第453話:らしいっちゃらしい幕引き

「あーっ!やっぱり誰か居る!」


突然そんな声が聞こえてきた洞窟に、重清達の視線は集中した。


しかし声の主は、すぐに洞窟の中へと姿を消した。


聡太や茜、そして大岩に激突した傷の全てを瞬時に癒やした允行も、呆然と立ち尽くして洞窟の方を見つめていた。


突然見知らぬ声に驚いていた重清達とは違い、允行と表情はどこか違う驚きの色が浮かんでいるように、聡太は感じていた。


「あれ?他にも人がいたの!?」

呑気に呟く重清の元に、


「でも、敵意は無いみたい」

聡太はそう言いながら龍の翼を羽ばたかせて着地し、『獣装じゅうそうの術』を解いた。


「ねぇ、パパ。この感じ・・・」

『獣装の術』が解かれたことで姿を現した青龍ブルーメは、そう言いながら聡太の体に巻き付いた。


ブルーメの言葉に頷き返している聡太を不思議そうに重清が見つめていると、


「うん。、正式なルートでのお客様のようだ。ということは・・・」

洞窟の中から、そう言いながら1人の男が姿を現した。


男はキョロキョロと辺りを見回し、允行に視線を止めて


「やはり。待っていたぞ」

そう言って優しく微笑んだ。


「なっ・・・・・」

男を見据えた允行は、開いた口を塞ぐことなくそう声を漏らしていた。


男は手を広げて、


「待っていたぞ。允行」

允行を迎え入れるかのように言った。


「ち、ち・・・ちちう――――」

「允行ぉーーーーーーっ!!!!」


允行が涙を浮かべて男の元へ駆け寄ろうとしたその時、洞窟の中から恐ろしい叫びが木霊し、女が一直線に允行へと飛び出してきた。


「へ?―――おごっ!!」


突然の事に允行が間の抜けた声を漏らしたのと同時に、その顔に女の拳がめり込み、允行は再び瓦礫の中へと吹き飛んだ。



「よし。なんだかわかんないけど、『允行編』、これにて完、だな」

吹き飛ぶ允行を見つめていた重清は、小さく呟いた。


「いや、この状況でよくそんな呑気なこと言っていられるな」

恒久は、そんな重清に小さくつっこんだ。



「あっちゃぁ〜。丞篭しょうこったら。暴走しすぎ」

「へっ。まぁ、そう言ってやるなよ索冥さくめい

これが生き遅れた女の恨みってやつだよ」

りん。そんな事言っていると、また索冥さくめいに怒られますよ?」

「はっはっは!角端かくたんの言う通りだぞ、りん!」

炎空えんく声が大きい!ここが洞窟だってこと忘れないで!」

「へっ。索冥さくめいの声も、炎空えんくに負けないくらいでかいけどな」


4人の男女が、口々に言い合いながら洞窟の中から姿を現した。

彼らの隣には、それぞれデフォルメされたような可愛く小さな具現獣達が佇んでいた。


白虎、麒麟、朱雀、玄武。


そして允行を殴りつけた女の頭上には―――


「パパっ!!」

聡太の体に巻き付いていたブルーメは、気まずそうな表情を浮かべる青龍の元へと飛んだ。


「う、うむ。ひ、久しぶりだな」

顔を真っ赤にした青龍は、同じく青龍の姿となったブルーメに小さくそう返した。


「あら?もしかしてあなたが、青龍の言っていた子ども?」

先程允行を殴りつけた時の鬼のような形相から一変した女は、優しげな笑みを浮かべてブルーメへと語りかけた。


「パパ、この人怖いよっ!!」

ブルーメは咄嗟に、青龍の背後へと周って叫んだ。


「あら。動物に嫌われるのは初めてだわ」

ブルーメから逃げられた女が、悲しそうにそう呟いていると、


「さっきのあんたの顔、私でも怖かったからね」

索冥さくめいと呼ばれた女が、悲しむ女へと声をかけた。


「へっ。あんなに優しかった丞篭しょうこも、残り物にされた恨みは―――へぶっ!!」

りんと呼ばれた男は、その声を残してその場から姿を消した。


そこには、丞篭しょうこと呼ばれた女の拳だけが残されていた。


「「ぐえっ!!」」

おそらく殴り飛ばされたであろうりんと呼ばれた男と、吹き飛んだ先にいるであろう允行の声が、その場に響いていた。


「はぁ。こうしてやっと全員が揃ったというのに、なぜもう少し静かにできないのか」

最初に洞窟から姿を現した男は、彼らの様子を懐かしそうに笑いながら見つめ、小さく呟いた。


そして男は、重清達へと視線を向けた。


「君達、弟子達が騒がしくてすまない。話の続きは、あちらでゆっくりとしようじゃないか」

男はそう言いながら、洞窟の方へと目を向けた。


男の前へと進み出た聡太は、


「えっと・・・もしかしてあなた方は・・・」

そう、男へと声をかけた。


「おや。君が青龍の言っていた、『青龍の術』を受け継いだ少年か」

男はそう言って、聡太を見つめた。


「確かに、素晴らしい力を持っているようだ。それに、状況もしっかり把握することができている」

聡太へと頷いた男は、言葉を続けた。


「君の考えているとおりだ。

私が、君達の言う始祖だ」


「「「「はぁ!?」」」」


男の言葉に、重清達は声を重ねて叫んだのであった。

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