第384話:呑気な雑賀家
「おばあちゃん。私達から次の当主を選ぶのはまぁ、分かったけど・・・」
麻耶が戸惑いながらも雅へと目を向けた。
「そうそう。別に選ばなくったって、こういう時って普通、浩兄ちゃんなんじゃないの?」
重清が、麻耶の言葉に続けた。
「・・・・・・」
重清から名前を挙げられた浩は、押し黙ったまま雅を見つめていた。
「まぁ、順当に考えたら、ウチの長男である平太の長兄の浩ってのがスジなんだろうが・・・
そんな普通、面白くないじゃないか」
雅はそう言って、邪悪な笑みを浮かべた。
「面白くないって。ばあちゃん、だったらどうやって決めるつもりなんだ?」
浩の隣から太が尋ねると、
「そりゃもちろん、強さでさ」
雅の邪悪な笑みが、その邪悪さをさらに増した。
「今からあんた達には、3対3の手合わせをしてもらう。もちろん、兄弟で組んでね。
そして勝った方の兄弟の中から、3人で話し合って当主を差出し・・・じゃなくて、推薦してもらうよ」
「・・・・・・」
雅の言葉に浩は無言を貫き、重清の兄である公弘と裕二が目を合わせて肩をすくめるなか、麻耶が声を上げた。
「待っておばあちゃん。それだと、私達が不利よ。重清には、おじいちゃんの具現獣だったチーノがいるのよ?それに、雑賀本家の具現獣だったロイまでぶん取ってるわ」
「いや、ぶん取ってるって失礼じゃね?」
「まぁ、ウチからしたらぶん取られた感じになるけれど、いずれ重清は私の夫になるんだから、問題はないわよね」
「いや、今のには別の意味で問題があるけどね」
余計な口出しをする美影に、重清は冷静につっこんだ。
「そうよね・・・ごめんなさい重清。プロポーズは、あなたの方からやりたいわよね」
「美影は相変わらずだね」
「相変わらず可愛いだなんて・・・」
「拍車がかかってた!裕二兄ちゃん!美影、拍車がかかってた!」
「いや俺にふるなよ」
相変わらずの美影の都合の良い耳に頭を抱える重清に、裕二は呆れながらもつっこんだ。
「はぁ。重清が話しだすとすぐに脱線するね」
「いや、今のおれのせいじゃなくない?」
ため息をついた雅は、重清の抗議の声を無視して言葉を続ける。
「チーノ、ロイ。あんた達は、あたしと一緒に見学だよ。重清にアドバイスする事も禁じるからね」
「えぇ〜。アドバイスもダメなの?」
重清は不満そうに口を尖らせた。
「もちろんだよ。特にチーノ。感知した情報を重清に教えるんじゃないよ」
「えぇ。心得たわ。平八だって、重清の純粋な力だけで戦って欲しいでしょうからね」
「ふむ。仕方ないのぉ。重清、プレッソ、頑張るのじゃぞ」
チーノが頷き、ロイはそんなチーノの頭へとプレッソの頭からは飛び移って2人に声をかけた。
「だってよ、プレッソ」
「なんで他人事なんだよ」
呑気にプレッソへと笑う重清に、プレッソは重清の頭の上に飛び乗ってつっこんだ。
「でも、兄ちゃん達と一緒に戦うのって始めてだね。そういえば、兄ちゃん達の武具って何なの?」
「ん?あぁ、俺のは―――」
公弘がそう答えようとしていると、雅が口を挟んできた。
「あとの話は、向こうに行ってからだよ」
雅がそう言いながら壁に手をかざすと、そこに扉が現れた。
「じゃぁみんな、向こうに―――」
「あっ!お袋、少し待ってくれ!」
雅の言葉を止めて、重清の父雅史が突然立ち上がり、そのまま台所の方へと走っていった。
「まさかあの人・・・」
雅史の妻綾が不安そうにその背を見つめながら呟いた。
そして1分後、雅史は焼酎の瓶とお湯の入ったポットを持って現れた。
「あなたねぇ。これから息子達が命を賭けて戦うっていうときに・・・」
綾は呆れた声で夫を見つめていた。
「いや、命は賭けないからな?」
裕二が母へとつっこんでいると、麻耶達の母、浩子が割って入った。
「あら、いいじゃない。息子達の成長を見ながら飲むのも。なんだか、運動会みたいだわ」
「ね、義理姉さんで」
「いいじゃないですか、綾義理姉さん。ウチの娘達は忍者にしなかったから、その分甥と姪の成長を楽しみたいわ」
桔平の妻、彩花はそう言うと雅へと目を向けた。
「ね、お義理母様、いいでしょう?どうせだったら、少し食べるものもほしいわね。私、ちょっと作ってきますね!」
彩花はそう言うと、台所の方へと走り出した。
「ほら、行くわよ綾ちゃん」
「はいはい、わかりましたよ」
浩子がそう言うと、綾もため息混じりにそう言って2人で彩花を追っていった。
「まったく。当主を決める大事な手合わせだというのに。
まぁ、皆の成長を楽しみにする気持ちもわかるけどねぇ」
苦笑いを浮かべた雅は、孫達へと目を向ける。
「ってことで、始めるのが少し遅れそうだから」
そう言うと雅は、自身の作り上げた扉へと再び手をかざした。
「部屋を2つ、作っておいた。向こうに行って、作戦でも練ってな。
時間はこっちに合わせてるから、あんまり時間は無いと思っておくんだよ」
そう言うと雅は、義理の娘たちの元へと歩き始めた。
「えぇっと・・・」
なんとも緊張感の無い母たちに重清が呆然としていると。
「・・・・先に行かせてもらうぞ」
浩がそう言って扉の先へと進んでいき、太と麻耶も慌てるようにそれについて扉へと入って行った。
「なんか浩兄ちゃん、怒ってない?」
浩の様子に重清が首を傾げると、
「浩さんには思うところがあるんだろうさ」
「公弘兄ちゃん、それってどういうこと?」
「ま、そのへんの話も含めて、あとはあっちで話そうか」
公弘はそう言って、雅の作り上げた扉の方を指した。
こうして重清達兄弟もまた、扉の先へと足を進めた。
その場には、既に酒盛りを始めた父達3人の騒ぐ声だけが残されたのであった。
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