第273話 タカピー
翌朝
昨日の料理教室で色々なことがあったせいなのか、そもそも料理教室が終わったからなのか、今朝の教室内は昨日までと少し雰囲気が違うような感じになっていた。
クラスメイト達の話題が、料理教室から当日の衣装に関することに変化したことは当然として、男子達が沙羅さんの名前を口にしていないことが主な違和感の原因なのかもしれない。あれだけ連呼していた「薩川先輩」の名前が、今日はまだ聞こえてこないからだ。
もっと正確に言うと、女子は相変わらず沙羅さんのことを話題にしてはいる。「薩川先輩」と名前を出しながら、チラチラと俺の方へ視線を飛ばしてくることもそうだ。ただ少なくとも、男子達は沙羅さんのことをメインの話題としていないのは耳を傾ければ直ぐにわかった。
そこまで極端にならなくても…とは思うけどな。せめて普通に考えてくれればいいんだよ。沙羅さんはアイドルじゃなくて、あくまでも「普通の先輩」なんだからさ。
「やっぱどう考えても全員分は無理だからね」
「いや、でも助かったよ」
「つか、なんでメイドカフェから予備を借りれんだよ…」
「いや、ゲーセンのコス衣装はギリじゃね?」
盗み聞きをしている訳じゃないんだけど、衣装に関する話題はバッチリと俺の耳にも聞こえてくる。
どういうツテなのか知らないけど、衣装は全て借りることが出来るそうだ。だから製作は無しで、そのまま用意が可能という話になっている。そもそも一から衣装を作るなんて、時間的にも数的にも無理な話だからな。それが全て借りられるというのであれば、その方がよっぽど現実的な話でもある。
ちなみにメイド服は、メイドカフェとどこかのゲーセンの貸し衣装を借りて、執事服は演劇部にある衣装を借りることになっているらしい。ご都合主義にも程があると突っ込みたい気もするけど、実際にあるんだそうな。だから仕方ないよな、うん。
「高梨くん、ちょっといいかな?」
俺に声をかけてきたのは、夏海先輩ファンクラブの一人…いや、よく見れば、ちゃんと後ろにもう一人いるか。
この二人はかなり仲が良いみたいで、教室内でも移動教室でも基本的にいつも一緒に居るんだよな。まぁこのクラスに限って言うなら、俺と花子さんも似たようなものかもしれないけど。
「何?」
「いや、何でもないよ」
花子さんが突然こちらを向いたので、何となく目が合ってしまった。
別に変なことを考えていた訳じゃないのに、思わず一瞬焦ってしまったぞ…
「えっと、高梨くん?」
「あ、ごめん、何か用事?」
「うん、ちょっと確認したいことと、お話があるんだけど…」
「ちょっと急ぎたいから、次の休み時間でもいいかな?」
何だろう、何となくだけど、二人からは普段と少し違った様子が伺える。
しかも急ぎだなんて言われてしまうと、流石にこれは気になるぞ。
別にこれといった予定もないし、特に問題はないか。
「えーと、俺は別に構わないけど」
「良かった、教室だとちょっとマズいから、場所を移動してもいい?」
「そんなに時間は取らせないから」
「…わかった」
教室では話せないことなんて言われると、ますます話の内容が気になってくる。
何だか分からないけど、それなりに重要な話なのかもしれないな。
でもこの二人は普段から好意的だし、少なくとも変な話じゃないってことだけは確かだ。その点では安心なんだけど。
「ねぇ、それは私も一緒に行っていい?」
話が決まったところで、こちらの様子を伺っていた花子さんが口を挟んでくる。
どうなんだろう、俺だけに言ってきたってことは花子さんが関係する話じゃないと思うけど、やっぱりお姉ちゃん的には気になるんだろうか?
「え? えーと…」
「私はダメ?」
花子さんの問い掛けに、二人は少し困ったような表情を見せて俺の方に視線を寄越した。
これはひょっとして、俺が大丈夫なのかどうなのかを気にしているのか?
「俺は大丈夫だけど?」
「あ、高梨くんが大丈夫なら、私達は別に問題ないよ。だよね?」
「うん。それに、花崎さんなら全部知ってるみたいだし…」
やっぱりそうだったみたいだな。
でも花子さんが全部知っててここでは話せないことってなると、話の内容は俺と沙羅さんに関することなのかもしれない。もしそうなら、それこそ花子さんが同行しても俺的には全く問題ないな。
内容までは分からないけど、この二人なら少なくとも野次馬的な話じゃないだろうし。
「じゃあ私も行く」
「わかったよ。とにかく、次の休み時間ね」
「それじゃ後でね!」
「あぁ」
俺達の返事を聞いて、二人は笑顔を浮かべながら自分達の席へ戻っていく。
さて…恐らくは俺と沙羅さんの件、しかも少なからず急ぎで教室では話せない内容。一体何の話があるのやら。
ちなみに花子さんは、席に戻っていく二人の後ろ姿を暫く眺めていた。別にあの二人はそこまで心配するような…って、そうか。
そう言えば、夏海先輩のファンクラブに関することや、俺達への協力的なスタンスを取ってくれていることを、花子さんはまだ知らないのか。
それで花子さんは、心配してくれているのかも…
「花子さん、あの二人は大丈夫だぞ?」
「わかってる。あの二人はまともだから、その辺りの心配はしてない」
「それなら何で…」
「昨日、ちょっと気になることがあった。一成と嫁の話なら、それに関係する話かもしれない。だから私も聞いておきたい」
気になることがあった?
確かに昨日は色々あったけど、俺的に言えば結果オーライのことはあっても特別マズいことはなかったと思う。
あ、でもあのやらかしがマズかったと言われてしまえばそれまでか。
まぁそれはともかく。
「そっか、わかったよ。とにかく、次の休み時間は一緒に行こう」
「うん。まぁ大丈夫、万が一何かあっても、お姉ちゃんが悪いようにはしない」
そう言って可愛らしく笑顔を浮かべるお姉ちゃん…じゃない、花子さん。
万が一って、何を気にしているのかは分からないけど、あの二人なら特に問題はないと思うけどな。
……………
………
…
一時限目の授業が終わり、先生が教室を出ていくと同時に、あの二人が席を立つ姿が見えた。
そのままこちらに一瞬目配せをすると、二人で教室を出て行ってしまう。あれは俺達についてきて欲しいってことなんだろう。
「花子さん、行くぞ」
「うん」
俺も花子さんに声をかけて、同じように教室を出る。廊下の先に二人後ろ姿が確認できるので、そのまま後ろをついていくことにした。
やがて文科系の部室があるエリアに辿りつくと、その内の一つに入っていく。どうやらここが目的地のようだ。
コンコン…
一応ノックをしてから、俺はゆっくりと部室の扉を開けてみる。
その室内は予想外にごちゃごちゃしていると言うか、物置小屋のような…何だこの部屋?
「ごめんね、意味深なことしちゃって」
「念の為に、クラスの皆には聞かれたくなかったんだ」
「あぁ、それは多分そうなんだろうなって思ったよ」
「私達は大丈夫。それよりも、時間に余裕がないから早くした方がいい」
「うん、そうだね」
「その前に、私達の話を少しだけ聞いて」
「わかった」
俺達が頷くと、二人は少し表情を崩して…と言うか、どこか申し訳なさそうな感じに見える。
念の入れ具合といい、この表情といい、どういう話が始まるのかちょっと緊張するぞ。
「先ずは高梨くんと花崎さんの件なんだけど、あのときは上手く協力できなくてゴメンね」
「私達も状況が掴みきれなくて、どう動けば良いのか分からなかったんだよ」
「え…と?」
うーん、ちょっと困ったな。
これはどう返事をすればいいのかイマイチわからないぞ。
俺と花子さんの件ってことは、多分クラスで誤解をされていたことなんだと思う。
でもこの二人は話題に乗って騒いでいた訳でもないし、謝られるようなことをされた覚えもないからな。
まぁ取り敢えず続きを聞こうか。
「えーとね、高梨くんと薩川先輩の仲がいいのは勿論知ってたし、夏海先輩の親友なら私達にとっても大切な人だってファンクラブの総意があるのは知ってたよね?」
「ああ、それは前に聞いたよ」
確か、ファンクラブの掟的な何かだったような…だからこの二人も俺に協力的だった訳だし。
「でもね、私達は高梨くんと薩川先輩が恋人になってたことまでは知らなかったんだよ」
「だから花崎さんと恋人だって話も、それはそれで不思議だとは思わなかったんだ。二人が特別仲がいいのは直ぐにわかったし」
そうか、確かにこの二人にも、特に報告とかそういうことはしていなかったからな。
そもそも俺と沙羅さんが付き合い始めたのが夏休み中の話だったし、夏休みが明けたら明けたで早々に山崎の一件が忙しかったからな。その辺りは仕方ないか。
でもそれじゃますます謝られるような話でもないと思うけど…
「話はわかった。でも今は、それを言う為に一成を呼んだ訳じゃないでしょ?」
俺の代わりに、花子さんが話の先を促してくれた。
「先ずは」と言っていたし、勿論本題は別にあるんだろうからな。時間を考えても、少し急いだ方がいい。
「あ、うん、ごめんね、先にそれだけ言っておきたくて」
「とにかく、私達も現状がわかったから、今度は高梨くんと薩川先輩のことを全力で応援するね!」
「あ、ありがと」
この二人は本当に応援してくれるし、ここは素直にお礼を言っておこう。
「それで本題なんだけど…」
「高梨くんと薩川先輩って、同棲してるでしょ?」
!?
な、何でそれを!?
昨日は色々と際どかった部分はあったと思うけど、同棲に関する話は出なかった筈だ。それなのに何で気付かれた!?
いや、問題はそこじゃない。
この二人だけならまだいいけど、もしこの話が昨日の何かで発覚したんだとすれば、他にも気付かれたってことになる…
「成る程…やっぱりね」
「花子さん?」
花子さんは何かを悟ったように、冷静な様子でコクリと頷いた。
まるでこの展開を予想していたような反応だ。
「どのくらいの人数が気付いた?」
「ちょっ!?」
そして花子さんは、もうこの話を認めたようにアッサリと会話を再開させてしまう。
こうなったら仕方ないか。俺もこの二人を信じて話を進めるしかない。
「気付いたのは数人だったみたいだけど、ある程度は広がってるかも…」
「一応、クラスの女子は二人を応援するってノリになってるけど、それで男子に話が漏れない保証はないからね」
「確かに、女子同士の繋がりでクラスの外に話が漏れれば、それで一気に保証は無くなる」
確かにあのとき女子は応援してくれるって言ってたけど、それでこの話が無事に済むかどうかは別問題か。
どうしてこの話がバレたのかは気になるけど、今は人数だ保証だなんてそんなことを言ってる場合じゃない。
「一応、私達の方でも口止めはしてあるよ。憶測で話を広げたら二人が困るし、そんなことになったら薩川先輩が怒るからって」
「まだ憶測だけで、高梨くん達が同棲を認めた訳じゃないからね。でも確信に近いと思われてるよ」
…そう言うことか。つまり、昨日の話題にあった何かから、同棲を感づかれてしまったってことなんだろう。でも現状でこうなってしまった以上は、それが何だったのかなんて今更な話だ。
「だからね、同棲の話を確定的にさせない為にも、今後はクラスで話す内容を気を付けてね」
「後は他のクラスにも話が流れる可能性があるから…本当はファンクラブで情報を共有して、少しでも対応したいところなんだけど」
「でも話の内容が凄すぎるから、同じファンクラブの仲間でも、そこまで信用できるかわからないんだよ…」
確かにな…
沙羅さんの同棲話なんて、それこそゴシップ好きな面子がいたら直ぐにでも飛び付くような案件だと思う。そしてそれに尾ひれが付いて、無いこと無いことを合わせて拡散されてしまう可能性は十分に考えられるか。
「とにかく、それを伝えておきたかったんだよ」
「気を付けてね!」
思った以上に大事な話で少し驚いたけど、これは素直にありがたい話だった。
俺の方からもしっかりお礼を言っておいた方がいいな。
「二人とも、色々とありがとう。本当に助かった」
「私からもお礼を言う。ありがとう」
俺が素直に頭を下げると、同じように花子さんまでお礼を言い出した。
花子さんは別に…と思わないでもないけど、俺のお姉ちゃんだからな。そこを指摘するのは野暮ってものか。
「ううん、いいんだよそんなの!」
「そうそう、夏海先輩の親友二人が結婚なんて、こんなおめでたい話を応援しないのはファンクラブの恥だからね!」
「そ、そっか。とにかく、ありがと」
まだ結婚は当分先の話なんだけど…まぁいいか。
それにしても、夏海先輩のファンクラブは相変わらず凄いな。夏海先輩本人だけじゃなくて、その交友関係までしっかりと気遣えるなんて普通に凄いことだと思う。
沙羅さんへの下心しかなかった、ウチのクラスのファンクラブ擬き連中とはえらい違いだ。
「さて、それじゃ教室に戻ろっか」
そう言われて壁に掛かった時計を確認すると、まだ大丈夫だけど余裕がある訳でもないと言ったところだ。
それにしても、今後はもう少し気を付けておかないとダメだな。
やっぱりこういうことは、男の俺が気を付けるべきか…でも沙羅さんの暴露癖は天然だからなぁ…そんなところも可愛いんだけど。
……………
………
…
倉庫(?)を出て教室に戻る途中、前方からやってくる少し変わった集団が気になった。
女子が一人に男子が三人。それだけなら別に不思議でもなんでもないんだけど、男子三人が女子の左右後ろを囲むようにピッタリと配置されていて…あれは不自然すぎる。
まるで付き人が従っているような…
「げっ…」
「うわっ、最悪…まぁ無視すればいいかな」
同じくそれに気付いたらしい二人が、あからさまに嫌そうな声を漏らす。
どうやら顔見知りか何かみたいだけど、あまり友好的な感じじゃないみたいだ。
まぁ俺は初対面だし、話も無いからこのまま素通りしてしまえば…
「あらぁ、誰かと思えば副会長さんじゃないですか?」
…いいと思ったんだけどな。
わかっていたんだよ、途中からずっと俺の方を見ていたってことは。
だから目を合わせないように気を付けていたんだけど、やっぱりスルーして通り過ぎるのは無理だったか。
さてどうしよう。
まさか副会長と呼ばれて無視をする訳にもいかないし、俺個人としてはこの人を邪険に扱うような理由もないんだよな。
まぁ適当に…
「えーと、こんにちは」
「はい、こんにちは。んふふふ、この私に物怖じしないで挨拶できるなんて、思った以上に度胸があるみたいね。まぁあの堅物と一緒に仕事が出来るくらいだから、その辺の男子とは少し違うんでしょうけど」
……えーと。
困ったな、前言撤回…なんだこの人?
よく知らない人にこんなことは言いたくないけど、絶対に面倒臭いタイプの人だよな。
「ねぇ、そう思わない?」
「そ、そうですね、副会長になるような人物ですから、それなりに…」
態度も何となく上から目線で、しかも取り巻き(?)の男子は付き人じゃなくて手下にも見える。
どこぞのセレブ気取りかと思わず突っ込みを入れたくなったけど、こんな面倒臭そうな相手からはさっさと離れるのが吉だな。
「あらぁ…ちょっとだけ可愛らしい子ね。こんな子、この学校にいたかしら?」
?
花子さんに対する口調が、妙に嫌らしい感じになったような気がする。それにこの仰々しい喋り方…どっかのオバちゃんかこの人?
「玲奈さん、彼女は転校生ですよ。一年の間で天使と呼ばれて…」
「あぁ、転校生なの。通りで見たこと無いと思った。まぁちょっとは可愛らしいけど、天使ねぇ…ふふ」
「何か用ですかね? まさかそんなつまらない話をする為に呼び止めた訳じゃないですよね?」
これは流石に我慢できない。
俺も普段なら初対面の相手にこんな話し方はしないけど、明らかに花子さんのことを馬鹿にしたような言い回しは流石にムカついた。
まだ何か直接的なことを言われた訳じゃないけど、言葉の端々から感じる嫌味ったらしさが、どうにも気に入らない。
しかも一瞬だったけど、確かに花子さんを蔑んだような目で見たな。
こんな短いやり取りで、ここまでの嫌悪感を感じた相手は久し振りだ。
「…つまらないだと?」
「おい一年、お前自分の顔を鏡で見たことあるのか? そんなツラで玲奈さんに話かけるなんて…」
「提灯持ちの雑魚が、一成に舐めた口を利くな」
「「「!?」」」
花子さんがいきなり俺の前へ出ると、かなりキツめの口調で取り巻き連中に噛みつき始めた…その瞬間、デジャヴを感じたような…
確か以前も、これと似たようなことがあったような気が…?
って、今はそれどころじゃない!!
雰囲気がヤバい感じになってきたし、花子さんには出来れば俺の後ろに居て欲しかったんだけど。
「提灯持ち!?」
「な、何だこの女…」
「ちょ…め、目付きが…」
「あ、あ、あらあら、天使だなんて言われてるワリには随分と…随分と……な、何…この子…ちょ、ちょっと…?」
どうしたんだろうか?
取り巻きの男子達だけじゃなくて、いけ好かないタカピー女まで引き攣ったような表情を見せ始めて…そうだ、思い出したぞ。
確か以前、藤堂さんと一緒にいた男子達が、花子さんを見てこんな感じになったような気がする。
「うわっ…花崎さん怖っ…」
「ちょ…あの目は…」
何が起きているのかよく分からないけど、雰囲気的にヤバい感じだ。
あいつらのことなんかどうでもいいけど、花子さんをこのままにしておくのはダメだって俺の直感が騒いでる。
だから早く何とか…取り巻き連中は無視して、早くあの女を何とかするべきだ。
「先輩方、休み時間が終わるみたいなんで、お互い教室に戻った方がいいと思いますけど?」
本当は、「目障りだからさっさと消えろ」くらいは言いたいところだけど、ここで無用の遺恨を残したくない。
これが原因で後日トラブるなんて、そんなつまらない話はないからな。そもそも、こいつらと関り合いになるような要素も残したくない。
「えっ!? そ、そうね…た、確かにそれは良くないわね。それじゃ私達は失礼するわ。また是非会いましょうね、副会長さん。……そっちの怖い天使さんはもう会いたくないかも」
最後にボソリと何かを呟いて、少し焦ったように小走りで撤収していくタカピー女。
「あ、れ、玲奈さん!?」
「ま、待って下さい!!!」
「追いかけるぞ!!」
そしてそれを追いかけて、取り巻き連中も帰っていく。
ふぅ…何とかこの場は乗り切れたようだな。本当に、何なんだあの集団…いや、あの女は?
「はぁ…相変わらず嫌な女」
「でもあんな焦ってるの初めて見た。高梨くんも花崎さんも凄いね?」
「別に」
でも今は、あんな奴より花子さんのことだ。俺の位置からでは花子さんの様子が分からなかったけど、明らかに普段通りで無かったことだけは確かだ。
「花子さん、こっちを見て」
花子さんの様子を確認したくて声をかけると、花子さんはゆっくりとこちらへ振り返ってくれた。
でもその表情は穏やかで…普通に微笑みを浮かべていた。それも、思わず拍子抜けしてしまうくらいに…
「…大丈夫だよ、一成」
花子さんは一言だけ口にすると、俺の袖をくいくいと少し下に引っ張る。これが俺に何をアピールしているのかは勿論分かっているけど…まぁいいか。
それで花子さんが気持ちを落ち着けてくれるのなら。
「いい子いい子。大丈夫…大丈夫」
俺が大人しく頭の位置を下げると、花子さんはゆっくりと頭を撫でてくれる。
こうしていると、本当に普段通りの花子さんに見えるんだけどな…
そう言えば、沙羅さんも俺の頭を撫でると落ち着くって言ってたし、俺の頭からはゆらぎ成分か何かでも出ているんだろうか?
「…さっき、何だったの?」
「…さ、さぁ? まぁいいんじゃない。こんなの見せられたら、野暮は言いっこなしってことで」
「花子さん」
「大丈夫だよ。私は一成のお姉ちゃんだから」
そして、花子さんからいつもの一言。
でもこうやって言われてしまえば、俺がそれ以上の詮索するのもやっぱり野暮ってものだ。
「お姉ちゃんだから」
この言葉が全てであり、今の花子さんの行動に現れている。
そういうことなんだろうからな。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
良い悪いはともかくとして、一応書き方が安定してきたような気もします。
そのお蔭で、少し執筆スピードが上がりました。
次回からは、学祭に向けたアレコレがいくつか入っていく予定です。
相変わらず話の進行スピードも亀ですが・・・
例によって週末は執筆が難しいので、次の更新は週明けになるかと思います。
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