第59話:走馬灯とクソ兄貴
「で、重清、新しい術は気に入った?」
「うん。まぁ。」
公弘の言葉に、重清は歯切れ悪くそう答える。
「まぁ?おいおい、具現獣もいないのに必死に作った術だってーのに、その反応はないんじゃねーか?」
裕二が拗ねる。
「いや、前に先輩がさ、おれの特徴はプレッソとの連携だって言ってたんだ。これだと、鉄玉の術とそんなに変わんないんじゃないかなぁって。それに、どうせだったら、おれの術じゃなくて、プレッソの術でもよかったんじゃないの?」
重清の言葉を聞いた公弘は、笑顔で頷く。
「確かにね。プレッソとの連携の話は後でするとして、敢えてお前の術にした理由から説明してやろう。
プレッソ、鉄玉の術を発動したまま、重清に召喚されたことはあるかい?」
「あぁ、一度あったな。あ。」
「プレッソは気付いたみたいだね。その時、鉄玉の術は解除されたんじゃないか?」
「あぁ、確かにあのときは、今の姿に戻ってたな。」
そう言うプレッソが思い浮かべていたのは、ソウがショウに攻撃されるのを止めようとしたときのことである。
「あのときは、もう一回鉄玉の術使わなきゃいけなかったから、ソウ助けるの間に合わなかったんだよな。」
「あ、あの時か!確かにプレッソ、猫に戻ってたな。」
「それはな、術を使ってたのがプレッソだったからなんだ。その点、重清の術であれば、瞬時に手元に銃化したプレッソを召喚できる。」
「瞬時に?」
「試しに具現獣銃化の術、使ってみ?」
公弘に言われた重清は、具現獣銃化の術を発動してみる。
すると、プレッソの体が光出し、直後に重清の手に、ゲームでよく見るハンドガンのような銃が現れる。
「「おぉーー」」
重清と、銃になったプレッソが感動の声をあげる。
「術の発動で、わざわざ召喚しなくても手元に来るように作ったんだよ。これが一番苦労したんだぜ?」
裕二が得意げに笑う。
「ユウ兄ちゃん、ほんとにありがとう!」
そう言って頭を下げる弟に、
「た、たまには兄貴らしいことしねーとな。」
と顔を赤らめる裕二であった。
「でも、これってさ、弾は?」
頭を上げた重清が裕二に尋ねると、
「ん?ない。」
「「はぁ!?」」
驚いて銃化の術を解除した重清と、猫に戻ったプレッソが声を揃える。
「その説明は、兄さんよろしく。」
「任された。その辺が、さっきの連携ってとこにも繋がって来るんだけど。重清、弾は、お前が作るんだ。」
「へ?」
間の抜けた声を出す重清に、公弘が続ける。
「お前が、弾を出す忍術を作るんだよ。」
「あー、なるほど。でも、そんな術、既にあるんじゃないの?」
それに答えたのは裕二だった。
「兄さんに言われて、色々と調べてみたけど、銃を武具として具現化する忍者ってのは、いるらしいんだ。でも、みんな揃いも揃って、銃と一緒に弾も具現化されるらしい。
それに、昔普通に銃が使われてたときにも、そんな術は作られてないみたいなんだよ。まぁ、これはばあちゃんに調べてもらったんだけどな。」
「なるほど。。。ん?でも、それとプレッソの連携と、どんな関係があるのさ?」
「重清、お前には、これから作る術でできた弾を、プレッソ無しでもある程度攻撃に使えるようになってもらう。そうすれば、プレッソと連携取りながらでも攻撃できるだろ?」
「なるほど!それならおれだけでも攻撃できちゃうからプレッソとの連携もできるね!」
「だろ?ばあちゃんが、他にも方法を考えてるみたいなんだけど、それはまだ聞かされてないんだよ。とりあえず、術をつくって、銃有りと銃無しのどちらでも攻撃できるようにしろーってしか言われてなくてね。」
「ばあちゃんが考えてる方法かぁ。なんか、ものすごーく不安なんだけど。」
「「「御愁傷様です。」」」
公弘と裕二、そしてプレッソが声を揃える。
「いや、プレッソはこっち側だからな!」
「とりあえず今日は、この辺で切り上げるか。」
「え、術作るまで付き合ってくれるわけじゃないの?」
「「彼女と会いたいから、早く帰りたい」」
「はぁ!?2人とも彼女いるの!?じゃなくて!そんな理由!?」
「まぁ、というのは半分冗談で。」
((半分は本気なんだ。))
公弘につっこむ重清とプレッソをよそに、公弘が続ける。
「俺はね、ばあちゃんのこの空間使うの、好きじゃないんだよ。」
「ほぉ、それは面白い話だね。」
悪の帝王、もとい、3人の祖母雅が、公弘の爆弾発言と共に現れる。
「公弘。あんた、あたしのこの空間での修行に反対だって言うのかい!?」
怒りのこもった雅の表情に、重清とプレッソは身構える。
それに対して公弘は、平然とした顔でそれを受け止める。
ちなみに裕二は、その状況を涼しい顔で見てはいたが、額には大粒の汗が浮いていたのであった。
「あぁ、反対だね。」
「理由を聞かせてもらおうか。」
「ばあちゃんのやり方は、じいちゃんの作ったカリキュラムを否定したやり方なんだよ。」
「なに?」
「じいちゃんは多分、中学生達のことを考えて、敢えて部室の使用を3時間に制限してると思うんだ。」
「確かに、この制限はあの人の注文だったけど・・・」
「そうでしょ?じいちゃんは、中学生達の体力の事とかをしっかりと考慮して、そうしたはずなんだ。なのにばあちゃんは、俺達のときもそうだったけど、部室で修行したあと、普通に3日間修行させたりするでしょ?こんなの、じいちゃん聞いたらきっと怒るよ。」
その言葉を聞いた雅は、公弘に身構える隙も与えない程のスピードで、突然公弘に突進する。
(あ、死んだ。)
そう思った時には、公弘は雅の腕の中で抱かれていた。
雅は公弘にハグをかましたまま、呟く。
「ありがとう」と。
その時のことを、公弘は後に語る。
「あの時、リアルに走馬灯が見えたよね。今までの楽しかった思い出、彼女の顔。あー、もう、彼女に会えないんだなぁって思ったよ。」
そう、涙を浮かべて。
公弘を解放した雅の目には、涙が浮かんでいた。
「公弘、お前の言うとおりだね。あたしが間違っていたよ。今まで、すまなかったね。」
そう言って頭を下げる雅に、公弘と裕二は、ただ頷く。
しかし、重清とプレッソは違った。
雅が自身の修行方法について非を認めた。
それはつまり、地獄の修行が無くなることを意味するのだ。
この瞬間、重清とプレッソにとって、公弘はただの『鈴木家の長男(彼女持ち)』ではなくなった。
((か、神様だっ!))
ここに、公弘信仰が興る。
「重清も、今まですまなかったね。これから修行をつけるときは、忍者部の部室を借りることにするよ。さて、短時間で修行をつける方法を考えないといけないね。今までの倍、いや、十倍くらいはきつくしないといけないか?」
そう言って、雅はその場を去っていく。
「「はぁーーー!?」」
悲痛な叫びをあげる重清とプレッソに、公弘と裕二は、憐れむ視線を送ることしか出来なかった。
この瞬間、重清とプレッソにとって公弘は『神』ではなく、ただの『ばあちゃんに死ぬほどの修行を考えるよう焚き付けたクソ兄貴(彼女持ち)』になった。
公弘信仰が終わりを告げた瞬間であった。
後に公弘は語る。
「いやー、まさかそう来るとは思わないよね。でもまぁ、俺にはもう関係ないし、重清とプレッソには頑張ってほしいですね、はい。」
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