第299話 上坂さん、ファインプレー

 side 雄二


 さてさて、なかなか面白いことになってきたようだな…何て言い方をすると、また夏海さんに怒られてしまうが。


 でもこうして端から見ていると、速人から聞いていたよりはいい感じになっているんじゃないかと思う。

 下手をすれば一成よりも評価が低い…なんて自虐的なことを言っていたが、藤堂さんの様子を見る限り、そこまで悲観する程じゃないだろう、あれは。


 俺は学校が違うこともあって、藤堂さん個人とはそこまで交流がある訳じゃない。でもグループRAINでのやり取りは普通にあるし、ここまでの付き合いだけでも、非常に好感の持てる気立ての良い子だということは分かっている。

 ただそれ以外のことについては、俺も立川さんから話として聞いているくらいで…やはり仲間としては、もう少しくらい交遊を持ちたいところか。


 もっとも…夏海さんと速人の手前、そこまで露骨に接触することはしないが。


 まぁ、あちらについては速人の努力に期待するとしよう。

 今の俺は、まず自分達のことを考えなければ。


 夏海さんの話では、今日のお弁当は、別口で俺用の物が用意されていると聞いていた。でも少なくとも、今のところそれらしき物の影は見えない。

 夏海さんがこっちを意識しているのは丸分かりなんだが、微妙にテンパっているようにも見えるので、果たして内部で何が起きているのやら。

 普段は姉御肌で快活な夏海さんも、男女事になると乙女な感じになってしまうからな…まぁ、そこが可愛いところでも…って、これじゃ俺も一成と同じか。

 毒されてきたのかもな(笑)


 とにかくお弁当のこともあるし、俺の方からも動いた方が良さそうかもしれない…


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 何故か必死さのようなものを滲ませながら、夏海先輩が雄二に呼び掛けた。

 顔が朱くなっているようにも見えるし、そんな珍しい様子を見せれば、当然注目を集めてしまう。

 となれば当然、一際大きく反応するのは事情を知らない面子な訳で。


「は、はい!?」


 そして雄二も、突然自分の名前を呼ばれたことに驚いた様子。


「あ、あのさ、その…こ、ここ、これ」


 夏海先輩がゴソゴソとボストンバッグの中を漁って…さっき似たような光景を目にしたような気もするが…直ぐに何かを掴んで取り出した。

 それは巾着袋に入っていて、何かの箱のようにも見え…


 あ、そっか。そういうことか。


「夏海さん、これは?」


「うぅぅ、い、言わなくても分かってるでしょ!?」


 少しわざとらしい雄二の反応を受けて、遂に真っ赤になってしまう夏海先輩。

 うーん、あれは可愛い、正に乙女ってやつだ。

 相変わらず普段とのギャップが凄くて、俺も思わず「あざとい」と言ってしまいたくなるくらい。

 でも本人にはそのつもりがないだろうから、きっと言い掛かりになっちゃうだろうけど。


「…ありがとうございます」


「う、うん。一応…頑張った…」


 雄二は相変わらず冷静に振る舞っているように見える…が、俺には分かる。

 あれは必死になってニヤケを抑え込んでいる顔だ。しかも口端がピクピクしてるから間違いない。


 全く…喜びたいなら素直に喜べばいいのに。


「…ゆ、雄二…? なつ…み、さん?」


 あ…これはマズいかも。


 今の二人のやり取りに、何か不穏なものでも感じたのか…西川さんの表情が徐々に暗いものを帯び始めた…ような気が。


「…やっと動きましたね。全く、自分の事になると気弱になるのは、夏海の悪い癖です」


「…沙羅さん?」


「ふふ…あの二人のことは、暫く見守っておきましょうか」


「…了解です」


 ちょっと意味深な感じがしないでもないけど…でも沙羅さんなりに、夏海先輩のことは気にしているんだろうから。

 ただ俺としては、あの二人よりも寧ろ西川さんの様子が気になってしまう。

 この展開になれば、雄二と夏海先輩は自分達のことを報告するしかないし、それを知ったときに西川さんがどうなってしまうのか。


 大丈夫かな?

 色々な意味で…


「あ、夕月先輩は橘くんにお弁当作ったんですねぇ。満里奈と同じ理由なんで…あれ? でも橘くんとは学校違うし…」


「…夏海…お前…ひょっとして?」


 夏海先輩の異変に目敏く反応したようで、上坂さんが真っ正面から切り込んだ。

 少し笑顔を覗かせて、夏海先輩に何かを確認するように、じっと目を見つめながら話しかける。

 そして夏海先輩も、そんな上坂さんに少しだけ照れ臭そうな笑顔を見せて、小さくコクリと頷いた。


「そうかぁ…とうとう先を越されてしまったな。でも、おめでとう、夏海」


「うん…ありがと、大地」


 二人の間に流れている優しい空気感に、俺はどこか独特のものを感じたような気がした。

 単なる友人同士というには雰囲気がありすぎて、でも男女のそれとは違うような…ある種「重み」のようなものを感じてしまうと言うか。

 でも、それはきっと、俺達の知らない幼馴染み同士の繋がりみたいなものが…


 幼馴染み…か。


「えーと…その、あのね、えりりん、実は…」


 夏海先輩はちょっと言い淀んで、かなり照れ臭そうな様子。

 西川さんも思いの他、冷静に受け止めているように見える。でも若干、表情が堅いような気がしないでもない…かな?


「え、えぇぇぇ!? ひょっとして、橘くんと夕月先輩、付き合ってるんですか!?」


「う、うん…」


 もう見るからに真っ赤になりながら、夏海先輩がコクリと頷く。雄二もそんな夏海先輩の様子をじっと見つめていて…二人は目が合うと夏海先輩が俯いてしまった。


 乙女だ…夏海先輩が乙女すぎる。


「うわぁぁ! 凄い凄い!! おめでとうございます!! と言うか、いつから!?」


「それは私も聞きたいな。幼稚園からの腐れ縁に、そんな大切なことを言わないなんて、ちょっと水臭いんじゃないか?」


「そうですよね!? と言うか、高梨くん達は驚いてないし、満里奈もノーリアクションってことは、もしかして知ってたの!?」


「あ、ゴメン、それは私からお願いしてあったんだよ。大切なことだから、自分で言わせて欲しいって」


 俺達がフォローを口にするよりも早く、夏海先輩が真相を伝えてくれる。

 でも…実は「恥ずかしかっただけだろ?」と思っているのは俺だけじゃない筈。


「そうなんですね、ゴメン満里奈」


「ううん、仲間外れみたいな形になっちゃったから…ごめんね、洋子」


「全く…夏海が早く言わないせいで、後輩が気まずくなってしまったではありませんか」


「わ、悪かったよ。でも、私はあんたみたいに明け透けには出来ないの!!」


「自分の大切な人と仲良くするのに、いちいち遠慮をする必要などないでしょう?」


「あんたはもう少し人目を気にしろ! そして遠慮しろ!!」


 夏海先輩の突っ込みに、何故か皆が一様にうんうんと頷きながらこちらを見た。

 まぁ散々やらかしている自覚はあるし、そう言われてしまうのも仕方ないとは…いや、例えそうだとしても、俺はこの先も変わらないし変えるつもりもないぞ。

 理由? そんなの嬉しいからに決まってるだろ。 それにそもそも…


「おかしなことを言いますね? 何故私が、一成さんと仲良くすることに遠慮などしなければならないのですか? それに、人目も何も、堂々としていればいいんですよ」


 とまぁ、予想通り過ぎる沙羅さんの意見には俺も完全同意だから。

 でも皆の視線からは「ダメだこいつら」って言われてるような気がしないでも…


「まぁバカップルは放っておくとして…そんな訳で、改めて宜しくね」


「宜しくお願いします」


 揃ってお辞儀をする二人に、皆から…そして俺からも祝福の拍手。

 沙羅さんは、やれやれと言った感じで苦笑しながら拍手をしていて、やっぱり照れ臭そうな夏海先輩は、やっぱりちょっと俯き加減。


 ただ…俺的に気になるのは、西川さんの様子だったり。

 特に取り乱した様子もないし、こうして見ている分には普通。もう普通すぎるくらいに普通で、それが却って違和感を感じるような気がして…


 …あれ、そういや、西川さんは拍手してたか?


 って言うか、さっきから一言も喋ってないような?


「さ、さぁ、話はこれで終わり!! お弁当の続きを食べよっか!」


「そうですね。さぁ一成さん、お弁当を食べましょう」


「私のお弁当もまだ残ってるから、あーんの続き」


「藤堂さん、改めて、食べさせて貰うね」


「う、うん、どうぞ!」


「夏海さん、俺があーんして欲しいって言ったら…」


「無理っ!! 調子に乗るな!!」


 でも皆は和気藹々としていて、西川さんの異変には気付いていないみたいだ。

 いや、上坂さんは気付いているのかな?

 俺が西川さん越しに視線を向けると、上坂さんも戸惑ったように目で合図を返してきた。


「あの、西川さん、大丈夫ですか?」


「に、西川さん?」


 俺の方から話かけてみても、続けて上坂さんが声をかけても、やっぱり西川さんの反応がない。


 いくらなんでもこれは…


「さ、沙羅さん、西川さんが…」


「…絵里、どうしましたか?」


 俺の指摘で異変に気付いてくれた沙羅さんが声をかけても、やっぱり西川さんからの反応がない。でも目は開いているし…よくよく考えてみると、そもそも表情も変化してないような?


「ちょ、ちょっと、えりりん? おーい、えりり~ん!?」


「に、西川さん!!」


「大丈夫ですか!?」


 俺達の様子を見ていた皆もやっと異変に気付いたみたいで、口々に西川さんへの呼び掛けを開始した。

 でも当の西川さんは、全くと言っていいほど無反応。


 ちょっとまてよ…これはまさか…


「え、えりり~ん!?」


 そして夏海先輩が、西川さんの目の前でふりふりと手を振ってから、そのまま焦ったように肩を揺らすと…


 …カクン


 と、首が…


「え、えりりーーーーーん!!!????」


 夏海先輩の叫びも空しく、まるで戦いが終わり燃え尽きたキャラのような…そんな感じで…


 と言うか…これって気絶(?)してたのか?

 成る程、通りでこんな衝撃話なのに全く反応しない訳だ。

 いやー、納得納得…ってそうじゃないだろ!?


「ちょ、西川さん!?」


「絵里、冗談は止め…まさか、本当に気絶しているのですか!?」


 状況の重さにやっと気付いたようで、いつもは冷静な沙羅さんまでが、焦ったように声をかけ始める。それでも西川さんは全く反応しないぞ!?


 ちょっと、これマジでヤバいんじゃ…


「はぁ…仕方ない」


 でも一人だけ冷静な様子の花子さんが、溜め息をつきながら席を立つ。そして何故か西川さんの背後へと回り、両腕を引き寄せてから何かの体勢をとった?

 何か…アニメか漫画で見たことがあるような…?

 花子さんは、そのまま「えいっ」という可愛い掛け声と共に、西川さんの背中に勢いよく衝撃を与えた…


「はっ!?」


 そして西川さんの顔が上がり、目がパッチリと!?


「「「ええええええええええ!?」」」


 ちょ、こんな漫画みたいなことあるのか!?

 冗談だよね…冗談だろ?

 これ、フィクションだから良い子は真似しちゃダメだよ的なやつだろ!?


 花子さんは本当に謎すぎる…


「あれ、私はいったい…」


「だ、大丈夫、えりりん!?」


「西川さん!?」


 思わず「ギャグ漫画かっ!」と突っ込みを入れたくなるようなテンプレを呟きつつ、西川さんは状況を確認するようにキョロキョロと辺りを見回している。


「絵里、大丈夫ですか?」


「沙羅? え、ええ、よく分からないけど、夢を見ていたみたい」


「夢…ですか?」


「夏海が、橘さんと交際を始めたなんて夢を見たのよ。ふふ、凄い夢…そう…夢を…夢…夢…夢なのよ…」


 何だろう、凄く嫌な予感…


 俯いて「夢」を連呼している西川さんの身体が、カタカタと謎の震えをみせ始めたかと思うと…突然「くわっ」っと大きく目をかっぴらいて夏海先輩を見た!


 こ、こわっ!?


「「ひぃぃぃぃぃぃぃ!!」」


 藤堂さんと立川さんの悲鳴は、もうホラー映画さながらな感じだ!!

 このまま頭が回転し始めたら、それこそエク○シ○トばりの…


 ちなみに花子さんは、早くも避難してちゃっかり俺の真横に来ていたり。


「ちょ、ちょ、え、えりりん、落ち、落ち着いて!! 怖いから、その顔、怖いから!!」


「夏海、答えなさい…橘さんと、交際を始めたんですか?」


「う、うん、そうなんだけどね…って、とにかく落ち着いてぇぇぇぇぇ!?」


 夏海先輩が恐怖と雄叫びの入り混じったような叫び声をあげて…あの空間には一体どれ程の恐怖が漂っていると?


 ホントにホラー映画ですかね、これ?


「そう…そうなのね…おめでとう夏海。心から祝福するわ」


「えりりん?」


「おめでたいと思う気持ちは嘘じゃないのよ? 親友に素敵な相手が現れて、その人と結ばれたということはとても素晴らしいことだから。でもね…」


「え、えりりん…ちょ、ちょっと…?」


「でもね…それはそれ、これはこれ…なのよ?」


 無表情で淡々と話を進めていく西川さん。その周囲には…周囲…には?

 いやいや、これは錯覚だ。実際にそんなことある訳がない。

 でも…それなのに…あぁそれなのに、それなのに。

 俺には見えるような気がするぞ、と言うか見えてる…きっと。


 西川さんから吹き出してくる、西川さんを包んでいく、黒く巨大な何かが…何かが!?


「な…」


「な?」


「何で私ばっかりぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!!!!」

「えりりぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃん!!!!???」


 そして、西川さんの絶叫と夏海先輩の絶叫が空まで響き渡り、晴天だった筈の空模様までもが夜の闇に包まれ始めたような…そんな感じが…したようなしないような?


 …寝惚けてるのかな、俺?


……………


「どうせ…どうせ私なんか…このまま…お見合いが…その内、適当に…言い寄ってくる男なんて…」


 絶賛やさぐれ…もとい、闇堕ち中の西川さんに、俺も正直かける言葉が見つからない。

 この前も意味深なことを言ってたような気がするし、ひょっとしてまた何かあった(主に男性関係かお見合い辺りで)のかもしれない…


「えりりん、今までは運が悪かっただけだよ。えりりんなら絶対に大丈夫だから」


「そうですよ、西川さんみたいな素敵な女性、周囲が放っときませんって! と言うか、そんなこと言ってたら、私なんかどうすりゃいいんですか?」


 一応、女性陣がフォローに回ってくれているんだけど…なかなか立ち直る気配が見られず。

 ただ、立川さんはともかく、今の夏海先輩の声は逆効果に思えなくもない訳で。

 そして沙羅さんもそれが分かってるから、何も言わずに西川さんを心配して見守っているんだ…


「…はぁ…一成さんがご飯を食べられないではありませんか…」


「…嫁、気持ちは分かるけど声が漏れてる」


 えっと…心配…してるよね?


「その、ちょっといいかな?」


 そんな矢先に思いがけない声があがり、全員の視線が一点に集まる。それは今回の特別ゲストでもある、元生徒会長の上坂さん。


 ここまでは場の空気に流されるままと言った感じだったのに、突然どうしたんだろ?


「何となく今の状況は分かったんだけどね…私から西川さんに、今日感じたことを伝えておこうと思うんだ」


「…上坂さん?」


 これは流石に西川さんも気になったらしく、闇堕ちの気配が少しだけ引っ込んだ。

 それに、俺としても上坂さんが何を言うのか非常に気になる。


「これは、この場にいる皆と違い、西川さんと明確な繋がりが無かった私だからこそ気付いたことだと思うんだけどね。今日ここまでの時間で、私は良い意味で西川さんのイメージが変わったんだよ」


「イメージ…ですか?」


「うん。私の西川さんに対するイメージは、一見すると人当たりが良さそうに見えて、どこかで近寄りがたいというか…薩川さんとは違う意味で、壁のような物があると感じていたんだ」


 うーん…上坂さんの話はイマイチ実感が湧かない。

 実際、俺はそんな感想を覚えたことは一度もないし、西川さんの基本的なイメージは、ポンコ…もとい、社交的で人当たりのいい頼りになるお姉さんと言った感じなんだが…少なくとも壁なんて感じたことは一度も無い。


「…やっぱり、皆はそう感じたことが無さそうだね。それはそれで羨まし…いや、何でもないよ。とにかく、そんな印象があったんだ。でも、今日は色々な西川さんを見たことで、私の中のイメージは一気に変わったよ。何と言うか、凄く親しみやすくなった」


「………」


 黙ってその話に聞き入っている西川さんは、どこか少し驚いているようにも見える。意識していなかったことを指摘されたからなのか、逆に図星をつかれたからなのか…もしくは…


「申し訳ない、私も自分が何を言いたいのか、実はイマイチ纏まっていないんだ。ただ…私にとって西川さんは、高潔でとても頼り甲斐のある、尊敬に値する…とても魅力的な人なんだ。なのに少し近寄り難くて、仲良くなりたいのに、どうすればいいのか分からなくて。でも今の西川さんは、とても親しみやすくて、あの頃より遥かに人間味を感じると言うか…でもきっと、親しい人に対しては、いつもこんな風に気さくな一面を見せていたんだよね?」


「…その、私は自分でそれを意識したことがないのですが」


 これはあくまで、上坂さんの話が本当だと仮定した上での話だが…


 親友である沙羅さんと夏海先輩を経由した出会いだったから、俺達は西川さんにあっさりと受け入れて貰えたんだとすれば、単純な理由ではあるものの納得できるものではある。あくまで仮定だけど。


 ただそれはそれとして、上坂さんが西川さんに対して、より親しみを感じるようになったという言葉だけは間違いなく確かなことなんだと思う。


 何故って…言葉使いが変わったから。


 上坂さんは、何故か西川さんに対して敬語を使っていた。でも今は、俺達と話をするときと同じ様になっている。

 この変化が、上坂さんの中で西川さんのイメージが変わったという証拠なんだろう。


「それは無意識だったんだと思うよ。だから私は、今まで以上に、西川さんのことを魅力的に感じているんだ。ちょっと抜けているように見えるところも、可愛いとさえ思える」


「か、かわっ!? そ、そうでしょうか?」


 ともすれば能面のようだった西川さんの表情に、明確な「照れ」の表情が見えてきた。そして黒い何かが薄れたような…いや、これはあくまで俺がそう見えてるってだけだぞ?


 ちなみに、夏海先輩が妙にニヤニヤしながら、上坂さんを見ていて…せっかくいい感じになってるんだから止めてあげて下さいね…


「つまり、その、私が何が言いたいのかと言うと、西川さんの魅力は、ある程度の付き合いを経て一層見えてくると言うか…」


「ちょ、ちょっと、上坂さん?」


「少なくとも私は西川さんのことを、とても魅力的な女性だと思っているし、だからそんなに悲観しないで欲しいということを伝えたくて…」


「わ、わかりました、もうわかりましたから! そのくらいにして下さい…」


「え? …あっ!?」


 ちょっと恥ずかしそうな西川さんの言葉に、やっと上坂さんの口が止まったと思えば…その表情は「やってしまった」と言わんばかり。


「いやぁ…大地ぃ…熱弁だったね?」


「そ、そそ、そんなことはないぞ、私はただ」


「いやいや、生徒会の演説より熱かったでしょ。ねぇ、えりりん?」


「な、夏海、そのくらいにしなさい。上坂さんは、私に気を使って下さったんですから。それと、上坂さんも、ありがとうございます。その、あまりそういう言い方をされたことがないので、嬉しかったです」


 西川さんがあれをどう受け止めたのかは分からないが、少なからず悪い気はしていない…といったところか?

 取り敢えず闇堕ちの気配だけは無くなったみたいだけど。

 でも言葉尻を捉えてみると、あれをまともには受け止めていないのかもしれないし、照れ隠しなだけのような気もするし…はてさて?


「えっと…いや、こちらこそ、つい勢いで…」


「ふふ…上坂さんはそういうイメージがないので、ちょっと驚いてしまいました。でも、本当にありがとうございます。その…嬉しかったですよ。それと、夏海もごめんなさいね。改めて、おめでとう」


 どうであれ、上坂さんのお蔭で西川さんはいつもの調子を取り戻してくれたみたいだ。それに場の空気も明るくなったような気もするし、だから、そこは素直に助かったかも。


「さぁ、お昼ご飯の続きにしましょう。上坂さんも、是非私のお弁当を食べて下さいね?」


「あ、あぁ。ありがたく頂戴するよ」


 そして少しだけ、上坂さんに対する西川さんの様子が変化したような、柔らかくなったような気がしないでもない…かも?


 まだ分からないけど。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


 な、難産でした・・・

 要因は不調とか色々ありますが、想像を遥かに超えて時間が・・・


 次回は、もう少しだけお弁当時間の続きで、その後は校内巡回という名の練り歩きです。

 

 そして、一応の記念として、次回はまさかの300回に到達です。

 まさかミスコンに到達しないとは・・・


 ではまた次回に

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