第383話 二学期終了

 予想外に上々の結果だった、期末テストの返却から早数日…


 俺の学年順位がまさかの上位に食い込むという大健闘を見せ、担任からも「この調子なら指定校推薦は十分に射程内」だとのお墨付きを貰い(なぜ俺が指定校推薦狙いであることを知っているのかはともかく)、それを意気揚々と政臣さん達に報告した結果、真由美さんと沙羅さんの場外乱闘(?)を招いたりしたものの、何だかんだでもう二学期の終業式を迎えることとなった。

 そして今朝の教室は、先日のテスト返却で悲喜こもごもだった雰囲気と打って変わり、一様にこれから始まる冬休みへの期待に満ち溢れ…お互いの予定を自慢げに報告したり、遊ぶ約束の確認をしていたりと、皆さん実に和気藹々と楽しそう…


「はぁ…今年もクリスマスは女子会かぁ」

「何よ、何か文句でもあんの?」

「別にぃ。でもその方が気楽でいいかな?」


「はぁ…今年もお前らとクリスマスかよ」

「気持ち悪ぃこと言うな。俺はパスだ」

「はぁ!? ま、まさかお前…」

「貴様、裏切るつもりか!?」


 和気藹々と、楽しそうにしているご様子!!


「ねぇねぇ花子ちゃん! 良かったらクリスマス…」

 

「クリスマスは予定があるから無理」


「えっ!? ま、まさか…」


「いや、そのネタはもういいから…」


 一方、花子さんの方も、クリスマス女子会を企画しているらしいグループから絶賛ラブコールを送られている真っ最中で…俺の見ている限り、これで既に三組目のお断りだったり。いつの間にか本当に大人気だな、花子さんは。


「クリスマスは一成達とパーティー」


「あ、そうなんだ?」

「えー、いいなぁ!! それって薩川先輩もいるんでしょ!?」

「ひょ、ひょっとして速人くんも参加だったり!?」


「イケメンもいる。あと夏海先輩と、一成の親友と…」


「うわ、すご!?」

「そ、それって、まさか文化祭のときのメンバーなんじゃ!?」


「そう。全員集まる」


 学祭のときの状況を思い出したのか、クラスメイト達が興奮気味に色めき立ち、それに対してあくまでも淡々とした花子さんのコントラストが凄い。

 でも微妙に自慢っぽいような、どこか誇らしげに見えるのは…花子さん自身も、パーティーを楽しみにしてくれていることの現れなんじゃないかなとは思ったり。


「り、凛華校伝説の三姫と、生徒会のW天使が一同に介するクリパだとぉぉぉ!?」

「おいおいおいおい、どんだけ豪華なパーティーだよ!?」

「チ、チケットは無いのか!? プレ値でも俺は…」

「た、高梨、それって一般参加は…」


「無理に決まってんだろ」


「「ちくしょぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!」」


 俺が呆れ声で容赦なく突っぱねると、外野(野郎共)から一斉に怨嗟の声が上がる。でもまぁ、確かに男からすれば、参加メンバーが恐ろしく豪華に見えるのは仕方ないとしても…なぜ仲間内だけのパーティーに、無関係者が入り込めると思うのか。

 普通は遠慮するだろ、普通は!


「でも意外だよねぇ。高梨くんと薩川先輩なら、絶対に二人っきりでクリスマスを…」

「ばっか、もう二人は同棲してんだから、どっちにしたってイブの夜は…」

「よ、夜は!?」

「ふぉぁぁ、そ、それ以上はセンシティブ!?」


「「ちくしょぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」」


「うるせぇ!!」


 こいつらが何を考えているのなんて百も承知だが、いくら深読みしようと俺の反応を伺おうと無いものはない!!

 俺が沙羅さんを大切にするという魂の誓いは、例え「クリスマス」という世の恋人にとって特別な意味を持つ夜だとしても、決して揺らぐものではないんだよ。

 あと男共は普通に煩い。例え妄想や想像でも、沙羅さんに良からぬことを考えるのは断じて許せんぞ。


「おらー、席に着け〜」


「「はーい」」


 そこに、珍しく予鈴前なのにやってきた担任の一声で、教室内の騒ぎは無事に強制終了。何故かニヤケ顔で教室に入ってきたのが、何ともキモ…もとい意味が分からないけど、結果的にGJだから良しとする。


「一成…楽しそう?」


「そうだな…"楽しみ"かな?」


「うん…私も楽しみ」


 俺が本音でそう答えると、花子さんも心から楽しそうに笑顔を浮かべ…実際、こんなに楽しみな冬休みを迎えるのは初めての経験だから、どうしてもワクワク感が抑えきれていない自覚はある。


 そしてそれは、花子さんの笑顔からも見える…かな?


………………


…………


……


「それでは、今学期最後の生徒会を終了します。皆さん、お疲れ様でした」


「「お疲れ様でした〜」」


 沙羅さんの総括と挨拶で締め括り、これにて今年最後の生徒会活動が終了。

 何となく流れで参加することになったこの生徒会も、今となっては俺の大切な学校生活の一部なので、どこか感慨深いものがある…って、まだホンの数ヶ月しかやってないんだけど。


「さぁって、たまには帰りにどっか寄ってく?」


「お、いいねぇ。カラオケとか?」


「あ、私も行きたいです!」


「おいおい、仮にも生徒会に携わっている人間が、学校帰りにカラオケは無いだろう?」


 終業日という開放感からか、ワイワイといつも以上に盛り上がりを見せ始める女性陣に対し、持ち前の真面目さで透かさず釘を刺す上坂さん。確かに厳密なことを言えば、下校中に遊びで寄り道をするのは褒められたことじゃないのかもしれないけど…その辺は暗黙というか、ワリと学校側からも黙認されているので、今日くらいはいいんじゃないかなとは思ったり。


「かぁぁ、相変わらず堅いねぇ上坂くんは」


「いいじゃん、今日で二学期終わりなんだからさ!」


「そうですよ! 生徒会役員だって、たまには息抜きしたいです!」


「う、うーん…いや、しかしなぁ…」


 悩ましげにしつつも頭ごなしに強く突っぱねない辺り、上坂さんも満更ではなさそうなんだが…そしてそれは女性陣も感じたのか、ニヤリと意味深な笑みを浮かべ…何故かこっちを見た?


 う、なんか嫌な予感…


「ね、ね、薩川さんもたまにはどう?」


「今年の労をねぎらうってことでさ!」


「そうですね…生徒会長としては、流石に諸手を挙げて賛成する訳にはいきませんが…」


 そうは言いつつも、にべもなく断らない辺り、やはり沙羅さん的にも寛容に考えたい部分があるのか…或いは、もう残り少ない先輩達との時間を考えていたり…などもあったり?


「あんたら、薩川さんを狙いたいなら先に高梨くんを攻めるべきでしょ!」


「おっと、そうだ。先に旦那を落としちゃえば…」


 ここで先輩達の視線が、完全に俺をロックオン。さて困ったぞ、俺も副会長という立場としては…いや、でも。


「沙羅さん…」


 先に沙羅さんの様子を伺おうと視線を真横に向けると、どこか思案顔で俺を見つめていた沙羅さんと目が合い、小さな微笑みと共にコクリと頷く。

 それはまるで、「全て一成さんにお任せ致します」と言われているような気がして…そうだな。


「たまにはいいんじゃないですかね?」


「おっ、やった!!」

「高梨くん、話が分かるぅ!」


 俺が肯定的に答えると、先輩達が「その答えを待ってました」とばかりに喜びの声を上げ…


「高梨くん、無理はしなくていいんだぞ? この二人は悪ノリしてるだけだから」


「いや、俺は別に…」


「ちょっと上坂くん。せっかく高梨くんが参加するって言ってくれてんのに、余計なこと言わないでよ!」


「そうだ、そうだ!」


 そんな俺のフォロー(?)に入ってくれた上坂さんに、またしても女性陣が猛然と噛みつく。そして他の面子も、声にこそ出さないとは言え、ほぼ参加組に傾いているのは明らかなので…もう上坂さんも素直になればいいのに。


「一成が参加するなら私も行く」


「あ、せっかくなので私も参加したいです!」


「お、俺も参加するぞ!!」

「俺も俺も!!」

「私も参加します」

「じゃぁ俺も」


 結局は残りのメンバーも全員が参加を表明したので、こうなると意思表示をしていないのは沙羅さんと上坂さんだけ。でも…


「一成さんが参加なさるのであれば、私が行かないなど有り得ませんね」


「だよね!? おっしゃ、やっぱ薩川さんを落とすなら高梨くんを攻めるに限るわ」


「調子に乗らないで下さい。一成さんに無用のご迷惑を掛けるような輩は、私が強制的に排除致しますが?」


「イ、イエッサー…」


 どこか剣呑な眼差しで先輩にキッチリと釘を刺し、沙羅さんは俺を守るかのように立ちはだかる。例え相手が先輩と言えども、沙羅さんに例外はないから。


「ふぅ…仕方ないな。それでは私も」


「あ、上坂くんは無理に来なくてもいいよ?」


「ちょ、ちょっと待ってくれ。誰も行かないとは一言も」


 急に梯子を外され…とはちょっと違うが、珍しく慌てたようにワタワタとする上坂さんがちょっと面白い。でもこれで、結局は全員参加ってことだな。


「そんじゃ、駅前の店でいい?」


「構いませんよ。どうせ商店街で晩御飯のお買い物をするつもりでしたから」


「しゅ、主婦臭い…」


「と言われましても、私は実質主婦のようなものですし」


 自分が主婦だと言われたのが面白かったのか、くすりと小さな笑い声を漏らす沙羅さん。でもいくら本人の希望とは言え、それを言葉通りに任せきりにしている俺は、やっぱり世間から見れば何もしないダメ男だと思われている…のかも?

 だから皆さん、そんな目で見ないで下さい。俺だって自分でやれることはやろうとしてるんですよ、ええ。


「うーん…今どき、女が率先して家事をやるっていう考え方は…」


「誤解しないで下さい。私は自分の意思で、家事を全面的に任せて頂いているのです。一成さんの身の回りのお世話は、全て私がして差し上げたいことですから」


「はぁぁ…なんつーか、ホント世の男の理想を具現化したような女だよね、薩川さんって」


「超絶美人で超絶一途で、家事は完璧料理もプロ並。見返りを求めず旦那にトコトン尽くす健気さ…どこのアニメヒロインだよ!?」


「ホント、薩川さんと結婚する相手は…と言うか、高梨くんは幸せ者だよね」


「それは俺が一番自覚してますよ」


 そんなことは言われるまでもなく、世界で一番、俺が良く分かっている。だからこそ、俺は自分が、世界一幸せな男であると断言できる訳で…って、これ前にも誰か同じこと言ってなかったか?


「おっ、言うねぇ」


「惚気られた!?」


「ふふ…一成さん♪」


俺が素直にそれを認めると、先輩達の冷やかしとは別に、沙羅さんが嬉しそうに顔を綻ばせ…でもこれは、お世辞でも何でもなく、純然たる事実ってやつだから。


「しっかし、薩川さんがここまで化けるとは思いもしなかったよねぇ。ホント、恋は女を変えるって言うか」


「でも高梨くん以外にはあんまり変化ないんだよね。特に男嫌いなのは相変わらずみたいだし…変化まで高梨くん限定ってところが、ある意味で薩川さんらしいけど」


「そんなに褒めても、一成さん以外には何も出ませんが?」


「いや、微妙に褒めてないって言うか…つか、結局は高梨くんだけかい!」


「当たり前ですよ。私は一成さん以外の人に特別なことをするつもりは一切ありませんから」


 先輩達の呆れ混じりな突っ込みにもどこ吹く風…しれっとそんなことを言いながら、それでもコロコロと楽しそうに笑う沙羅さん。とは言え、「俺以外の人間に特別なことはしない」というその言葉が大袈裟でも何でもないことは、皆も十分に分かっているので…だからこそ、誰一人冗談だとして笑わない訳だ。


「さて、バカップルをからかうのはこの辺にして、そろそろ行こっか」

「そだね。薩川さんに冗談が通じないのも相変わらずだったわ」

「はぁ…羨ましい」

「もう散々思い知らされてるのに、それでも悔しいのが悔しいぞ」


 いい加減、これ以上は暖簾に腕押しだと思ったのか、俺達を尻目にさっさと準備を始める面々。もちろん上坂さんも準備を始め、俺と沙羅さんも荷物を纏める。


「それでは、また来年…だね」


「お疲れ〜」

「お世話になりました!」

「まったね〜」


 誰にともなく…或いはこの「生徒会室」そのものに挨拶をして、一人、また一人と部屋を後にする。そして、最後に残った俺と沙羅さんが、お互いに目配せをして…


「ふふ…」


「はは…」


 最後に何となく思いを馳せながら、二人揃って部屋を出る。


 これにて二学期が、無事に終了…ってことで!



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 非常にお待たせしています。

 確定申告から始まり、仕事の忙しさに加えてますます順調に悪化するスランプに悩まされながら、それでも何とか書いています。実を言うと、気分転換的に先を書いたりしていたんですが、まるまる一話分書き終わってから、内容的に描写する意味が無いことに気付き、それをそのままお蔵入りさせることになったりしました。何と言うか、日常シーンって難しいですよね。何でもないことが日常でもあり、それを描写すると何でもないエピソードになって、中身に盛り上がりとかオチとか、特にコレといったものが無い話になってしまうと言いますか。

 まぁ、今回の話も、終業日ということなだけで、特別な何かがあった訳ではないんですけど(^^;


 さて次回は、さっさと日付が飛んでクリスマスパーティになります。その準備回が挟まるかどうかは未定ですが、実はこれもある程度書いてはいるのです・・・が、どうにも宜しくないと言うか、どうしようかなとorz


 ちょいと四月中旬まで多忙なので、それも相まって執筆時間がなかなか取れません。隙間を縫ってボチボチ書いてますが、やはり時間がかかってます。申し訳ありませんが、ペースの方が芳しくないことをお許しください。


 それではまた次回に・・・


 p.s. カクヨムコン中間通過、ありがとうございます。コメントのお返事は後日させて頂きますので・・・

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