「改めまして、ご紹介に預かりました薩川沙羅と申します。宜しくお願い致します、お母様。それと、私の方こそ高な…一成さんのお世話になっておりますので。」


さすがに少し緊張しているらしく、いつもより丁寧な動きや喋り方をしているみたいだ。

何の準備も心構えもなしで、いきなり母親に会わせることになるなんて本当に申し訳ない…あとで謝らないと。


「いえいえ、こちらこそ宜しくね。正直少し…いやかなり驚いたよ。まさか一成に女の子…しかもお世辞抜きでこんな可愛い女の子がねぇ…これはあの人が知ったら腰抜かすかもね。」


言われなくても俺みたいなのに沙羅先輩がが居てくれるなんて、一生の運を使いきってると思うわ。


「そんな、私なんて…」


「いやいや私は…えーと、沙羅ちゃんでいい?」


「はい、嬉しいです。」


そう言って嬉しそうに笑顔を浮かべる先輩を見て母親がまた少し固まった


「はぁ…こんな可愛い子いるんだねぇ。その辺のアイドルなんて目じゃないでしょ。んで、沙羅ちゃんにどこまでお世話になってるのあんた。どうせこの家の片付けとかもやってもらってるんでしょ? 私からもお礼を言いたいんだから、全部正直に言いなさい」


…こうなった以上話すしかないか。

遅かれ早かれこうなったろうし、母親からお礼を言ってもらうのも悪くないだろう。


俺はこれまでのこと、弁当のこと、今のことを当たり障りのない程度に抑えて話した。


「はぁ…何それ…お世話になってるなんてもんじゃないわ。ごめんなさいね、うちの愚息が。大変だったでしょ」


盛大なため息をついたオカンが沙羅先輩に頭を下げて謝る。俺だって自分がどれだけお世話になってるかなんて自覚はしてる。


「いえ、私が一成さんにして差し上げたかったことですから…むしろ受け入れて頂いて嬉しいのです。」


笑顔を崩さない先輩を見て、本心で言っていることを理解したオカンが感動したように突然沙羅先輩を抱き締めた


「こんないい子初めて見た! こんなに可愛くて性格までいいなんて! 沙羅ちゃん、手間のかかる愚息だけど見捨てないであげてね!」


「ありがとうございます。そんな風に言って頂けて私も嬉しいです。」


沙羅先輩は嫌がらずにオカンの包容を受け入れている。取りあえず二人が仲良くなれたなら俺的に助かった。

オカンは沙羅先輩を抱き締めたまま俺の方を見ると


「一成! あんたみたいなのが、こんな素敵なお嬢さんと巡り会えるチャンスなんか2度とないんだからね! 愛想を尽かされないように大切にするんだよ!」


「そんなこと言われなくてもわかってるよ! 俺には沙羅先輩しかいなんだからさ」


思わず声に出して返してしまうと、沙羅先輩が母親の包容を抜けて俺の方にきた。

そのまま寄り添うように身体を預けてくる


「嬉しいです。私も高梨さんだけですよ…」


俺の顔を見上げる先輩と目が合い、思わず見つめあってしまう


「…まさか目の前で息子にイチャつかれるなんて」


その呟きを聞いて親の目の前だということを思い出した。


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「これを入れると、高梨家バージョンになるのよ」


「これは思い付きませんでした。今度作ってみますね。」


沙羅先輩がうちの母親と並んで料理をしている光景を見る日がくるなんてなぁ

二人は楽しそうに色々話をしながら作ってるようだ。


「高梨さ…一成さんはこれを教えて下さいませんでした…」


「あの子は食べるだけだから理解してないのよ。それより呼びにくいならもう最初から名前呼びしちゃえば?」


「……えっ…その」


「一成、ちょっと来なさい」


邪魔だから来るなとさっき散々言われたのだから、不貞腐れて行くのやめようかな


「あの、高梨さん」


「なんですか沙羅先輩?」


もちろん沙羅先輩に呼ばれたなら話は別だ。


「………なんで私が呼んだときにこないわけ? まぁいいわ。沙羅ちゃんがあんたを名前で呼びたいって言ったらどうする? 」


そんなの考えるまでもないが、なぜそんな話に?

沙羅先輩を見ると、少し照れ臭そうにモジモジしてる…うお、可愛い


「? 何見て…はいはい、わかったから答えなさい」


「そりゃ嬉しいけど。特別な人って感じがするし」


「特別な人…畏まりました! それでは宜しくお願い致しますね一成さん」


いい…とってもいい。

今回だけはナイスだオカン。

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