第454話:洞窟内にて

「「「「・・・・・・・・」」」」

始祖に誘われるまま洞窟の中へと入って来た一同は、気まずい雰囲気に無言で座っていた。


「粗茶ですが」

「おっ、これ美味い!良い茶葉使ってますね〜」

そんななか、重清は出された茶を飲み、呑気にそう言って笑っていた。


「おや。君は見かけによらず、お茶に造形が深いようだね」

「あ、すみません。言ってみたかっただけです」


「はっはっは。なんだいそれは」

適当な事を言う重清に、始祖は大声で笑っていた。


(シゲ、お前よくこの雰囲気の中でそんなに悠長なこと言えるな)

そんな重清に、恒久は小声でつっこみながら部屋の隅へと目を向けた。


洞窟の中は綺麗な部屋になっており、その部屋の隅には2人の男が正座していた。


そのうちの1人はりんと呼ばれていた男であった。


『私は、女性に失礼な事を言いました』

そう綺麗な文字で書かれた半紙を額に貼り付けたりんは、ただ無言でその場に正座していた。


そしてその隣では。


『私は、友を長らく待たせました』

そう書かれた半紙を額に貼った允行が、りんと同じく正座していた。


もちろん、2人の額に半紙を貼ったのも、そしてそこに正座させているのも、丞篭しょうこである。


(あの允行ってやつ、ラスボスだろ!?それがあんな状態なのに、よく呑気に茶なんか飲んでいられるな)

(いや、ラスボスがあんな状態だからこそ、もうほとんど一件落着じゃん。なんかもう疲れたし、お茶くらいゆっくり飲んでも罰は当たらないでしょ)

重清は、恒久へとそう返して再びお茶へと伸ばした手を止めた。


「あの、やっぱコーヒーないですか?」

「いや遠慮ってもんを知らねぇのかよっ!」

もはや久しぶりに来た実家ばりにくつろいでいる重清の姿に、恒久はついに我慢の限界を迎えてつっこんだ。


それを見ていた始祖は、大声を上げて笑っていた。


「すまんすまん。恒久と言ったか。君はもしかして、伊賀の血を引いているのか?」

「へ?えぇ、まぁ」

突然声をかけられた恒久は、口ごもりながら始祖へと返した。


そんな恒久をまじまじと見つめながら始祖は、


「なるほど。麟の子孫だけのことはあるな。今のは、つっこみというやつであろう?」

そう、恒久へと笑いかけた。


「いや、まぁ、そうですけど・・・大昔の人なのに、よくそんな言葉知ってますね」

恒久が訝しげに始祖を見つめていると、


「でも、誰かさんみたいに人を傷つけるようなことは言わないのね」

「おい索冥さくめい!俺だってなぁ―――」

索冥さくめいの言葉に、誰かさんは額の半紙をめくって反論しようと立ち上がりかけ、


「誰が立ち上がっていいって言ったのかしら?」

「はい、すみません」

丞篭しょうこの冷ややかな笑みに身震いをして、麟は再びその場に正座し直していた。


そんな弟子達の様子に優しい笑みを浮かべながら、始祖は重清へと目を向けた。


「それと、重清だったか。悪いがコーヒーと言うものは無いのだ。どんな物かは知っているのだが、飲んだことが無くてな」

申し訳無そうに言う始祖に、聡太が首を傾げた。


「知っている?どういうことなんですか?」

「君は確か、角端かくたんの血を引く聡太だったな」


「僕なんかよりも、十分才能に溢れているみたいですけどね」

始祖の言葉に、角端は静かに笑っていた。


「まぁ、それが長い年月の積み重ねというものだ。しかし今それがあるのも、お前がいたからに他ならないのだぞ」

「はい!父上っ!」

角端は優しく笑いかける始祖に、強くうなずき返していた。


「おっと、すまない。先程の質問だが、我々はここから見ていたのだ。君達忍者を。

そして、忍者を取り巻く世界をな」


「見ていた?」

始祖の言葉に、茜が言葉を挟んだ。


「そう、見ていたのだよ。忍者の持つ、契約書を通してな」

そう言った始祖は、なにもないところから1つの書を具現化した。


「私は死ぬ間際、1つの術を作ったのだ。

弟子達へ渡した6つの術が揃ったときに、初めてこの契約書の元へと辿り着ける、そんな術を」

「ということはそれが―――」


「そう。今の世ではこう呼ばれているものだ。『始祖の契約書』と」

聡太の言葉に頷いて、始祖はそう答えた。


「そして私はその術にもう1つ、力を付した。

私と、私の弟子達を、死後この空間に留まらせるという力を。

どうせならば最後に皆に会って逝きたいと思ってな」

そう言う始祖の顔には、僅かに悲しげな笑みを浮かんでいた。

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