第382話:雑賀家、集まる
中忍体に臨む忍者部一同と別れた重清は、プレッソを頭に乗せ、祖母雅宅へと向かっていた。
((誰がお年寄りだ))
そんなチーノとロイの、どこへともないつっこみを背景に歩く重清は、程なく雅宅へと到着した。
「おぉ。なんか正月みたいだな」
玄関に溢れる靴を見た重清は呑気にそう呟きながらチーノとロイを具現化すると、靴の山に自身の靴を押し込めて、中へと進んでいった。
「やっと来たかい」
居間で各々が雑談するかな、重清に目を向けた雅はそう呟いた。
「あれ、おれ達が最後?」
特に悪びれる様子もなくそう言っで兄、公弘の隣に腰を下ろした重清に、雅も気にせずに笑い返した。
「ウチの家族じゃ、重清達が最後だよ。1人、客が来ることになってるけど―――どうやら、来たようだね」
雅のそんな言葉と同時に、
「お邪魔します!」
玄関の方から、そんな元気な声が聞こえてきた。
「あれ、今のって・・・」
重清がそう呟きながら玄関へと繋がる扉に視線を向けると、そこから1人の少女が入ってきた。
一見して美少女と分かるその美しい少女は、質素な和服に見を包み、部屋の中をキョロキョロと見回していた。
そして、重清と目の合った少女は、そのまま重清へとダイブした。
「重清っ!久しぶりね!」
「み、美影?久しぶり。じゃなくて、なんでここに?」
突然現れた雑賀本家次期当主、雑賀美影の登場に、重清の頭にはハテナマークが並んでいた。
「お仕事よ、お仕事!雑賀本家としてのね」
重清に抱きついたまま、美影はそう返していた。
「麻耶、あれって本家の美影様だよな?なんであんなことになってるんだ?」
麻耶の兄、浩が、重清に目を向けながら不機嫌そうに麻耶へと話しかけた。
「あぁ、まぁ色々とあってね。美影ちゃん、重清に惚れちゃってるのよ」
麻耶は美影を微笑ましそうに見つめながら、浩へと答えていた。
「美影。あんた今日は、本家として来ているんだろう?そういうことは、後にしな。
それに、ウチの弟子より先に重清に抱きつくなんて、許さないよ?」
雅は美影を睨みつけながら、静かに言った。
雅にそう言われた美影は、すぐに立ち上がって身なりを整えると、雅を見つめ返した。
「これは失礼しました。重清に会えたのが嬉しくって。あのツネって伊賀の子ばかりウチに来て、重清ったら、全然会いに来てくれないから。
でも雅様、1つだけ言わせていただきます」
美影の毅然とした態度に、その場が凍りついた。
特に大人達が。
いくら本家の人間とはいえ、雅に言い返すなど、命知らずもいいところなのである。
それがいくら、分家を心から見下すと評判の美影といえども。
(これは血を見るな)
大人達が心の中で美影に手を合わせるなか、
「茜ちゃんは、そもそも重清に興味を持ってませんよ?
それに、私は抱きつくよりも凄いこと、重清にしちゃってるし」
美影はそう言いながら、顔を赤らめた。
「ふっ。それもそうだね」
そんな美影に、雅は小さく笑った。
「え、麻耶、あれどゆこと?
なんで分家を見下すことにかけては定評のある美影様があんなにフレンドリーなの?
なんでばあちゃんの弟子の話題が出てくるの?
そしてなんでばあちゃんは、言い返した美影様に笑ってるの!?」
麻耶のもうひとりの兄、太が麻耶へと詰め寄った。
「太兄さん、質問多すぎ」
麻耶はため息をつきながらも、
「美影ちゃんはね、重清のお陰で、分家を見下すのをやめたの。
おばあちゃんの弟子、茜ちゃんの話が出たのは・・・おばあちゃん、初めての弟子の茜ちゃんを、重清とくっつけたいみたいだからよ。
恋バナに関しては、おばあちゃん寛容だから、笑ってるのはそのせいね」
そう、太へと丁寧に答えていった。
「え、なんで弟子を重清に!?だったら、相手は俺でもいいじゃんか!」
年齢イコール彼女いない歴の太が、さらに麻耶へと詰め寄った。
「はぁ。太兄さん。茜ちゃんはまだ中学生よ?社会人の太兄さんとなんて、くっつけられるわけないじゃない。
っていうか、そんな発想になる太兄さん、ちょっと気持ち悪い」
「気持ちわる・・・・・」
妹の痛烈な一言に太が打ちひしがれているなか、雅はその場の一同を見渡した。
「さて、これで役者は揃ったね。今回美影には、本家として見届人になってもらう。
本当は当主の六兵衛に来させるつもりだったんだけどね」
雅はそう言って美影に目を向けると、
「お祖父様に頼み込んで、私が来ちゃいました!何故なら、重清に会いたかったから!」
美影は重清の腕に抱きつきながら、満面の笑顔を一同に振りまいた。
「美影、本家として来たんだろ?ちゃんとしなよ」
そう言った重清は、親や親戚の前で押し出される美影の好き好きアピールに、恥ずかしそうに美影からさらっと腕を振りほどいた。
「はぁ〜い」
美影は渋々ながらも重清に従い、雅の隣へと歩み寄った。
「それで。ばあちゃん、今日次の当主を決めるんだろ?
早く発表してよ。俺、早く帰って彼女にプロポーズするんだから」
「あ、裕兄ちゃん、プロポーズ諦めてなかったんだ」
「当たり前だろ?」
いつものように脱線する重清と、それにナチュラルに返す裕二を呆れながらも笑みを浮かべて見ていた雅は、真面目な表情に戻って口を開いた。
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