第224話 報告会、開催

報告会当日


放課後の生徒会は、近日に控えた生徒総会に向けた準備が行われていた。

沙羅さんは会長就任演説の原稿作成、会長を含めた俺達は、総会で議題に上がる内容の確認と、承認を求める項目をチェックしている最中だ。


「あまりこういうことを言ってはいけないのだが、承認と言っても右から左へ流すだけなんだよ。興味のない生徒が圧倒的に多いから、説明をしても聞いていないというのが殆どだからね。悪い言い方をすれば、やることに意義がある…とでも言うべきかな。」


納得するのは良くないと思うが、残念ながら会長の話はとても良くわかる話だった。仮に俺が生徒会に在籍しておらず、もしくは沙羅さんが居なければ、生徒会で何をやっているかなど全く興味を持たなかっただろうと自分でも思ってしまうからだ。


「とはいえ、質問をされることもあるので、手を抜く訳にはいかないんだよ。」


「人によるけど、興味を示す人もいるからねぇ。」


一応は準備しておかないと、もしものときに困るのは当然の話である。

だからこそ、時間を使ってまとめているのだから。


「高梨くん、先日も話をしたことなんだが、新しく役員になってくれそうな人に当てはあるだろうか? どうしても難しければ、総会で立候補なり募集をかける必要もあるんだが…」


やばい…すっかり忘れていた…


沙羅さんのお見合い話に纏わる一件でゴタゴタして、まだ何の話もしていなかった。

運動部である速人は難しいと思うが、花子さんと藤堂さんには何とか引き受けて貰えないか、俺の方から相談しておこうと思っていたのに。


「す、すみません、今日の夜に集まりがあるんで、そこで話をしてみます。」


「すまないが宜しく頼むよ。役員が身内の集まりになろうと、今後のことを考えてなるべく結束を固められるメンバーにしたいんだ。」


会長は上手く濁しているが、沙羅さんと協調できる人が欲しいと暗に言っているだけである。

だが正直なところ、俺としても友人が一緒にいてくれた方が嬉しいし、その方が沙羅さんの負担をより軽減できるだろうとは思っている。特に花子さんは、間違いなく俺より有能だろうと思っているのだ…情けない話であるが。


「ところで、これは単なる興味で聞くんだが…今日は何かあるのかい?」


この聞き方をしてくるということは、会長は夏海先輩から何も聞いていないのだろう。

別に隠す話でもないので、伝えても問題ないだろう。


「今日は仲間内で報告会があるんですよ。その、俺と沙羅さんのことを…」


「それって婚約発表ってこと!?」


いきなり興味が湧いたらしく、俺と会長の話を傍観していたメンバーが話に加わり始めてしまった。

婚約発表? でも決して間違いではないのかな…婚約者になったことを報告する訳だし。


「婚約発表と言われると大袈裟ですけど、とりあえず婚約者になったこととか、先日沙羅さんの実家で話をしたことを報告することになってます。」


「へぇ、そうなんだ。じゃあ集まるのは、本当に仲のいい友達ばかりなの?」


「ええ、主には俺の友人達や、沙羅さんの友人ですね。」


「あ、薩川さんの友達ってことは、夏海ちゃんもいるのかな?」


先輩はどうやら、沙羅さんと夏海先輩が親友であることを知っているようだ。

会長は当然わかっている話なので、特に反応せずに今はお茶を飲んでいる。


「ええ。後はもう一人…」


「あ、ひょっとして西川さん!?」


「ゴホッ!」


マイペースにお茶を飲んでいた会長が、いきなり吹き出した。不幸中の幸いで誰もかからなかったが、会長はお茶が気管に入ったらしく、まだむせているようだ。


「ゲホッ、ゲホッ」


「だ、大丈夫ですか会長?」


俺は背中を叩きながら声をかけるが、もう少し待った方が良さそうだ。

そのまま背中を叩きつつ様子を見ていると、やがて落ち着いてきたらしく呼吸も元に戻ってきたように見える。


「い、いや、すまない、ありがとう高梨くん。」


少し涙目になっているが、話はできるようになったらしい。まだ少し咳をしているようだが、もう大丈夫だろう。


「いえ、大丈夫なら良かったです。」


「会長、大丈夫? どうしたの急に?」


「い、いや、何でもないんだ。ところで高梨くん、先程の話なんだが…今日の君達の集まりに、薩川さんの友達で来るのは、夏海と…に、西川さんが来るのかい?」


「あれ、西川さんを知って…って、そうですよね、前はこの学校に居たんだから、知ってますよね。」


会長は夏海先輩の幼馴染みなのだから、知っているだけでなく例え友人であったとしても不思議はない。もっとも、西川さんを知っているのは会長だけではないようだが。


「あ、あぁ。夏海経由でもあるが、委員会の関係で顔を合わせることもあってね。だから私も知り合いではあるんだよ。それで西川さんは、その、元気かい?」


「え? え、ええ。別に普通だと思いますけど。」


そのくらいであれば、連絡を取り合っていれば確認するまでもない話である。これは謙遜でも何でもなく本当に「知り合い」というくらいなのだろう。それによくよく考えたら、西川さんから会長の話を聞いたことがない。


「うわー、いいなぁ。私も久しぶりに会いたいなぁ」

「薩川さん、夕月さん、西川さんって、スゲー面子だな。合コンだったら参加希望者が殺到するぞ。」

「だな。だ、だがそれよりも、婚約発表って…それってつまり、け、けけけけけけ結婚…ああああああショックが羨ましくてキツくて思い出すと…」

「何言ってんのかわからないから落ち着きなさいよ。まぁそれだけショックなんでしょうけど。」


あの様子では、昨日の衝撃がまだ抜けきれていないようだ。そういえば諦めたと言う発言があったが、ひょっとして以前は沙羅さんのことが好きだったりしたのだろうか? 

…そう考えると何かモヤモヤする。


「一成さん、そちらのお話しは如何ですか?」


原稿が一段落したのか、それとも完成したのか、今まで会話に混じらなかった沙羅さんがいつの間にかこちらへ来ていたようだ。

近くの椅子を持って俺の真横へ来ると、身体がピッタリとくっ付くような位置に自身の座席を作ってしまう。

その様子をニヤニヤと眺めている女性陣に対し、明らかに引き攣った表情を浮かべている男性陣との落差は、不謹慎かもしれないがちょっと面白い。


「ごめんね、薩川さん。旦那さんを借りちゃって!」


旦那さん…

今までそんな呼び方をされたことはないのだが、あの表情から察するに沙羅さんのリアクションを期待しているのだろう。


だが、それはちょっと…いや、かなり甘い。


「いえ、一成さんにもお仕事があるのですから、借りるなどというお話ではありませんよ。」


「…照れも何もない…だと」

「…旦那さんって言われて、普通に高梨くんのこと言い出したわね」

「…堂々とされすぎて、茶化す隙がないわ…」

「…薩川さんと結婚…」

「…もういい加減慣れようぜ…羨ましいけど…うう…」


そんな程度で、照れたり動揺したりするような沙羅さんではない。

そもそも自身のことを「妻」と呼ぶこともあり、それは冗談や惚気だけで言っているだけではないと思う。きっとそれは心構えというか、自身の在り方を定める意味もあって言っているのではないかと思うのだ。

だからそんな沙羅さんに、安易な冷やかしなど完全に無駄だ。


「薩川さん、原稿の方はどうだい?」


「完成しましたよ。こちらで何か手伝えることがありますか?」


「いや、こちらももう終わるから大丈夫だ。今日は友人達と集まりがあるんだろう? 切りがいいところで終わろうか。」


「すみません、俺達の都合なのに…」


まだ時間的には余裕があるのだが、会長は気を使ってくれたらしい。

ちょっと申し訳なく思うが、折角の厚意なので甘えておこう。


「いいんだよ。それじゃ、残りを終わらせてしまおうか。」


「「「「 はい! 」」」」


全員で手分けして作業をした結果、予想よりもかなり早く終わらせることができた。

結局は全員帰れる状況になったので、昨日と同じように全員で帰ろうという流れとなり、俺達もまだ時間的に余裕があったので途中まで付き合うことにしたのだった。


学校を出て他愛ない会話をしながらぼちぼち歩いていると、あっという間にお別れをする交差点まで着いてしまう。


「じゃあ、俺達はここで。」


「皆さん、お疲れさまでした。」


「お疲れ~」

「また明日ね」

「報告会頑張ってね~」


皆とお別れの挨拶をしていると、会長が何か言いたげな様子で俺に近付いてくる。


「今日もお疲れさま。その、なんだ、西川さんに宜しく伝えておいてくれ。」


特に変なことを言っている訳でもないのに、何故か微妙に言い難そうな様子を見せる会長。宜しく伝えるって…そのままを言えばいいのだろうか?


「わかりました。言っておきますよ。」


「ありがとう、それじゃまた明日。」


どうやら話しはそれだけだったらしく、会長は皆のところへ戻るとそのまま並んで歩き始めた。沙羅さんも会長の様子を不思議そうに見ていたが、俺と目が合うと笑顔を浮かべて直ぐに腕を組んでくる。


「西川さんの知り合いって多いんですか?」


「そうですね…一応は園芸部の部長だったので、生徒会役員とも顔を会わせる機会はあったはずですよ。」


そうか、実質一人だけの園芸部だから、当然そういう集まりには西川さんが出るのか。

そういう面識であれば、「友人」と言わずに「知り合い」と言った会長の言葉は、そのままの意味なんだろう。


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今日の報告会は、会場になっているホテルで直接待ち合わせになったと連絡があり、現在俺と沙羅さんは迎えに来てくれた車で移動中だった。あの車で全員移動になるかと思っていたので、ちょっと残念ではある。


やがて俺たちを乗せた車は、目の前に見えてきたホテルのロータリーに入っていくようだ。どうやらここが会場のホテルらしい。

真正面で停車すると、待機していたスタッフさんがドアを開けてくれたので、一言お礼を伝えてから車を降りる。そのままホテルのエントランスに入ると、一瞬目を疑うような光景が飛び込んできた。その日の予定が書かれてるボードには大々的に俺達のことが書かれていたからだ。


「高梨一成、薩川沙羅、婚約報告会」


「「……………」」


これは西川さんの仕業だろうか…それとも夏海先輩だろうか?

気恥ずかしさを感じて横を見ると、同じくこちらを見た沙羅さんと目が合って思わず二人で苦笑してしまう。


気を取り直してそのまま会場となっている部屋へ向かうと、扉の前には受付らしいスタッフさんか数人待機しているのが見えた。挨拶をしながら俺達の名前を伝えると、「ご婚約おめでとうございます」とお祝いの言葉を口にしながら扉を開けてくれる。



外から見た限り会場内に人影が見えないような気がするのだが…とりあえずそのまま足を進めると


パン!!

パンパンパンパンパン!!!


!?


「きゃあ!?」


入り口のドア影から一斉にクラッカーが鳴り響き、驚いた沙羅さんが飛び跳ねて俺にしがみついてくる。その光景は、とても見覚えがあるものだった。


雄&速「一成!!」


夏&西「沙羅!!」


全「婚約おめでとう~~!!!!」


全員が一斉に目の前に飛び出して、御祝いの言葉を伝えてくれる。

俺よりも沙羅さんの方が驚きが大きかったようで、しがみついたまま暫く呆然としていたのだが、俺が頭を撫でるとふわりと笑顔を浮かべてくれた。


俺「ええと、まだ正式じゃないんだけど…」


雄「お前の両親はダメと言いそうなのか?」


俺「いや、大丈夫みたいだ」


速「それなら決まったようなものでしょ」


花「別にそれがどうなろうと、形が変わるだけでどうせいつか結婚するんでしょ。なら結果は同じ」


相変わらず身も蓋も無いような言い方だが、確かに両親の返事がどうであっても、離れるつもりがないのであれば結果は同じだろう。そういう意味では、花子さんの言い分は的を射ると言っていいかもしれない。


夏「ほら、いつまでも入り口で引っ付いてないで、主賓席まで進みなさい!」


よく見ると、会場内にはこちらを向いている席が二つと、それに向かい合うように配置された席が用意されているようだ。

こちらを向いた二つが主賓席なのだろう。


俺達が席に向かうと、皆もそれぞれの席へ向かい出した。そして全員が席に着くと突然部屋の明かりが消えて、何故かスポットライトで俺と沙羅さんの二人だけが照らし出される。


「それでは只今より、高梨一成様、薩川沙羅様のご婚約報告会を開催いたします。」


パチパチパチパチパチパチ!!!


いつの間にか司会者さんらしき人まで現れている。ちょっとやり過ぎというか、手が込みすぎだろうこれは。チラリと横を見ると、沙羅さんもやれやれと言った表情で西川さんと夏海先輩の二人を見ていた。

どうやら俺達は、こんな記者会見みたいな状況で報告をしなければならないようだ…


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


生徒会のシーンが予想より長くなってしまいましたので、報告会は次回です…


昨日で仕事納めだったのですが、月日の経つのは本当に早いですね。執筆を始めてもう半年になるのかと思うと焦ります。


コロナで年末年始の予定が全て消えたので、多分更新します。お時間があるときにでもお読み下さいw

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