第271話 お世話一生

 先程までの騒ぎはまだ収まっていないものの、時間がないので料理教室を再開させることになった。

 本当は完全に落ち着くのを待ちたかったけど、原因を作ったお前がそれを言うなって話だ。


 という訳で、沙羅さんの仕切り直しの下、クラスメイト達はそれぞれの作業へ戻る。

 当然だけど、何となく浮わついたような空気感は残ったままだ。でもそれは俺の間抜けから始まったことであり、そう思うと素直に申し訳ないとは思う。

 

「…………」

「…俺らってさ…何して…」

「それを言うな…」

「ぁぁぁぁ、薩川先輩が…」

「はぁ…現実見えたわ…暫く立ち直れないかも」


 男子達も先程までの騒ぎを引き摺っているようで、これは本音を言うと結果オーライかもしれない。

 でも結局は、どれもこれも花子さんと川村の言った通りの流れになってしまった。

 それを考えると、少し悔しいというか複雑と言うか…微妙な感じだ。

 まぁ男子達がこれで理解してくれたというのであれば、それはそれで素直に嬉しいことではあるけど。


「…なんつーか…おもしれー光景だな」

「…そうだな。あそこまで見せつけられたら、いくらバカでも理解するしかないからな」

「…いや、俺も地味にショックなんだけど…」


 とは言え、料理教室を変な感じにしてしまった俺がこの状況を手離しで喜ぶ訳にはいかない。

 だからもう余計なことは考えずに、このまま俺も料理教室に集中しよう。


 そう思って先程やりかけだったジャガイモに手を伸ばそうしたところで、突然横から伸びてきた手が俺の手に重なった。そしてそのまま押さえられるように手を下げられてしまう。


 えーと…何故に?


「一成さん、今日はもうお料理に手を出してはいけませんよ?」


「え? いや、俺はまだ全然やってないんですけど…」


 沙羅さんが俺に意地悪を言ってる訳じゃないのは勿論わかってる。

 何かしらの理由があるんだろうけど、でも学祭でクラスの事に全く関われない俺としては、せめてこのくらい関わっておきたいんだが。


「一応のお話ですが、指先のお怪我をされた以上、食中毒の危険性もあります。それに、そもそも一成さんはお料理を覚える必要がありません」


 食中毒!?

 そんな可能性があるのか…知らなかった…


 でもそういう理由で止められたのなら、俺がこのまま強引に参加する訳にもいかない。そんなことをすれば、沙羅さんにも皆にも迷惑をかけてしまう。

 これは困ったな…


「一成は、この料理教室をセッティングした時点でしっかりクラスに貢献してる。もし文句を言う奴がいたら私が許さない」


 花子さんのフォローは気持ちとしてはありがたいし、そう言って貰えるのは勿論嬉しい。でもこれは俺を料理に参加させない為に言ってくれているのだろうし、そう思うと素直に喜べないというのが本音だ。

 それもこれも自分の間抜けが招いた結果ではあるので、自業自得と言ってしまえばそれまでなんだけど。


「あのっ、薩川先輩!! 何で高梨くんは料理を覚える必要が無いんですか!?」

「高梨くんが貢献してくれたのは納得ですけど、今どき男子でも料理の一つや二つくらい…」


 何故かこのタイミングで、周囲の女子達が食い気味に会話へ絡んでくる。

 さっきまで勝手に盛り上がっていた筈なのに、何でいきなり?

 しかも妙に楽しそうな様子なのも気になる。


「必要ありませんよ。一成さんのお食事も身の回りのお世話も、全て私がしていますから」


「……え?」

「…は、はい?」


 沙羅さんから「当然です」と言わんばかりの返答を聞いて、女子達がポカンとした表情を見せる。

 いくら沙羅さんが大人っぽい人だといっても、年齢で考えれば普通の女子高生であることに変わりはない。そう考えてみれば、これは一般的な女子高生が言ったり実行したりするようなレベルの話じゃないということは誰でも感じる筈だ。

 となれば当然、直接関わりのない他人では尚更信じられない話だろう。

 でも実際に沙羅さんからお世話をされてる俺からすれば、不思議でも何でもない話なんだけどな。


「全て…ですか?」


「はい」


「それって、家事は全てやるって意味ですか?」


「家事に限った話ではありませんよ。私が一成さんにして差し上げられることであれば、その全てという意味です」


「えっ!?」

「何でそこまで!?」


「何故と言われましても、これが私の愛し方であるとしか…」


「「「あいぃぃぃぃぃぃぃ!!!???」」」


 クラスメイト達の視線が…正確に言えば、女子の凄まじく好奇な視線と、男子の凄まじくどす黒い視線が勢いよく俺に集まってくる。沙羅さんは基本的に、こういうことをストレートに表現するからな…

 

「愛って…」

「そ、それはその、つまり…」

「薩川先輩は、た、た、高梨くんを…」

「あ、あ、あ、ああ愛して…」


「ええ。私は一成さんを愛しておりますよ。ですから、私の全てで一成さんを幸せにして差し上げたいのです」


「「「 !!!!!!!!!!!!! 」」」


 俺の目を見ながら、沙羅さんが幸せそうに満面の笑みを浮かべた。

 沙羅さんはどこであっても、こうして俺への気持ちを見せてくれる。伝えてくれる。表してくれる。

 そしてその気持ちは俺だって同じなんだ。沙羅さんを愛しいと思う気持ちも、幸せにしてあげたい気持ちも全て同じなんだ。 


「うぉぉ…め、目で通じ合ってるぅ」

「こ、こんなの見せられたら、茶化すことができないし…」

「いや、これはもう素直に応援するしかない!!」

「同意!!」


 女子の騒ぎが、よく分からない方向になって来たような気がする。

 テンションも明らかにおかしくなっているように見えるし、これは一体どういう流れだ?

 でも女子が俺達に対して協力的になってくれるというのであれば、それはそれで決して悪い話ではないのかもしれ…


「ほら、高梨くん、薩川先輩が愛してるって言ってるのに!!」

「男なら答えなきゃね!!」

「高梨くんは、薩川先輩のことをどう思ってるのかなぁぁぁ~」

「むふふふふふふ…た、楽しす…コホン、応援するよ!!」


 …そんなことは無いなこれは。

 女子達の様子が、まるで水を得た魚のように…ひょっとしなくても、これは俺にとってある意味弊害があるんじゃないのか?


「皆さん、そんな無理にけしかけるようなことを…」


「無理じゃないです!!」


 沙羅さんの「無理」という言葉に、俺は思わず反応してしまった。

 沙羅さんにここまで言わせておきながら、張本人の俺が全く答えないままだなんて情けなさすぎる。

 俺がミスコンでやろうとしていることを考えたら、自分の気持ちをこの場で宣言するくらい出来なくてどうする。

 これは女子に煽られたからじゃなく、自分の意思で気持ちを表すべきだ。


「…ふぉぉぉ、行ったぁぁ!?」

「…さぁ高梨くん、男を…いや、漢を見せるのか!?」

「…わくわくっ」


「…一成さん?」


「俺だって、沙羅さんを愛している気持ちは同じです。沙羅さんを幸せにしてあげたいって、絶対に幸せにするんだって、いつも思ってます。今の俺はまだ出来ることが少ないけど、でもこの先は、将来は、必ず自分なりの形で沙羅さんを幸せにしてみせます!」


 今の俺が、沙羅さんの優しさに寄りかかっているだけだということは分かってる。沙羅さんが俺にそれを求めてくれるから、結果的に成り立っているだけだってことも分かってるんだ。

 でもここまで俺に尽くしてくれる沙羅さんに対して、自分がどんなお返しが出来るのか、今の自分に何が出来るのかはまだ見えてこない。だからせめて、沙羅さんからの気持ちには気持ちで返す。これは俺の大前提だけど、こうして沙羅さんが周囲にも俺への気持ちを見せるというのであれば、俺もそれを受け入れて同じように返すべきだ。

 それが今の俺に出来る、数少ないお返しの一つなんだと思う。


 そして俺の言葉を黙って聞いていた沙羅さんが、本当に幸せそうに…眩しいくらいの笑顔を浮かべてくれた。


「一成さんのお気持ちが本当に嬉しいです。でも一つだけ、一成さんの出来ることが少ないというお話は間違いですよ? 私がこうして毎日幸せを感じているのは、一成さんが私を受け入れて下さって、私を愛して下さるからです」


「でもそれじゃ足りないんですよ。これは俺の自己満足ですけど…でも俺は」


「ふふ…畏まりました。でしたら私の方も、これまで以上に一成さんを幸せにして差し上げられるよう頑張りますね」


 今でも至れり尽くせり、おんぶに抱っこの状態だと言うのに、これ以上なんてされてしまったら俺は将来を使っても返しきれなくなってしまうかもしれない。

 

「…こ、高校生の会話じゃないよね、これ」

「…ごちそう様ですっ!!」

「…薩川先輩って、こんな激甘の人だったの?」

「…いや、高梨くんにだけでしょ」

「…寧ろ他の男子には激辛だし」


「…なぁ…いつまでこんなやり取りを見せられるんだよ…」

「…マジで辛くなってきた…」

「…これってよ、つまり薩川先輩の方が高梨にベタ惚れってことなのか!?」

「…アンマリダー」

「…頼む…頼むから早く料理教室始めてくれ…」


「嫁、気持ちは分かるけどやり過ぎは良くない。一成が家のことを何も出来ない男になったらどうする?」


 ここまで話に入らず様子を見ていた花子さんが、苦言を呈するように口を挟んだ。

 その話は洒落になってないというか、実のところ俺もかなり気にしている部分ではある。沙羅さんが家のことをしてくれるようになってから、俺は家事を全くやらなくなってしまったからだ。

 以前は僅かながらでもやっていたのに…

 このまま沙羅さんに全てを任せていたら、俺は本当に家のことが何も出来なくなりそうで少し怖い。

 

「それでも何ら問題はありませんよ。一成さんのお世話も家事も、全て私に任せて頂けるのであれば望むところです」


 ブレない…沙羅さんは何に於いても、本当にブレない人だ。

 でもこれは話が大袈裟になりすぎている。

 確かに俺の日常生活が沙羅さん任せになっていることは事実だけど、だからといって、開き直って全てを丸投げするようなダメ人間になるつもりはない。


 説得力はないかもしれないけど…

 

「でも、一成さんなら絶対に大丈夫ですよ。花子さんだってそのくらいは分かっているでしょう?」


「まぁね」


 ほっ…良かった。

 いくらなんでも、そこまで何も出来ない人間には思われていなかったようだ。

 花子さんも納得してくれたみたいだし、危うく立ち直れなくなるところだった。


「あ、一成さん。万が一そうなったとしても問題はありませんからね。そのときは責任を持って、私が一生お世話をして差し上げます♪」


 不意に俺の顔を見た沙羅さんが、笑顔でそんなことを言い出した。

言葉こそ冗談っぽく聞こえていても、普段の沙羅さんを考えてみれば決して冗談には思えない。

 それどころか寧ろ、沙羅さんは本気で考えていても不思議はないくらいだ。

 という事はつまり、俺はますますダメ人間になる訳にはいかないということ。


「あの、沙羅さん? いくらなんでも、俺だって少しくらいは…」


「一生!?」

「うわぁ…いくらなんでもそれは重すぎ…」

「私なんか、この前カレシと別れたばっかりなのに…」

「実際そんなもんだよね。今から一生の話はさすがに…」


「勘違いをしないで下さい。私達は婚約者であり、単なる恋人という訳ではありません。もう将来を見据えて既に動いていますし、当然ですが結婚を考えた上で話をしているんです。だから一生という言葉も、決して大袈裟ではありませんよ」


 これは沙羅さんの言う通りであり、俺達は恋人でもあり結婚の約束をした婚約者でもある。

 だからどうしても将来的な話が出るし、現に俺は進路も就職先も結婚を踏まえた上で決めたくらいだ。

 でも自分達の状況が、一般的な高校生から大きく外れていることの自覚はあるので、クラスメイト達がこれをすんなり理解できるとも思ってはいない。

 

 あと肝心なことだけど、俺だって沙羅さんと一生であれば望むところ。


「あ…」

「そ、そっか、薩川先輩と高梨くんは…」

「そうだよね、け、結婚するんだよね。だから私達みたいな考え方じゃないのか」

「…うわぁ…大人と話をしているみたいに思えてきた」


 俺も正直に言えば、最初に話が出たときは重いと感じたからな。

 だから目の前の女子達が同じように重いと感じても不思議はない。

 今は全くと言っていい程違和感はないし、寧ろそうなって当然だとすら思っているくらいだ。


「まぁ、どっちにしても一成は大丈夫。嫁が大変なときは私がいるし。弟の面倒を見るのは姉の役目。私だって家事の勉強しているから問題ない」


「あの…花子さん? 私は一成さんのお世話を他の女性に任せるつもりは毛頭ないのですが」


「そうは言っても、何か必要なときはあるかもしれない。困ったときはいつでも任せて」


 ちょっと待ってくれ。さっき俺なら大丈夫だって納得してくれたんじゃないのか?

 何故二人して、俺が何も出来ない男になる前提で話を進めているんだ?


「全く…花子さんまで母と似たようなことを言わないで下さい。あの人も何かあれば自分に任せろと煩いのに…」


 ちょ…真由美さんはそんなことを沙羅さんに言ってるのか…

 確かに真由美さんは、隙あらば俺に何かしようとしてくる人だ。チャンスと見れば、嬉々として手を出してくる姿が目に浮かぶ。

 真由美さんも沙羅さんに負けず劣らずの世話焼き…世話好き? だからなぁ。


「…うおぉ…嫁と姑と小姑の、高梨くん完全シフト!」

「…それ何か違ってない? 意味はすっごいわかるけど」

「…やべぇ…それ楽しす…じゃない、信じらんない」


「…くっそぉぉ、薩川先輩だけでも超絶羨ましいのにぃぃ!!」

「…花崎さんと、あんな美人のお母さんまで…」

「…ちくしょうちくしょうちくしょうちくしょう」

「…はぁ…さっきまで騒いでた自分が悲しくなってきた…」

「…もう、早く終わらせて帰りたい」


「とにかく、一成さんのお世話も家のことも、全て妻になる私の役目です。これは誰にも譲りませんし任せません。はい、これで話は終了ですね。さぁ、料理教室を続けますよ」


 真由美さんのことまで思い出したからなのか、沙羅さんが辟易とした様子を見せて強制的に話を切り上げてしまった。

 まぁ俺のダメっぷりを認定するような話にもなりかけていたので、これはこのまま突っ込まずに流してしまう方がよさそうだな…


……………

………


「うわぉ、凄すぎ!?」

「…何であんなに綺麗に出来るの!?」

「やべぇ、プロすぎる…」

「流石は薩川先輩…」


「うぉぉ、スゲェ美味そう…」

「あああ、食べたい…死んでもいいからせめて一口…」

「あれが…薩川先輩の手作りオムライス…」

「何故だろう、輝いて見えるぜ」

「どうせ食べられないんだから、せめて見た目だけでも記憶しておきたい」


 結局あれから、沙羅さんは各テーブルを細かく回り、要所要所の指示を出しながらしっかりと先生を務めた。

 俺は残念ながらそれを見ていることしかできなかったけど、皆は途中から楽しくなってきたようで、いつの間にか余計な私語もなくなり真面目に取り組むようになっていた。

 そして気が付けば全員が一応の完成品を作り終わっていて、それを一通り確認した沙羅さんは何故か突然俺の横でオムライスを作り始めた訳だ。


 そして現在に至る…と。


「はい、これでオムライスは完成です。如何でしたか、一成さん?」


「何というか、凄すぎて言葉もないと言いますか…素直に感動しました」


「ふふ…一成さんにそう言って頂けますと、私としてもこれまで努力した甲斐があると言うものですね」


 沙羅さんは真由美さんから散々仕込まれただけだと簡単に言うけど、これだけの料理スキルを身に付けるには相当な苦労があったことは想像に難くない。

 実を言うと、こうして沙羅さんの調理する姿を終始眺めていたのは初めてだったりするので(沙羅さんはリアルで男子厨房に入らずな人だから)、料理とはこんな流れるように出来るものなのかと素直に驚いた。


「それでは皆さん、自分の作った料理を試食して下さい。周囲に声をかけて、お互いで味見をしてもいいですよ」


「「「 は~い!!! 」」」


 沙羅さんの号令に、小学生のような返事をしたクラスメイト達が自分の席に戻っていく。そして和気あいあいとした様子で、早速お互いの料理に手を出し始めた。


「…うん、美味しい!」

「…スゲェ…家じゃこんなに上手くできなかったのに

「…流石は薩川先輩…こんなスキルまで持ってるなんて」

「…出来ないことはないって噂も本当かもね」


 でも結局…俺は料理が出来なかったな…


「一成さん、はい、あーん」


 ぱくっ

 もぐもぐ…


 はぁ、美味い、美味すぎ……って、思わず条件反射的に!?


「…ちょっ、躊躇すらしないとか!?」

「…びっくりするくらい自然なあーんだったね」

「…いや、あれは普段からやり慣れてるでしょ絶対」


「ぉぉぉぉ…」

「どこまでイチャつくんだよぉ…もういい加減にしてくれよマジでぇぇ」

「料理教室は終わりだろ!? もう帰らせてくれ…」

「朝、浮かれてた自分を殴りたいわ…」


「如何ですか、一成さん?」


「美味しいです、というか美味しすぎます」


「それは良かったです」


 俺の正直な感想を聞いて、沙羅さんが嬉しそうな笑顔を浮かべた。

 そうだよな、せっかく沙羅さんが作ってくれた料理が食べられるんだ。

 自業自得であるからこそ、それをいつまでも気にしていたら沙羅さんにも申し訳ない。

 だから気持ちを切り替えろよ、俺。


「一成さん、申し訳ございません…私が…」


「沙羅さん、それは言わないで下さい。怪我をしたのも、それで参加できなくなったのも、全部俺の責任ですから」


 ほら見ろ、遅かった…俺の馬鹿野郎。


 優しい沙羅さんは、俺が料理教室に参加できなかったことを自分の責任だと感じてしまったようだ。

 でもこれは全て俺の責任であり、沙羅さんに落ち度なんか全くない。

 寧ろ俺の方が謝る必要があるくらいなんだ。


「はい…畏まりました。でしたらせめて、私にその穴埋めをさせて下さいね?」


「穴埋めですか?」


 どういう意味かはわからないけど、沙羅さんのしてくれることであれば、俺が断るなんて有り得ない。逆に沙羅さんがそれで納得してくれるというのであれば、俺としてもそれを受け入れるだけだ。


「はい。一成さんはお怪我をしてしまいましたから…」


 何故だろう、沙羅さんの表情が心配と喜びの混在したような…複雑な表情に見え……まさか…


「ですから、全て私にお任せ下さいね? お怪我をした旦那様を看病するのは、妻の大事な役目です♪」


「嫁、まだ結婚した訳じゃ」


「確かに今はまだ予行演習ですけど、だからこそですよ。結婚後に困らない為にも、こういうイレギュラー的なことは積極的に対応していきませんと」


 花子さんの突っ込みを、沙羅さんが正論(っぽい理屈)で振り切ってしまう。

 確かにそう言われてしまうと、思わず納得して頷いてしまいそうな部分もあるような無いような…

 でも沙羅さんはかなり乗り気な様子で、たとえそれが建前であっても俺に断ると言う選択肢は既にない。


「…ふおおお、旦那様だって、妻だって!?」

「…ねぇ…途中からずっと気になってたんだけどさ…」

「…何?」

「…薩川先輩は高梨くんのお世話を全てやってるんだよね? どこでやってるの?」

「…そりゃ家でしょ? …あれ?」

「…それにさ、看病するって、どこで高梨くんを看病するの?」

「…それも勿論、高梨くんの…家?」


「…あのさ、高梨くんって独り暮らしだって聞いたことあるんだけど……」


「「「……………え"っ!!!???」」」


 過去二回、沙羅さんは俺の怪我に対して凄まじく手厚い看護をしてくれた。

 あれは本当に凄かったけど、それは婚約する前の話だ。

 こんな掠り傷みたいなもので、流石に大げさなことにはならないと思うが(箸を持つことを禁止とか)あの頃とは沙羅さんの考え方や心構えが違っていても不思議はない。


 つまり…少し気を付けた方がいいのかも…


 特にお風呂を!


「と言う訳で、このオムライスは全て私が食べさせて差し上げますね。はい、あーん」


 ぱくっ…

 もぐもぐ…


 まぁそれはそれとして、今はいいか。

 俺が幸せで沙羅さんも幸せならそれでいい。

 こうして沙羅さんの幸せそうな笑顔が見れるというのなら、それに勝るものなど何もないのだから。


「美味しいです」


「ふふ…私の愛情がいっぱい入っておりますから」


「はは、そうですね。それはとっても感じますよ」


「もう、一成さんったら♪ はい、あー…」


「「「 いい加減にしろぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!!!!! 」」」


 という訳で、終始絶叫と大騒ぎに包まれた料理教室は、最後も男子達の絶叫で終わるという何とも締まらないオチがついた。


 でも一応言っておくけど、これは決してわざとじゃない。追い打ちをかけようとか、ダメ押しをしようとか、そんな余計なことを考えた訳じゃない。あくまでも純粋な気持ちであり、極めて自然な流れによるものだ。


 つまり、どれもこれも不可抗力ってことだよな、うん。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

本調子じゃないことに加えてGWのお仕事が想像以上に忙しくて、かなり間が開いてしまいました。すみませんです。

これで料理教室は終了となります。

降って湧いたお風呂フラグがあるのかないのか(ぉ


次回は恐らくですが、Here comes a new challenger?

でもいつも通り、あまり重くはなりませんw


そして学祭が近づいてきますが(もう少し先です)、以前から考えていた読者様を交えた試みをやってみたいと思います。詳しくはノートに書いてありますので、そちらをご覧ください。

全く応募が無いのも寂しいので、ご参加お待ちしております(謎)

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