第238話 誰にも真似できません

うーん……


雄二が告白するのは想定内だったが、まさか告白そのものに立ち会う(物陰)結果になるとは思わなかった。

いざ友人達のそういうシーンを見てしまうと、見ているこちらが恥ずかしくなるのだということに初めて気付いたのだ。

いつも俺達を見ていた皆の気持ちが、初めてわかったような…


「…ふふ…良かったですね…夏海」


嬉しそうに様子を眺めていた沙羅さんが、ポツリと感想を漏らした。

雰囲気的に大丈夫そうではあったので、俺達は安心して様子を見ていたのだ。ただ、最後まで見ているのも悪いかな…と少し思ったが、沙羅さんの「おあいこですから大丈夫です。」という一言で説得されてしまった。


「…夏海には、一成さんとのことで散々お世話になってしまいましたし、相談にも乗って貰いましたからね。何かあればと思ったのですが、丸く収まったようで何よりです。」


「そうですね。俺も雄二が幸せになってくれるなら嬉しいですよ。」


「そう……応援してくれて、ありがとね?」


「?」


あれ?

今の声は誰だ?


声のした方を向くと…そこには顔を引き攣らせ、仁王立ちした夏海先輩が立っていた。

どうやら見つかってしまったらしい。

ちなみに雄二は、顔を合わせるのが恥ずかしいのかそっぽを向いていた。


「あら、よくわかりましたね?」


特に悪びれる様子もなく、沙羅さんは普段通りに応対を始める。申し訳ないが、俺は夏海先輩が怖いので沙羅さんに任せることにした。


「普通に声が聞こえてたからね…いつから居たの?」


どうやら気付かれていたらしい。というか、向こうの声が聞こえる位置ということは、こちらの声も聞こえて当然であり、不思議でも何でもないか。


「そうですね…夏海が私と自分を比較するという、意味の無いことを言い始めた辺りでしょうか?」


「ぐぅぅ……それは悪かったわねぇ!!」


照れ臭さもあるのか、夏海先輩は必要以上のリアクションを見せていた。たが反対に、沙羅さんは余裕の態度を見せており、それが却って夏海先輩を煽る結果になっているようだ。


「橘さんは、ありのままの夏海がいいと言っていたではありませんか。私と比べる必要など無かったでしょうに…まぁ単なる照れ隠しでしょうから、そういうところが素直になれないのも夏海の…」

「だぁぁぁぁぁぁぁ、お、お、落ち着いて分析しようとするなぁぁぁぁ!!!」


どうやらすっかり立場が逆転してしまったらしい。かつては恋愛相談に乗る側であり、ついでにこちらをからかっていた夏海先輩も、今の沙羅さんには防戦一方になっているみたいだ。


「ふふ…素直に嬉しいと言えばいいのですよ。夏海が橘さんを意識しているなど、以前からわかっていたことではありませんか。あの恋愛成就のおま…むぐっ」

「わぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」


!?


夏海先輩が突然大声をあげたかと思うと、凄い速さで沙羅さんに接近して、右手を唸らせるように突き出しながら口を塞いだのだ。


……なんだ今の速度?


さすがはテニス部のエースだと言わんばかりの動きに、俺は驚きを禁じえなかった。

だけど、沙羅さんの口を塞ぐのは少し遅かったようだ。恋愛成就と聞こえてしまったので…つまり御守りのことだろう。


「むぐぐぐ」


「さ、沙羅ぁぁぁぁ…あ、あ、あんたねぇぇぇぇ…」


口を塞ぎながら、焦りを滲ませて沙羅さんを睨む夏海先輩。


「夏海さん…恋愛成就の御守りって…」


もちろん雄二もしっかり聞こえていたようだ。嬉しさを滲ませつつも、直球で夏海先輩に問いかけている。わかっている癖に説明させようというのか?


「あ、あ、あ、あれは…あれは、その、き、き、気の迷いよ!! べ、別に、雄二のことを考えて、選んだ訳じゃないんだからね!?」


うん、実に分かりやすいテンプレな答えだった。照れ隠しにしてもそれは…俺も思わずニヤケてしまう。夏海先輩も、自分の恋愛事になれば可愛い乙女な一面を見せるらしい。


「俺のことではないのに、恋愛成就の御守りを選んだんですか? ならそれは、どういうつもりで…ひょっとして他に…」


雄二も意地が悪い。夏海先輩に認めさせるつものようで、ニヤつきながらも追求の手を緩めるつもりはないらしい。

今思ったのだが、ひょっとして雄二はSの気があるのか?


「素直に教えてあげれば良いではありませんか? もうお互いの気持ちはわかったのですから。」


沙羅さんは、いつの間にか夏海先輩の必殺技(?)から脱出していたらしい。まるで雄二に同調するかのように…いや、沙羅さんはこのように誰かをからかう人ではない。

最初から本気で言っているのではないか?


「どうなんですか、夏海さん?」


雄二は夏海先輩を逃がすつもりはないらしく、顔を除き込むように問い詰めている。こいつは絶対にSだな。確定だ。


それにしても…この二人のイチャイチャをこの目で見る日が来ようとは…


「ぅぅぅぅぅ、あぁぁぁぁぁぁぁもう!! そうよ!!! 雄二のことを考えたら思わず取っちゃったのよ!!! 悪い!!??」


遂に観念したらしく、半ば不貞腐れるように夏海先輩が爆発した。顔も真っ赤になっており、こんな可愛らしい夏海先輩を見るのは初めてだ。

先程、自分に自信がないと色々言っていたようだが、少なくともこの姿を見れば十分に乙女だと思う。


「いえ、凄く嬉しいですよ。」


そして雄二の余裕とも言えるこの態度。二人の立場が完全に逆転しているようにも見える。今まで夏海先輩に振り回されていた筈の雄二が、いつの間にか押す側になっているらしい。


「くぅぅぅぅ、な、何で私がこんな…沙羅のせいだからね!!!???」


「ふふ…夏海が素直にならないのがいけないんですよ。私のように…」


「そうですかそうですか!! あぁ、そう言えば私も御守りで思い出したわ!! ねぇ高梨くん、沙羅も御守り持ってるのよ。それもなんと、あんざ…ふぐぅ!!!???」


バシィ!! 


沙羅さんの動きは、先程の夏海先輩に勝るとも劣らない動きだった。凄まじい速度で接近すると、右手で夏海先輩の口を塞ぎながら、そのまま持ち上げてしまうのではないかと思えるほどの勢いを見せた。


「あ、あ、あれは夏海に騙されただけです!!! 私が選んだ訳ではありませんよ!!??」


沙羅さんが焦るとは、非常に珍しい光景である。御守りというからには、少なくとも悪い内容の物は無い筈だ。何故そこまで焦るのか俺としても気になるが。


「あの…沙羅さん?」


俺が話しかけると、こちらを向いた沙羅さんがみるみる内に真っ赤になっていく。そんなに恥ずかしいことなのか? それなら無理に聞くつもりはないのだが…


「その…この件は、いつか必ずお話し致しますので、今は忘れて下さいますか?」


沙羅さんからそうお願いされてしまえば、俺としてはこれ以上話をする訳にはいかないだろう。正直気にはなるが、いつか教えてくれるというのであれば、そのときを素直に待つしかない。


かなり気になるけど。


「わかりました。沙羅さんが嫌がってるのに聞くつもりはないです。」


俺の返事を聞いて、沙羅さんはホッとしたように気を抜いた。そんなに聞かれたくない話だったのだろうか?


「嫌ということではないのです。まだ早いとは思っていますが…その、しょ、将来のことですから。」


もじもじと体を揺らし、時おりチラチラと俺を見ては恥ずかしそうに俯く沙羅さん。そんな可愛らしい姿を見せられると、俺も照れ臭くな…


「ぷはぁ!? こ、殺す気かぁぁぁぁ!!!!」


どうやら沙羅さんの拘束から逃れたらしい。

すっかり忘れていたが、夏海先輩は口を塞がれたままだったのだ。


「はぁはぁ…死ぬかと思ったわ。」


「自業自得です。夏海は自分から選んだ。私は夏海に騙された…違い…ますか?」


凄まじいプレッシャーを感じる笑顔を向けられて、夏海先輩は悔しそうにしながらもコクリと頷いた。あれは厳しい…


「納得して貰えたなら何よりですね。さて、それでは…」


そこまで言うと、沙羅さんは今までの様子を一変させた。優しく夏海先輩を抱きしめると、今度は心からの笑顔を浮かべて優しく微笑んでいる。


「改めて…夏海、おめでとうございます。自分の親友が幸せになるということは、こんなに嬉しい気持ちになれることなんですね。」


「うー…真面目に言われると、恥ずかしいかも…」


沙羅さんの優しい声音は、この祝福が心からの気持ちであることがハッキリとわかるものだ。

かつて自分のことをずっとフォローしてくれていた親友が、今度は自らの幸せを掴んだのだ。それを嬉しいと思わない訳がない。


そしてそれは、俺も同じ気持ちな訳で。


「雄二…おめでとう。なかなか進展しないから、今度Wデートを企画するつもりだったんだけどさ。」


「面と向かって言われると、ちょっと照れ臭いな。でも俺からもお礼を言わせてくれ。元を辿れば、一成達のお陰で出会えたんだからな。」


雄二もやはり照れ臭いらしく、微妙に俺から視線を逸らしていた。二人の出会いは、確かに沙羅さんが夏海先輩と親友であったからという理由もあるかもしれない。でもそれは、お礼を言うようなことではないだろう。


「夏海、恋愛に恥ずかしいことなどありませんよ。私達のように、堂々とすればいいのです。」


「いや、あんたらみたいに、ところ構わずイチャイチャなんて出来ないから。」


夏海先輩は落ち着いてきたのか、いつのもような突っ込みも復活したらしい。その軽口を聞いた沙羅さんがクスリと笑いを漏らすと、夏海先輩も釣られて笑いを溢し始めた。


「ありがとね、沙羅」


「おめでとう、夏海」


二人の喜びがこちらまで伝わってくる…そんな優しい空気がこの一帯を包んでいた。俺と雄二は同じくらい幸せな気持ちで、そんな二人を見つめていた。


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屋上から降りてきた俺達は、その足で買い物を開始した。目的の物は決まっていたので、食器を少しと、タンス、化粧台は止めて、沙羅さんの希望でオーブンを買うことになった。そして後はいよいよ、Wサイズの布団を決めるだけである。


「残念ですね…このお布団が可愛くて良かったのですが…」


「うーん…サイズが無いですね。シングルだけみたいです。」


展示されている布団を順番に見ている内に、沙羅さんが可愛い布団を見つけたのだが、残念ながらサイズが無いらしい。


「ならシングルにすればいいじゃない。別にダブルじゃなくても」


「ダメです。一成さんがお風邪をひいたらどうするのですか?」


やはり沙羅さんの基準は俺であるらしい。

あくまで俺が風邪をひかない為に、大きいサイズが必要であるとのことだ。


「いや、だから別々の布団で…」


「それも無しです。二人で生活を始めるときに、夜は必ず抱っこでお休みすると約束しましたから。」


「…………へー、それは素敵な約束ね?」


白けた視線と棒読みなコメントを俺にプレゼントしてくれた夏海先輩。

あれは完全に呆れているのだろう。

確かに俺達はいくつか約束をしたのだ。

一緒に寝るというのはその約束の内の一つだが、沙羅さんはこの先も本当に毎日俺を抱きながら眠ると決めているのだろう。


「一成…まぁ…あれだ、頑張れよ」


明らかに気遣いを帯びた、雄二の生暖かい応援が情けない…だが俺は頑張るしかないのだ。


「あ…これは良さそうですね。布団カバーは私が作れば…」


ディスプレイのベッドに敷かれていた布団は、店のオススメ品らしい。有名なメーカーなのか、値段もそれなりにするのだが、ふわふわフカフカで手触りも良い。予算的にも大丈夫だ。


「如何ですか?」


「これで寝たら気持ち良さそうですね。」


「はい。二人でぬくぬくしましょうね♪」


「…私はあんな砂糖吐くの無理だからね?」

「…いや、俺も無理です」


表情を引き攣らせている二人を放置して、呼び出した店員と購入手続きを始める。ここまで購入した物と合わせて、後日配送して貰うのだ。


こうして買い物は無事に終わり、最後に夏海先輩が行きたがっていたカフェで休憩をすることになった。各々がオーダーしたものを受け取り、四人席を確保する。


「はぁ…自分に彼氏が出来たとか実感ないわ。」


「俺の目の前でその一言は寂しいですよ。」


この二人は恋人になったといっても、外からの雰囲気はあまり変わっていないように思える。会話内容を聞いていれば、もちろん違いはわかるのだが。


「はい、一成さん、あーん…」


ぱくっ…もぐもぐ


まぁ気にしても仕方ない。あの二人はあの二人、俺達は俺達なのだ。という訳で、そこは気にせず平常運転とばかりに、俺達はいつも通りの光景を繰り広げていた。


「美味しいですか?」


「沙羅さんのケーキの方が美味しいです。」


「ふふ…お世辞を言っても、いい子いい子しかして差し上げませんよ?」


「いや、お世辞じゃないです。ホントにそう思ってますから。」


「……一成さん。あとでキスをさせて下さいね?」


「「…………」」


思いきり生暖かい視線を向けられているのは俺もわかっている。だが俺達にそんな視線を向けられるのも今の内だけだ。二人は恋人になったのだし、どうせその内イチャイチャするようになるのだから。


「夏海、どうかしましたか?」


当然沙羅さんもその視線には気付いていたので、不思議そうに首を傾げた。


「いや…よくそこまでイチャつけるなと思ってさ。私はその半分でも無理だわ。」


「それは夏海がまだ初心者だからですよ。」


「いやいや、それを言うなら、あんたら付き合う前からやり過ぎだったからね?」


俺達が付き合う前のことを思い浮かべてみると、うん、やはりこの二人はあっさりしすぎではないだろうか? 恋人になれた喜びというか、もっと盛り上がったり触れあったりしても良さそうなものなんだが…


「彼氏が出来て改めて実感したけど、あんたはやっぱ凄いわ」


「何ですか、急に?」


「いや、いくら好きな人の為って言っても、よくそこまで尽くせるなって思って。それに、好意をそこまで明け透けにできるのも凄い。」


沙羅さんのこれは、間違いなく特別。そのくらいは俺だってわかっている。でもだからこそ、俺は沙羅さんが心から愛しいし、例え人前であっても、愛情表現を受け入れると決めているのだ。


「ふふ…私も自分は特別だと思いますよ。もし私を真似できる人がいたら、素直に感心しますね。」


「一応、自分が一般から外れていることは理解してるのね?」


「それは少し違います。私が一成さんを愛しいと思う気持ちの強さは、真似できるものではないと思っているだけです。」


ここまで想われて、嬉しい以外の感情をもつ人はいないだろう。俺は本当に幸せな人間だ。世界一幸せな人間だ。


「あんたみたいに出来る女が他にいるなら見てみたいわ。それで高梨くん、ここまで聞いた感想は?」


ここで話の矛先が突然俺の方を向いた。感想…沙羅さんがここまで言ってくれたのだ。俺だってそれを返したい。


「沙羅さんがしてくれることは、どれだけ特別で、大切で、幸せなことなのか、俺だってわかってます。だからいつだって沙羅さんを受け入れるし、心から愛しく思って…」


ちゅ……


突然頬に感じる、優しくて幸せな感触。

これはもちろん沙羅さんからのキス。


「お家まで我慢できませんでした…」


「沙羅さん…」


「イヤです…沙羅と呼んで下さい…あなた」


沙羅さんの切なそうな表現が、俺の視線を釘付けにする。愛しい気持ちが溢れているのは、俺も沙羅さんも同じだろう。


「わかりま…わ、わかったよ…沙羅」


咄嗟のことだったが、何とか返せたようだ。沙羅さんの幸せそうな表情を見れて、俺も同じくらい幸せな気持ちになる。


「…あ、あなた? 際限ないのかこいつらは」

「…いや、店内でキスしたことを普通にスルーした俺達もヤバいです…」


こんな幸せそうに微笑む沙羅さんを見れるのであれば、俺は周囲からどう思われようと、呆れられようと関係ない。沙羅さんの幸せが俺の幸せなのだから。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


お買い物編、そして雄二&夏海編はこれで終了です。

友人達のエピソードに関するご意見を頂きありがとうございました。シナリオに絡ませて、今後も書いていこうと思います。メインではありませんので、そこまで長々とやることはしませんが。


ここからは、生徒総会を少し書いてから、学祭に向けた準備とか諸々、父母参観、学祭という流れになります。(予定です)


毎週帰ることになっている沙羅の実家での話とか、日常的な部分も書きたいので、ゆっくり進行していくことになると思います。


のんびりとお付き合い下さいませ!



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