第455話:洞窟内にて その2
「死んだと思ったら急にこんな所に来たときは驚いたわね。
始祖の悲しげな表情に気が付いた
「でも、父上にまた会えた時は嬉しかったな」
「
索冥の言葉に、始祖は小さく呟いた。
「はっはっは!確かに索冥の言うとおりだ!
親の死に目に会えなかった我ら、親父との再会はもう無いものと思っていたからな!」
「そうですよ、父上。僕達は皆、ここへ再び呼んでくださった父上に感謝しているのです」
「お前達・・・」
始祖が涙を浮かべてそう呟いていると。
「でもまぁ、こんなに長い間ここに居ることになるとは思ってもみなかったけどな」
再び額の半紙をチラリとめくって
「あんたねぇ・・・」
いい雰囲気を台無しにする麟の言葉に睨みをきかせた
「ごめんなさい」
そう返して三度半紙で顔を覆った。
「しかし、これだけ長くここに留まったのも事実」
始祖はそう言うと、正座する允行へと目を向ける。
半紙で顔の覆われた允行も、師であり父である始祖の視線に気づき、ピクリとその体を強張らせた。
「允行、面を上げよ」
始祖の低い声に応えるように、允行は額の半紙をちらりとめくり、始祖を見上げていた。
「允行よ。お前がここに来た目的は分かっている。我々がせっかく作り上げた忍者というものを、消滅させたいようだな?」
「・・・・・・」
自身に向けられた視線をじっと見つめ、允行はしばしの間、沈黙していた。
やがて允行は、強いまなざしで始祖を見つめて口を開いた。
「忍者は、今の忍者は父上の求めていた組織だとは思えません。
私はこれまで、長い間忍者を、人というものを見てきました。彼らはみな、群れ、弱いものを見ください、時に排除してきた。
私を同じ力を持つ者たちを『捨て忍』等と呼んでいたことが良い証拠。
これ以上いくら待ち続けても、忍者が父上の言う理想の組織なることなどないのです。
ならばいっそのこと―――」
「消してしまえ、と」
始祖の言葉に、允行は小さく頷いた。
「はぁ」
そんななか、洞窟の中に大きなため息が響いた。
「允行、あなた父上の話、ちゃんと聞いていたの?」
ため息の主である丞篭は、そう言って允行を見つめた。
「私達、もう何百年もこの空間にいるのよ?誰かさんのせいで」
丞篭は嫌みを込めた言葉を允行へとぶつけた。
生前も含め、最も允行を待っていたのが、他ならぬ丞篭なのだ。多少の嫌みは、仕方がないのである。
「父上はさっきおっしゃったでしょう?私たちはずっと、契約書を通して忍者を見てきたって。
あなただけがそうだなんて、思わないでほしいわ」
丞篭のその言葉に苦笑いを浮かべながら、角端が口を開いた。
「允行、許してあげてください。あなたを待ちすぎて、丞篭はあなたとどう接すれば良いのか、まだわからないんだと思います」
「そうそう。もう、いろいろとこじれまくってるんだよ」
「うるさいっ!!」
「おごっ!」
角端の言葉に余計な茶々を入れた麟に、重清が手を伸ばそうとしていた茶の入った湯飲みがヒットした。
(あぁ、おれのお茶が。あー、やっぱコーヒー飲みたくなってきた。
なんでこう、無いとわかると余計に欲しくなるんだろうな、プレッソ)
(オイラに聞くな。っていうかこんな状況で久々に思いっきり脱線してんじゃぇよ)
地面へと転がる、先ほどまで湯飲みだった欠片をみつめ、重清は呑気にプレッソへと語り掛け、プレッソもまたそんな重清に面倒くさそうにつっこんでいた。
もの凄く大事な場面であるにもかかわらず、そんな呑気な会話が繰り広げられているとはつゆにも思っていない角端は、一瞬だけ麟に憐れむまなざしを向け、言葉を続けていた。
「でもね、允行。丞篭の言うことも、分かるんだ。確かに僕達は、契約書を通して、忍者だけを見続けてきた。でも、忍者も人。僕達と允行、これまで見てきたことに、大きな違いはないと思うんだ」
「うむ。確かに人は、弱いものだ!それは忍者とて変わらんわ!!」
「だから洞窟の中では声量落とせって言ってるでしょ!あんたは少しくらい変わりなさいよ!」
角端の言葉に同意するように大声で言う炎空に、索冥がそれを超えるほどの大声で怒鳴りつけた。
(なんかアカとツネを見てるみたいだな)
(あ、それぼくも思った)
呑気に呟く重清の言葉に、聡太も苦笑いを浮かべて同意していた。
近藤(おい。こいつら、いつもこんなに呑気なのか?)
チー(えぇ。主に重清がね)
ロイ(重清の場合、日に日に呑気さに拍車がかかっておるからのぉ)
近藤とチーノ、そしてロイが、重清達を見つめてぼそぼそと話していた。
ちなみに近藤、この洞窟の中に入る際に恒久から『麒麟の術』を解除されており、今はもうあの微妙な麒麟の姿ではなく、ただの近藤に戻っていたりする。
(おい茜。俺ら、あそこまでじゃないよな)
重清と聡太の会話を聞いていた恒久は、炎空と索冥に目を向けながら茜へと話しかけた。
「え?なに?」
しかし丞篭の允行への想いを察知していた茜は、恒久のそんな言葉など耳に入っておらず、雑に恒久へと返して丞篭と允行の恋の行く末に想いを馳せていた。
(残念だったな、恒久。ハニーはお前なんかに興味はないってさ)
(だからそのハニーってのやめろ!このクソカラスがっ!!)
茜の肩にとまったカーちゃんのニヤニヤした笑みに、恒久は小声を保ちつつ、全力で言い返すのであった。
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