第14話 side 沙羅 のち 一成
土曜日
高梨さんが帰ってしまった後、私は焦りを覚えていました。
このまま肝心なことを伝えられなかったら、何か取り返しがつかないような……
私自身はあなたを信じています
あなたは他の男子とは違う、私にとって信頼できる人です
この言葉をまだ伝えられていないんです…
追いかけようとする私を
「…とりあえず落ち着こうか。今日はもう止めよう」
夏海が止めた
「夏海、私はまだ伝えたいことを話せていな…」
「落ち着きなさい」
私を諭すように夏海が続けた
「高梨くんも意固地になってると思うから、少し時間を開けて落ち着いてから聞いてもらった方がいい。焦らないで、次の機会にゆっくりと。でも今度こそ最初に言わなければならないことはわかってるね?それをまず伝えるんだよ。私も手伝えることがあれば協力するから」
「……はい」
私はこんなに自分を情けないと思ったことはありませんでした。
丁寧に最初から説明すれば最後まで聞いてくれると勝手に思い、肝心な言葉を伝えきれなかった…
男子生徒を忌諱し、他人を拒否することに慣れてしまっていた私は、先に相手の気持ちを考えて話しをするいう、当たり前のことが欠けている…
それを痛感した一日でした。
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そして月曜日
高梨さんの来ない昼休み…
一人で水やりをするこの光景は、今までずっと見てきたことであり、普通のことでした
でも今は…
ベンチを見ても、そこにはお昼ご飯を食べている高梨さんが居ません。
お礼の為に作るつもりだったお弁当は用意できませんでした。
頑張って練習したハンバーグも…もう食べて貰えないのでしょうか…
淡々と水やりを終わらせ、玄関で靴を履き替えようと靴箱を開けたときに、封筒が入っていることに気付きました。
最後にお伝えしたいことがあります。
放課後に屋上でお待ちしております。
いつもの告白だろうと思い、手紙を破り掛けたところで「最後に」という言葉が気になりました。
今までそんな切り口の手紙なんかありませんでした。
…高梨さん…でしょうか?
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月曜日
朝から憂鬱だったが、下手に休んで伯母さんや両親に連絡が行くのも嫌なので学校に向かう
昼休みも花壇に行かず、教室で寝たふりをして過ごした。
途中、雄二から心配するRAINが来たが適当に返した。
…先輩は一人で花壇にいるのだろうか…
土曜日の話で、俺も他のバカ共の同類で、信用すらして貰えないということがわかったんだ。
「あの目」で見られたくなければもう忘れろ…
放課後になり、気の重さからゆっくりと帰り支度をしていた俺だったが…
クラスのバカ共の話が耳に入ったのは偶然だった。
だが…この偶然は幸運だった
「おい、今日どうすんだ?」
「八代先輩達だろ」
「どうする?俺らも見に行くか?」
「いや、あれは最悪やっちまうかもしれねーし、共犯にされたくねー」
「だな。あの高慢ちきな女帝様が泣き叫ぶとこ見てー気はするけどな」
「スマホで撮るんじゃね?」
……何だ?何の話をしている?
ロクでもない話をしているのはわかるが…
女帝?
こいつらに高慢に見らている女帝…まさか…いや、そんな…
俺は平静を装い教室を出て、少し離れてから全力で駆け出した。
先輩のクラスは2-Bだ!
俺はこのとき…先輩からどう思われているとか、先輩に対する恐怖感とか、自分のネガティブな気持ち等、余計なことをは全て吹っ飛んでいた。
自分の知り合いが…心のどこかで否定しきれず、気になっていた人が酷いことをされてしまう可能性
もしここでスルーして先輩に何かあれば、俺は一生後悔する…
余計なことは考えるな、今はどうでもいい、先輩じゃないなら警告するだけでもいい…
そう考えていた
2-Bに着き、開いていたドアから教室を眺める。
先輩はいないか……
どうする…場所まではわからない…探すか?
…いや、間に合わなかったら…
そんなとき、ドアの向こうからこちらを見る女生徒と目が合った。
あれは確か、この前先輩と一緒にいた…
向こうは驚いた顔をしたが、すぐにこちらへやってきた
「こんにちは高梨くん。この前はゴメンね。でも、ここに居るってことは沙羅を呼び出したのはやっぱり高梨くんじゃなかったか。」
どういうことだ?俺が呼び出した?
「その話を聞かせて下さい。先輩は呼び出されたんですか?」
「うん、下駄箱に手紙が入ってたらしくてさ、文面に「最後」なんて書いてあるからラブレターにしては意味深だったし、沙羅がひょっとして高梨さんかも…って」
「俺は出してないです。そんなことするならRAINで送ります」
「うん、私も違うと思うって伝えたんだけどね。ただ…あの子今ちょっと精神的に」
今はそんな話を聞いている場合じゃない!
「場所は!?場所は聞いてないですか!?」
「屋上って言って…」
俺は最後まで聞かずに走り出した
間に合ってくれ…!
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