第175話 ホテルにて
「はぁ…ご飯美味しかった〜」
「ちょっと食べ過ぎたかも…」
「ふふん、この後のお楽しみタイムに備えて調整した私の大勝利!」
勝利って…何の勝負をしているのやら。
食事が終わり、お風呂までまだ少し時間があるから部屋に戻ってきたんだけど、当然のようにこの三人は私達の部屋に雪崩れ込んできた。
三人部屋だから、ホテルではどうしても二つに別れてしまうということもあり、結局三人がこの部屋にきているという訳だ。
「どうしようかな、お風呂終わったらすぐパーリー始められるように準備しておこうかな?」
「そうだね、お菓子とか今の内に用意しておこうか」
BGM代わりにテレビを映しながら気の早いことを言い出した。
全く、そんなに楽しみなのかしら?
というか、沙羅のせいで私までターゲットにされているみたいだから、上手く避けなければならない。本当に余計なことを言ってくれたわ…
でも…うう、何で私ってば恋愛成就なんて買ってしまったんだろう
深い意味はないのよ。何となくその場のノリというか、つい手が出てしまったというか。
沙羅が橘くんの名前を出すから、つい昨日の夜にお土産の話をしたこととか思い出しただけなんだから。
ガチャ…
ドアの開いた音がすると、「はぁ…」という溜息と共に沙羅が部屋に入ってくる。
当然、全員の視線が沙羅に集まっていた。
「遅かったわね?」
「すみません、無駄な時間を使わされたので…」
うんざりしているというか、辟易しているというか、沙羅はそんな様子だった。
ん? 無駄な時間?
ははぁ…さては
「薩川さん、さっき深山くんに声かけられてたもんね。やっぱ告白だったんだ?」
「くっ…黙っていてもイケメンから告白されるって羨ましい」
「冗談ではありません。明日の予定で聞きたいことがあるというから仕方なく話を聞いていたのに…頭にきたので、二度と私に話しかけないように怒鳴っておきました。」
どうやら予想通りのようだ。
沙羅はかなり気分を害しているらしく、不機嫌さを隠していない。
相手は即断されないように別の話を混ぜてきたみたいね。沙羅は、話が告白だとわかると最後まで聞かずに、問答無用で切り捨てるので有名だから。
そんな小細工すれば余計に嫌われるって、わからないものかねぇ。
「告白を断るのに怒鳴るって凄いよね…」
「うん、聞いたことないわ」
「付き合うかどうかはさておき、好意は嬉しいってマンガとかだとよく言うけど、実際はどうの?」
確かに、そういう話しは聞いたことあるわね。
まぁ沙羅からすれば迷惑どころか嫌悪だろうけど。
「他の方はわかりませんが、私はとても迷惑ですね。そういう理由なら一切話しかけないで頂きたいです。」
「うわー、取りつく島がない」
「本当に嫌なんだねぇ。あんなイケメンからの告白だと少しは気にならない?」
「全く気になりませんね。私は一成さん以外の男性に興味はありません。」
「キターーーー!!」
「待ってました!! さぁさぁさぁさぁ」
「さ、薩川さん、その人はやっぱりクラスで噂になった一年の高梨くんって男子だよね?」
どうやら、三人が待ち望んだ話の流れになってしまったようで、興奮したように沙羅に問いかける。
以前、沙羅が高梨くんのシャツを教室で拭いていたときの一件で、あのときはあくまで友人という扱いでクラスには周知させた訳なんだけど…こうなれば当然話が繋がるよねぇ
「噂になったのですか? よくわかりませんが、確かに高梨一成さんは私の大切な方です。」
沙羅はそれを知らないから初耳だろうけど…ついにハッキリと認めてしまったわね。
「うおおお、凄いよ、何が凄いって全く照れも動揺もないところが凄い。」
「堂々としすぎて茶化す隙がないよこれ」
「おかしい、もっと恥ずかしそうにするかと思ったのに」
沙羅は隠すつもりがないから、高梨くんの件については必然的に堂々としている。
そして私は、これでまた余計な口止めをしなければならない…沙羅は自分の影響力に無頓着だから、これが学校で知れ渡るとどうなるのか考えていないから。
はぁ…何で私が苦労しなきゃならないのかしら。
コンコン…
ドアをノックする音で話が中断される。
全員の顔を見回すと、ドアに一番近い人が出るべきだとばかりに一人に視線が集まった。つまり悠里だ。
「はいはい、私が出ればいいんでしょ〜」
どうやら視線の意味は理解したようで、しぶしぶドアに向かうとロックを外す
「はいよ〜…ってリカじゃん、どしたの?」
「お風呂が空いたって〜」
どうやらこの話しはここで終わりになりそうね。私がお風呂の準備を始めると、沙羅も準備を始めたようだ。
「ちぇ〜、またお預けか〜」
「でも、お菓子とか食べながら話せるからいいじゃん」
「広いお風呂楽しみ〜」
三人も、私達が準備を始めたことで一旦話を諦めたらしく、大人しく隣にある自分達の部屋に戻っていった。
はぁ…どうやらお風呂上がりも苦労しそうね…
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「あ〜さっぱりした。」
「それはいいけど、なんであんたは人の身体を触るかね?」
「ホントだよ、お嫁に行けなくなったらどうすんのさ?」
この三人は本当にどこでも楽しそうね。
お風呂でもはしゃぐとは…
「でも薩川さんは触れなかった…」
「いや、絶対に怒られるから」
「すっごいスタイルだよね〜胸とか羨ましすぎる」
確かに沙羅のスタイルはかなりいい。
私も沙羅とお風呂に入るのは久し振りだったけど…くっ…ここまで格差が広がっているなんて。
あれはきっと真由美さん譲りの遺伝で間違いない。沙羅は、普段着も身体のラインがあまり出ないような服装が多いけど、胸の大きさだけは誤魔化せないから私も気にはしていた。
でもこうして改めて確認してしまうと…いつの間に…
はっ!? まさか高梨くんに!?
いやいや、さすがにそれはないか…って、そういえば沙羅遅いわね…
ガチャ…
ドアの開く音がすると、沙羅が入ってきた。
その様子は、うんざりしているというか辟易していると…って、さっきと全く同じような気がする。つまり同じことがあった?
「お疲れさま〜…あ、その様子はまた告白された?」
「ええ…まぁ」
どうやら正解だったようで、相変わらずの嫌そうな雰囲気を醸し出している。
「みんな必死なんだねぇ」
「修学旅行の雰囲気だけで、いけるかもって考えちゃうのかな?」
「はぁ…いっそのこと女子高に…いえ、それでは一成さんとの時間が…」
沙羅はぶつぶつ言いながらバッグを広げると、お風呂の道具をてきぱきと片付けだす。
確かに雰囲気に呑まれるというか、修学旅行という普段と異なる状況が、大胆な気持ちにさせるということは男女共にあるのかもしれない。
であれば、それをチャンスと捉えて行動に出る男子が多くなる可能性があるし、初日からこれだと明日以降も同じようになるかもしれない。
これは沙羅をなるべく一人にしない方がいいかしら…
「ね、薩川さん、今回は誰だった?」
興味津々といった感じで話しかける悠里。
本当に物怖じしないというか、マイペースというか。
「さぁ?」
「さぁって…名前とか」
「知りませんよ。バスケット部のエースがどうのと、実にどうでもいいことを言い出したので、迷惑だと伝えてさっさとその場を離れましたから。」
「バスケ部のエースって…」
「塩谷くんだよね、それ」
「う、羨ましすぎる」
沙羅はそんな話題に興味の欠片も示さないまま、片付け終わったバッグを持つと邪魔にならないところに移して、そのままベッドに戻ると充電していたスマホを外す。
「誰であろうと変わりませんよ。私は一成さんさえ側にいて下されば、それだけでいいのです。」
沙羅は一貫してそこだけは変わらない。
人当たりが多少改善したといっても、高梨くん以外に微塵も見向きもしないという部分は同じであり、それは呆れるくらいに一途といえば一途なんだろうけど。
「すっごいね」
「薩川さんて、見た目通りというかイメージ通りというか、やっぱ恋愛でも真面目なんだ。」
「でもさ、今の薩川さんを見てると、恋人と二人のときにどんな雰囲気になるのか想像できないよね。」
「恋人にも厳しかったりして!」
「それ目に浮かぶわ!」
本人が目の前にいるというのに、あの三人は好き勝手に想像を膨らませて楽しそうに騒いでいる。
まぁ普段の沙羅しか見ていない人からすれば、そう考えてしまうのも不思議はないだろう。
知っている私からすれば突っ込みどころ満載であり、だだ甘の沙羅をこの三人が見たらどんな反応を示すのかしら…
沙羅はスマホを持ちながら時間を確認している。恐らく電話をかけるタイミングを考えているのだろう。
そういえば、高梨くんのバイトはどうなったのかしら?
後で橘くんにRAINするときに聞いてみよう。
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かんぱーい
あまり大声を出して他の連中が入ってくるのと面倒なので、少し控えめに乾杯をする。
テーブルの上には所狭しと、スナック菓子、私の好きなチョコパイを含むチョコレート菓子、煎餅、ジュースと、よくもまぁここまで持ち込んだわね。
「さてさて、やってきましたナイトパーリー!」
「待ってたぜぇ…この瞬間をよぉ」
「悠里ちゃん顔が怖いよ?」
はぁ…上手く誘導して私の話題を逸らさないと。
それぞれが思い思いにテーブルへ手を伸ばし、お菓子を口に運んでいく。
私も食べようかと思っていたら、沙羅がスマホを持ちおもむろに立ち上がった。
「申し訳ございません、私は先に電話をしてきますので」
どうやらロビーあたりで電話をするつもりなのか、そのまま部屋のドアへ向かい歩き出す。だが、それは絶対にやめた方がいいので私は一言伝えておくことにした。
「沙羅、ロビーで電話するなら止めておいた方がいいよ。高梨くんと電話してる最中に他の男子に邪魔されるかもしれないから。」
「そうだねぇ。私達は大丈夫だから、ここで電話する?」
私の一言に続き、悠里が言葉を付け加える。
もう三人は知ってしまった訳で、今更隠す必要もないから別にいいのか。
「……そうですね、ではすみませんがここで電話をさせて頂きます。」
どうやらそのシーンを想像してしまったようで、沙羅は若干嫌そうな表情になると悠里の意見に同意した。
「でもさぁ、他の男子と違いすぎるっていうか、よっぽど高梨くんが好きなんだね?」
「はい。私は一成さんと一緒ならそれだけで幸せですから」
「「「………」」」
高梨くんのことを話す沙羅は、心から幸せそうに、嬉しそうに、満面の笑みを浮かべる。
これを見てしまうと、言葉を失ってしまう彼女達の気持ちがよくわかる。
それくらい幸せそうであり、普段とのギャップが激しいのだ。
「ではすみません、電話させて頂きますので、失礼しますね。」
沙羅にしては珍しく、ウキウキした様子を見せながらスマホを操作する。
そんなに嬉しいのかぁ
暫くすると、沙羅のスマホから呼び出し音が聞こえてくる。
えっ?
まさかスピーカー?
「あ、繋がりました! こんばんは一成さん!!」
どうやらビデオ通話にしたようで、画面を見ながら沙羅が会話を始めた。
いつもより声のテンションが高いわね。
「こんばんは、沙羅さん」
「はい! …ふふ、少し不思議な感じが致しますね。こうして画面越しでお話しするのは初めてだからでしょうか」
私からすればいつもの様子なんだけど、男子のことをボロクソに扱う沙羅しか見たことのない三人は…
「…は?」
「…え?」
「…お?」
開いた口が塞がらないというか、ポカーンという表現がぴったりな様子で沙羅を眺めている。
うん、気持ちは良くわかるわ。沙羅が高梨くんと仲がいいのを初めて見たとき、同じような衝撃を受けたから。
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えーと…すみません、長くなりすぎてまたしても電話まで辿りつけずに…
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