第382話 テスト結果

 運命の期末テストを乗り越えた翌日。


 早くも今日からテスト返却が行われることもあり、今朝の教室内はいつも以上に緊張感に包まれていた。でもそれは同一の理由という意味ではなく、例えば俺のような純粋にテスト結果を待ちわびている者、もしくは結果を怖がっている者。はたまた、その結果次第では…つまるところの赤点で追試、人によっては冬休みの補習まで視野に入ってくる者など様々で…


 …まぁ、全然気にしてない奴等も一部いるけどな。


「高梨は早く結果を知りたい派だな」


「そういうお前もだろ、川村」


 そんな教室内を観察中の俺に話し掛けてきたのは、このクラスで一番仲の良い友人(俺はそう思っている)である川村。ちなみに山川がそうじゃないのは、決して他意がある訳じゃなく、単に川村の方がウマが合うので付き合い易いというだけ。でもそれは非常に重要。


「まぁ、お前には最高の家庭教師が付いてるしな」


「学年トップクラスのお前にそれを言われてもな」


 何となくイメージ通りと言ってしまうのはアレだが、川村のテスト成績はこの学年でも上から数えた方が圧倒的に早い。しかも典型的な頭脳派ではなく、アクティブさも持ち合わせているというのだから、人物像として俺的にかなり好ましいタイプだったり。


「おーおー、成績優秀者は余裕ですな。こちとら赤点逃れに必死だってのに」


「高梨はいいよなぁ。薩川先輩が付きっきりで勉強見てくれてるんだからさ。そんで家に帰れば二人っきりで、毎日仲良くイチャイチャイチャイチャイチャイチャと…ちくしょぉぉぉぉ!!」


「うるせーよ」


 川村と話をしているところへやって来たのは、もちろん言わずと知れた残りの二人…山川と田中。こいつらも相変わらずと言うか、特に田中は、沙羅さんのことで一度は叫ばないと気が済まないのか?


「一成の成績は努力の結果。それをしていない人間に一成を羨む権利はない」


「ぐはっ!?」


 そんな二人を鬱陶しそうに眺めていた花子さんが、いきなり正論でバッサリと切り捨て…まるでコントのように膝から崩れ落ちる山川。

 それは俺も密かに思っていたことだが、花子さんの淡々とした口調で言われる方がよりダメージが大きいだろうな…特に山川は。


「はは…それにしても、高梨は二学期に入ってから急に勉強を頑張り始めたよな。授業の小テストも一気に点数が上がったし、何か目標でも出来たのか?」


「あー…と、それは」


「いや、こいつの行動は基本的に薩川先輩絡みだろ?」


「そうそう。薩川先輩にもっと褒められたいとかさ…」


「お前と一緒にするな」


 確かに俺の頑張りが沙羅さん絡みであることに間違いはないが、かつて花子さんにアピールしたいが為だけに、授業や勉強を頑張っている「フリ」をしていた山川には言われたくない。

 俺の頑張りはあくまでも二人の将来の為であり、同時に俺個人の人間的な目標の為でもあるという、極めて崇高な理由なんだからさ。


「だけど実際、何か思うところがあったのは間違いないんだろ?」


「まぁ…沙羅さんに絡んでるという点では、当たらずとも遠からずってところだけどな」


「そうか…まぁお前が単なる格好つけだけで頑張るとは思えないし、大方、将来的な目標で成績を上げる必要が出来たってところか?」


「…ご名答」


 なかなか鋭い指摘に俺がすんなり頷くと、当の川村は更に興味深そうな視線を寄越す。多分もう少し突っ込んだ説明を期待しているんだろうが…残念ながら俺は、これ以上の話をこの場でするつもりはない。


 何故って…


「ねぇねぇ高梨くん! 今の話って…」

「しょ、将来的な話って、やっぱ薩川先輩との結婚話だよね!!??」

「うわっ、うわっ、も、もうそこまで決まってるの!?」


 周りで聞き耳を立てていた恋愛ジャン…もとい、恋愛乙女達がわらわらと集まって来てるからですよ!!

 相変わらずこの手合いの話には食いつきが凄いよね、貴女達!?


「えっ、何なに、何の話!?」

「高梨くんが、薩川先輩と結婚式の詳細を…」


「ちょっ、勝手に話を変えんな!!」


「きゃぁぁぁ!!」

「何それっ!? そんな面白…じゃない、興味深い話、私達にも聞かせてよ!!」


「いや、だから!!」


 もうこうなってしまったら、俺が何を言おうと関係なしに、まるで伝言ゲームの如く話を改変させながらあっという間に広まってしまう。これだから教室内では、沙羅さんに関する話をなるべくしないようにしているのに…結局こうなるのかよ。


「…高梨、すまん」


「い、いや、川村のせいじゃないから」


 話の切っ掛けはさておき、沙羅さんの名前を出したのはバカ二人だからな…川村のせいじゃない。


「それで高梨くん!! 薩川先輩といつ結婚式を挙げるの!?」

「薩川先輩のウェディングドレスって凄そうだよね!!」

「いやいや、薩川先輩なら和風も似合うって!!」

「わかる!! 白無垢姿とか想像しただけでヤバい!!」

「ねぇ高梨くんはどっちがいいの!?」


「ぇぇぇ…いや、いきなりそんなこと聞かれても…じゃなくて、誰もそんな話をしてねーっての!!」


 と言うか、そんなことは聞かれるまでもなく、沙羅さんならどっちも世界一似合うに決まってるだろ…って違う!!

 俺と川村は成績の話をしてただけなのに、何で女子連中はイチイチそっちに結び付けようとするのかね…


「一成は成績の話をしていただけ。嫁の話をしていた訳じゃない」


 この状況を見かねたのか、花子さんが俺のフォロー的に会話へ割り込んでくれる。流石はお姉ちゃん、正直ありがたい。


「へ? 成績の話?」

「なぁんだ、残念…」

「でも答えは聞いておきたいから別に…」


 キーンコーン…


「おら、席につけよぉ」


 ナイスなタイミングで鳴り響くチャイムと共に、ガラガラと教室の扉が開き、入ってきたのは現状での救世主、我らがクラス担任。その姿を見た恋愛乙女達が、無念そうに顔をしかめながら自分の席へ戻っていく。


 ふぅ…助かったな。


 でも沙羅さんのウェディングドレスか…


 以前何かの番組で、ウェディングドレスを着るのは女性の夢だという話を聞いたことはあるが、やっぱり沙羅さんもそうなんだろうか?


 いつか聞いてみようかな…機会があれば。


………………


…………



 四時間目…


 本日のテスト返却で四教科目となるこの授業は、ある意味、俺にとって一番の難関でありキモでもある数学。全科目の中で最も苦手とする教科であり、だからこそ、普段の勉強で一番力を入れている科目でもあるんだが…果たして今回の結果はどうなっているのか。

 でも自分なりの手応えとしては、決して悪くなかった…と思う。


「高梨〜」


「はい」


 数学担当の先生に呼ばれ、大きな緊張感と僅かな期待に胸を膨らませながら教卓へ向かうと、俺を待っている先生の表情は普通…より、もうちょっと笑っているようにも見えなくもない。果たしてその笑顔の意味は?


 うう、頼む…


「ほれ、頑張ったな」


「ありがとうございます」


 差し出されたテストを受け取り、逸る気持ちを押さえながら、その場では確認せずに席へ戻る。でも「頑張ったな」という先生の言葉から察するに、決して悪くない結果だったんじゃないかとは思ったり。


「一成」


「分かってる」


 休み時間に俺の勉強を見てくれる花子さんとしても気になるらしく、どこか急かすようにちょんちょんと指で腕を突っついてくるが…よし、覚悟はできたぞ。


 いざ!!


「…っ!」


 俺は意を決して、机の上…花子さんにも見易いように端の方で答案を広げる。そして、そこに書かれている数字は…点数は…


 な、74点!?


「お、ぉぉぉぉ…」


 これいは正直嬉しい誤算というか、一番苦手な数学で74点ということは、このままいけば今回の平均点は80点近くを狙える可能性が出てきたことになる。こんな嬉しいテスト結果を見る日が来ようとは、自分で自分が信じられない…今すぐ沙羅さんに結果を報告したいくらいだ!


 それに、休み時間で勉強を見てくれる花子さんにも改めて感謝を…


「花子さん、俺…」


「頑張ったね」


「あ、ありがとう…」


「一成、いいこ、いいこ」


「花子さん…」


 もう誰が見てもハッキリと分かるくらい、嬉しそうに…花子さんは優しげな微笑みを浮かべ、俺の頭に伸ばした手で優しく何度も撫でてくれる。その小さな手が何度も俺の頭の上を滑り、それはくすぐったいような、照れ臭いような…でもやっぱり、嬉しい気持ちが一番強くて。


「…はぁはぁ、は、捗るぅぅ」

「…は、花子ちゃんの笑顔が尊いぃぃ」

「…ス、スマホスマホ!! カメラカメラァァ」

「…たぁかぁなぁしぃぃぃ…」

「…ぢぐじょぉぉぉぉ…」


「よし、次は花崎…って、何してんだお前ら?」


 そんなことをしている間に花子さんの番になっていたらしく、こちらを見た先生が不思議そうに首を傾げる。俺達のこういう行動に慣れている(?)のは担任だけなので…これはちょっとやっちゃったか?


「…ほら花崎、さっさと取りにこい」


「はい」


 と思ったけど、案外大丈夫…らしい?

 特に怒るでも注意するでもなく、先生の様子はそのまま普通。


「この調子で頑張ってくれよ」


「どうも」


 俺のとき以上の笑顔を見せる先生から答案を受け取り、花子さんは素っ気ない挨拶を済ませてからさっさと席へ戻ってくる。気になるその点数は如何に…って、花子さんのテスト結果が悪かったことなんて無いんだけど。

 ここまでの結果だって全部90点近いし。


「花子さん?」


「惜しい、もう少し…」


「へ?」


 あまり悔しそうに見えない表情でポツリとそう呟き、花子さんは俺にも見えるようにサッと答案を広げる。そして瞬間的に飛び込んできた点数は…


 は、89点!?


「あ、相変わらず凄いな、花子さんは…」


「無念…今度こそ嫁に勝てると思ったのに」


「へ? あ、あー…沙羅さんはなぁ…」


 まさか花子さんが沙羅さんの成績を意識しているとは思わなかったが、でも俺の知る限り、沙羅さんは全科目で95点以下を取ったことがない。だから、いくら花子さんと言えどそう簡単なことではないだろうな…流石に。


「…まだまだ頑張る必要がある」


「いや、もうこのままキープさせるだけで十分なんじゃ…」


「ダメ。将来的なことを考えると、せめて嫁に匹敵するくらいまでは上げておきたい」


「そ、そこまでですか…」


 花子さんが将来的にどんなことを考えているのか分からないが、沙羅さんレベルの学力を必要とするなら、それはかなり高い目標…ハイクラスな職業であることは想像に難くない。

 だとすれば、俺も安易に適当なことを言わず、ここは…


「頑張れ、お姉ちゃん」


「うん、頑張る。一成の為に」


「へ? そ、そっか?」


 まぁ、頑張る理由も頑張れる原動力も人それぞれだから、それで花子さんが頑張れるというのなら…無粋な突っ込みを入れるのは止めておこう。


 俺は俺で、俺の為に。

 誰よりも俺を支えてくれる沙羅さんの為に。


 そして…応援してくれる花子さんの為にも、だからな。


………………


………



 昼休み。


 今日から花壇でのランチタイムを諦め、普段は空いてる生徒会室を使わせて貰うことになった。

 実は今までも、雨天時にこっそり使わせて貰ってたりするんだが、本来なら私的利用するのはあまり褒められたことではないので…ただ、俺達は半数以上が生徒会メンバーであり、しかも会長と副会長がいるのだから、その辺は目をつぶって欲しいな…と。

 一応、食後には花壇の手入れも忘れないし。


『そんじゃ今日も行ってみよぉぉ!!』


 生徒会室のスピーカーから聞こえてくるのは、もうお馴染みのハイテンションなアニメ系ボイス。皆さんご存知、我らが凛華高校の誇るマスコットキャラ…もとい、放送部所属の(自称)アイドル、みなみん。

 今まで昼食を取っていた校舎裏は屋外だったので、何気に雨天時以外で昼の放送を聞くのは珍しかったりして。


「はぁ…良かったぁ。この季節に外で弁当を食べるなんて、いつまで我慢大会をやるつもりなんだって話よね」


「ふふ…流石にそろそろ厳しくなってきましたし、一成さんが風邪をひいてしまっては困りますから」


「はぁ…よくもまぁ、そこまで高梨くん基準に物事を考えれられるもんだわ」


「当然ですよ。私の判断基準は、基本的に一成さん中心ですから」


「それを嘘でも冗談でもなく、本気でそう思ってるんだから恐れ入るわ…ホント」


「ふふ…それほどでも」


「いや、褒めてないから」


 打てど叩けど全く響かない普段通りな沙羅さんの様子に、夏海先輩達の矛先が微妙に俺の方へも向かってくる。

 でもそれは今更と言うか、寧ろ俺も同じ(沙羅さん基準)なので…


「…この似た者夫婦が」


「それは私達にとっての褒め言葉ですよ。ね、一成さん?」


「そ、そうですね」


「ふふ…」


 俺が素直に相槌を打つと、沙羅さんは嬉しそうに柔らかい笑みを浮かべ…反対に夏海先輩からは、最近よく見るジト目をプレゼントされてしまう。

 いやいや、もう分かってるでしょうに、いい加減。


『むっ、何この気配!? 今日は強力なバカップルの波動を感じるんだけど!?』

『何言ってんの、みなみん?』


 いや、本当にあの人は何を言ってるんでしょうね?


 まさか俺達のことを言ってるなんてことは…はは、まさかね。


……………


「んで、皆はテストどうだった?」


 食後のまったりタイムを満喫している中、不意にそんな話題を振ってくる夏海先輩。

 確かにそれは、今日一番気になる話題ではあるのかもしれないけど、一番自信が無いと喚いていた張本人が何故それを…って、単に開き直ってるだけか、あれは。


「そういう夏海先輩は…」


「私のことは聞くな」


「らじゃ…」


 謎の迫力を帯びた、有無を言わせないこの一言で、ほぼ全員が夏海先輩の現状を理解したも同然…やっぱり開き直りだったか、納得。


「私はいつも通り」


 まず最初に、何でもないかのようにそう言い捨てたのは花子さん。確かにいつも通りの「高成績」であり、それは皆も知るところなので実に分かりやすい答えではあるが…


「俺は…やっぱりいつも通りかな、あはは」


「えーと…私もいつも通りです、うぅ」


 次に報告をしたのは速人&藤堂さんコンビ。こちらもこちらで前回の結果は全員が知るところなので、恐らく今回も学年平均にちょっと届かないレベルであると推測。でもそのくらいなら、そこまで悲観することはないと思うんだけどな…特に藤堂さんは。


「私もいつも通りですね」


「そだね〜。今日の時点で既にぶっちぎり体勢だし、ホントにいつも通りだわ」


 何故か白けたような夏海先輩の反応はともかく、沙羅さんが順調なのは俺としても本当に何より。只でさえ進学に向けた大切な時期なのに、普段の家事に加えて、俺の勉強まで時間を取らせているんだから…

 でもあれだけの勉強時間で、よくそんな成績をキープ出来るよな。相変わらず凄いなんてもんじゃないぞ…


「それで…」


「ふふ…一成さんの番ですよ?」


「えーと」


 これで未報告は俺だけなので、当然、全員の注目が俺に集まってくる。別に勿体つけている訳じゃないが、嬉しい結果なんだからトリを勤めるくらい許して欲しい。

 まぁ…既に知っている花子さんはともかく、沙羅さんは俺の表情から既に予想がついているみたいだけど。


「俺は前回より、平均が10点くらい上がってますね」


「10点って…じゃあ、80点近いってことかい?」


「ああ、大体そのくらいだな」


「それは凄いね、一成…」


「高梨くん、凄い!!」


 俺の健闘を讃えるように、ストレートな喜びを見せてくれる速人と藤堂さん。まだ中間報告なので油断は出来ないにしても、こんな風に褒めて貰えるのは素直に嬉しいというか、どこか誇らしい気持ちすら湧いてくるような気もする。

 例えこの結果が、俺一人の力ではないとしても…


「おぉ、そりゃまた随分と伸びたねぇ。確か一学期は…」


「そうですね、ぶっちゃけ全然比べ物になりません」


 平均点以下だった一学期の点数と比べたら、それこそ現在の成績は五割増しで凄い。まだ最後の結果が判明した訳じゃないけど、残りの教科もこのペースだったら…我ながら信じられない結果になるぞ、これは。


「ふふ…おめでとうございます、一成さん」


「ありがとうございます、沙羅さん。でもまだ途中なんで…」


「だとしても、お勉強の成果が出ていることは確かだと思いますよ。特に今日は、数学の返却もありましたよね?」


「そうですね。数学も…」


「普段のお勉強を見ている限り、一成さんはどの教科も満遍なくこなせている印象ですから…数学さえ何とかなれば、平均点もかなり上がるのではないかと思いますよ。大丈夫です、一成さんの努力は必ず実りますから」


「沙羅さん…」


 自分でも単純だとは思うが、こうして沙羅さんに言って貰えるだけで、とてつもない安心感に包まれると言うか…まだ未返却のテストも含め、絶対に大丈夫だと、そう思わずにはいられないから。


「それもこれも沙羅さんのお陰です。本当にありがとうございます」


「ふふ…夫を支えるのは、妻の大切な役目ですからね♪」


「あはは…」


 ちょっとおどけたような沙羅さんの笑顔に、俺も思わず笑みが溢れる。

 本当に沙羅さんは…


「ねぇ沙羅、実際どうなの?」


「どうとは?」


「いや、高梨くんの目標だよ。指定校推薦を狙ってるんでしょ?」


「そうですね…成績は順調に上がっているようなので、このまま行けば安全なラインに入るのは間違いないと思いますよ。しかも副会長、生徒会長の歴任という、学校生活評価に於けるプラス査定もありますし…」


「あの…プラス査定って、やっぱりそういうのってあるんですか?」


 沙羅さんの説明に何かしら興味が湧いたのか、不意にそう問い掛ける藤堂さん。でも俺としては、沙羅さんの中で「生徒会長就任」が既に確定事項として盛り込まれていることの方が…いや、もう立候補はするつもりだし、別にいいんだけどさ。


「あまり大っぴらに言うべきではないのかもしれませんが、推薦の査定には学力以外のこと…日々の学校生活に関する部分も加味されますから。そこに生徒会活動を頑張っているという評価や、副会長、会長と言った役職を勤める人物であると付加されれば、当然それらも考慮対象となるのですよ」


「そ、そうなんですか。でもそう言われてみれば、生徒会長や副会長は生徒の模範ってイメージですし…」


「私も多少の下心込みで引き受けた役職でしたが、やはり肩書きというものは対外的に役立つことはありますからね。ただそれに伴うものがなければ、普通よりもマイナス評価が際立ってしまうというデメリットもありますが…」


 これは沙羅さんの言う通りで、確かに役職という肩書きがある以上、普通よりも多くの「査定」をされてしまうと言っても過言じゃない。だから沙羅さんは、目に見える実績を作ることで自分の評価をより上げることが出来たし、逆に何もやらなかったら「無能」「名ばかり」「期待外れ」と言った、一般生徒には無いマイナス評価を受ける可能性もあった訳だ。


「ま、高校の生徒会でそこまで大袈裟なことにはならないだろうけど、何にせよ高梨くんは大丈夫そうってことなんだね?」


「ええ。まだ油断は禁物ですが、それでも一成さんなら大丈夫ですよ。普段からしっかりと努力をなさっておりますし、それに結果が伴わない訳がありません」


「そっか。まぁ高梨くんには沙羅と花子さんがついてるし…」


「それは違います。いくら周囲が盛り立てようと、本人のやる気と努力が無ければ結局はどうにもなりませんから」


「今回のテストで幸先のいいスタートを切れたのは、一成が頑張っているからこその話。所詮、私達は補助でしかない」


「そういうことですね。これも一重に、一成さんご本人の努力があってこそのものです」


 だから、堂々と胸を張って下さい…と、沙羅さんの瞳がそう言っているような気がして…

 そうだよな、100%全部が自分の力だと言えなくても、俺だって毎日しっかりと勉強してテストに望んだんだから…せめてそこは。


「それにしても…何で夏海先輩は、一成の成績をそこまで気に掛ける?」


「ん? そうだねぇ…上手く言えないけど、高梨くんの成績が順調じゃないと、色々なことが上手く進まないような気がするから…かな?」


「…成る程。言いたいことは何となく分かった」


「えっと…?」


 漠然とした夏海先輩の説明に、何故かすんなりと納得顔を見せる花子さんと…速人達も、何となくそれに同意しているような?


 あれ、ひょっとして理解してないのは俺だけなのか?


「ふふ…一成さんは、私達のグループに於ける中心人物ということですよ」


「リーダーが順調じゃないと、俺達も調子が上がらないからね」


「そ、そうなのか?」


 分かったような分からないような…つまり、俺がこのグループに於けるムードメーカーって意味なのか?


 いや、それはそれで違うような…うーん?


「さて、そろそろ片付けて花壇に行こうか」


「同意。これ以上ゆっくりしてたら、時間的に厳しくなる」


「全員で手分けして、一気に終わらせようか」


「うん! 最近雨が少ないから、お水をしっかりあげないと…」


「さぁ一成さん。私達も準備をしましょうか?」


「で、ですね。眠気覚ましも兼ねて…」


「ふふ…もう、一成さんったら」


 まぁ、意味がハッキリしなくても、俺が頑張ることで皆にもいい影響が出るというのであれば…それでいいか。


「んじゃ、しゅっぱーつ」


 取りあえず今は気持ちを切り替えて…今日も日課といきますかね!

 


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


















 やっと続きを書けました。

 確定申告の追い込みと仕事の忙しさに加え、補助が出るので機材の新調やら何やらと、かなり忙しかったです。

 しかも遂に花粉症が・・・今までも何となく「これって花粉症か?」程度の症状は出たことがありますが、ここまでハッキリと体感したのは生まれて初めてです。鼻水とくしゃみと痒み目で集中力が切れてしまい、なかなか執筆に向かえませんでした。


 さて次回からは、最終的なテスト結果と終業式をパッパと終わらせ、クリスマスパーティーの準備を挟みながら、そのまま当日に突入となります。既に季節感も何もあったもんじゃないですが、もはや気にしません(ぉ

 それが終われば、次はいよいよ新しい山場、年末パーティー編となります。これまた難しくなりそうで、今から怖いですが・・・


 ではまた次回~

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