第314話 招待試合
「それじゃ、俺達は行きますね」
「行ってらっしゃ~い」
「夏海ちゃんに頑張れって伝えておいて~」
「私も後で覗きに行くから」
試合時間が段々と迫ってきたこともあり、雑談を切り上げて俺達は早めに移動することになった。
上坂さんが残念そうにしている姿だけが心残りではあるが…
昨日今日のお礼もあるし、また何かの機会で誘うくらいはしてもいいんじゃないかとは思う…
テニスコートへ向かう間も、主に沙羅さんと西川さんを中心に(花子さんも?)注目が集まるお馴染みの光景。もう誰もそれを気にする事はないし、一番恥ずかしがり屋の藤堂さんですら気にしてない訳で…嫌な慣れかも。
「さて、先ずは男子…」
「横川くぅぅぅぅん!!」
「速人くーーーん、ファイトぉぉぉ!」
「は・や・と!! は・や・と!!」
うーん…相変わらずの光景というか何といいか…
流石にお揃いの法被やハチマキ(古い?)といった、極ファン装備をしている連中は居ないが、他校の制服組まで混じっているとなると、いつもより多いような。
「お、凄いね…これが噂の横川くんファンクラブ」
「凄いわね。確かに、横川さんは類い稀な容姿の持ち主ではあると思うけど…」
「成る程…これは…」
この光景を初めて見た雄二達は普通に驚いてはいるようだが…既にこういう光景に慣れているせいか、あくまでも「普通に」驚いただけな感じ。こんなところまで影響が…
「あ、高梨くん、いらっしゃい!!」
「やっほー、高梨くん!!」
「おっ、来たね! って、今日は随分と大所帯…西川さんまでいるし!?」
「わっ、昨日と同じ面子だね!!」
俺達に気付いたファンクラブの面々が、いつも通りに歓迎の様子で出迎えてくれる。
俺が速人の親友であることは周知の事実なので、基本的にはこうして好意的なのがありがたい。
「どうする? 前に出る?」
「いや、その前に夏海先輩へ一声掛けてくるよ」
「あ、そっか!」
「じゃあ、前の方を空けておくね!!」
「戻ってきたら声かけて~」
「ありがとう!」
別にこれは意図していた訳じゃないが、場所取りをしなくて済んたのは、かなりラッキーだったかも…
「へぇ…高梨くんも凄いね」
「一成はイケメンの親友だから特別待遇」
「成る程、確かにそういう話はありそうですね」
体育祭での一件を機に、俺が速人の親友だと周知されて、こうしてファンクラブの女性陣が便宜を図ってくれるようになった。別に俺個人がどうという訳ではないのは分かっているが、特に中学時代を引き摺っていた初期の頃は、好意的に迎え入れてくれることが嬉しかったりして。
「じゃあ、こっちは大丈夫そうだから、先に夏海先輩の方へ行きましょうか」
「そうですね、夏海が気負ってなければいいのですが…」
速人はともかく、夏海先輩は実質的に部長のような立場(この試合で三年生が完全に引退する)でもある為、陰で色々と考え込んでる節はある。それに、雄二に初めて見せる自分の試合でもあるから…
「あっちもファンクラブ勢揃い…」
「はぁ…相変わらず、夏海は同性から人気がありますねぇ」
俺達の向かう先には、速人のときと同じように女性陣の人集り。でも違うのは、夏海先輩の練習風景に対して、大騒ぎせずに見守っているところ。
この辺りは、キッチリと統率の取れている夏海先輩ファンクラブならではの光景かも。
「高梨くん、こんにちは!」
「いらっしゃい、高梨くん!!」
「薩川さん、お疲れ様!」
「あああ!! 西川さんだ!! 久し振り!!」
俺達の接近に気付いた一団が歓迎の声を上げると、それで気付いた周囲もこちらに手を振ってくれる。いつものことながら、こうして好意的に迎えてくれるのは普通に嬉しい。
「こんにちは」
「お疲れ様です」
こちらも挨拶を返しながら周囲を確認すると、もちろんウチのクラスにいる二人もしっかり来ていて(メイド服じゃない)、こちらに手を振ってくれた。
「どうですか、夏海先輩の様子は?」
「うん、気合いはバッチリだと思うよ。ただ…」
「他の人の練習を見てあげたりすることが多くなったから…自分の練習に集中できてないみたいなのが気になるんだよね…」
そう言いながら、ファンクラブの面々がコートに視線を移す。俺もそれを追うように視線の先を確認すれば、そこには身ぶり手振りで何かを指示をしているような様子の夏海先輩。他の人達は自己練習をしているのに、夏海先輩だけが指導をしているみたいだ。
「…難しいわね。夏海の立ち位置を考えたら、ある程度は仕方ないのかもしれないし…」
「夏海は面倒見もいいですからね。相手が先輩ならいざ知らず、特に後輩ともなれば、それを無視して自分一人だけ…という性格ではありませんから」
これは二人の言う通り、夏海先輩の性格を考えたら、正にその二つを足したような状況なんだろう。とは言え、俺達がそれを口に出す訳にもいかず…だからファンクラブの面々も、それが分かっていて歯痒いといったところか。
でも…
「せめて、激励くらいはしておこうか」
「そうですね。せめて気合いの追加くらいは」
「賛成です」
「そうだな、俺も一声掛けておきたいし」
雄二の声は、色々な意味で吉と出るか凶と出るか…大丈夫だろ、多分。
「宜しくね!! きっと高梨くん達の声を聞けば、夏海ちゃんも安心するだろうし」
「お願いします、高梨くん、薩川先輩!」
「みんな、道を開けて!」
一人が声を切っ掛けに、まるで某映画のごとく人集りの中心が割れていく。そしてあれよあれよという間に、人垣による通路が完成してしまう。流石の結束力で感心してしまうが、これは大袈裟な上にぶっちゃけ恥ずかしすぎる!!
「ではお言葉に甘えて、行きましょうか、一成さん」
「高梨さん、行きましょう」
「一成」
でも沙羅さんも西川さんも特に気にした様子もなく…と言うか、俺が先頭を行くんですね。ええ、わかってましたよ。
俺は覚悟を決めると、好奇の視線に晒されながら人垣通路を歩き始める。ただファンクラブの皆さんの好奇は、どちらかと言えば西川さんや立川さん、そして俺以外に唯一の男である雄二に一番集まっているようだ。
他校だから、当然と言えば当然なんだけど。
無事に人垣の最前列まで辿り着くと、夏海先輩も途中で気付いていたのか、苦笑を浮かべながら手を挙げて合図をしてくれた。
そのまま指導(?)をしていた相手に一言話しかけると、小走りでこちらにやって来る。
「随分と大袈裟な登場をするじゃない?」
「私達が言った訳ではありませんよ」
「随分と統率が取れてるわね。流石は夏海のファンクラブ」
「私が何かしてる訳じゃないよ!!」
早速軽口を叩き合う三人…三姫の姿は、やはり人目を引かない訳がない。
ファンクラブに限らず周囲の見物客、ついでに対面の相手側客席までこちらに注目が集まっている…主には男だが。
「いや、初めて見たけど…何か…凄いですね?」
「ちょっ、凄いってどういう意味よ!?」
「えっと…色々?」
ワタワタと慌てる夏海先輩と、それを苦笑しながら見つめている雄二。
昨日はそこまででもなかったが、自分の彼女がこの学校でどういう扱いなのか…改めて見せつけられる格好になったから。
「ねぇ高梨くん。あの人も友達なの?」
「初めて見た顔だけど、この学校の男子じゃないよね?」
「えーっと…」
気になるのは当然として…さて、どうやって答えようかな。俺が余計な口を挟むべきじゃないし、現時点では夏海先輩の対応に任せるべきか。
となれば当然、答えとしては…
「あいつは俺の幼馴染みだから、その繋がりなんですよ」
「あ、そうなんだ? 通りで」
「それで違う学校なんだね。夏海先輩の交友関係は大切だから、皆にも伝えておかないと」
無難な回答でも、俺は取り敢えず聞かれたことに答えただけ…ってことで。
大切なことは本人の口から語られないと、後で遺恨を残す可能性があるから。
「夏海、調子はどう?」
「大丈夫だよ。でも皆が来たせいで、寧ろ狂ったかも」
「そんな軽口が叩けるようなら、大丈夫そうですね」
「大丈夫。夏海先輩には、相手が打ち返した球が何故か全てアウトになるという…」
「だから、そんなの出来ないって言ってるでしょーが!!」
花子さんの言ってることがイマイチ分からんが、取り敢えず、夏海先輩の気負っているような感じは抜けたように見える。
少し照れ臭そうにこちらを(正確には雄二だろうが)見ると、拳を突き出して何かのアピール。多分「ありがとう」とか「勝つよ」とか、その辺り…きっと。
「これで夏海は大丈夫でしょう」
「ええ。もともとの性格もあるから、気分転換一つで切り替わるのも単じゅ…夏海らしいわね」
西川さん、単純って言おうとしたな…
まぁ言い方はともかく、夏海先輩は切り替えが早いというか、全体的にプラス寄りになっているのがいいところだと俺も思うから。
「私は大丈夫だよ。こっちはいいから、横川くんのところに行ってあげて。男子が先にやるから」
「了解です。誰か置いていきましょうか?」
ちょっと悪戯心を出して、余計なことを言ってみる。雄二の名前を出さずとも、それがどんな意味を指すのか分からない夏海先輩ではないので…
でも嫌がらせで言っている訳じゃないぞ。
「余計なことを言わないでさっさと行け、バカップルの片割れ!!」
人目も忘れてギャーギャー騒ぐ夏海先輩を微笑ましく思いながら、俺達は速人のところへ戻ることにする。
あの様子ならもう完全に大丈夫だろう…多分。
……………
………
…
男子テニスの試合開始直前になり、お互いの選手がテニスコートに集まってくる。
二面あるコートは俺たちから見て手前がシングルス、奥がダブルスになっていて、両方同時進行で行われる。
ただ、応援に来ている女性陣の半数くらいが速人目的なので…必然的に、俺達のいるシングルスコート側に観客が集まる結果に。
「なんか、わくわくしてきた!! 満里奈は試合を見たことあるの?」
「うん。何度か応援にも来てるよ」
「そっか、テニスのルール知らないから、何かあったら解説宜しくね!」
「えっ、わ、私もそんなには…」
藤堂さんが困ったように俺を見る…が、申し訳ないことに俺もそんなに知っている訳じゃない。解説なんてとてもできませんよ、ええ。
「テニスのことなら、絵里に聞くといいですよ?」
「西川さん詳しいんですか?」
「詳しいと言いますか、嗜む程度にはやったことがありますので」
「わっ、凄い!」
「あくまでも嗜む程度ですよ」
西川さんは謙遜しているが、あの感じでは間違いなく詳しいと見た。乗馬なんかも出来そう…あくまでもイメージだけど。
「一成…」
相手校との挨拶を済ませて、速人が俺の元へやってくる。いつものように、お互いで右手の拳を付き合わせて試合前の挨拶。
これは俺がやり始めた訳じゃなくて、速人の希望でやり始めたことだが…本人はゲン担ぎとか何とか言っていたが、果たして俺とこれをして良いことがあるのかどうか?
それと、これをやると一部の女子から毎回悲鳴が上がるのは何故だ?
「調子はどうだ?」
「大丈夫だよ。今日は絶対に負けられないから、気合いも十分だし」
集まっている俺達の顔を一人ずつ見てから、笑顔で頷く速人。言葉通りに気合いは十分みたいだ。
「そっか」
「うん。相手が強いから、とにかく全力で行くよ」
速人が部内でもかなり強いことは分かっているが、だからと言って無敵という訳じゃない。実際、今まで負けた試合も俺は見たことはある。
そのときの、悔しいというよりは俺達に申し訳なさそうな表情を見せるのが、あいつらしいというか何と言うか。
「速人、頑張れよ!」
「横川さん、応援していますよ」
「横川くん、ファイト!!」
「頑張って下さいね」
「精々頑張れ」
「はは…うん、ありがとう、皆」
皆からの声援を受けて(花子さんは素直じゃない)、速人が一度、大きく深呼吸をしてから頷く。試合前の、いつもの気合いが入ったあの表情。
「横川くん…」
「藤堂さん、絶対に勝つよ。見てて欲しい」
「うん。頑張って」
ちょっと意味深なムードを漂わせて、二人は少しだけ見つめあう。特に照れ臭そうな様子もないが、何となく雰囲気があるというか。
「…速人くん、いつもと様子が違うような?」
「…今日は高梨くん達が来てるからじゃない?」
「…だね。悔しいけど、やっぱ親友には勝てないか~」
「…でも、私達も負けられないよ。いつもより気合い入れて応援しよう!!」
「速人~」
「今、行きます!! それじゃ…行ってくるよ!」
藤堂さんに…そして俺に合図を残して、速人がコートへ戻っていく。
そこは藤堂さんだけでもいいだろうに…そういうところも相変わらず。
頑張れよ…速人。
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シングルスは部活内のランキングで順番が決まり、速人はいつも通りにシングルス2…要は、強さのランキングで二番目ということになる。厳密に言えばダブルスのメンバーもいるので、あくまでシングルスとしては…だが、実はそれを考慮してもらしい。
とは言え、実はシングルス1の部長さんより、速人の方が強いと俺は思うんだけど…敢えて指摘はしないが。
そして現在、目の前で行われているのがシングルス3の試合。なかなか拮抗しているので、お互いに1セットずつとって現在40:40のデュース。
関係ないけど、何でテニスのポイントって15だったり10になったり、そんな分かり難い数字にするんだろうな?
「ゲームセット!! マッチ・ウォン・バイ…」
などと余計なことを考えていたら、いつの間にか試合が終わっていた。ダブルスの第一試合はまだ終わっていないが、これで負けが一つ…
「ありゃぁ、最後はアッサリだったねぇ」
「うん、ミスばっかりだった」
「終盤は明らかに集中力が切れてましたね。体力不足か…他に何か…」
負けた選手が、何故かこちらを見ながら激しくガッカリしたようにトボトボと…まさか…な?
………………
「「「はやと・はやと・はやと!!!」」」
「「「りんか~…ファイ!!!!」」」
「「「速人くぅぅぅぅん!! 頑張ってぇぇぇ!!」」」
シングルスの第二試合。速人がコートに現れた途端に、俺の周囲にいるファンクラブからいつも通りの大歓声や「速人コール」が上がる。
それを嫌そうに眺めてる対戦相手側も、全くもっていつもの光景。
正直言って…すっごいやり難そう。
速人はその歓声に反応を示さず、コートの感触を確かめるようにピョンピョン跳ねたり足踏みをしていた…が、一通り確認が済んだのか、最後にラケットを持った手を俺に向かって突き出す。
俺がそれにサムズアップを返すと、嬉しそうに笑顔を見せてから審判の元へ。
ちなみにファンクラブは、それに対して微笑ましく見守ってくれるだけで、特に騒ぐようなことはしない。俺がいるときは、毎度の光景だから。
「た、たまりませんなぁ…」
「捗る…すっごい捗っちゃうぅぅ」
一部、妙な反応があるのも、いつもの光景だから…ね。
「ねぇ高梨くん、いつもこんな感じなの?」
「このやり取りなら、毎回…かな」
「えへへ、高梨くんと横川くんは、すっごく仲良しだからねぇ」
俺と速人のことを、まるで自分のことのように喜んでいる藤堂さん。
そう言ってくれるのは嬉しいが、正直に言って自分でもちょっとクサいことをしている自覚はあるので、恥ずかしいと思わないでもなかったり。
でも今日の速人は、妙にそれが強いような気もして…若干、違和感も。
「…男性同士の、こういうやり取りはステキですね」
「ふふ…一成さんですから」
俺全肯定の沙羅さんはともかく、女性陣から意外にも好評価…別にそれを狙ってる訳じゃないんだけどね…速人がそういうことをやりたがるってだけで。
…………………
「ザ・ベスト・オブ・スリーセットマッチ…」
主審が試合前のコールを読み上げて、いよいよ速人の試合が始まる。
サーブ権は速人、3セットマッチだから先に2セット取った方の勝ち…このくらいは俺でも分かるようになった。
さて、先ずは出だし。速人の気合いの入り様を見る限り、恐らく…
パァァァァン!!
一見ゆっくりとした動作に見えて、そこから意表をつくような凄まじい勢いで降り下ろされるラケット。当たった瞬間の大きい炸裂音を残し、ボールが相手のコートへ強烈に突き刺さる。ラインギリギリ(恐らく)を抉り相手のラケットが届かない距離へ離れていくそのボールは…果たして。
「フィフティーン・ラブ!!」
「「「きゃああああああああああ!!」」」
「「「は・や・と!! は・や・と!!」」」
ファンクラブの歓声に包まれたコートで、対戦相手の選手だけが、転がっているそれを呆然と見つめている。
向こうの応援から先輩という声が聞こえていたので、年上なのは間違いないが、いきなりサービスエースを決められるとは思ってもみなかった…といったところか。
「サ、サービスエース…」
「に、西川さん、今のって、点が入ったんですよね…?」
「え、ええ」
「横川くんが先制したんだよ!」
「ボ、ボールが見えなかった…」
「凄いな、速人…」
立川さん達が驚くのも無理はないと思うが、そもそもこんな最前列で見ていれば、当然距離が近い分見え方も凄い。大会なら、スタンドの観客席でそれなりの距離があっても、ここは普通に学校のコートだから。
でも…
「横川さんが、あそこまでのパワープレーを見せるのは珍しいですね…」
「…俺もそう思いました」
「多分、イケメンは力んでる…」
花子さんの言う通り、俺も速人が力んでいるように見える。さっきの俺へのアピールも、それが現れていたから…と思えば納得できてしまう。
ただ、俺も詳しくは言えないが、少なくとも速人はパワープレーヤーではないので…
これが、果たしてどうなるのか…
…………………
「フォーティー・ラブ!!」
「「「は・や・と!! は・や・と!!」」」
「「「りんか~ファイ!!!!」」」
審判の得点コールと共に、大歓声に包まれるテニスコート。
速人が立て続けに3ポイント連取したので、後1ポイントでこのセットは速人が取れる。今のところは押せ押せの流れになっていて、とにかく速人の勢いに相手が飲まれているといった感じ。
「後ポイント一つで、横川さんがこのセットを取れます」
「先に2セット取った方が勝ちなんですよね?」
初めて速人の試合を見る西川さん達はともかく、俺や沙羅さん、藤堂さん(何故か花子さんも)は、今の状況を周囲ほど喜べていない。ファンクラブの中にもやはり違和感を覚えている人達が居るようで、少し不思議そうに試合を眺めている面々も確認できる。
「とにかく勢いで打ち返していますね…」
「ですね。いきなり手前に落としたり、相手の頭を飛び越すような技も使ってませんし」
「どうしちゃったのかな…横川くん」
押されている訳でも負けている訳でもないから、今は普通に見ていればいいだけなんだが…
パァァァァァァァン!!
戻ってきたボールを、速人が真上から猛烈に叩き付けるような勢いで打ち返すスマッシュ。相手はそれを、半分見送るような形で呆然と眺める。
「ゲーム アンド セット! ファーストゲームス…」
「「「きゃあああああああああ!!!」」」
「「「は・や・と!! は・や・と!!」」」
「「よこかわく~~~~~ん!!」」
「横川くん、凄い!!」
「そうですね、まさかストレートで先取するとは…」
直ぐに第一セット終了が審判から伝えられ、速人が先取したことがコールされると
大歓声が上がる。
終始圧倒した試合内容に大騒ぎするファンクラブの女性陣を尻目に、何とも言えない表情の沙羅さんや藤堂さん…俺達。
勿論、杞憂であれば全く問題ないので、とにかくこのまま見守ることに変わりはない。
「どうした、一成?」
「いや、何でもない。次のセットを取れば終わりだからな」
勢いだろうと何だろうと、2セット取ってしまえばそれまでの話。このままの流れで取れるのなら、取り敢えず問題ない訳で…
……………
「くっ!?」
第一セットとは打って変わって、今度は速人がコート内を走らされる光景が目につくようになってきた。本来であれば、この光景こそ速人が相手に対して仕掛ける光景であり、それを逆にやられている格好になっている。
素人目の判断でしかないが、恐らくは速人が力みすぎていて、逆にそれを突かれる結果になっているから。
「フォーティー・フィフティーン!」
審判のコールは相手選手のポイントを告げており、次を取られてしまえばこのセットを落としてしまう。そうなれば、せっかくの心理的余裕を失い次の第三セットが最終勝負…
しかも相手は、速人がゴリ押しをしてくることに恐らく気付いているので、反対に冷静なプレイが目立つ。いつもと真反対の試合模様。
「横川くん…」
速人の不調に気付いている中でも、特に落ち着かない様子なのは藤堂さん。何度も何度も速人の名前を呟きながら、それでも目を逸らさず必死になって応援している。
「一度、気持ちを落ち着かせた方がいいでしょうね」
「イケメンは、何をそんなに焦ってる?」
速人が焦る要因など、藤堂さんのことしか思い付かない。でも普段以上の俺へのアピールといい、何か必要以上に気負うことになった切っ掛けがある筈…と言っても、俺の予想ではそれもこれも藤堂さんに繋がっているだろうし。
「フォーティー・サーティー!!」
速人のボールがライン際に当たり、ここからではどうなったか分からなかったが…審判のコールはインの判定。相手はアウトと判断して見送ったようなので、これはラッキーかも。ともかく、次を取れればデュース…まだひっくり返すチャンスはある。
でも、これは根本的な解決になっていないから…何か、こちらからフォロー出来そうなことは…
「うーん、また悪い癖が出てるなぁ」
「夏海先輩!?」
「夏海?」
いつの間に来ていたのか、夏海先輩が俺の真後ろでポツリと感想を漏らす。というか、女テニもこの後試合があるのに、こんな場所に居ていいのか?
「横川くんは、テクニックと頭を使うテニスが本来のスタイルだからね。余計なことを考えていたら、当然それが出来なくなる」
「夏海先輩なら、何かいいアイデアが」
「あるよ?」
「えっ!?」
俺がさっきから悩んでることを、随分アッサリとまぁ…だが、頼もしい。
「まぁ何故かいつも以上に気負っているみたいだけど…外野からフォローなんて、本来は出来ることなんか無いんだけどね。でも今回は…」
「ゲーム アンド セット! セカンドゲームス…」
審判から第二セット終了のコールがあり、速人がこのセットを落としたことが告げられる。残念だがデュースまで持ち込むことが出来なかった。
素人目にも試合の流れは向こうにあると分かるので、ここで切り替えないと、次のセットも相手に取られてしまう可能性が。
早く夏海先輩のアイデアを…
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
~お知らせ~
ノートでもご報告しました通り、今週頭より、一日中「期外収縮」に襲われるという体調不良に襲われ、先日の検査結果で「発作性上室性頻拍」という症状であると診断されました。ただ、連日に渡りほぼ一日中、期外収縮に襲われているのでとても執筆に集中できる状況ではありません。
申し訳ありませんが、落ち着くまでの間、執筆のペースを落とさせて頂きたいと思います。
今回の分はもともと発症前に書けていた分が大半なので、区切りのいいところまで書けましたが、ここから先は体調等の様子を見ながら・・・ということになります。
これからミスコンという盛り上がる時期にこんなことになり、私自身も消沈しておりますが、何とか少しずつでも進めたいと思っていますので、何とかお付き合い頂けたら幸いでございます。
今回の分は、誤字や内容等のチェックがあまり出来ておりませんので、折を見て修正が入るかもしれません。ご承知おきください。
また前回のコメントにつきましても、全て目を通させて頂いておりますが、お返事につきましてはお休みさせてください。もし回復すれば、そのときに改めてさせて頂きます。
以上、申し訳ございませんが、宜しくお願い致します。
p.s. もし読者様の中に私と同じような症状をお持ちの方がいらっしゃいましたら、息を止めるといったような対処法やサプリ等で有効だったものを教えて頂けますと幸いです。コメントでもノートでも、どちらでも結構です。
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