第90話 不安
「高梨くん、今から生徒会?」
高梨さんと生徒会室に向かう途中で声をかけられました。
私ではなく高梨さんに声がかかったのですが、どこかで見たような気がする女生徒で、親しげな様子でした。
「ああ。新城さんも今からテニスコート?」
「えへへ〜やっぱわかる?」
「そりゃね。んじゃ俺の分まで夏海先輩の応援しといて。」
高梨さんは以前の体育祭以降、こうして話しかけられることが多くなりました。
明らかに学年の違う方からも話しかけられていることもあり気になるのですが、高梨さんからは「誰かわからないんですよ」という答えが多いのです。
でも顔を見る限り嘘ではなさそうです。
ただ気になるのは、女性が多いことなのです…
しかも今日はいつもより親しげにお話ししております。
そういえばクラスメイトだったような気がしますので、そのせいでしょうか。
そして高梨さんが女性と笑って話をしている姿を見ると嫌な気分になってしまうのです。
今までは高梨さんに話しかけている女性の馴れ馴れしさが嫌だったのですが…
そんな相手に笑顔で話す高梨さん自身にも…
この気持ちは何なのでしょうか?
大好きな高梨さんにそんな気持ちを抱いてしまう、感じてしまう自分が嫌です…
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「お兄ちゃんこっちだよ〜」
「よーし、まて〜」
「きゃーー」
俺がゆっくり追いかけると嬉しそうに走り出す未央ちゃん。小さく結んだ髪をピョコピョコと可愛く揺らしながら走っていく。
「未央ちゃ〜ん、急いで走ったらダメだよ〜」
藤堂さんがハラハラとした顔で未央ちゃんに呼び掛ける。
かく言う俺も、子供の走り方は転びそうで見ていて怖い。
今日は買い物に出かけた帰りに、未央ちゃんのタックルを後ろから受けた。
藤堂さんと散歩をしていたようで、未央ちゃんの希望で俺も一緒に加わることになったのだ。
そして今、近所の公園で遊んでいたりする。
前を走る未央ちゃんを見ながら、よくバランスを取っているなと呑気なことを考えていたら、未央ちゃんが転んでしまった。
「未央ちゃん!?」
俺は急いでかけつけて未央ちゃんを起こすが、油断すると泣きそうな微妙な表情だった。俺は急いで抱っこすると、赤くなった未央ちゃんの膝を擦りながら話しかけた。
「よーし、痛くない痛くない…」
「未央ちゃんは泣かないもんねぇ、えらいよ〜」
傍に駆け寄ってきた藤堂さんと二人がかりであやしていると、未央ちゃんの泣きそうな雰囲気が消えて笑い顔を見せてくれた。
「未央ちゃんはえらいね〜」
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「ありゃ? 高梨くんと、未央ちゃんと…あの子誰だろ?」
夏海が公園で遊んでいた高梨さん達を発見して声をあげた。
私もそれを聞いて公園を見ると、ちょうど高梨さんが転んだ未央ちゃんを抱っこしたところでした。
すると、近くにいた女性が高梨さんにかけより、抱っこされている未央ちゃんの頭を撫で始めました。
…どなたでしょうか…馴れ馴れしいのでは…
いえ、未央ちゃんと関係がある方でしたら、高梨さんとも顔見知りであっても不思議はありません。
馴れ馴れしいなどと身勝手なことを言うのはよくありませんね。
今は転んだ未央ちゃんが泣かないように二人であやしているようです。
またです…何でしょうかこの気持ちは…
「あらら、いつぞやの誰かさん達みたいだ」
夏海は私を見てニヤリと笑った。
誰かさん達…恐らくは以前高梨さんと私で未央ちゃんをあやしていたときのことを言っているのでしょう。
そうなのですね、あのときは端から見ているとこのような感じに見えていたのですね。
……え?
つまりそれは
高梨さんは今、私と一緒にしたことと同じことを、他の女性としているということ。
あのときの私と同じ事をしている女性と、仲良さそうに笑っている高梨さん
つまり私以外の女性でも、同じような事を高梨さんにしてあげられるということ。
そして知らないところで、私が高梨さんにして差し上げたいと思っていることを、いつの間にか他の女性にされてしまうかもしれないということ…
嫌です
それは嫌です
ずっと高梨さんの傍にいたのは私なのに、何で私の場所に入り込もうとするのですか?
やめて下さい、離れて下さい、そこは私の場所なんです…私だけの場所なんです
それに、高梨さんもそんな笑顔で笑いかけないで下さい…
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