第276話 生徒会のお仕事
無事にグループ分けが終わり、俺達は改めて見回りに出発する。
今日俺達のグループが担当する箇所は、主に文化部系数ヶ所と、二年生の教室が少しってところ。ちなみに二年生の教室と言っても、沙羅さんの教室は予定に入っていない。そこは先日、俺達が料理教室をやっていた日に終わらせたとのことだ。
だから密かにホッとしていたり…
俺はこの前色々とやらかしてしまったから、沙羅さんの教室に顔を出すのはちょっとだけ気まずかったりする。それにもう一つ言うのなら、悠里さんがちょっと苦手だったりして。
「♪~」
楽しそうに鼻歌を口ずさみながら藤堂さんが…って、そうなんだよ、結局俺達は三人ではなく、藤堂さんを入れて四人で見回りをすることになったんだ。
話の流れで俺達三人が一緒に行くことは確定していたけど、それを受けて藤堂さんから
「そ、それなら私も一緒に行きたいですよぉ!」
と、悲しそうに言われてしまった訳だ。
男がそんなことを言っても無視だけど、天使の藤堂さんからそんな風に言われて断れるやつなんかいないからな。
そしてそれは、沙羅さんも同じように感じたみたいで
「それでは、四人で行きましょうか?」
と、微笑ましそうに藤堂さんを誘ったんだ。
だから四人になって現在に至る…と。
これは多分だけど、藤堂さんはこの組み合わせで自分だけが入れないことに、ちょっとした疎外感的なものを感じたのかもしれない。
勿論俺達にそんなつもりは毛頭ないし、単に流れでそうなってしまっただけなんだけど。
「満里奈…そんなに楽しい?」
そんな藤堂さんの様子を見ながら、少しだけ苦笑を浮かべて花子さんが話しかけた。見るからに藤堂さんは浮かれ気味というか…でもそんな様子も、あどけなくて可愛らしいと俺も思ってしまう。
…あれ?
ところで今、花子さんは藤堂さんのことを「満里奈」って呼んだか?
いつの間に…前からそうだったかな? 俺が気付かなかっただけか?
「えっ!? な、何で分かったの!?」
「いや…何でって」
花子さんが微妙な表情を浮かべると、何か言いたげにこちらを見た。
いやいや、藤堂さんのこれは、ボケてる訳でも突っ込み待ちをしている訳でもないからな?
だから花子さんも、余計なことを言わなくていいと思う。
「ふふ…こうして気兼ねない友人と校内を回るというのも、なかなか新鮮で楽しいことかもしれませんね?」
お、流石は沙羅さん、ナイスなフォローだ。
きっと藤堂さんもそんな感じで楽しいと感じているんだろうし、俺もその気持ちははよく分かる。
それに沙羅さんが、花子さんや藤堂さんをそんな風に思っているということ自体が俺的に嬉しかったり…
「は、はい、私もそうなんです! それに、こんなことを言うとちょっと恥ずかしいんですけど…クラスにも仲良くしてるグループはあるんですけど、やっぱり皆さんは私にとって特別なんです。安心するって言うか、ここが自分の居場所なんだな~って。あ、私が勝手に思っているだけですよ?」
ちょっと照れ臭さそうにはにかみながら、藤堂さんは自分の気持ちを教えてくれた。
俺は仲のいいグループが他にある訳じゃないから比較することはできないけど、それでもやっぱり皆のことは絶対に特別なんだと胸を張って言える。
一緒に修羅場を乗り越えた連帯感とか、特別な何かを感じる繋がりというか…ぶっちゃけ全員親友だと思ってるからな。
もちろん最愛の沙羅さんは、恋人兼婚約者だから特別枠だけど。
「別に照れなくてもいい。私もそう思ってるからその気持ちはよく分かる」
「うん、ありがとう花子さん」
「そうですね、私もその気持ちはわかりますよ。今まで私が友人だと言えたのは夏海と絵理だけでしたが、今は藤堂さんも、花子さんも、この場にいない横川さん達も、同じように友人だと…いえ、親友だと思っていますから」
「えへへ、薩川先輩からそんな風に言って貰えて嬉しいです!」
これは俺も少しだけ驚いた。沙羅さんがそこまで言うなんて…
でもあんなに嬉しそうな藤堂さんを見ていると、正直に伝えて喜ばせてあげたくなるよな。だから沙羅さんも自分の気持ちを伝えたんだろう。
「その…高梨くんは?」
う…藤堂さんが、とっても期待した眼差しで俺を見ている。
俺だってずっと皆のことは特別だと思ってきた訳で、親友…いや寧ろ「真友」だと感じているくらいだ。面と向かってそれを言うのは照れ臭いけど、ここで俺だけ言わないという選択肢は無い…だろうな。
「いや、俺もずっと前から、藤堂さんのことも、皆のことも、大切な親友だと…」
普通に言うだけでもかなり照れ臭いことなんだけど、それよりも藤堂さんが凄い嬉しそうに…ぶっちゃけ、食い入るように俺を見つめてくるので、ちょっと言い難い感じがどうにも…
「うん! 私も、高梨くんのことも、皆のことも、親友だって思ってるよ」
ま、眩しい!? まるで後光が差したような…
とまぁ冗談はともかく、こんな照れ臭いやり取りなのにここまで素直に言えるなんて、流石は「W天使」の純真を司る(?)藤堂さんだ。
「そ、そっか。俺も…その、嬉しい」
「あ、高梨くんも照れてるの?」
「ふふ…一成さんは照れ屋さんですからね。可愛いです♪」
「うん。一成、可愛い」
「ああああ、も、もう行くぞ!! 時間がなくなるから!!」
何だこれ、藤堂さんの話をしていた筈なのに、何で俺の羞恥プレイになってるんだ!?
もう本当に行くからな!!
だから皆、そんな優しい目で俺を見ないでくれ!?
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出だしこそ色々とあったものの、巡回そのものは順調に進み、ここからは二年生の教室へ向かうことになる。
予想通り、立ち寄る各所で色々と騒がれたりはしたけど、概ね問題はなかった…と思う。
「いつも思うんですけど、上級生の教室に行くのは緊張しますね。今日は薩川先輩が一緒なので安心ですけど」
「仕事だと割り切れば大丈夫ですよ。それに同じ二年と言っても、結局私も知らない相手ばかりですし」
「嫁は自分のクラスでも覚えてない相手が多そう。特に男子」
「それは否定しませんよ。ですが花子さんも同じでは?」
「私は一応友達…辛うじて顔見知り…かもしれない? くらいの男子ならいる」
うーん、それって山川達のことだよな?
というか山川…いや、可哀想だけど、もうこれは仕方ないか。俺もこれについてはフォローするつもりないし。
でも他のやつと比べて一応扱いが違うと思えば、それだけでもかなりマシだと言える…のかもしれない。
「私は正直に言うと、クラスの男子はちょっぴり苦手なんです。よく話しかけてくれるし、仲良くしようとしてくれるのは嬉しいんですけど、今度遊びに行こうとか…それに、先に誘ったのは自分だって喧嘩もするんです。私は行くなんて一言も言ってないのに」
あぁぁ…それは…
分かり易すぎるくらいに分かり易くて、しかもワリと身近でよく聞くような話だ。
俺も人のことは言えないけど、これは速人も大変だな。
「だから正直、男子達がいるなら遊びに行きたいと思わないんですよね。何となく怖いですし…あ! 高梨くんなら大丈夫だよ?」
「へ? そ、そっか。うん、ありがと」
そこで俺を特別扱いしてくれるのは嬉しいけど、いきなりそんな風に言われてしまうとちょっと返答に困る。
藤堂さんだから他意もなく、普通にそう思ってくれているのは勿論分かってるけど。
「うん。それに未央ちゃんも、お兄ちゃんに会いたいって言ってるし。だから時間があるときに遊んであげて欲しいな?」
「あぁ、最近は色々あってちょっと忙しかったけど、やっと落ち着いてきたからな。俺も久しぶりに未央ちゃんに会いたいし。沙羅さんもどうですか?」
「はい、私も是非ご一緒させて下さい。未央ちゃんに会いたいです」
沙羅さんも未央ちゃんのことを本当に可愛がってくれてるからな。
そう言えば、沙羅さんは元々保母さんを志望するくらいの子供好きだと言っていたし、実際にあんな風に未央ちゃんと接する姿を思い出すと、やっぱり保母さんは天職なんじゃ…
「一成さん、前にもお話しした通りですよ。確かに私は子供と接したり遊んであげたりすることは大好きですが、それは仕事で無くとも出来ますからね? 私は一成さんと支え合って、同じ道を歩いて行きたいのです」
俺が何となく考えていたことを、あっさりと沙羅さんに読まれてしまった。もうここまでくると驚きは通り越したけど、本当に…
「…ねぇ花子さん、高梨くん何も言ってないよね?」
「…嫁は、一成限定で心が読める」
「…えっ!?」
「…と、そこまで言うのは大袈裟だけど。ちなみに私もある程度は読める。でも今のは分からなかった…ちょっと悔しい」
「…え? えぇぇ??」
でもそうだよな。
沙羅さんは俺と一緒にいることを何よりも大切に考えて、同じ進路に決めてくれたんだ。俺がそれをいつまでも気にするのは申し訳ないし、沙羅さんにも悪い。
だからそんな沙羅さんに俺が出来ることは、その選択が間違っていなかったことを証明してあげることだけだ。つまり、そのくらい沙羅さんのことを幸せにしてあげるってことなんだ!
今はただ、沙羅さんの気持ちを有りがたく受けとっておこう
「…そうですね、わかりました。それじゃあ今度、未央ちゃんと一緒に遊びましょうか」
「はい。確か最後に会ったのは、お祖母ちゃんに一成さんとのことを報告に行ったとき以来ですね。本当に楽しみです」
言葉の通り、沙羅さんは本当に楽しそうな笑みを浮かべた。
そうか、未央ちゃんとは最近朝も会えていないからな。そうなると夏休み以来ってことになるのか。何だかんだで結構会ってないんだな…
「…まぁ嫁は、将来的なことまで考えて言ってる可能性があるし」
「…は、花子さん、それは」
「…満里奈だって意味は分かっ…」
「…うう~花子さんのいじわるっ!!」
?
花子さん達が何かを言い合っているような?
でも今は、久しぶりに未央ちゃんと遊ぼうって話をしていただけなんだから、いくら何でも俺達が原因ってことはないよな?
まぁ喧嘩をしている感じでもないし、どちらかといえばじゃれ合ってるようにも見えるからな。別にいいか。
平和そうで何よりってことで。
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コンコン…
ガラガラガラ…
「失礼します」
一応ノックをしてから扉を開けて、室内に入る前に様子を伺っておく。ここは自分のクラスじゃないし、初めて入る教室だからな。
ちょうど何か大きな物を作っている真っ最中のようで、床には看板のような物が色々と広げられていた。確かこのクラスはの展示は…何だっけ?
「…ん? あれって副会長じゃね?」
「…ホントだ。あぁ、生徒会の巡回か」
「…そういや、全体を回ってるって言ってたな」
作業中だった二年生…先輩達がこちらを向いて、身振り手振りで一応の挨拶を返してくれた。とりあえずファーストインプレッションは無難に終わったみたいだな。
「一成、入り口で止まったらダメ」
「あ、ごめん」
花子さんに後ろから指摘されて、慌てて室内に入る。それに続いて花子さんと藤堂さんが挨拶をしながら教室内に入ってきた。
それを見た先輩達が、少しずつざわめき始めてしまう。
「…おぉ…ラッキー」
「…うぉ、天使揃い踏みだぜ!」
「…近くで見るとこれまた…」
「…か、可愛い」
「…へぇ、やっぱ可愛いね」
「…あの小さい方の子、何かのマスコットキャラみたい」
やはり女子より男子達の反応が大きいようで、実はここに来るまでに何度も同じような光景を繰り返してきた。こうしてどこへ行っても注目を集めてしまうし、何気に花子さんと藤堂さんも有名なんだな。
でもこの後の騒きは別格で…
「失礼致します」
「「「!!!!!!」」」
一番最後に、若干ぶっきらぼうな挨拶で教室へ入ってきたのは沙羅さんだ。
主に花子さんと藤堂さんに集まっていた視線が、驚きの様な表情と共に沙羅さんへ一点集中してしまう。だから…うん、沙羅さんはちょっと嫌そう。
「うおおぉ、さ、薩川さんが来たぁ!?」
「マ、マジかよ!?」
「サボらなくてよかったわ!!」
「こんな近距離久々だぜ!!」
本当に…どこへ行っても同じようなリアクションだ。
これでは沙羅さんが嫌になるのも無理はない。そして正直なところ、聞いてる俺も嫌な気持ちになってしまう。ただこうなることは最初から分かりきっていたことなので、ある程度は覚悟の上だ。本当は沙羅さんと二人きりで回ることになった場合、室内に入って作業をするのは俺一人でやるつもりだった。勿論沙羅さんは納得しないだろうけど、そこは俺が説得するつもりだったからな。
でも今回は四人で回ることになってしまったので、沙羅さんだけを残そうとしたら仲間外れの形になってしまう。そういう意味では、この状況は俺としても想定外だった訳だ。
「…生徒会です。何かトラブルや、困ったことはありませんか?」
俺が聞くよりも先に、花子さんが話を先に進めてしまった。
それにしても…思わず苦笑してしまうくらいに棒読みだな。
藤堂さんもちょっと困ったように花子さんを見ているけど、やっぱり微妙に苦笑気味なのは仕方ないことだろう。
「誰か何かあるか~?」
「ん~、別にないかなぁ」
「大丈夫~」
「こっちもだ~」
沙羅さん達がいるからなのか、普段でもそうなのか、どこの場所へ行っても概ねこうして協力的に対応してくれる。こちらとしてもそれはありがたいけど、これがもし俺が一人で来ていたら、ここまですんなり対応してくれたのかな…それを考える意味はないんだけど、何となく気になった。
「あ、ありがとうございます。では、展示内容の確認をさせて下さい」
花子さんの後を引き継いだ藤堂さんが、取り決め通りに展示内容の調査に入る。
これで特に問題がなければ、このまま無事に終了ということでこのクラスは完了だ。今までこの段階で何かあったことはないので、今回も多分大丈夫だろう。
……………
………
…
「…なぁ、あの噂聞いたか?」
「…ああ、でもどうなんだろうな」
「…流石に信じられねぇけど」
「…今んところ、そんな気配は見えないけどな」
「はい、確認OKです。ご協力、ありがとうございました」
特にこれといった問題もなく、このクラスの調査は終了となった。
流石にこの状況で沙羅さんに声をかけるような奴もいないし、ここまでは思っていたより順調に見回りが進んでいる。
正確に言えば沙羅さんに話しかけたそうにしている奴はいるんだけど、主には俺と花子さんの視線に耐えきれなくなって尻尾を巻いて離れてしまう。だから問題ない。
後は妙にこちらを見てくる集団が…そっちはひょっとして…かな?
「では、お邪魔しま…」
ガラガラガラ
「はぁ…お待たせしました。只今戻りました…よ?」
俺がちょうど扉に手を伸ばしたところで、まるでそれが自動だったように扉が開いてしまう。もちろん単に廊下側から開けられただけなんだけど。
そして廊下側には一人の女子が…というか、この女はっ!?
「あら、副会長さん、また会いましたね。お疲れ様です。生徒会のお仕事ですか?」
特に作り笑いという感じでもなく、朝のことなど何もなかったかのように話しかけてくるこの女。若干拍子抜けすら感じてしまうが、花子さんに嫌味を言ったことは忘れていないぞ。
先輩なのは分かっていたけど、まさか二年だったとはなぁ…
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修羅場にはなりません(ぉ
次回はこの続きと・・・どうしようかな?w
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