第326話 「真由美さん」

「そう言えば、未央ちゃんはどうしてここに?」


 もっと正確に言えば、目の前にいる子供達がそもそも何なのか…という話になるんだけど。

 でもここまで沙羅さんの歌が盛り上がったのは、子供達の合唱のお陰でもある訳で、ありがたいことに変わりはないんだが。


「んと…みんなで、おうたをうたってきていいよって」


「誰かに言われたの?」


「うんっ!!」


 俺の右腕に大人しく抱っこされながら、嬉しそうに頷く未央ちゃん。

 はぁ…可愛い…ホント癒される。

 ちなみに未央ちゃんの右手は、もうデレデレになっている花子さんがしっかりと握っていたり。


「高梨くん、和美さんからRAIN来たよ」


「和美さんは何だって?」


「ん~…詳しくは分からないみたい。未央ちゃんが薩川先輩の声に気付いて、歌が始まって子供達が騒いでたら、一番前が空いてるから是非どうぞって先生っぽい人が誘ってくれた…って。あ、それと、幼稚園のお友達も居るんだって」


「なるほど…」


 全く関係ない人間がそんなことをするとは思えないし、準備会の連中でもないとすれば…誰かは分からなくても、取り敢えず先生であることに間違いはなさそうか?

 

「みおちゃん、いいなぁ…ゆきもおにぃちゃんほしい~!」

「みおちゃんのおにぃちゃん、さくらもいっしょにあそんで!!」


「ああぁぁぁぁ、さくらちゃんだめぇぇ!! おにぃちゃんは、みおのおにぃちゃんなんだよ!!」


 さくらちゃん(?)が俺の足にしがみつく姿を見て、未央ちゃんのほっぺが大きく膨らむ。そんな様子も可愛くて仕方ないが、俺の目をじっと見つめる未央ちゃんの瞳は、明らかに対処を求めているので…これはちょっと困ったかも。


 まさかこんな小さい子に「今すぐ離れてくれ」なんて言える訳がないし…

 しかもさくらちゃんに続いて、ゆきちゃん(?)まで寄って来てる!?


「ぷっくくく…高梨くん、モテる男は辛いね?」


「いやぁぁ、この修羅場を沙羅が見たら、何て言うかな?」


「もう…二人とも、茶化すのは止めなさい」


 ありがたいことに、苦笑を浮かべつつも、しっかりと二人を嗜めてくれる西川さん。

 でも俺…いや、正確には子供達を含めて、すごく優しげな瞳でこちらを見ているような?


 いったいどうしたんだろ?


「…えりりん?」


「…西川さん?」


「先程も言いましたが、私は子供に優しく出来る男性をとても好ましく思います。なので、今の高梨さんの姿はとても素敵ですよ?」


「えっと…」


 と、取り敢えず、西川さんが本気で俺を褒めてくれていることだけは分かった。

 分かったから…そんな真面目に言われてしまうと、さすがに照れ臭いっす!!


「おぉ、えりりん、ガチで褒めてる?」


「勿論よ。私はこういうことで、冷やかしたりしない主義だから」


「うぐっ…」


「ご、ごめん、高梨くん…」


「い、いや、冗談なのは分かってたから別に」


 西川さんはイタズラっぽい表情を見せているし、夏海先輩達が100%冗談で言っているのも間違いない。だからそんな風に謝られてしまうと、今度は俺が困ってしまう。


「すみません、業務連絡です!!! お子さん達の保護者様、お迎えをお願いします!!!」


 そんな矢先に、ナイスタイミングで状況に割り込んでくれたみなみん。

 皆の意識がそちらへ向かう中、連絡を聞いたお母さん達が慌てたようにやって来る。しかも思いきり注目を集めているので…皆さん何とも気マズそう。

 俺もここへ来るときに経験済みなので、その気持ちは痛いほど良く分かるぞ。


「あぁ、桜ったら…すみません、副会長さん」


「本当にすみませんでした。さぁ有紀ちゃん、行きましょう?」


「い、いえいえ、俺は別に」


 俺の足にしがみついてる二人のお母さんも来てくれたようで…さくらちゃんとゆきちゃんは、お母さんに促されて渋々と言った様子で離れていく。

 それを見た未央ちゃんが笑顔を見せて…何気に俺もホッとしていたり。


 ところで、何で俺が副会長だって分かったのか…あ、さっきのスクリーンか?


「高梨さん、いつもごめんなさいね。また未央が…」


 次にやってきたのは、俺もよく見知った顔…和美さん。

 俺が抱っこしている未央ちゃんへ手を伸ばすものの、未央ちゃんはそれをプイッと避けてしまう。


「未央、お兄ちゃんを困らせたらダメよ?」


「ぶー、みお、いいこにしてるもん!! ね、おにぃちゃん?」


「うん、未央ちゃんは良い子だよね」


「えへへ~、おにぃちゃん、すき~」


 俺が優しく頭を撫でてあげると、子猫が甘えるようにスリスリ…この可愛さは全くもって反則ですな。

 だからこれを見て、ハァハァしてる花子さんも仕方ない(?)


「和美さん、この後はどうする予定なんですか?」


「後はもう帰るだけですね。用事も済みましたから」


「そうですか…」


 さて、どうしようか…

 未央ちゃんはまだ離れるつもりがなさそうで、俺としても、もう少しこのままにしてあげたい気持ちがある。それに未央ちゃんが居ることで、沙羅さんに良い影響を与えてくれる可能性もあるとなれば…


「なぁ皆…」


 そうだとしても、先ずは皆に確認…と思ったものの、俺が視線を向けると、全員一も二もなく黙って頷いてくれる。

 特に花子さんは、凄まじい勢いで。

 

 直接声にしなくても、こうして分かってくれるなんて…本当に幸せなことだよな。


 それなら、お言葉に甘えよう。


「和美さん、もし良かったら、このままここで見ていきませんか?」


「え? でも、せっかくお友達同士で楽しんでいるのに…」


「いえ、それはお気になさらないで下さい。私達も未央ちゃんと仲良くなりたいですし」


「それに、ここで帰ったら勿体ないことになりますよ? むふふ…」


 チラリと俺を見ながら、意味深なまでにイヤらしくニヤける夏海先輩。

 確かにこれで、また知り合いの見物客が一人増えてしまうことにはなるが…ここまで来たら誰が居ようと関係ない。

 俺の覚悟は、とうに決まっているんだ。


「未央、どうする?」


「おにぃちゃんたちといっしょにいる!!」


「…すみません、それではお言葉に甘えて」


「いえいえ」


「良かったね、未央ちゃん」


「うんっ!!!!」


 藤堂さんの声に、満面の笑みを浮かべて大きく頷く未央ちゃん。

 こんなに嬉しそうな笑顔を見れるなら、俺としても誘った甲斐があるというもの。


 ただ、願わくば…


 もうこれ以上の予定外は、本当に無しでお願います、神様…


……………

………


 二次審査が無事に終わり、いよいよ残すところは最後の第三次審査。


 現在、ステージ上では大掛かりな準備が進められていて、テーブルや調理道具、カセットコンロに食材と、様々な物がところ狭しと並べられていく。


 そう…この光景を見れば分かる通り、次の審査は料理対決。本来であれば、間違いなく沙羅さんの独壇場と言える筈だったこの審査も、真由美さんが居るとなればそうもいかない。

 しかも勝利を狙うとなれば、苦戦するのは必至。


 …ん?

 何か忘れてないかって?


 …ああ


 これがそれに該当するかどうかは知らんが、沙羅さんの後にカラオケをした奴なら盛大に滑ったぞ?

 その理由は色々あると思うけど、直前の沙羅さんで観客が盛り上がり過ぎて、落差が大きかったのが一番の要因…かも?

 しかも歌の上手さは真由美さんに遠く及ばないし、全体的に中途半端だった印象。


「お待たせ致しましたぁぁぁ!!!! もう少しで準備が終わりますので、先に出場者の皆さんに登場して頂きましょう!!!!」


 わぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!


 パチパチパチパチパチパチパチパチパチパチ!!!!


 大きな拍手と歓声に迎えられ、登場口から順番に姿を現わす出場者一同。

 今回はエプロンを身に付けており、ステージに登場した沙羅さんも花柄のエプロンを…愛用の猫ちゃんエプロンは持ってきていないので、仕方ないか。


「さらおねぇちゃぁぁぁぁぁぁぁぁん!!!!」


 ぶんぶんぶん!!!


 ステージの前寄りまで歩いて来た沙羅さんに、大きな声で何度も手を振る未央ちゃん。それを見た沙羅さんも、嬉しそうに小さく手を振り返す。

 そんな沙羅さんの横に居る真由美さんは、俺達の様子をじっと見ながら…妙に楽しそうな笑顔を浮かべていて。


 何だろう…よく分からないけどムズムズする?


「うおおおお、薩川さぁぁぁぁぁぁぁぁぁん!!!!!」

「女神様ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

「沙羅ちゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁん!!!!!」

「まゆさぁぁぁぁぁぁぁぁぁん!!!!!」

「お姉ちゃん!!!! 頑張れぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!」


「そ、それにしても、薩川さんは凄い人気なんですね? 恋人がこんなに人気者だと、高梨さんも大変でしょう?」


「あー…と、ま、まぁ慣れましたけど」


「薩川先輩は、高梨くん以外の男子は無視しちゃうから大丈夫なんだよね?」


「えっ、そうなの?」


「嫁は男嫌いだから、基本、一成以外の男は相手にしない」


「お、男嫌い? 薩川さんが?」


 ステージ上の沙羅さんをマジマジと見ながら、言葉の意味を噛み締めるようにポツリと呟く和美さん。

 そう言えば、そもそも和美さんは学校での沙羅さんを見たことが無いんだよな。

 つまり「本当の沙羅さん」しか知らない訳で、ある意味珍しい存在なのかも?


「ところで、その"よめ"というのは?」


「嫁は嫁」


「えっとですね、高梨くんと薩川先輩は正式に婚約したんですよ。もうお互いのご両親も認めているし…」


「えええっ!? "よめ"ってそういう意味の"嫁"なの!? じゃ、じゃあ…将来は…」


「は、はい…その」


「まぁまぁまぁまぁ!!! それはおめでとうございます!! でもこの前お二人を見たときに、恋人と言うよりは新婚さんに見えたから…特に不思議はないかも」


「ですよね!! だから私達も、高梨くんと薩川先輩が結婚って言われても違和感が全然ないんですよ?」


「そうね。私もあの姿を見ちゃうと、少なくとも高校生のカップルにはとても見えないわ」


 当事者の俺を置き去りにして、二人で盛り上がり始める藤堂さんと和美さん。

 お似合いだと言ってくれるのは素直に嬉しいけど、真由美さんが相変わらず楽しそうにこちらを見ているので、それが微妙に気になったり。


「おい、あれやっぱり真由美ちゃんだってよ!!」

「やっぱりか!!! おーい!! 真由美ちゃぁぁぁぁぁぁぁぁん!!!」

「真由美ちゃん!!! 頑張れよぉぉぉぉぉぉぉ!!!」


 っ!?

 突然、後ろの方から真由美さんの名を叫ぶ声が聞こえてくる。

 しかもそれは一カ所だけじゃない、間違いなく複数カ所。

 その声は当然ステージ上にも届いたようで、真由美さんが勢いよく顔を背けて…いやいや、それじゃますます怪しいですから。


 ダダダダダダダ!!!!


 そして今度は、ステージ袖から飛び込んでくる人影。

 準備会の会長がみなみんに駆け寄り、何かを話し始めて…するとみなみんまで、慌てたようにポケットからスマホを取り出して操作を始めた。


 何だ、何が起こってるんだ!?

 タイミングが良すぎるけど、これは偶然なのか!?

 

「ちょ、ちょっと待って下さいね!! うわ、こっちも何かいっぱい来てるし!? え、えーと……何々…は? え、えええええええええええ!!!???」


 突然大声を上げたみなみんが、驚愕の表情を浮かべて真由美さんを見る。

 しかも隣の胡散臭…もとい、会長まで同じような表情で真由美さんを見ているし、まさか、これは…


「あ、あの、まゆさん!!! すみませんが、重要なことなので確認させて下さい!!!!! 本当のお名前は、真由美さんで間違いはありませんか!!??」


「あ、あー…」


 みなみんの問い掛けに、若干バツの悪そうな表情を見せる真由美さん。

 でもそのリアクションは、もう正解だと認めたようなもので…

 いや、みなみんが真由美さんの名前を出した時点で、既に全て発覚していると考えるべきか。


「あはは…バレちゃったみたいね♪」


「うわっ、やっぱりホントなんですか!? 若すぎでしょ!!??」


「んふふ、ありがと♪」


 みなみんの反応は、真由美さんを初めて知った人が誰しも通る道であり…その驚きを見せたということは、つまりがそういう事。

 妙にタイミングが良すぎるが、どうやら準備会の方も完全にバレたみたいだな。


「か、会長、これどうするんですか!!?? と言うか、何でちゃんと確認しなかったんですか!!??」


「い、いや…だって、どう見ても既婚者に見えなかったし!!!」


 ステージ上でみなみんと会長の言い合いが始まり、事情の分からない客席は、ざわめきが大きくなっていく。

 特に会長の「既婚者」という発言に反応を示した連中がいるようで、それを切っ掛けに騒ぎがますます大きくなったような?


「あらら、遂にバレちゃったみたいですね」


「みたいね。さてさて」


「これが果たしてどうなるのか」


「まぁ、大丈夫だろうけどね」


「でも、こんなに早く情報が伝わるなんて…準備会の方に問い合わせでもあったのかしら?」


「多分。司会者がスマホで何かを確認してから、一気に騒ぎ出した」


「あの、皆さん何の話を…」


「え…っと」


 一人だけ事情を知らない和美さんが、不思議そうに俺達を見て…藤堂さんがそれを説明するべきかどうか、確認するように俺の方へ視線を寄越す。

 このまま黙っていても、結局ステージ上でその話しは出るだろうが…ざっくりとでも、説明しておいた方が良さそうか?


「はぁ…まさか同級生が来てるなんてねぇ」


「寧ろ、何故来ていないと思ったのか不思議ですね?」


「あーん、沙羅ちゃん酷いぃ」


「お母さんが抜けているだけですよ。ところで指輪はどうしました?」


「あるわよ? はい」


 真由美さんはポケットをゴソゴソすると、小さな何か…指輪を取り出して、自分の薬指をそれに通す。

 成る程、俺もそこまで気にしていなかったが、指輪は外していたのか。


「な、なぁ…薩川さん、今お母さんって呼ばなかったか?」

「お、俺もそう聞こえたぞ…」

「さっき、会長が既婚者って…」

「いやいや…お、お姉さんだよな?」

「今、何かを指に…」


 今度は沙羅さんの発言に指輪が加わり、客席のざわめきがどよめきに変わり始める。

 そこかしこから「お母さん?」「お姉ちゃん?」という単語が飛び交い、その声が段々大きく…


「ね、ねぇ、高梨さん、満里奈ちゃん。あのまゆさんって人、まさか…」


「えっと…あの人は、沙羅さんのお母さんです」


「え、ええええええええええええええ!!!???」


 予想通り驚愕の表情を浮かべて、ステージ上の真由美さんに目を向ける和美さん。

 お約束のリアクションをありがとうございます。でもそれは仕方ないですよね…ええ。


「わ、わ…私より、年上…年上…年上…年上!!??」


 と思ったら、どうやら驚いているポイントが微妙に違うような?

 でも、真由美さんの外見に驚いているという意味では変わらないのかも?


「ねぇ、おにぃちゃん、ままどうしたの?」


「うーんとね、沙羅さんのお母さんを見て驚いてるんだよ」


「さらおねぇちゃんのまま?」


「そうだよ」


「どこ!?」


「あそこ」


 俺が真由美さんを指差すと、未央ちゃんもそれを追いかけてステージ上へ視線を向ける。

 ちょうどこちらを見ていた真由美さんと目が合ったようで…


「さらおねぇちゃんのまま~~!!!」


「は~い!」


 二人が仲良く手を振り合い、それを横で見ている沙羅さんは微妙に複雑そうな表情。


「す、すみません、ちょっと想定外すぎることが起こりました!!!! まゆさん、事態が事態なだけに、観客の皆さんに説明をさせて頂いても宜しいですか!!??」


「まぁ仕方ないわね。いいわよ~」


「で、では説明させて頂きます!!!! ここに居るまゆさんですが、薩川真由美さんとおっしゃいまして…正真正銘、薩川沙羅さんのお母さんですぅぅぅぅぅぅぅぅ!!!!!」


 ………


 ………………


 ………………………


「えええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええ!!!!!!?????」


 今まで俺も、クラスメイト達やら何やらに散々驚かれてきたが、ここまでの驚き様を見た(聞いた)ことがない。

 割れんばかりとかそんなレベルではなく、"天をつんざく"とは正にこのことかと言えるくらいに凄まじい。


「うう~みんなうるさい~」


 あまりにも騒ぎ声が凄すぎて、両耳を手で塞ぎながら俺にもたれ掛かってくる未央ちゃん。

 俺が空いている左腕を回して頭を隠してあげると、そこへ潜り込むようにモゾモゾと。

 でもこれだけ煩ければ、そうなってしまうのも仕方ないこと。


「お、お、お母さんだとぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!???」

「えええええええええ、お姉ちゃんじゃないのかよぉぉぉぉぉぉ!!!!???」

「嘘だろぉぉぉ!!!??? 信じられねぇぇぇぇぇぇぇ!!!!???」

「うおおおおお、マジかぁぁぁぁぁ!!!!!!!」

「な、何だよ、あのお母さん!!! 若すぎるだろ!!!??」


 そして始まるのは、毎度お馴染み、真由美さんを知れば誰しもが通る道。

 でもこれだけの人数が揃えば、それも凄まじいに様相になってしまう。

 ちなみにステージ上もそれは同じで、特にタカピー女の表情が凄いことに。

 まぁライバルの一人が同級生の母親で、しかも「ミスコン」という土俵で押されているとなれば…ね。


「みなみん情報によりますと、薩川真由美さんは当時の生徒会長を勤めていたそうです!!! しかもいまだに破られたことのない、三年連続ミスコン優勝者のレコードホルダーでしたぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!」


 な、なんだっ(以下略)


 ちょっと待て!!!!

 そんな情報は俺も初耳どころの騒ぎじゃないぞ!!!!

 真由美さんがOGなのは聞いたことあるが、生徒会長だったこともミスコン優勝者だったことも聞いてないし!!!


 なんですかそれ!?

 と言うか真由美さん、俺に向かってピースなんかしてる場合じゃないですよ!?


「うぇぇぇ!? 何ですか、その情報!?」


「ちょ、それは聞いたことないけど!? えりりん知ってた!?」


「し、知らないわよ!! 相変わらず、真由美さんは規格外すぎる…」


「ま、まぁ納得は」


「出来るけど…な」


「嫁の母親が強敵すぎる」


 流石にこの情報は衝撃が強すぎたようで、皆も一様に大騒ぎ。

 勿論俺だって驚きなんてものじゃないし、家に帰ったら直ぐにでも色々と聞いてみたいくらい。

 でも沙羅さんはこのことを知って…あ、やっぱ知らなかったのか。

 鳩が豆鉄砲食ったような顔をしてる。


「あら、そこまでバレちゃったの?」


「ふふん、私の情報網を舐めないで下さいね…って、そうじゃなくて!!!! 何で薩川さんのお母さんがミスコンに出てるんですか!?


「うーん…個人的に、ちょっと理由があったんだけどね」


「それって最初に話してた、勝負がどうのってヤツですよね!? え、それってつまり、これ親子対決になるんですか!!!???」


「まぁ、そうなるの…かな?」


 うおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!


 親子対決と聞いて、何故か客席から大きなどよめきが起きる。

 何を盛り上がってんだよ、こいつら?


「うぉぉぉ、盛り上がってきましたぁぁぁぁぁぁぁ!!」

「薩川さん…いや、沙羅ちゃん、頑張れよぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!」

「女神さまぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

「お母さぁぁぁぁぁぁぁぁん!!! 頑張ってぇぇぇぇぇぇ!!!」

「ママと呼ばせて下さいぃぃぃぃぃぃ!!!!」

「真由美ちゃぁぁぁぁぁぁぁぁん!!!」


「ちょ、ちょっと待ちなさいよ!! いくらなんでも、既婚者は対象外でしょう!?」


「そ、それはそうなんですけどね…」


 ここまで完全に空気だったタカピー女が、我慢の限界とばかりに会長へ食ってかかる。

 ただその会話はスピーカーで筒抜けになっているので…今度は客席から激しいブーイング。

 これが民意ならぬ客意と言ったところか…

 果たして会長はどうするつもりなのか…と思っていたらマイクを手に取ったぞ。


「み、皆さん!!! 今回のことはイレギュラーであり、我々のミスでもあります!!! これについては、大変申し訳なく…ですが!!!! 観客の皆さんは、それでもまゆさんを…真由美さんの参加を望まれている!!! 我々はそう判断しても宜しいでしょうか!!?? ぜひ拍手でお答え下さい!!!!!」


 わぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!


 パチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチ!!!!


 満場一致とも言える大きな拍手が起こり、会長がわざとらしく客席に向かいお辞儀をする。これはつまり、真由美さんの続投が確定したってこと。

 だからタカピー女は、これ以上騒ぐと観客を敵に回すことになる訳で(手遅れっぽいが)


「ぬぐぐぐぐぐぐぐぐぐぐ…」


 もう見るからに悔しそう…これは完全に化けの皮が剥がれてないか?


「えー…と、と言う訳で、もうこのまま続行させて貰いますよ!!! いいんですよね!? 私は責任持ちませんよ!!?? 真由美さんも薩川さんも良いんですね!!!???」


「良いわよ。私はまだ納得していないし…ね、沙羅ちゃん?」


「ええ…構いませんよ。例え相手が母であろうと、私は絶対に負けません!!!」


「んふふ、こんな沙羅ちゃんを見れただけでも、参加して正解だったかしら?」


「そういう寝言は、家に帰ってからにして下さい!!!」


 普段の姿からは想像も出来ない剣幕の沙羅さんに、それを見て楽しそうに笑う真由美さん。

 観客もその光景を見ながら大いに盛り上がり、二人を応援をする声が客席に溢れかえる。


 取り敢えずこれで、真由美さんの正体に関する不確定要素は無くなったので…俺としても先ずはひと安心と言ったところ。

 でも沙羅さんvs真由美さんという親子対決の構図が完璧に出来上がってしまったので、もうミスコンそのものが薄れてしまった感もある。

 タカピー女はどうでもいいとしても、他の出場者の方々には申し訳ないと思う気持ちはあるので…


 その点については、俺からも謝らせて下さい…


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


 難しい・・・本当に難しいです。

 過去最大数の同時登場人物に加えてモブの声。しかも一成が混じらない会話も多いので、自動的に説明描写が増えて「ようだ、だろう」の不確定文の増加がますます書き難いです。しかも声の発生源が複数あるので、それの切り替えも難しい・・・

 でもモブの反応は拘りなので、絶対に外したくないし、とにかく難産でした。

 そのせいで先に話が進まないのもネックですし(^^;


 相変わらず手直しするとおかしくなるスパイラルになったので、もうここで限界だと判断しました・・・ごめんなさい。

 次は、料理対決を終わらせるくらいを考えてます。


 それと補足ですが、真由美さんは声を掛けられた時点では指輪をしていました。

 これは準備会の連中が見落としていただけです。

 細かい部分ですが一応。


 ではまた次回に

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