第383話:親父達は情けない?

「じゃぁ、さっさと話を進めるよ」

雅がそう言うと、一同は雅へと視線を集めた。


「ウチの当主は・・・・」


ゴクリと、誰かの喉が鳴る。


あの人平八が亡くなった時に忍者だった、孫たち6人の中から決める!」


「「「「「「はぁ!?」」」」」」


「「「っしゃぁーーーっ!!」」」


雅の孫たちの驚きの声と、その父である雅の息子たちの声が響き渡った。


「なんで俺らの中からなんだ?普通、そういうのは親父達からだろ?

っていうか、なんで親父達は喜んでんだよ」

裕二が、喜ぶおっさん達に目を向けた。


「「「だって、面倒くさいもん」」」


兄弟3人が、仲良く声を揃えて裕二へと答えた。


おっさんによる、『もん』の三重奏である。


「この馬鹿息子達じゃ、無理だね。才能が無い。

この年でほとんど術も作れなければ、忍力も揃いも揃って2つ止まりだ。

あの人平八とも話てたからね。次のウチの当主は、孫から選ぶって。

だからあたしは、わざわざこんな面倒くさい当主なんかを、あの人が亡くなったあともこうやって引き継いでるんだ」

雅は息子達に目を向けながら、ため息をついた。


「いやー、ほら、よくいるじゃないか。

スター選手の息子が、親と同じスポーツやって微妙な奴。俺達は、3人が3人とも、そのパターンなわけだな」

麻耶達の父であり、3兄弟の長男である平太がそう言って笑うと、


「そうそう。思い出すなぁ。周りが『雑賀平八と雑賀雅の息子だ』って勝手に騒いで。で、実力見た途端に落胆してるとこ」

3男の桔平は思いを馳せるように遠くを見つめていた。


「わかるわぁ。あれ、ホントキツかったよな」

平太もそれに同調するように頷くと、


「あ、でも俺、たまに褒められるぜ?

俺の唯一の自作忍術『酔醒よいざましの術』」

重清達の父、雅史が1人胸を張った。


「いや、実際あの術は神がかってるからな。呑んべえのお前らしい、最高の術だよ」

平太が感心したように言った。


「ま、酔った勢いで作ったらしいけど、どうやって作ったのかも全く覚えてないんだけどな」

「それ、ある意味天才だよ」

雅史の言葉に桔平がつっこむと、おっさん達は声を揃えて笑いあった。


「ダメだこりゃ」

公弘はおっさん達を見てため息をつき、母たちへと目を向けた。


「母さん達は、それでいいのか?」

公弘の言葉を聞いた母たちは、チラリとそれぞれの夫を見て、


「「「うん。あれに当主なんて無理」

声を揃えた。


そんな義理の娘達を見た雅は、申し訳無さそうな表情を浮かべて、息子達を見つめていた。



と、ここで一旦話を変えさせていただこう。


妻や息子達からこうも情けなく見られている3兄弟であるが、その実力は確かに、情けないものなのだ。

おそらく、3人がかりでもノリに勝つことなど不可能なほどだ。


しかし、これには理由がある。


彼らが生まれた時代、まだ平八の作り上げた忍者教育カリキュラムは、受け入れられてはいなかった。


そのため多くの忍者は、幼い頃から師と契約を結び、修行に励んでいた。


だが、彼らは違った。

彼らの父、平八は自身の作り上げたカリキュラムに則り、中学生になるまで、彼らは血の契約者としての契約を結ぶことはなかった。


その結果彼らは、同年代の忍者よりも実力が劣ることとなった。


それを許さなかったのが、彼らの母、雅である。


平八の作り上げたカリキュラムの有用性を証明するためにも、息子達には強くなって貰わなければならない。

そう考えた雅は、息子達に厳しい修行を課したのだ。


孫である重清達も皆、雅の修行受け、そのあまりの厳しさに疲弊していた。だがそんな孫達が受ける修行など児戯にも等しいと思えるほどに厳しい修行を、雅の息子達は受けたのだ。


その結果彼らが選んだのは、逃げることであった。


腐っても雑賀平八と雑賀雅という、2人の天才の血を引いた彼らである。


本来であれば、忍者の中でもトップクラスの実力を持ってもおかしくない程の才能を、彼らは持っていた。


しかし、身の丈に合わない、そして死と隣り合わせの修行中に、彼らは逃げることを選択した。


持てる才能の全てを、逃げることに注ぎ込んだのだ。


その結果彼らは、逃げることに関しては忍者界隈において3本の指に入る実力を身に着けていた。


もしも、母雅が本気で全人類の命を狙ったとしても、彼らは、彼らだけは、絶対に逃げ切れるほどの実力を。


彼らが成人する頃、雑賀平八はようやくそれに気が付いた。

そして、自身を許せなくなる程に、後悔したという。


人を育てるべき教師たる自分が、息子の才能を育てることもせず、潰してしまったと。


この3人の息子達は、天才忍者雑賀平八の作り上げた忍者教育カリキュラムの、唯一の被害者なのである。


その事を気にしていた平八は、だからこそ息子達に当主の座を譲ることを頑なに拒んだのだ。


辛い目に合わせてしまった息子達には、当主などに縛られることなく、自由に生きてほしい。


平八なりの、贖罪なのだ。


それを知っている雅もまた、それでもなお楽しそうに笑い合う息子達を、慈愛に満ちた目で見るのであった。

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