第60話:クラスメイトと男子トーク

「おっはよぉーーー!」


裕二から術を譲渡された翌朝、重清の明るい声が、クラスに響き渡る。


「よっ、シゲ。」

クラスメイトと話していた後藤が、それに答えて手招きする。


「シゲ、おはよー。」

後藤と話していたクラスメイト、藤田 智と、原田 浩喜も重清に声をかけてくる。


「智、浩喜、おはよー。で、正、何かの用?」

「お前は、どう思う?」

「どうって、何がよ?」

「あの子だよ。」

「あの子?」

そう言って重清は、後藤たちの視線の先に目を向ける。

そこには、既にクラスイチ可愛いと評される、村中 穂香が友人達と話している姿があった。


「あの子って、村中さん??」

「そうそう。穂香ちゃん、彼氏とかいるのかなぁ?」

藤田がそう言って、軽そうな顔に恍惚とした表情を浮かべて村中を見つめていた。


「いや、知らないし、智、目が気持ちわりい。」

「うるせぇな。おれの目は今、ハートになってるんだよ!」

「それが気持ち悪いってことじゃね?」

藤田の反論に、原田が冷たくつっこむ。


「俺ら3人、穂香ちゃんに挑戦しようと思ってるんだよ。」

「うわ、朝から修学旅行みたいな話してるな。それ、面白そう!」

「お!お前も入るか?」

後藤が面白そうに言うも、

「え、いや、おれは・・・」


「なになに、何の話?」

重清が言い淀んでいると、聡太が輪に加わってくる。


「こいつ等、無謀にも村中さんに挑戦するんだとさ。」

「挑戦??」

聡太の言葉に、3人が頷き返す。

「で、シゲもどうだって誘ってたんだよ。」

3人を代表して後藤がそう言うと、


「挑戦って、そういうことだよね?なんでわざわざ、ライバル増やそうとしてるのさ?」

聡太が苦笑いを浮かべる。


「ライバル多いほうが、燃えるじゃん?ソウはどうだ?」

「いやぁ、ぼくはやめとくよ。相手にされない自信あるし。」

「なんだよ、面白くねーなぁ。シゲはどうする?」


「いや、おれもやめとくよ。代わりに、3人とも玉砕する方に賭けるわ。」

「お、それはそれで面白いな。なんか腹立つけど。」

重清の言葉に、原田がのる。

「あ、じゃぁぼくも、シゲと一緒で3人ともふられる方向で!」

「2人とも、揃いも揃ってひどくない?」

と藤田が笑う。


「2人とも、女子に興味ないのか??」

原田が言うと、聡太が、

「ぼくは、まだよくわかんないかなぁ。でも、シゲはほら・・・」


そう言ってニヤリと笑うと、後藤達も

「「「あー。」」」

と、ニヤニヤしだす。


「そういえば、シゲは忘れられない人がいるんだったな。っと、噂をすれば、義父さんが来たぞ?」

そう言って教師の扉に目を向ける後藤の視線を追った先にいる田中を見て、重清を除く4人が、

「ぶっ」

と吹き出して、そのまま逃げるように自分の席へと戻りだす。


「ちょ、正!お前、覚えとけよ!」

そう叫んだ重清も、不貞腐れた顔をしながら席へと戻る。


教壇に立った田中は、周りが静かになるのを確認して話し出す。


「なんかこう、イラッとした気がするが、それは置いておいて。

君達が入学してもうすぐ1ヶ月だ。入学式の日に話したように、来週各教科の実力試験があるから、ちゃんと準備しとくように。」


「へ??」


田中の言葉に、重清だけが大きくて間の抜けた声をあげる。


「鈴木、お前まさか・・・聞いていなかったのか?」

田中が驚愕の表情を浮かべて重清を見ていると、後藤がスッと手を挙げる。


「あー、先生。多分シゲは、あの日『忍者ドンズべり事件』のせいで、ショックを受けてたんだと思いまーす。」

クラスがどっと笑い出す。


「正!あの惨劇に、変な名前つけんなよ!!」

重清の言葉に、更にクラスが笑いに包まれていると、

「あー。鈴木、すまなかったな。あれは、ショックだったよな。先生が、ちゃんとフォローしてやれていれば・・・」


「え、ちょ。先生!いや、お義父さん!真面目に返されると、おれがものすごく惨めな感じになっちゃうんですけど!!」

「誰がお義父さんだ、誰が。とにかく!鈴木が忘れていようがいまいが、試験の変更はない!頑張って悪あがきするんだ!今日のホームルームは以上!」

そう言ってクラスを出ていこうとする田中は、扉の前で振り向き、


「鈴木、次にお義父さんと呼んだら・・・・・」

そこまで言って、そのまま教室を出ていくのだった。


「・・・途中で止めるのとか、一番怖くない?」

と呟く重清に、またしても笑いに包まれるクラスなのであった。

楽しそうな学校生活で、何よりである。


そんな笑いに包まれた教室を重清が見回してみると、先程話題に上がった村中と目が合った。


友人と共に重清と田中のやり取りを笑っていた村中も、ふと重清に目を向けていたのだ。

そして、村中が重清に微笑む。


(うわぁ、ありゃ可愛いわ。あれ、おれに微笑んでる?もしかして、脈あり?でも、おれには琴音ちゃんが・・・)


と、付き合ってもいない琴音のことを考える鈴木重清、13歳の春。


この春が、桜を咲かせるか、そのまま氷河期へと突入するのかは、まだ誰にもわからないのであった。


その後、重清は気付かされることになる。

恋に現を抜かしている場合ではなく、目の前に差し迫った実力試験に、全力で取り組まなければならないということに。


それは、その日の忍者部でのノリのこんな言葉からであった。


「1年!お前ら全員、今度の実力試験で全科目80点以上取らないと、罰ゲームな。」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る