第268話 料理教室の日
帰りのHRが終わると、クラスメイト達は待ってましたと言わんばかりに準備を始めた。各自で必要な荷物を纏めて、準備が終われば我先にと家庭科室へ移動を開始する。
本当なら俺が一番先に行きたいところだけど、鍵を借りに行くという役目があるから俺だけ別行動だ。
職員室前で、沙羅さんと待ち合わせをしているから別にいいんだけどな。
さて…沙羅さんを待たせたくないし、俺も急いで職員室へ向かうとしよう。
必要な荷物をバッグに詰めて、それを片手に席を立つ。
隣で準備をしている花子さんに声をかけておくか。
「花子さん、俺は鍵を借りに行ってくるよ」
「わかった、先に行って待ってる。嫁とイチャついて遅くならないように」
花子さんが、イタズラっぽい表情を浮かべてニヤリと笑った。
もちろん冗談なのは分かってるけど、いくら何でも職員室の前でイチャつくような真似はしないぞ。じゃあ別の場所ならどうなんだと聞かれれば……いやいや、俺はそこまで節操無しじゃない。だからそれは、無用の心配ってやつだ。
…余計なこと考えてないで、さっさと行くか。
……………
………
…
職員室が近づいてくると、廊下で俺を待ってくれている沙羅さんが視界に入った。
廊下の窓から何かを見つめているようで、その姿はまるで美術品の絵画のような美しさ…正直に言って、このまま暫く眺めていたいくらいの光景だ。
通りすぎる生徒達も、男女問わず目を奪われたように一瞬足を止めている。
本当はもう少しだけ眺めていたいんだけどな。でも残念なことに、この後も予定がビッシリと詰まってる。だからのんびりとそれを堪能している時間もないし、このまま遅くなってしまえば花子さんから言いがかりをつけられ兼ねない。
だから声をかけようと思ったところで、沙羅さんがこちらに気付いたみたいだ。
「一成さん、お疲れ様です」
沙羅さんは先程までの雰囲気を一変させて、優しく柔らかい笑顔で迎えてくれる。俺の大好きないつもの沙羅さんだ。
「沙羅さん、お疲れ様です。お待たせしました」
「いえ、私も来たばかりですから大丈夫ですよ。お気になさらないで下さいね」
何か…デートの定番みたいなやり取りだな。普通であれば男子と女子が逆なんだけど、いつも沙羅さんにリードされていることを考えてしまうと…って、何を考えてるんだ俺は。
「と、とにかく、時間が勿体ないんで、早く鍵を借りて行きましょうか」
「はい」
職員室に入る機会はあまりないので、少しだけ緊張するな。
俺は扉の前でこっそりと気合いを入れてから、ドアをノックして扉を開く。
コンコン…
ガラガラガラ…
「失礼しまーす」
「失礼します」
俺に続いて挨拶をしながら、沙羅さんも職員室へ入ってくる。
よくよく考えてみれば、鍵を借りるだけだから廊下で待っていて貰えば良かったかな?
まぁ別にいいんだけど。
「はいはい、どうし…あら、珍しい組合せ…ってこともないか。会長と副会長がお揃いでどうしたの?」
扉に一番近い席に座っていた先生が、俺達を見て直ぐに対応をしてくれる。
この先生とは話をしたことがないんだけど、こちらのことは生徒会の役職で覚えられてるみたいだな。
「えーと、家庭科室の鍵を…」
「すみません倉持先生、高梨、こっちだ」
ウチの担任も俺に気付いてくれたようで、そちらを見ると手招きをしながら俺を呼んでいた。
良かった、これで説明する手間が省けた。
そのまま担任の座っている席に近付いて行くと、机の上に鍵があることに気付いた。どうやら既に準備をしてくれてあったみたいだ。
でも担任は俺のことよりも、後ろにいる沙羅さんのことが気になっているようで、視線がそちらに向いたままになっている。
「なんだ、薩川も一緒に来たのか?」
「はい。いつも一成さんがお世話になっております」
ぶっ!?
いくらなんでも、担任にまでそれをやるか!?
沙羅さんは俺に関係がある人物限定で、初対面のときにこうして「お世話になっています」挨拶をかます癖がある。勿論これに他意がないことくらいは俺もわかっているけど、まさかそれを担任にまでやるとは思わなかった。
事情を知らない担任からすれば、このやり取りは不思議でしかな……って、何で苦笑してるんだ?
「はは、まさか生徒からそんな挨拶をされる日がくるなんて思わなかったぞ。あぁ、高梨もそんな不思議そうな顔をするな。お前たちのことは俺も知ってるよ」
!?
な、何で担任がそれを知ってる!?
まさか、そんなクラスの誰かが漏らした!?
いやいや、まだ慌てるのは早いぞ。例えそうだとしても、俺達は別に疚しいことは何一つしていない。それに同棲の話は親友達しか知らないから大丈夫だ。
「…ご存じだったのですか?」
これは流石に予想外だったようで、沙羅さんも目を丸くして驚いてる。
でもそれは俺も同じだ。何で担任が…
「知ってるのは俺を含めて一部の先生だけだよ。詳しくは知らないけど、何でか校長から直接言われてな。俺は高梨に何かあったば…っと、まぁそれはいいだろ。とにかく、お前たちのことは知ってるってことだ」
校長?
何でそんなことをいきなり校長から言われるんだ?
当然だけど、校長なんて俺は全く面識もないし、話もしたことがない。それなのにそんな個人的……いや、ちょっと待てよ。つい最近、校長という単語をどこかで耳にしたような気が…
何となく沙羅さんを見ると、ちょうど俺の方を見ていたようでバッチリと目があってしまう。でも沙羅さんはそのままコクリと頷いた。どういうことだ?
「成る程…母の仕業ですか」
「真由美さん? …あっ!?」
そうだ、思い出したぞ!
確か父母参観のときに、真由美さんは校長に頼んだと言っていた。俺はあれが、父母参観に潜り込む為の依頼を校長にしたんだと解釈したが、それ以外に話があったとしても何ら不思議じゃない。
いや寧ろ、俺の教室に入り込む理由を説明するのに、俺と沙羅さんの関係を説明しない方がおかしい。
となれば当然、その辺りの話が通っていると考えていい。
でもどこまで話がされているのか分からないから、念の為にこちらから余計な情報は与えないようにしておこう。
「ん? 薩川の親御さんが絡んでるのか?」
「恐らくは…ですが」
「そうか、それなら納得だな。それで俺にもあんな話が…」
まだ他にも何かあるのか?
担任が、今の話以上の何かに納得したように頷いていた。そして俺がじっと見ていることに気付いて、また同じように苦笑を浮かべる。
「これはこっちの話だから、お前は気にしなくていいよ。別に悪い話じゃないし」
「そうですか」
そう言われてしまうと、俺としてもこれ以上の追求は出来ないな。そもそも担任がこの先を話すつもりがないということは、この言い回しを聞けばわかる。
「何か困ったことがあればいつでも相談しろよ。特に進路関係は遠慮するな」
「は、はい。わかりました?」
何か妙に親切というか…こんな言い方をすると申し訳ないけど、普段を考えたらちょっと不気味なくらいだ。担任なんだし、決しておかしいことを言っている訳じゃないというのは俺もわかってる。でも何か裏がありそうというか、それだけじゃない理由がありそうで、どうにも素直に頷けないところだ。
まぁ悪い話ではないし、ここは素直に納得しておこう。機会があれば、真由美さんに聞いてみるという手もあるからな。
「高梨は、薩川の親御さんと親しいのか?」
「ええ、それは…」
「父も母も、一成さんのことを実の息子のように思っていますよ。特に母が酷いです」
「酷い?」
「はい。あれは溺愛していると言ってもいいくらいです」
俺の代わりに沙羅さんが説明をしてくれたけど、若干嫌そうなのは真由美さんの「あれ」があるからだろうな。
俺としては、沙羅さんのお母さんかあそこまで受け入れてくれるのは本当に嬉しいことだ。でもちょっとだけやり過ぎというか、真由美さんはイタズラ好きだから、俺を困らせるのがたまに傷なんだよ。
「そ、そうなのか?」
「あれは異常です」
うーん、異常とまで言い切るなんて、これは沙羅さんもかなり腹に据えかねているんじゃないか?
これは俺の方からも、真由美さんに少し話をした方が良さそう…とは思うんだけど、もしそれを言えば…
「くすん…一成くんは、お義母さんと仲良くするのが嫌なんですか? 泣いちゃいます…」
とか言われそう。
というか、真由美さんが居ないのに声が聞こえたような…恐ろしい。
もちろん俺は全てに於て沙羅さんが最優先なんだけど、どうしても真由美さんには弱いというか、勝てないというか…
「そ、そんなにもか? だが…それなら安泰ってことだな…とにかく、何か困ったことがあれば遠慮なく言え」
「はい、ありがとうございます」
安泰ってどういう意味だ?
何か意味深な感じがするんだよな…でもそれを聞いたところで、あの様子だと担任が答えてくれるとも思えない。
ありがたいことを言われているのは確かなので、もうここは素直にお礼を言っておくしかないか。
「一成さん、そろそろ…」
「あ、そうですね」
そうだ、クラスの連中が待ってるし、遅くなったら花子さんからイチャつき疑惑を掛けられてしまう。急いだ方がいいな。
「余計な話をして済まなかったな。ほれ、鍵を持ってけ」
「ありがとうございます」
担任が差し出した鍵を受け取って礼を言う。
元々はこれだけの為に来た筈なのに、思わぬところで時間をロスしてしまった。
色々と気になる話ではあったけど、今は家庭科室に急ごう。
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家庭科室の前は、既に集まってるクラスメイト達でごった返しになっていた。
職員室で時間をロスしたとは言え、そこまで遅くなった訳でもないので大丈夫だろう。
俺達が近付いて行くと、流石にクラスメイト達もこちらに気付いて注目が集まってくる。
でもその視線は、やはり俺ではなく後ろに居る沙羅さんに集中しているようだ。
まぁそれも仕方ないか。
「すまん、お待たせ」
「お待たせしました」
「全っ然待ってないです!!」
「さ、薩川先輩こんにちは!!」
「今日はありがとうございます!」
とりあえず声をかけると、早くも女子達が周囲にわらわらと集まってくる。沙羅さんの人気は男女問わないということがよく分かる光景だ。
「…はぁ…溜め息しか出ねーわ」
「…女神だよなぁ…女神様だよなぁ」
「…見てるだけで幸せだ」
「…女神様の料理教室なんて、マジでラッキーだ」
もうこうなった以上、せめて沙羅さんに直接的な迷惑がかからないように俺が目を光らせるしかない。だからあのくらいの雑談は、仕方ないと思うしかないか。
「一成、お疲れ。少し遅かったけど、嫁とイチャついた?」
言われるだろうとは思ったけど、やっぱり言われたか…
ただ花子さんもニヤニヤしているので、これは単に俺をからかっているだけだ。
「いや、職員室で先生と話を」
「花子さん、そういうことは後で落ち着いてからゆっくりとします。ですよね、一成さん?」
「えっ!? そ、そうですね…」
「きゃぁぁぁぁ!!」
「うわわ、早くもきたぁ!!」
「薩川先輩って、高梨くんが絡むと本当に人が変わるよね…」
「どっちか本当の薩川先輩?」
「ぐぅぅぅぅ」
「わ、わかっていても現実がキツ…」
「羨ま…羨ま…羨ま…」
「成る程、これが花崎さんの言ってたことか」
男子達の光景を目の当たりにしながら、川村がポツリと呟く。
うーん、嫌な納得のされ方だ…
というか、俺も人のことは言えないかもしれないけど、沙羅さんは沙羅さんで無自覚に色々とばら蒔く癖がある。
あれ? それはつまり俺達はやらかす確率が二倍あるってことになるのか?
それじゃますます花子さんの言い分に反論できないぞ…
おっと、それはともかく時間が無くなるから早く家庭科室に入ろう。
これは決してごまかそうとか、話を流してしまおうとか、そういう理由じゃないからな、うん。
……………
………
…
家庭科室に入り、予め決められていたグループに分かれてテーブルに着く。
グループごとに担当する料理が決まっているので、今日はとにかくそれを覚えて帰る。今回の料理教室はその一点に尽きる。
経験者でもないのに短時間で一揃い覚えるなんて無理に決まっているから、各グループで一つ覚えて別の機会に教え合う形にすればいい。これはそう結論付いた上で決めたやり方だ。
ただ一つだけネックなのは、沙羅さんの負担が増えてしまうということ。それだけが俺として気掛かりであり、本当に申し訳ない部分でもある。
今日は家に帰ったら、俺の方からせめてものお礼に何かしてあげられればいいんだけどな…
沙羅さんは断るだろうけど、そうなったら強引にでも…とは思う。
でも本音としては、理由どうあれ強引に言うことは避けたいところだ。
俺が強く言えば沙羅さんは基本的に断らない。だからこそ、俺はどうしても譲れないとき以外は強く言いたくないんだよな。
「はい、それでは早速開始します」
準備の終わった沙羅さんが、教師用の小さいテーブルの前に立つ。
ちなみに今日の沙羅さんの出で立ちは、料理の邪魔にならないように髪型をアップにして、愛用の猫エプロン(俺のプレゼント)装備になっている。
家から持ってきたみたいだな…
「時間があまりありませんので、各テーブルでは要点を説明します。先ずは共通として、包丁の使い方を改めて説明しますのでこちらに集まって下さい」
沙羅さんからの指示で、全員が一つのテーブルを囲むように集まる。
包丁とまな板、材料の大根が用意され、沙羅さんが包丁の持ち方、切る素材の持ち方を丁寧に説明しながら、ゆっくりとそれを切っていく。
家庭科の授業でやったことがある筈なのに、何故か初めて見たような気がするな。
「最初は、こうしてゆっくりでもいいので丁寧に切って下さい。調子に乗ってスピードを上げるのは怪我の元ですから、絶対に無茶をしないように」
沙羅さんの言葉遣いは丁寧であるものの、その端々には多少の厳しさを感じる。料理に対する拘り、思い入れの深い沙羅さんだからこそ、無意識にでも気持ちが現れているのかもしれない。
俺も今日は他の連中と同じように扱って貰うように言ってあるので、その気持ちに答えられるように真面目にやらないと。
「すみません、これは興味なんですけど、薩川先輩は普段どのくらいで切ってるんですか?」
予想通りだけど、やっぱりそういう質問が出たか。
沙羅さんの料理スキルが凄いというのは有名な話だし、そこに興味が湧く人が現れても不思議じゃないとは思ったいた。
俺はもちろんそれを知っているけど、あれはテレビで見るプロの料理人にも引けを取らないと思うぞ。
「そうですね。普段は…」
トトトトトトトトト
うん、相変わらずだけど、速いなんてもんじゃない。
まな板の上の大根がどんどん小さくなっていく。しかもよく見れば、切った方の厚さも均一になっているように見える。
いつものことながら、全く料理が出来ない俺でもその凄さに驚いてしまう。だから普段料理してる人から見ればこれは…
「は、速っ!?」
「うわっ、スゴすぎ!?」
「ひえええ、ウチのお母さんが遅く見えるよ…」
「ね、ねぇ、あれって家庭科の先生より…」
「おお、ス、スゲーなぁ…」
「家庭科オールマイティーって噂は本当なんだな…」
「いいよなぁ…理想だよなぁ」
まぁこうなるよな。
驚き度合いの違いは、普段料理にどの程度関わっているかということの違いかな…当然、男子達の感想は問題外だ。
「嘘…くっ、こんなに凄いなんて…」
若干アニメチックな驚き声を口にしているのは、俺の隣でそれを見ている花子さんだ。
自宅で料理の練習をしているとは聞いているので、沙羅さんのレベルの高さにショックを受けてるみたいだ。
朝この辺りの話が出た時に、お姉ちゃんのプライドと言ってたから…俺は頑張れとしか言えないかも。
「薩川先輩って、いつから料理の勉強してたんですか?」
「…いつからでしょうね? 気が付いたら手伝わされていたというか、手伝っていたと言うべきか…」
俺もその辺りのことを深く聞いたことは無いけど、この発言から「覚えていないくらい幼い頃から練習していた」と読み替えることもできるな。真由美さんが小さい頃から仕込んだと言っていたこともあるし、ある意味英才教育みたいな感じなのかも…
「そんなに前から…」
「母からは花嫁修行の一貫だと言われたこともありますよ。でも当時の私は鼻で笑っていましたけど」
「え、何でですか?」
「私は男性を毛嫌いしていましたからね。花嫁修行という名目では役にたないと思っていました」
沙羅さんが、男に対して最悪レベルの感情を持っているのは今も大して変わっていない。まして俺と出会う前はもっと酷かったと、沙羅さん本人や夏海先輩から直接話を聞いている。だからそんな状態で花嫁修行なんて言われてしまえば、役に立つ機会はないと笑ってしまうのも仕方ないだろうな。
そして女子達が、今の沙羅さんの発言を聞いた途端に突然ニヤニヤと含み笑いを始めた。
笑い方が嫌らしいぞ…何だいきなり?
「薩川先輩!」
「今、思っていたって言いましたよね!?」
「てことは、今は思っていないってことですよね!?」
女子達が興奮気味に沙羅さんへ質問をぶつけていく。そしてそれと同時に視線が俺にまで集まってくる。うう、嫌な予感が…
「そうですね、今思えば、母には感謝していますよ」
「そ、それってやっぱり」
「今は高梨くんがいるからですか!?」
「結婚の約束をしたからですよね!?」
やっぱりこういう流れになるのか…
ニヤニヤとこちらの様子を伺っていたのも、この流れを期待していたからに違いない。女子は本当にこういう話が好きだな…話への食い付きも凄すぎるぞ。
「ええ。私が今まで勉強してきた全てを、一成さんにして差し上げられますから」
俺とのことを聞かれて、沙羅さんが幸せそうに満面の笑みを浮かべる。
そんな笑顔を見せられてしまうと、俺としても嬉しい…嬉しいんだけど、今はマズ…
「「「きゃああああああああああああ!!」」」
「ラブラブきたぁぁぁぁぁぁぁーーー!!」
「ごちですぅぅぅぅ!!!!」
「「「ぐぉぉぉぉ…………」」」
あー…やっぱそうなるよなぁ。
女子はハイテンションで大騒ぎ、男子は反対にお通夜だ。
おかしい、料理教室の筈なのに、何で俺達の話で盛り上がる展開になってるんだ?
「ち、ちなみに、今も何か高梨くんにしてあげたりするんですか?」
!?
ヤ、ヤバい!?
この話の流れは危険すぎる!!!
このままだと、沙羅さんが家で家事をしていることを…延いては同棲の話に波及しかねないぞ!?
「何かと言いますか、家事については全て私に任せて頂いておりますから」
「…え?」
「…えーと?」
「…ん?」
「さ、沙羅さん!! そろそろ」
「嫁! 時間がなくなるから早く進めた方がいい。一成が困ってる」
ここまでの流れをぶった切り、珍しく大声をあげた花子さん。沙羅さんが話を止めて、焦ったようにこちらを見る。
「も、申し訳ございません、一成さん」
「…やっぱ嫁って呼んだ!?」
「…この三人の関係も気になるぅぅぅ」
「…てゆーか、あの薩川先輩相手に…花崎さんって謎多いよね」
はぁ…助かった…
花子さんの「嫁」発言にも食い付いてくれたので、話が完全に別方向へ流れてくれた。
今のはかなりマズい話の流れだったので、本気で焦ったぞ。
花子さんに感謝…
「いや、大丈夫ですよ。でも時間に余裕がないのは確かなんで…」
「はい。それでは続きに戻ります」
俺の表情を見て、沙羅さんがホッとしたような表情を浮かべる。
そして再び表情を引き締めると、テーブルの上に視線を戻した。
とりあえず、これでもう大丈夫かな。
「全く、あれは嫁の悪い癖」
隣にいる花子さんが、俺にだけ聞こえるような小声でポツリと漏らす。
今回は花子さんのお陰で助かったのは事実なので、お礼を伝えておこう。
「花子さん、ありがと」
「私はお姉ちゃんだから」
これは花子さんにとって、もはや決め台詞とも言える一言。
視線だけチラリとこちらに向けて、花子さんが小さな微笑みを浮かべる。
本音を言うと、花子さんも爆弾を投下する癖があるぞと突っ込みを入れたくなるけどな。でもそれはそれとして、こんな風にしっかりとフォローもしてくれる。
そういう意味では、頼りになるお姉ちゃんでもある…かな?
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
久々に8000文字以上書きました・・・・
相変わらず書き方が安定してませんけど、気にしないことにします・・・
次回も引き続き料理教室です。誰かが・・・何かをやらかす?w
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