第452話:『本気を出そう』パターン?

「おかしい・・・・」

茜に吹き飛ばされた允行の方に目を向けながら、聡太は呟いた。


(どうしたの、パパ?)

『獣装の術』によって聡太の全身を包んでいるブルーメは、聡太へと問いかけた。


「ブルーメ。おかしいんだ。あの允行って人、雅さんの攻撃も防ぐほどの力を持ってるのに、全然攻撃を仕掛けてくる気配がない。

それに、それだけの力があるなら、ぼく達の攻撃を全部避けることだってできるはずなのに・・・」


聡太の心配はもっともであった。


聡太が圧勝したあの甲賀ドウも、心・技・体の力に関しては波の忍者よりも優れていた。

聡太がそのドウに勝つことが出来たのは、ドウにない桁外れの忍力と、ブルーメの力が大きかったのだ。


そんなドウの師であり雑賀平八の一番弟子である甲賀ゴウの力は、それを遥かに超えるものである事は重清から聞いていた。


そのゴウですら、あの雑賀平八と忍者としての契約を結んで半世紀程しか経ってはいない。


それに対して、現在聡太達が相手にしているのは、忍者を作り上げた始祖の弟子である允行なのだ。


何百年も生きている允行を相手に、聡太達は善戦していた。

いや、むしろ押しているようにすら見える程である。


そんな事がありえるのだろうか。


聡太は冷静に、現状を見つめていた。

そして、確信に近い想いを抱いていた。


(多分これ、『そろそろ私も本気を出そう』パターンだ)

と。


そんな聡太の考えは、間違ってはいなかった。



茜の攻撃によって洞窟近くの大岩に激突した允行は、瓦礫に埋もれながらも傷を瞬時に癒やし、寝そべっていた。


彼の心には、様々な感情が渦巻いていた。


直前に聡太が言った丞篭しょうこからの伝言。

しかもそれは、丞篭しょうこの具現獣である青龍からの言伝であると聡太は言っていた。


(まだ生きていたのか)

自身を知る者がまだこの世にいた事に、允行は驚きと同時に、後悔にも似た想いがあった。


丞篭しょうこの言伝である『迎え』については、允行自身思うところはあった。


丞篭しょうこが自身に想いを抱いていた事は、允行にも分かっていた。

同じ師の弟子であり、妹のような存在であった丞篭しょうこに対し、允行自身も妹以上の感情を抱いていなかったと言えば嘘になる。


他の弟弟子達がそれぞれ家庭を作り、そこから忍者の組織を作り上げていることは、彼も調べていた。


そんななか、丞篭だけはそれをせず、青龍と2人である村にいることすらも允行は調べ上げていた。


それでも彼は、丞篭を迎えに行くなどと考えたことは無かった。

いや、考えないようにしていた。


師の、父の理想とする組織を作るためには、忍者としての力を持たない自身は邪魔になる。

允行はそう考えていたのだ。


彼は、その忌まわしい『不老不死』の力で、忍者の行く末を見届けようと心に誓っていたのだ。


だからこそ允行の心に、丞篭を迎えに行かなかったことに対する後悔は殆どなかった。


彼の中に渦巻く後悔は、青龍が未だ生きていたにも関わらず会うこともしなかったことにあった。


丞篭が死してなお、あの村からは大きな忍力を感じていた。

しかし允行は、その忍力の主を確認しようとはしなかった。


もしもあの時、それを確認し、青龍と出会っていたならば。

具現獣とはいえ、昔を語り合うことのできる友と出会うことができたならば。


今この場に自身は居たのだろうか。


允行はそう考え、嘲笑に似た笑みを浮かべた。


「今さら何を思っても遅いわ」

允行は小さく呟いた。


次の瞬間には、そこに嘲笑のそれとは違う優しい笑みが浮かんでいた。


それは、重清達に対しての笑みであった。


彼らは自分達よりも強い允行を倒すべく、持てうる力の全てをぶつけてきた。

允行にはその姿が、弟弟子達と重なったのだ。


あの日々への懐古の念が、允行の重清達への攻撃の手を緩めていたのである。


とはいえ、いくら『不老不死』の力でどんな傷を瞬時に癒やすことが可能な允行でも、それには限界があった。


允行は自身の持つ黒い忍力が尽きる前に、決着をつけようと、


「そろそろ私も本気を出――――」

そう呟きながら立ち上がろうとした。


その時。


「あーっ!やっぱり誰か居る!」

そんな声が、辺りに響いた。

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