第4話:契約の破棄

気付いた時にはノリはロキの方へと駆け寄り、先輩達との間に立っていた。


「ほら、助けてくれる。やっぱお前は、友達なんだぜ」

「ちっ。黙ってろロキ」


ノリはロキにそれだけ答え、4人に向かい合った。


「へ、へぇ。お前が人助けだなんてな」

「ノリぃ。お前この人数に、勝てると思ってるのかよ??」


「逆に聞くけど、アンタ達、たった4人で俺に勝てるとでも思ってんの?」


「クソ生意気なガキがっ!みんな、やるぞ!!」


1人がそういうと、全員から忍力があふれ出してくる。


「ちっ」

それを見たノリも、全身に忍力を込める。


「ノ、ノリ。手は出しちゃダメなんだぜ」

ロキが、倒れたまま囁くように言った。


「何言ってんだロキ。やらなきゃやられんだろ?」

「せ、先輩達は、別に俺達を殺そうとはしてないんだぜ。そ、それなのに力を使ったりして、もしもそれを誰かに見られでもしたら、お前の契約が切られちまうんだぜ」


(ちっ。そうだった)


ロキの言葉に、ノリは平八と契約したときのことを思い出していた。


『忍者以外の者の前で忍者としての力をさらすことを禁ずる。ただし、自身または大切な者の命が危うい場合や師が許可を出した場合はその限りでない』

契約書にそう書かれていた以上、命が危ういとは言い難いこの状況で、もしも力を使っているのを忍者以外の者に見られてしまった場合、その力を失い、それまでの忍者としての記憶を失くしてしまう。


平八や、ロキとの思い出すらも。


(は?爺やロキとのことなんて、関係ない。忍者でなくなるのが惜しいんだろ、俺は)


一瞬自身の頭に浮かんだ、平八やロキとの思い出を失うことに対する、感じたことのない感情を振り払うように頭を振るノリ。


(素直じゃないんだから)

(お前は黙ってろ)

頭の中に響くハチの言葉に、ノリが返していると、


「ノリ、逃げてほしいんだぜ」

ロキが、ふらつく足で無理矢理立ち上がりながら言葉を振り絞った。


「は?バカかお前は。とも・・・サンドバックを、こんなとこで放っておくわけねーだろ」

(チッ。俺は今、こいつのことをなんて呼ぼうとしてたんだよ)


ノリは自身の口から出そうになった言葉に忌々しそうに舌打ちをしながら、忍力を込めるのを中断して迫る4人を迎え撃った。



結果は、もちろんノリの惨敗である。

いかに忍者として4人を凌駕する力を持っていたとはいえ、力を使わないノリが、力を使う4人に勝てるわけはなかった。


ボロボロになって横たわるノリとロキを見下ろすように、4人がノリを囲っていた。


「くそ、まだやり足りない!!」

4人のうちの1人がそう言って武具を具現化させると、他の3人も同じように武具を具現化させていった。


その時。


「き、君達、今のは何だ!!」

突然、そんな声が聞こえた。


4人と横たわったノリが声のした方に目を向けると、1人の警官がそこに立っていた。


「ちっ!みんな、逃げるぞ!!」

1人がそう叫び、4人はその場を逃げ去っていった。


「なーんてね」

残された警官が笑いながらそう言って、指を鳴らした。


すると警官は平八へと姿を変えた。

その手には、4枚の紙が握られていた。


「はぁ。たった数か月とはいえ、教え子を4人も一気に契約破棄することになるなんて・・・さすがに、教師として自信無くしちゃうな。まぁ、もう引退の身だけどさ」

そう言いながら平八は、手に持った紙を躊躇なく破り去った。


「まさか、こんなことになるなんてね。2人とも、ごめんね」

平八は、そう言いながら2人へと駆け寄った。


「せ、先生、助かったんだぜ」

ロキが、立ち上がりながらそう言うと、


「ロキ、まだ無理はしちゃダメだよ。そのまま少し座っていなさい。すぐに治療してあげるから」

その言葉と共に平八がロキに手をかざすと、平八の手が青く光り、その光がロキの傷を癒していった。


「スゲーんだぜ。もう全然痛くないんだぜ!!」

「それはよかった」

飛び跳ねるロキに笑顔を向けた平八は、


「それよりもノリ」

そう言ってノリに目を向けた。


「よく、頑張ったね」


「は??」


「いや、は?じゃなくて。友人を助けるだけじゃなく、私との契約を守って力を使わなかったじゃないか。そのせいで、それだけボロボロになったっていうのに」


「いや、それは、忍者を辞めたくなかったからで・・・」

ノリは、今までにないほどオロオロしながらそう答えた。


「それでも、だよ。ノリはもう、立派な忍者だよ」

平八の手が、ノリの頭を撫でた。


「じ、爺!何すんだよ!!あれ??」

平八の手を振り払ったノリは、自身の視界がぼやけているのに気づいた。


「意味わかんねぇ!何だよこれ!!」

ノリの目からは、本人ですら驚くほどに涙が流れていた。

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