第202話 花が咲いた教室
一時限目、授業中は特に何事もなく過ぎていく。
強いて言えば、普段絶対にサボってる山川が自ら挙手までして教師の設問に答えたことか。黒板に答えらしきものを書き、それが終わるとまるでアピールするかのようにこちらへ視線を飛ばしてくるのだが、残念ながら花子さんは山川を見ていない。
何故それがわかるのかって、花子さんは現在真横で俺をガン見してるからだ。目が合うと授業中でも話をしてしまいそうで、気付かないふりをして何とか前を向いている状況を作っていた。
「お前、自分から答えるならもう少し勉強しろ。全部間違ってるだろ。」
花子さんに無視されて、要らぬ恥までかくという二重のダメージを受けた山川が、肩を落としてスゴスゴと席に戻って行く…
あいつ、本当に花子さんが気に入ったんだな…
------------------------------------------------------------------------
つつがなく(?)一時限目の授業が終わり、教師が教室の扉を閉めた途端にまたしても一斉に人が集まってくる。朝は女子だったので今度は男子だ。変わらず俺を巻き込むような人だかりで、しかも男だからむさ苦しいぞ。
「は、初めまして!! 俺、山川です!!」
「島谷です!」
「宮下だ、宜しく!」
俺は、僕は…と、我先にと自分勝手な自己紹介ラッシュが始まるが、もちろん花子さんは対応できる訳がない。そして今回は、俺も引くわけにはいかないのだ。野獣の群れに垂れ耳のウサギを独り残すなど俺にはできない。決して余計なことを言われそうで怖いなどという理由ではないぞ。
「…………」
サッ…
「「「「「 なっ!!!??? 」」」」」
うーむ…流石は花子さん、俺の予想の斜め上を行くのが上手いぜ…などと冷静にしていられるのも今の内かもしれない。
男子連中からの自己紹介を受けて無言を貫いていると思ったら、突然俺の背中に隠れてしまったのだ。
「た、高梨、お前、花崎さんとどういう関係だ!?」
「いくら同じ生徒会っても薩川先輩とも何故か仲がいいみたいだし、お前の交遊関係どうなってんだよ!?」
「…いや、薩川先輩は流石にありえねーだろ」
「…同じ生徒会のよしみだろ? それでもスゲー羨ましいけどな」
まぁ…俺みたいなやつが女神様と〜なんて、誰も信じないだろうな。
でも、女神様と美少女転校生にピンポイントで繋がりがあるとかマンガかよ? って言われても不思議はないが…
「? 嫁とのことはまだ知られてない?」
「ちょ!?」
爆弾ぶっ込んできたぁぁぁ
最近色々あってすっかり忘れていたが、沙羅さんと相談することはまだ他にもあった!
「…よめ?」
「…嫁?」
「…何の話だ?」
これはさすがにピンとこないようだった。
というか花子さん、隠れたいのか目立ちたいのかどっちだ?
「は、花子さん?」
「おっと、ミステイク」
俺の呼び掛けを聞いて、今度は普通に俺の後ろから姿を現した。ただし、俺の側から離れようとしない。ホントに何なの?
「は、花崎さん、俺、高梨くんの友達だから。」
「あ、お前!?」
「そうそう、俺も高梨と仲がいいんだよ!」
どうやらこいつら、俺を緩衝材にして花子さんへ近付くプランに変えたらしい。
うわーい、友達がいっぱいだ〜なんて言うかボケ。
それにしても花子さんのこの動き…ひょっとして本当はこの状況を嫌がっているのではないだろうか?
俺は花子さんを友達だと思っているが、だからといって全てを知っている訳ではない。男と話ができないなんてことはないはずだが、ひょっとしたらこんな風に囲まれたり群がられたりするのが嫌いなのでは?
「花子さんってあだ名可愛いよね! 俺も花子さんって…」
「絶対に嫌」
「「「「「………………」」」」」
散々無視されていた上にここまで明確な拒絶をされた山川本人に加えて、恐らく同じことを考えていた他の男共までショックを受けたようだ。
だが花子さんもいきなり強く言い過ぎたと感じたらしい。
「…言い過ぎた。でも私は馴れ馴れしいのは好きじゃない。特に男子のそれは嫌い。」
俺の背中越しに顔を出して、自分の気持ちをストレートに吐き出す花子さん。
どうやら自分の言いたいことを口に出すことはできるようだ。
それにしても、馴れ馴れしいのが嫌い…か。
それが元々なのか、あるいは山崎の一件が影響しているのかはわからないが…
少なくとも俺達と一緒にいるときの花子さんが、そんなことを言ったことはない。
俺個人としても仲良くやれていると思ってるし、花子さんも「自分はお姉ちゃん」などと冗談を言ってくれるくらいには打ち解けていると思う。
でも、まだ友達でも何でもない相手から馴れ馴れしくされたくないと言うセリフは、花子さんらしいと言えばらしいのかもしれない。
そう言えば出会ったばかりの頃に、特に速人に対して避けるような態度を取っていたような気がする。速人の見た目が理由かもしれないが、今思えばそれは山崎への嫌悪感が影響していたのだろう。
今はそんなことないので、やはり仲良くなってしまえば大丈夫なんだろうな。
「花子さんが嫌だと言ってるんだからお前らも控えろ。勝手に盛り上がってるみたいだけど、初対面なんだぞ? 特に山川。」
かく言う俺も、花子さんに対する馴れ馴れしい態度が目に余っていたので少し苦言を…
「う…わ、わかった。調子に乗ってごめん! 花崎さん」
「ご、ごめんね! 花崎さん!」
「ごめん!」
嫌われたくないという心理が働いたのか、拍子抜けするくらいあっさりと謝罪の言葉を口にする面々。花子さんは返事こそしないが、黙ってそれを聞いていた。
「わかってくれればいい。」
謝罪の言葉が落ち着いてくると、花子さんが一応の返事を口にした。
「ねぇねぇ花崎さん! 高梨くんとどういう関係なの?」
いつの間にか女子連中も輪に混じっていたらしい。そしてその質問は、まるでクラス全体の代表質問だと言わんばかりに全員が黙ってしまった。一部、それを越えて必死の表情のやつらもいるが。
「どういう?…うーん…大切な人(弟)?」
「「「「「 嘘だぁぁぁ!? 」」」」」
「「「「「 きゃぁぁぁ!! 」」」」」
見事に二分した反応だった。
前者は男子、後者は女子だ。
というか大切な人!?
俺と花子さんはいつの間にそこまでの仲に!?
「弟はお姉ちゃんが守る」
「…お姉ちゃん?」
「…弟?」
「…え、どういう…」
「…恋人なのよね?」
……あるぇ、やっぱ俺のこと弟だと認識してるような
------------------------------------------------------------------------
チャイムに救われて何とか事なきを得たようだが、このままでは次の休み時間も大変なことになりそうだ。
とりあえずクラスメイトは、俺達の関係が恋人かそれに近しいと誤解した面々と、姉弟発言に救いを見出だした一部の男子がいるようだ。
更にこいつらは、俺をライバル視する面子と、花子さん(将)を射る為の俺(馬)だと認識した面子でわかれた。
暫く平和だったのに、段々カオスになってきてしまった…
ちなみに現在の授業中、花子さんは教科書を持っていないので机をくっつけて二人で見ている。
そして全部を確認してはいないが、俺から見えている範囲だけでもあちこちから視線が飛んできて居心地が悪い。
特に一部の男子からは、やっかみの様な視線を感じているだが、もちろん誤解なんだけどな。
ただ今回のことでわかったのは、転校生という付加条件がある花子さんでもこの状況であり、もしこれが沙羅さんとの関係を公表した場合、俺はどうなってしまうのだろうか…
そんなことを漠然と考えていたら、突然俺の右頬に何かが食い込む感触。驚いて視線だけ横に向けると、教科書ではなくこちらを向いていた花子さんと目が合ってしまった。
「お姉ちゃんが横に居て嬉しいのはわかるけど、授業に集中。」
小声で注意されてしまった。
そして周囲から膨れ上がる得体のしれない何か…怖いぞ。
------------------------------------------------------------------------
ガラガラガラ…
「失礼しまーす」
「失礼します」
最近すっかり馴染んでしまったこの二つの声は、もちろん藤堂さんと速人だ。まだ昼休みじゃないのに珍しいな…って目的は一つか。
「うわぁ、本当に花子さんが居る!!」
「だね。話は聞いていたけど、こうして目の当たりにするとやっぱり驚くよ。」
二人のこのリアクション、花子さんが居ると最初からわかっていてこちらへ来たようだ。既に他のクラスまで噂が流れているなんて、そんなに話題になっているのか。
「制服姿の花子さん可愛い!!」
藤堂さんが花子さんに少し抱きつくと、花子さんも苦笑を浮かべながらそれを受け入れていた。
「うん、系統の違う美少女二人のコラボは見ていて素晴らしいね。」
「まぁ、そうだな。」
……うんうん
速人が漏らした感想に思わず賛同してしまったが、それを聞いていたクラスの男共も同じように賛同していた。
そして花子さんが少し嫌そうに、しかめっ面になってしまった。
あれ、ひょっとしてそういうこと言われるの嫌だったか?
「イケメン、そういうチャラいことを本命以外にも言うから中々伝わらないことに気付け。」
「ぐっ…これはまた手厳しいね…」
あ、そういえば花子さんも速人が藤堂さんのことを好きなの知っているのか。
でも、確かにこれは手厳しい…
「花子さん、今の横川くんの言葉はチャラいの?」
「じゃあ、かずな…高梨くんがそれを嫁以外に言うと思う?」
「あ、確かに言わないね!」
「ううっ…」
速人のダメージが深刻に…
いや、そもそも俺はそういうことを言えるキャラでは無いというだけで、そこまで大層な話ではないのだが。
「んー、でも、横川くんは誰にでもそういうこと言う人じゃないし、本当に思ったから言ってくれたんだよね? ちょっと恥ずかしいけど…」
天使だ…天使がいる…
沙羅さんが女神なら、藤堂さんは天使だろう。
速人の嬉しそうな顔に笑顔で返す藤堂さん。
「はぁ…バカップルが増えた…」
若干うんざりした様子の花子さんに、思わず苦笑してしまう。
「あの〜…皆さんとっても仲が良さそうで…」
「「「「 !? 」」」」
「ねぇねぇ、どういう繋がりなの!?」
「気になる〜、何かすっごい仲良さそう。」
「花崎さんって、実は毒舌キャラ?」
ここが教室であることを忘れて、いつものノリになってしまった。
周囲を見回すと、クラスメイト全体から完全に注目されており、中でもワクワクした様子の女子連中に声をかけられたらしい。
「…また嫁って言ったな?」
「…は、速人くんがあんな嬉しそうに」
「…あの二人も花子さんって呼んでるぞ」
「…どういうグループなんだ、あれ?」
「ごめん一成、場所を考えてなかった。」
「高梨くん、花子さん、ごめんね!」
「私は別に…」
「いや、大丈夫だ…」
とは言うものの、これでクラスメイトに更なる好奇心を与えてしまったことになるかもしれない。
今後どうなっていくのか、ますます不安になってしまった…
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
先日の予告通りに早速カクヨムコンに応募してみました。
趣味とはいえせっかく書いているので…
まだシステムをイマイチ理解してないのですが(ぉ
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます