第286話 有り得た事

 月曜日、登校中


「いやー、練習試合とは言え、こうも接戦だとちょっと不安だわ」


 現在、夏海先輩が話しているのは、昨日行われた女子テニスの練習試合について。

 学祭で招待試合が予定されているので、それに向けた最後の実戦練習という位置付けで試合に望んだらしい。

 対戦相手については、楽勝とまでの油断はしてなかったそうだが、多少は余裕を持って勝てると踏んでいたとのこと。


「でも夏海先輩は勝ったんですよね?」


「まぁね。個人戦って意味ならそれでもいいけど、学校対抗だから私だけが勝ってもね」


「確かに」


 ちなみに夏海先輩はストレート勝ちだったそうで、流石は女テニのエースと言ったところ。会場で大騒ぎしているファンクラブの姿が目に浮かぶ。


「もう時間はないとしても、学祭までに少しでも練習をするしかないでしょうね」


「うん。わざわざウチの学校に招待するのに、情けない試合をする訳にはいかないからね。私も今日から猛特訓に付き合うことになってる」


「成る程。橘くんの前で、無様な姿は見せられない…と?」


「ゆ、雄二は関係ないでしょ!?」


「ふーん。じゃあ気にしない? 負けても悔いなし?」


「ぅぅ、それは…」


「ふふ…恋人に格好いい姿を見せたいと、素直に言えばいいではありませんか?」


「相変わらず素直じゃない」


「悪かったわねぇ!! どうせ私は素直じゃありませんよ!!」


「くくっ…」


「むっ…」


 おっと、ヤバいヤバい。

 三人のやり取りが面白くて思わず笑ってしまい、夏海先輩からキッチリと睨まれてしまう。

 でも相変わらず攻められると弱いというか、打たれ弱いというか…まぁそんな普段とのギャップも、夏海先輩のいいところ(雄二談)だと俺も思う。


「一成さんに何か言いたいことでも?」


「私が代わりに聞く」


「ぐっ…相変わらず、高梨くんのことになるとあんたらは…」


 俺を睨む夏海先輩の視線を遮るように、沙羅さんと花子さんが間に割り入ってくる。

 声のトーンもワリと本気っぽくて、夏海先輩が逆に引いてしまった。


「妻が夫を守るのは至極当然のことですが?」


「姉は弟を守る。それが真理」


「はぁ…はいはい、私が悪ぅございましたよ…」


 二人の力説にあきれ声を返して、夏海先輩はガックリと項垂れる。

 いくらなんでも、夏海先輩に対して二人が本気で言ってる訳じゃないのは分かっているけど、この状況で俺も何と言って良いのやら。


 でもまぁとりあえず…今日も平和だなぁ…と。


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「だからここを、こう塗りつぶして…」

「あああ、余計なことすんなよ!!」

「ちょっ、手につくから!?」


 学祭が近くなり、教室内では放課後以外もこうして、クラスメイト達が準備をしている姿を目にするようになってきた。

 今日も朝から看板制作担当や衣装担当のグループが作業を進めていて、改めて学祭が近付いてきたんだということを感じさせる。


「どうした、一成?」


「いや、手伝わないで見てるだけっても、何か悪い気がしてさ…」


「一成の気持ちはわかるけど、私達は私達で生徒会の仕事をしてる。だからそこは割り切って考えた方がいい。それに、いきなり途中から手を出しても、却って作業の邪魔になるだけ」


「う…」


 これは確かに花子さんの言う通り。

 作業内容を把握してない俺が中途半端に手を出せば、説明やら何やらが必要になって、却って余計な手間を増やすことになるかもしれない。

 そうなったら本末転倒だ。


「花崎さんの言う通りだよ~」

「高梨くんは生徒会の方を頑張ってるし、こっちは任せてくれていいから」

「そう言うこった」


「…わかった」


 そうだな…

 忙しいとわかっているのに手伝わないのはどうなんだって気持ちもあるけど、せっかく皆がこう言ってくれてる。

 ここはお互いの役割だと割り切って、素直に任せておこう。


「ふふ…一成は優しい…いい子いい子」


 ナデナデ…


「いや、あの、花子さん?」


 一応自分なりに納得して席に座ると、花子さんが待ち構えていたように俺の頭を撫で始める。当然周囲からも見られているし、流石に今はちょっと…と思わないでもない。

 でも花子さんの嬉しそうな笑顔を見ていると、そんなことも言えず。


 だからまぁ…仕方ないな、うん。


「…最近、花崎さんが高梨くんを弟だって言ってる意味が分かってきた」

「…私も。確かに恋人とはちょっと違う感じかな」

「…でもそうなると、超絶ブラコンってことになるんだけど」

「…どっちにしても羨ましい…」

「…しかも…彼女は薩川先輩とか…ぐぅぅぅ」


「…いい子いい子。一成はいい子」


「………」


 うーん、どうしよう…

 花子さんが凄く嬉しそうで、そろそろいいか? と言うこともできず。

 ただ思っていた以上に注目を集めてるみたいだし、ぶっちゃけそろそろ恥ずかしかったりする。

 まぁ今更これで誤解を招くようなことはないだろうし、その辺りは心配してないけど。

 ただ、同級生の女の子から教室で頭を撫でられてる姿って、端から見たらどうなんだろうか…


「…………」

「…山川、気になるのは仕方ないと思うが」

「…うっせ、わかってるわ」

「…やっぱ未練はあるよなぁ、わかるぜ」

「…ぐっ」


 ガラガラ…


「失礼します」

「失礼しま~す」

「失礼」


 突然教室の扉が開き、見たことない三人組がズカズカと教室に入ってくる。

 まぁ見たことがないと言っても、そもそも俺には顔見知り自体が少ないんだけど…って、そんな自虐ネタはともかく。

 それより、三者三様の異色さがどうにも目についた。


 一人は見るからに、私は勉強が出来ますを地で行く、インテリっぽい感じの眼鏡君。

 もう一人は、入ってきて早々に、入り口付近の女子グループのガン見を始めたチャラ男風。

 そして最後は一番まともそう…なんだけど、どこかスカしたような感じ。

 表情も微妙にイヤみったらしくて、眼鏡君とは違う路線で自信満々といったような…何に自信を持ってるのかは知らないけど。


 ここまで系統がバラバラの三人組というのも珍しいが、こいつら仲間なのか?

 一緒に入って来たワリに、お互いを完全に無視しているようにも見えるし…


「いきなりで悪いが、高梨は…」

「おお、いたいた、副会長サマ~って、何やってんだよ?」

「っ!? ほぅ、二股とはいい度胸だな?」


「…は?」


 何を言ってるのかよく分からなかったが、俺の方を見た瞬間に三人組が表情を一変させた。

 見る限り俺に用があるみたいだけど、わざわざここまで来たってことは、あまりいい理由じゃなさそうだ…


 そんなことを考えていると、三人組が一直線にこちらへ向かって来て…その直前で、花子さんが進路を塞ぐ。


 何か、とってもデジャヴな光景…


「うおぉ、生徒会の天使ちゃん!? このクラスだったのかよ!! やべ、近くで見るとマジで可愛…」


「一成に何か用?」


「いや、無視しな…」


「黙れチャラ男。幼稚園児の相手をする程暇じゃない」


「んがっ…」


 花子さんの容赦ない先制口撃に、チャラ男が唖然とした表情で絶句する。

 でもこれで一番煩そうなのが大人しくなったから、取り敢えず話が先に進むか。


「くくく、幼稚園児とは的を得た表現だな。バカにはお似合いだ」

「んだと?」

「お前達、喧嘩したいなら出ていってくれないか? それと君、可愛いのにそんなキツい口調は似合わないよ? 曲がりなりにも先輩相手なんだから、せめて敬語を…」


「気持ち悪い。初対面で君とか自意識過剰すぎて見てるこっちが恥ずかしくなる。必死にキャラ作りして痛々しい」


「っ!?」


 淡々とした花子さんの毒舌で、チャラ男に続いてイケメンまで絶句してしまう。

 俺もこいつの妙にスカした表情が気に入らなかったけど、初対面で女子からキャラ作りなんて指摘されるとは思ってなかっただろうな。

 ちょっとだけスッキリ。


 それにしても、こいつらやっぱり仲間という訳では無さそうだ。

 一応襟章も確認してみたけど、全員二年生。もちろん先輩扱いするつもりなんかない。


「情けないな。まぁこの際こいつらのことはどうでもいい。それよりも高梨、ちょっと話があるから付き合ってくれ」


「…別にいいで…」

「移動する必要はない。ここで話せばいい」

「…ここで聞きます」


 まぁ…取り敢えずいいか。

 十中八九、話の内容は想像がついているし、それならクラスメイト達も全員知っている話だ。


「こ、ここで!?」


「まさか、人前で話すことも出来ないような内容? そんな話なら、わざわざ聞くまでもない」


「いや…その…」


「はぁ…雁首揃えて、自分が気になった女のことすら人前で話す勇気もない? そんな男が一成と張り合おうなんて百年早い」


「「「なっ!?」」」


 花子さんの口から「女」という単語が飛び出すと、三人が驚愕の表情を見せた。

 ちなみにクラスメイト達は「やっぱり」と言った様子を見せているし、俺としても「やっぱり」で特別驚くようなことじゃない。

 

 って、それよりも、そろそろ花子さんに下がって貰わないとマズいか。


「花子さん、ありがと。後は俺が話をするから」


「…わかった。私は後ろにいる」


 俺の言葉に頷くと、花子さんは大人しく俺の後ろ…文字通り真後ろに立った。

 ってそこに立つのかい!?

 まぁ大人しく下がってくれたから、この際それでも良いが。

 これ以上花子さんを矢面に立たせて、余計なヘイトを集めるのだけは何としても避けたい。こいつらから敵意を持たれるのは俺だけでいい。


 という訳で、どうしようか。


 話をするのはここでもいいと言ったものの、もし拗れたらクラスの皆に迷惑が掛かるのは間違いない。俺は沙羅さんに関することは一歩も引かないけど、それとこれとは別の話だ。

 そうなると、やはり場所移動もやむ無しといったところ…


「分かった。ここで話をして恥をかくのはお前だからな? では単刀直入に言わせて貰うぞ。薩川さんに言い寄るのを止めろ」


「マジそれ。お前が言い寄るから、薩川ちゃんに変なウワサが立ってんだろ? つか、お前がウワサ流してんじゃねーの?」


「生徒会のことがあって、薩川さんが無下に断れないことを利用して接近するなど卑怯な男だな。しかも婚約者などと無責任な噂を流して、薩川さんは迷惑してる。だから大人しく引き下がってくれないか?」


「…は?」


 何を言ってるんだこいつら?

 言うに事欠いて、こんな曲解までするバカもいるのか…


 今までも「噂がデマ」だと頭ごなしに考える連中は多かった。でもこいつらは噂の内容を把握した上で、都合よく斜め上の解釈をして答えに辿り着いた別種のバカってことだ。


 これまた面倒な…


「どういう噂を聞いてきたのか知りませんけど、俺と沙羅さんは歴とした婚約者ですよ。言い寄ってるとか、それはあんたらの希望的な観測でしょうが」


「な、名前呼びだと!?」


「うわー、ナレナレシー」


「全く…思い込みもそこまで行くと痛々しいな」


 馴れ馴れしいとか痛々しいとか、そっくりそのまま返してやりたい。

 正にお前達のことなんだけど。


「…ぷっ…盛大なブーメラン」

「…馬鹿に付ける薬はないな」


 山川達の聞こえよがしなイヤミを聞いて、不快そうに顔をしかめる三人組。

 でもこういう連中は、物分かりが悪くて面倒臭いと相場が決まっている。

 まともに相手をしても時間の無駄だから、ここはハッキリとした証拠を見せて追い返すのが手っ取り早いんだけど…問題はその証拠だ。


 噂が信じられないってだけなら、俺と沙羅さんの写真だけでも十分効果はあると思う。

 でもこの手合いは生半可な写真だと否定するだろうし、並んで撮ったくらいの写真なら言い掛かりをつけてくるのが目に見えてる。


 つまり…


「俺も色々と経験してるんで、あんたらみたいなタイプは話をするだけ無駄だってわかってますよ。どうせ決定的に認めるしかなくなるまで、子供みたいに認めないって駄々こねるだけでしょ?」


「ハァ? オマエ何言っちゃってんの?」

「お前の妄想癖こそ、何とかするべ…」


「黙れよバカ共」


「「「っ!?」」」


 俺は自分がイニシアチブを取れるように、気合いを入れて不意打ち気味にプレッシャーをかける。

 どうせ細かく説明するのは時間の無駄だし、今はこいつらを言い返せないくらいに追い込んだ方が早い。

 それに学祭まで何とかなれば、こんなふざけた連中が二度と妄想出来ないくらいのシーンを拝ませることが出来る筈だ。


 だからここは、一気にいくぞ。


「さっきから知ったような口を利いてるけど、あんたら沙羅さんの友達か? それとも知り合いか? まさか話もしたことないとか言わないよな? 俺は本人に聞けるから、嘘を言っても直ぐにわかるぞ?」


「……ちっ」

「…な、何だよこいつ、いきなり…」

「………」


「答えられないってことは他人だよな? 全く関わりも無い癖に、知ったような口を利いてたってことか? じゃあ沙羅さんが迷惑してるって誰が言ったんだよ? あんたらの勝手な妄想じゃないなら答えられるよな?」


「こ、こいつ、言わせておけば…」

「テメェ…」

「お前、誰に向かって口を利いて…」


「勿論、現実も認識できない阿呆に向かって口を利いているんですよ。と言っても、そのおめでたい頭では理解出来ないのでしょうね?」


 !?

 な、何で!?


「ハァ!? テメェ、誰に向かって口を聞いてやが…る……んでしょうか」


「さ、さ、さ…」


「薩川…さん!?」


 開いていた教室の入り口に、いつの間にか立っていたのは…沙羅さんだった。

 下らない物でも見るような…ゴミでも見ているように蔑んだ目で、三人をじっと睨んで立っている。

 三人はその姿を見て、身動きが取れなくなったように固まってしまった。

 

 と言うか、何でここに!?


「…ありゃ…奥さん来ちゃった」

「…旦那のピンチを察知したとか?」

「…つか、あれヤバくね?」

「…この前より…いや、マジでヤバい感じが…」


「はぁ、追い付いた。あんた高梨くんのことになると無茶しすぎ」


 ええええ、夏海先輩まで来たんだけど!?

 何で!?

 どうなってるの、これ!?


「さ、沙羅さん、夏海先輩、何でここに!?」


「へ? いや、何でって…」


「私が呼んだ」


「ええっ!?」


 花子さん、いつの間に!?

 振り返って花子さんを見ると、その手にはスマホがある。後ろに下がった後、直ぐに連絡してくれたのか。

 ただ…沙羅さんが来てくれたのは勿論嬉しいけど、俺としてはこんな茶番に巻き込みたくなかったのが本音で…


「一成の気持ちは分かる。でも嫁が来るのが一番手っ取り早い。理解力のないバカを、会話で説得するのは時間の無駄だと一成も言った」


「私もそう思うよ。でも校内で全速力を出すとは思わなかったけど…」


 花子さんの言っていることが一理も二理もあるってことくらいわかってる。

 実際、俺もそう思ったし。


 でも…それでも。


「と言うか、既読ついてからここに来るの早すぎ」


「仕方ないでしょ。沙羅が教室を飛び出したんだから。しかも高梨くんのことだからめっちゃ早いし…陸上部かっての!」


「夏海、そんなどうでもいい話は後にしなさい」


 沙羅さんは少しキツめの口調で夏海先輩を嗜めると、そのまま三人を威嚇するように睨みながら俺の側へ移動してくる。

 そして真横まで来ると、俺の左腕に手を添えて、心配そうな表情で俺を見上げ…


「「「なぁっ!?」」」


「一成さん、ご無事ですか? 何かされたと言ったようなことは?」


「…大丈夫です、でも」


「お話は後でお伺いします。それよりも今は…」


 ここで初めて、沙羅さんが怒りの表情を見せた。

 いつも冷静に、淡々と相手を処理する沙羅さんが、自分の怒りをストレートに現した。

 これは本当に珍しいことだ。

 それだけバカ共に対して怒っているんだろう。


「正直、私の大切な一成さんに迷惑をかけた阿呆共を、今すぐにでも排除したいのですが…一応聞いておきますよ。何の用があったのか、今すぐ答えなさい?」


「た、大切!?」

「さ、薩川さん、それは本当に…」


「私は、答えろ…と、言いましたが?」


「ひぃぃっ!?」


 沙羅さんの言葉遣いは相変わらず丁寧だ。

 なのに聞いているこちらまで寒気を感じるような、そんな極寒の声音。

 そして凄まじいまでの「何か」を感じさせる、鋭く力強い眼差し。

 沙羅さんからの強烈な「何か」を受けて、三人は顔を引き攣らせ、完全に口をつぐんでしまう。


「…こ、こ、怖…」

「な、何だよ薩川先輩…や、ヤバいって…」

「…み、見てる、こ、こっちまで…」


「あ、あのさ、薩川ち…」


「さっさと答えなさい!!!!!」


「ひっ!?」


 チャラ男のバカっぽい口調がトリガーになったように、沙羅さんが激しい怒声を放つ。

 普段が物静かなだけに、その勢いは本当に凄まじい。

 だから様子を見守っていたクラスメイト達まで、その剣幕に驚きや恐怖のような表情を滲ませて黙ってしまった。


「何だこの騒ぎは、どうした!?」


 っ!?


 沙羅さん達が入ってきた入り口から、今度は大声で担任が駆け込んできた。


 これは完全に想定外だ!

 まだ予鈴すら鳴ってないのに、今までこんなに早く来た試しがないだろ!?

 何で今日に限って…


 担任はこちらを見ながら、状況を確認するように俺達と三人組を交互に見ている。

 別に疚しいことなんかしてないが、それでも沙羅さんに注意が行くことだけは絶対に避けたい。

 ここは俺が強引に割り込んででも、何とか沙羅さんだけは…


「先生!! これは…」


「高梨は黙ってろ、大方の予想はついてる」


「…は?」


 担任は俺にそう言うと、何を思ったのか、険しい表情で三人だけを睨んだ。


「お前ら三人、今から職員室へ来てくれ」


「何で俺が!?」

「オ、オレまだ何もしてねーし!!」

「ま、待って下さい。俺は…」


「せんせー、その先輩達は、高梨に言い掛かりつけて囲もうとしてましたー」


「「「っ!?」」」


 山川の一言に思わず「小学生か!?」と突っ込みを入れたくなってしまったが、俺の為だと分かっているから何も言わない。

 でも山川の声を聞いた担任は、ますます険しい表情で三人を睨み、逆に三人は気まずそうに視線を逸らした。


「薩川は高梨のことがあるからここに居ても不思議はないが、お前らがここにいる理由はなんだ? 山川の言うことを丸ごと信じる訳じゃないが、騒ぎを起こしている以上は説明して貰う必要があるぞ?」


「えっと…」

「そ、それは…」

「いや…その…」


 三人は何かを言おうとしたが、何も言葉が出てこないのか、どこか諦めたような表情で項垂れた。そのまま無言で促されるように教室の出口へ向かい始め…


「待ちなさい」


 でも…沙羅さんが突然声を掛けて、その動きを止める。

 そのまま三人へ近付いて行くので俺も後を追おうとして、後ろから伸びてきた花子さんに手を掴まれてしまう。


 …ここは沙羅さんに任せておけってことか?


 担任もいるから大丈夫だとは思うけど、いつでも飛び出せるように身構えながら様子を見守ることにする。


「ここまでした以上、当然覚悟は出来ているんでしょうね? あなた達は今から私の敵ですよ。この場は先生の顔を立てますが、もし次に顔を見せたら…容赦しません」


 そう吐き捨てると、もう用はないとばかりに沙羅さんが戻ってくる。そのまま俺の正面に立ち、どこか心配そうな様子で俺の胸に手を添えた。


 そして三人は…

 沙羅さんから敵とまで言われてしまったからなのか、俺達の様子を見て現実に気付いたからなのか。

 絶望的な表情を浮かべ、焦ったように教室を出ていった。


 そして担任は俺達を見て頷いてから、そのままバカ共を追いかけていく。


 嵐のように過ぎ去ったというか、結局、解決したのかしていないのかよく分からないけど…

 でも、これから先も、こういうことは有り得るんじゃないかと、改めてそう思えた出来事だった。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


 本当に、こういうシーンはスランプのときに書くものじゃないですね・・・

 何度も見直して、何度も書き直すのは悪循環です・・・


 でも、こういうことが無い方が逆におかしいと思うので、思い切って書きました。

 そして、凄く時間がかかってしまいました・・・


 次回はこの後の昼休みと、薩川家での話が入ります。

 書いてみて長くなりそうなら分けるかもしれませんが、予定では1話完結で、その後は遂に学祭編へ入ることになります~


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