第330話 質問コーナー開催

「沙羅ちゃぁぁぁぁぁん!!!!」

「女神様ぁぁぁぁ!!!!」

「真由美ちゃぁぁぁぁぁん!!!!!」

「まゆママ、頑張れぇぇぇぇぇぇ!!!」


 料理審査の結果発表も無事に終わり、長かったミスコンも残すところはあと少し。

 この後は審査員が採点した総合順位が発表されて、現時点での状況が判明することになる。

 但し点数に関しては、観客投票を盛り上げる意味も含めて非公開になるとのことで…観客が、自分達の投票次第で順位が変動するかもしれないという「ドキドキ感」を演出する為らしい。


「観客の人気は、間違いなく沙羅がトップでしょうね。でも持ち点は審査員の方が多いですから、その時点で真由美さんとの開きが大きければ…」


「接戦になっている可能性の方が遥かに高い。だから嫁の優勝は十分に有り得る」


「でも、問題はそこじゃないんだよねぇ」


「そうなんですよね…薩川先輩と真由美さんとの勝負はどうなってるんでしょうか…」


「そっちもだけど、一成のこともね」


「実際どうするんだ? 真由美さんとの勝負がハッキリしないと、何となくそんな雰囲気じゃないような気もするが…」


「確かに真由美さんの参加はイレギュラーだったけど、予定を変更するつもりはないぞ?」


「大丈夫なの、高梨くん?」


「沙羅さんなら絶対に大丈夫だよ。だから俺は、予定通りに実行するだけだ」


 そう…この勝負に俺達二人の生活が掛かっているとなれば、例え相手が真由美さんであろうと沙羅さんは絶対に勝つ。これはもう確定している。

 何故って、それは俺が沙羅さんの為ならどこまでも強くなれることと同じで、寧ろ沙羅さんなら俺以上に…俺の為なら、俺達の為なら最強になれる女性だから。

 これは決して自惚れで言ってる訳じゃない。


「全く…本当に沙羅が羨ましいです。フィアンセから、そこまで絶対的な信用と信頼をして貰えるなんて…冥利に尽きるというものでしょうね」


「い、いや、このくらい恋人なら普通に…」


「いえ、そうは言っても理想論ですよ。実際、そこまで絶対的であることは難しいものです。でも高梨さんの目を見れば、それを本気で思っていることがよく分かりますから…きっと、自身でも何か実感のようなものがあるのではないですか? だから確信しているのでは?」


「えっ!?」


 に、西川さんが鋭い…とは言え、あんな照れ臭いことを堂々と言える訳もないので、本音はもちろん黙秘しますが。


「ふふ…相変わらず分かり易いですね。では、これ以上聞かないでおきましょうか」


「うぐっ…お、お願いします」


 普段あまり見せないイタズラっぽい表情を浮かべて、俺の目をじっと見つめる西川さん。

 これは沙羅さんが正にそうなんだが、俺はこういう「年上の余裕」的な雰囲気に何故か弱いという自覚があるので…どうリアクションすればいいのか、いつも困っちゃうんだよね。


「あはは…やっぱり高梨くんって年上好きだよねぇ?」


「へ!? な、何で!?」


「いや、何でも何も分かりやすいし…あれ? そのワリには私に対して…」


「あ、夏海先輩は大丈夫です」


 同じ年上と言っても、夏海先輩は雰囲気的な気軽さもあるので…どちらかと言えば友達のような感覚の方が強い。だから沙羅さん達のように「年上のお姉さん」的な感じが少なかったりする。

 あ、もちろん良い意味で、だぞ?


「何ぃぃぃぃ!! それはつまり、私に年上の魅力が無いとでも言うのかぁぁ!?」


「いぃぃ!? い、いや、決してそういう意味じゃ!! その分、親しみ易いと言いますか!!」


「高梨さん…そうなりますと、逆に私は親しみ難いということでしょうか?」


「うぇっ!? ち、違いますよ、別にそういう意味じゃ…」


 ちょ、ちょっと待ってくれ、何でこんな話に!?

 そもそも今は何の話をして…って、そうだよ、俺が沙羅さんの勝利を確信している理由だろ!?

 それがどうして…あ、ちなみに俺は年上が好きなんじゃなくて、「沙羅さん」が好きなだけです!!

 好きになった人が、たまたま年上だったというだけで、他意なんか全然ないぞ?


「…ふふふ…高梨さんは、年上の女性から好かれるタイプみたいねぇ」

「…和美さんも何か分かるんですか?」

「…何となくだけどね。高梨さんは母性本能を擽るタイプみたいだから、年上の…それも特定のタイプに刺さるんだと思うわ」

「…そ、そうなんですね?」

「…ええ。ところで、満里奈ちゃんは誰が好きな…」

「…ふぇぇぇぇ!?」

「…ふふ、こっちも分かりやすいわねぇ」


「おぉぉぉぉぉぉ待たせしましたぁぁぁぁぁぁぁ!!! やっと審査員の採点が終了したようなので、このままサクッと発表に移りましょぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!」


 ぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!


 実にナイスなタイミングで再開してくれた、みなみんの盛り上げトークに、客席から大きな歓声が上がる。

 その光景を、ステージ上から満足そうに眺めるみなみんが勢いよく右手を上げると、スピーカーから大袈裟なBGMが流れ出し、スクリーンには大々的に「審査員結果発表」の文字が。


 ジャン!!!!


 短いBGMが派手な余韻を残して終了すると、スクリーンの表示が切り替わり、その画面に映された結果は…


 結果は!!??


 1位 薩川沙羅

 2位 まゆ

 3位 楠原玲奈

     ・

     ・

     ・


 沙羅さんが1位だ!!


「おっしゃぁぁぁぁぁぁぁぁ!!! これで薩川さんの優勝が見えたぁぁぁぁぁぁ!!!」

「当然だろがぁぁ!!! 女神様が負けるかよぉ!!!!」

「沙羅ちゃぁぁぁぁぁぁぁぁん!!!」

「女神さまぁぁぁぁぁぁ!!!!」

「頼むから俺と付き合ってくれぇぇぇぇ!!!」

「ふざけんな!!! 何でお前なんかと!!!」

「まゆさぁぁぁぁぁぁん、まだチャンスは残ってるよぉぉぉぉ!!!!」

「真由美ちゃぁぁぁぁぁぁん!!!」


 結果を見た客席の盛り上がり一気に激しくなり、至るところから沙羅さんや真由美さん、その他自分の推している出場者を呼ぶ声が飛び交い始める。

 でもその反対に、タカピー女の応援だけは明らかに聞こえなくなっていて…それは本人も一番よく分かっているんだろうが、これは自業自得だから仕方ない。


「ほぉぉ、沙羅がトップかぁ。順当と言えば順当だけど、ひょっとしたら真由美さんが一位かもくらいには思ってたんだけどね」


「私もその可能性は考えたけど、やっぱり二次審査の結果が大きく響いているんでしょうね」


「えりりん?」


「沙羅と真由美さんの実力差が一番大きかったのは二次審査よ。でもあれは、子供達と高梨さんのバックアップが入ったお陰で、雰囲気が一気に変わったから…」


「あれが単純な歌唱力勝負のままだったら、嫁に勝ち目は無かった。それに他の審査が接戦なら、カラオケが実質的な勝負の分かれ目になったことは間違いない。つまりこの成績は嫁本人だけじゃなくて、一成と…未央ちゃんの三人で勝ち取ったもの」


「…とまぁ、そういうことになりますね」


 二次審査のアレは、思わず雰囲気に流されてしまったと言うか…でも未央ちゃんが来なければ、あんな風に歌うことなんか絶対に出来なかったと俺も思う。

 だから花子さんの言う通り、この結果は未央ちゃんのお陰だと言っても過言はないのかも。


「それなら、今回一番の功労者は未央ちゃんってことになりますね!」


「ええ。ですから未央ちゃんには、改めて何かお礼を…」


「いや、それは俺と沙羅さんに任せて下さい」


 これは俺と沙羅さんの案件だから、当然、未央ちゃんにお礼をするのも俺達の役目。

 だからここは、俺と沙羅さんの二人で何か…

 

「和美さん、何か未央ちゃんの喜びそうなことってありませんか?」


「いえ、そんな気に気を使わないで下さい。未央も凄く喜んでいましたし、それだけで十分ですよ」


「一成、未央ちゃんとの約束」


「約束…あっ!」


 そうだ、さっき未央ちゃんは、沙羅さんのご飯が食べたいって…それならどこかで時間を作って、食事会のような機会を設ければ!

 本当は沙羅さんにも相談しないといけないけど、きっと喜んで引き受けてくれるだろうし。


「和美さん、これは沙羅さんに話をしてからになるんで、まだ正式な話じゃないんですけど…もし都合が合えば、未央ちゃんと一緒にご飯を」


「高梨さん、お気持ちは本当に嬉しいんですけど、それは流石に申し訳ないですよ…」


「和美さん、これは高梨さん達だけじゃなくて、私も是非同席させて頂きたいので、どうぞご遠慮なく」


「おっと、えりりん。それは水臭いんじゃない?」


「そういう話になるのであれば、私を差し置いて未央ちゃんと一緒だなんて許さない」


「そうですよ! まさかそんな楽しそうな話で、私をハブるつもりですか?」


「和美さん、私も参加したいですし、未央ちゃんもきっと喜んでくれると思いますよ!」


「このグループの女性陣は、こうなったら意地でも諦めませんからね」


「雄二、フォローするならもう少し上手く…あ、勿論俺も参加したいですよ?」


 俺を後押しするような皆の参加表明に、思わずといった様子で苦笑を浮かべる和美さん。

 ここまで説得されれば、流石に折れてくれると思うんだが…

 それに俺としては、未央ちゃんと一緒にご飯を食べる機会を作ることで、一緒に沙羅さんも喜んでくれるだろうという打算も込みだ。


「…本当に宜しいのですか?」


「はい。絶対に沙羅さんも喜びますし、良かったら是非に」


 俺のダメ押しでやっと決心してくれたのか、和美さんは微笑みを浮かべてコクリと頷いてくれた。それを見て、皆も嬉しそうに笑顔を浮かべて…良かった、これで未央ちゃんにお礼が出来る。

 しかも約束を果たせて、尚且つ沙羅さんに喜んで貰えるという、正に一石三鳥のアイデアだ。勿論俺も楽しみだし、皆で一緒に楽しくやれるならそれが一番だ。


「良かったね、高梨くん! あ、細かい連絡は私に任せて?」


「ありがとう、藤堂さん」


 それならお言葉に甘えて、連絡は親戚でもある藤堂さんにお任せしておこう。

 後は俺が、沙羅さんへ相談を…と言っても、開催そのものは相談するまでもないと思うから、日程的な話がメインってことで。


 よしよし…これでまた一つ、楽しみが増えたな。


……………

………


「いやぁぁぁ、これを予想通りと言うべきどうか…あ、みなみんは司会者なので、その辺はノーコメントですが……でもでもぉぉぉ、皆はどうだぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!???」


 わぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!


 みなみんの問い掛けに、返事代わりの大歓をあげる観客達。盛り上がりの雰囲気もそのままで、あの結果を見た後でも、特にこれと言った反発やブーイングが起きる気配はない。

 それはつまり、個人的な推しの違いはあっても、沙羅さんが一位という結果そのものは全体的に受け入れられているってことだろうから。

 ちなみに一つ問題があるとすれば、沙羅さんへのファンコールが激し過ぎて、聞いている俺のイライラが募るくらいか。


「ちなみにぃぃぃ…みなみん情報だと、まだ順位が入れ換わる可能性は十分にあるみたいだよぉぉ!!! 皆の投票で結果が変わるかもしれないから、責任は重大だぞぉぉぉぉぉぉぉ!!!!」


 ぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!


「さぁぁぁぁぁぁて、それじゃ観客投票……の前に!!!! 先ずは皆からの質問コーナー、行ってみよぉぉぉぉぉぉぉぉ!!! 聞きたいことがある人は…」


「「「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁい!!!!!!」」」


 みなみんの説明が終わるよりも早く、客席から一斉に手が上がる。右手、左手、両手、何故か脇の下に手を入れて大きく手を上げるやつ、ピョンピョン跳ねながら、少しでも目立とうとするやつ等々…凄い勢い。

 ちょうど子供向けのステージショーで、似たような光景が見れそうな…あれ? それってつまり…


「子供か」


「花子さん、それを言っちゃぁ…」


「気持ちはよく分かるけどね」


「えーと…では記念すべき一人目はぁぁ……そこの男性に決めた!!! スタッフさんマイク宜しく~…はい、その人です!!! 本名は…恥ずかしいかもしれないから、適当に名前と、誰に質問なのかを宣言してからどうぞ!!!!!」


「歩無です!!! 薩川さんに質問です!!!」


 ここからだと姿は見えないが、声からして質問者は男…しかも初っ端から沙羅さんを指定するとは実に予想通りの展開。

 あとはせめて、質問がまともであることを願うばかりなんだけど…嫌な予感もヒシヒシと感じる訳で。


「スバリ、焼肉デートはありですか!?」


「え~、では薩川さんどうぞ」


「なぜ焼肉という限定条件なのか分かりませんね。食事ですから普通に行けばいいでしょう? 寧ろダメな理由がどこにあるのか、私には理解できませんが」


 俺も正直、何で質問者が焼肉デートに限定したのかよく分からんが…少なくとも沙羅さんはそういうことに拘る人じゃない。

 焼肉だろうとお好み焼きだろうと、俺が誘えば普通に行ってくれる…筈。

 いや、実際には沙羅さんのご飯で満足してるから、焼肉とか行ったことはないんだよね…でも俺が誘えば(重要)大丈夫!!!


「おおお、意外とフランク!!!」

「いやいや、女神様と行くならどう考えてもレストランだろ…」

「俺なら多少無理してでも上のランクで行くぜ!!!」


「はい無歩さん、ありがとうございました~。薩川さんが思いの外ちゃんと答えたので、みなみんも少し驚き…いや、何でもないっす!!!」


 沙羅さんから少し睨まれて、瞬間的に話を引っ込めるみなみん。でも確かに、以前の沙羅さんであれば、間違いなく頭ごなしで突っぱねただろうから…みなみんの気持ちが理解できない訳じゃない。


「はい、では次の~」


「「はいはいはいはいはいはいはいはいはいはいはいはいはいはいはいはいはいはいはいはい!!!!」」


「ちょ、勢いが凄すぎるんですけどぉぉぉぉぉぉぉぉ!!??」


 堰を切ったように、我よ我よと「はい」の大連呼祭りがスタート。もう騒がしいを通り越して騒々しいレベルになっているが、あれはひょっとしなくても殆どが沙羅さん目当てだろうから…分かっていても複雑すぎる…


「一成、我慢」


「分かってるよ…」


「それじゃあ、次は………そこの人!!! スタッフさん、そこ…はい、先ずは名前からどぞ!!!!」


「変人が好きなおっさんです」


「へ、変人? それが名前…あ、やっぱ何でもないです。それじゃ質問は誰に…」


「薩川さんで」


「薩川さ~ん、変人が好きなおっさんがお呼びよ~」


 みなみんが、どこかの有名な酒場で仲間を呼び出すような…もとい、半分棒読みで沙羅さんにマイクを渡す。沙羅さんも嫌そうな表情(名前のせい?)でそれを受け取ると…それでも一応は話を聞くつもりがあるようで、続きを促すように黙って待っている。


「新婚旅行に行くならどこがいいですか?」


「…新婚旅行ですか?」


「はい、具体的にお願いします!!!」


「そうですね…特別どこがいいと考えたことはありませんが…それに新婚旅行へ行くとしても、まだまだ先の話でしょうから」


 とか言いつつ、沙羅さんの視線は明らかに俺の方へ…って、いくらなんでも、まだそんな先のことまで考えてませんよ!?

 もちろんその時がくれば、俺だって沙羅さんが喜んでくれそうな所へ行きたいと思う気持ちはあるけど…

 それに今の俺は、先ずこの後のプロポーズを成功させるのが先決な訳で。


「ですが…いつか思い出巡りの旅行はしたいと思います。きっと…これから結婚するまでの間にも、大切な思い出が沢山生まれるでしょうから」


「思い出を巡る旅行ですか?」


「ええ。大切な方と二人で…それまでの思い出を巡る旅。素敵なことだと思いますが」


 思い出巡りの旅行…か。

 それが沙羅さんの望みであると言うのなら、俺のやるべきことは決まったも同然。

 いつか来るその日に向けて、それこそ場所を選定するのが大変になってしまうくらいに、沙羅さんと色々な場所へ行こう。

 それは二人だけでもいいし、親友の皆…たまには政臣さんや真由美さん、もしくは沙羅さんが望むのであれば親父やオカンとかでも…うん、想像すると楽しそうでワクワクしてくる。

 これは、ますますアルバイトを頑張らないとな!!


「はぁぁ…流石は女神様、言うことが理想的すぎるぅぅぅ」

「もう好感度が天井知らずでございますぅぅぅぅ!!!!」

「見てろよ、いつか俺が薩川さんを…」

「馬鹿野郎、それはお前じゃねーよ!!」

「どうにかしてお近づきに…」


「あはは…薩川先輩、高梨くんをガン見してますね」


「そりゃ沙羅だからね。今の質問だって、高梨くんのこと考えてたから答えたようなもんだろうし…しかもあの笑顔で、また勘違いするアホを増やした訳だ」


「二人の思い出を辿る旅行…いいですねぇ…ロマンチックです」


「だってさ、イケメン?」


「う…」


「ふふ…沙羅らしい答えですね。気持ちはよく分かりますけど」

 

「はぁぁぁぁぁい、ありがとうございました!!! あと薩川さん、もうそのくらいにして下さ……コホン、何でもないです!!!! では、次…」


 みなみんが言い終わる前に、またしても客席で挙手祭りが始まる。ここまで激しい状況になると、ピンポントでスタッフさんに場所を指定するのも大変そうだな…何て、余計なことを考えてみたり。


「あ~と…じゃあそこの……あ、そこじゃなくてその隣の人の…その後ろです…はいその人!!!! では、お名前からどうぞ~!!」

 

「アキオ君でお願いします!!」


「はーい、アキオ君さんですねぇぇ」


「いや、さんは要らないんで…」


「あはは、じょーだんじょーだん!! それじゃ、誰に質問を…」


「薩川さんでお願いします」


「はいはい、薩川さん、ご苦労様で~す」


 当たり前と言えば当たり前だけど、今回もやっぱり男…しかも三連続で沙羅さん指定。

 もうこうなってくると、下手をすれ全て沙羅さん指名だけで、質問コーナーが時間切れになるんじゃないのか?

 あと約一名、相変わらずの不機嫌顔で沙羅さんを睨んでる方がいるけどな…


「薩川さんが男子を好きになるのはどんなところですか? 逆に、嫌い、許せない人はどんな人ですか?」


「どんなところ? どんな男性が好ましいか好ましくないか…ということで宜しいですか?」


「はい!」


 これは遂に来るべき質問が来たと言うか…実にセオリーで、しかもある意味で危険な質問。

 この答えは、場合によっては沙羅さんが俺の名前を出してしまう可能性があるので、一応心構えだけはしておいた方が良さそうかも。


「好ましくないという点は簡単ですね。私は馴れ馴れしい人間が嫌いです。軽々しく声を掛けられるのは不愉快です。まして、私という人間を何一つ知らない癖に、安易に告白してくる軽薄な輩は視界から消えて欲しいですよ」


 不愉快さをまるで隠そうとしない、冷気すら感じる沙羅さんの一言に、正に今「付き合ってくれ」と騒いでいたバカ共がピタリと黙る。


 うーん…実にいい気味。


「私に対して上辺を取り繕う人間や、肝心なときに自分の意思も行動も示せないような人間などは論外ですね。まして、相手を外見で決めるなど以ての他…」


 静かに淡々と喋っているだけなのに、明確な意思と圧力すら感じるさせるような沙羅さんの声音。それは客席全体へ言い聞かせているようで、バカ騒ぎをしていた連中の声がどんどん小さく、少なくなっていく。

 そして沙羅さんは、先程と同じように優しい微笑みを浮かべながら俺を見つめて…


「他にも色々ありますが、それを言ったところで時間の無駄でしょうから割愛します。そして私にとって理想の男性は、その反対というということになりますかね。私を外見で好きにならず、上辺を取り繕わず、自分の目標に対してひた向きで、確かな行動力を持ち、私を導いて下さる頼もしい方」


 またしても俺の方をガン見しながら、嬉しそうに語り始める沙羅さん…って、ちょっと待って、それって俺のことを指してるの!? それは流石に美化し過ぎでは!?

 話を聞いているだけでも、どんな完璧超人だよ!?


「うーん…あれって沙羅の理想じゃなくて、単に高梨くんのこと言ってるだけだよねぇ」


「さ、沙羅さん…も、もう止めて…俺はそんな大層な男じゃ…」


「別に謙遜しなくていい。嫁の言っていることはそこまで間違ってない」


「そうですね。私も高梨さんには、そういうイメージを持っていますよ?」


「うん。俺も一成のイメージはそんな感じかな?」


「ちょっ!?」


 何で皆してそんなことを言うの!?

 しかもその感じだと、冗談で言っているように聞こえないから、余計に困るんですけど!?


「な、なぁ…薩川さんの言ってることって、妙に具体的じゃないか?」

「いや、理想だから熱が入ってるだけじゃね?」

「でも薩川さんを容姿で好きにならないって、そんな男いる訳ないよな」

「だよな! しかも薩川さん相手に上辺を作らないなんて、そんなの無理だぜ」

「今の話を聞くと、こっちを好きになって貰う為のアピールをしたらダメってことになるのか!?」

「それは難易度が高過ぎるぞ!!」


「子供にも優しくて、私の我が儘ですら笑顔で受け入れて下さる懐の広さ…照れたお顔が可愛らしくて、私に甘えて下さる姿が本当に愛おしくて…」


「あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!! 薩川さん、ストップ、ストップぅぅぅぅぅ!!!!!! アキオ君も、質問の答えは満足した!!!???」


「は、はい!? ありがとうございました?」


「はい!!!! そんじゃこの質問は終了ぉぉぉぉ終了でぇぇぇぇぇぇぇす!!!」


 ふぅ…どうやら、ギリギリのところで乗り越えられたらしい(?)

 もし沙羅さんが俺の名前を出すようなことがあれば、このまま一気にステージへ乱入することも覚悟したけど…


 でもまだ質問コーナーは終わってないし、引き続き気を抜かないようにしないとな…


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


 読者の皆様へ


 ここで詳しく書くと、せっかくの余韻に水を差すことになるので控えますが、現在事情により執筆が出来ない状況が続いています。

今回の更新分は、そうなる前に書き上げていた分を何とか手直ししたものです。

誤字等あるかもしれませんが、ご了承願います。

 詳しくはノートをご覧ください。

 前回のコメントへのお返事については、申し訳ありませんがお休みさせてください。次の機会にはお返事させて頂きます。

 全て目を通させて頂いておりますので、嬉しい限りです。


 つがん

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